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*現在* 天空の城
201 陽動作戦開始
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そう言うと思ったよ、とノクトは枝をぴこぴこ左右に振る。
猫じゃらしに釣られるように、竜の子が跳躍して、枝の先をタッチした。
「問題点が二つ。一つめは、神霊の遺跡を破壊しても、すぐに魔術の力は復活しない。毒に苦しんでいる精霊達が元に戻るまで、少なくとも一日掛かるだろう。二つめの問題は、アスケラには熾天使がいる」
「熾天使?」
「翼人は二種類いてね。普通の人間に羽が生えただけの下位、神霊の力を操って魔術に似た術を行使する上位。熾天使は役職名で、上位天使の、まあいわば将軍さ」
北西の都市アスケラは、翼人に占領されている。
敵地に魔術無しで侵入し、神霊の遺跡を破壊してから撤退する。百歩譲って翼人に見つからずに侵入できたとしても、遺跡を破壊すれば騒ぎになるだろう。脱出時も、まだ精霊が復活していないので、魔術無しだ。
「熾天使が遺跡を見張っていてね、危うく見つかりそうになった」
「普通の翼人より、気配を察知する能力が高いのか?」
「そうだね。あれは手強い。魔術無しで戦いたくないね」
珍しく先輩は弱気だった。無事に遺跡を破壊できても、その熾天使に見つかれば怪我どころでは済まないと言う。
しかしカノンは冷静だ。
「より派手な騒ぎを起こし、俺達から注意を逸らせばいい」
「あてがあるのかな?」
「応援は呼んである。死霊街には間に合わなかったが」
静かな自信と威厳が、カノンの態度に滲んでいる。
同級生から常日頃頼りにされ、面倒ごとを圧倒的な力で片付ける王様の姿がそこにあった。どうしてか分からないけれど、カノンに任せれば絶対大丈夫だと皆思うのだ。
「では陽動はカノンに任せよう」
ノクトは、手にした枝を竜の子に与えながら言った。
「行きは私が案内しよう。流浪と漂流、幻惑と虚偽をなりわいとする水と風の魔術師の本領を見せてあげるよ」
この三人で旅をするのは初めてだ。
リュンクスは最初、どちらのマスターに寄るかで散々悩んでいたが、途中でいちいち考えていたら疲れると悟った。
なるようにしか、ならないのだ。
「リュンクス、この木の実は食べられるよ。ほら、口を開けて」
ノクトが道端になっている紫色の実をちぎった。
あーん、と促され、言われるまま口を開ける。放り込まれた甘酸っぱい実を噛みしめた。
横目でカノンを見ると、彼は難しい顔をしていた。
「どうして毒でないと分かるんだ? 俺には、リュンクスと先輩の、調べずに木の実を食うところが不可解でならない」
そっちかよ、とリュンクスは思う。
先輩と仲良くしているところを嫉妬したかと思ったのだ。
「ははは、勘だよ」
ノクトは気軽に笑い飛ばす。
リュンクスが先輩と仲良くしていても、カノンが気分を害している気配はなかった。今朝の会話で語った心情が、カノンの落ち着きの理由だったが、リュンクスはそこまで気付いていない。
好きな時に好きな方と話しても大丈夫と分かり、やっと肩の力を抜く。
三人は道なき道を進んだ。
死霊街の近くは人が通らないので、昔の道が消え掛けている。倒木や土砂崩れで道が無くなっているところもあり、その度に立ち止まった。
「リュンクス、ここを登れるかい? カノンは……必要ないか」
「俺の心配は無用だ。先輩はリュンクスを見てやってくれ」
体幹を鍛えているカノンは、簡単に岩の上に登る。
彼は森の向こうを透かし見て、翼人が飛んでいないか確認していた。
しばらく進むと、今度は川があった。
「私が来た時は、ここに道があったんだけどね。一晩の雨で川になったらしい」
「任せろ」
カノンが木を切って即席の橋を作る。
こうやって共に行動すると分かるが、カノンとノクトは互いの弱点を補う組み合わせだった。ノクトだけではどうしようもない、力技が必要なシーンで、カノンの技術が活きてくる。
「おっと、もう街道に出た。カノンがいると早く進めるね」
最短距離で森を踏破し、三人は街道に辿り着いた。
「あ、空にでかい鳥……じゃない、竜?!」
リュンクスは空を見上げ、翼人ではない生き物が空を飛んでいるのを発見する。
「助っ人を呼んでおいたが、やっと到着したようだ」
カノンは不敵に笑む。
黒光りする巨体で天空城の空を席巻しているのは、以前使い魔の契約を結んだべフレートの竜だった。
猫じゃらしに釣られるように、竜の子が跳躍して、枝の先をタッチした。
「問題点が二つ。一つめは、神霊の遺跡を破壊しても、すぐに魔術の力は復活しない。毒に苦しんでいる精霊達が元に戻るまで、少なくとも一日掛かるだろう。二つめの問題は、アスケラには熾天使がいる」
「熾天使?」
「翼人は二種類いてね。普通の人間に羽が生えただけの下位、神霊の力を操って魔術に似た術を行使する上位。熾天使は役職名で、上位天使の、まあいわば将軍さ」
北西の都市アスケラは、翼人に占領されている。
敵地に魔術無しで侵入し、神霊の遺跡を破壊してから撤退する。百歩譲って翼人に見つからずに侵入できたとしても、遺跡を破壊すれば騒ぎになるだろう。脱出時も、まだ精霊が復活していないので、魔術無しだ。
「熾天使が遺跡を見張っていてね、危うく見つかりそうになった」
「普通の翼人より、気配を察知する能力が高いのか?」
「そうだね。あれは手強い。魔術無しで戦いたくないね」
珍しく先輩は弱気だった。無事に遺跡を破壊できても、その熾天使に見つかれば怪我どころでは済まないと言う。
しかしカノンは冷静だ。
「より派手な騒ぎを起こし、俺達から注意を逸らせばいい」
「あてがあるのかな?」
「応援は呼んである。死霊街には間に合わなかったが」
静かな自信と威厳が、カノンの態度に滲んでいる。
同級生から常日頃頼りにされ、面倒ごとを圧倒的な力で片付ける王様の姿がそこにあった。どうしてか分からないけれど、カノンに任せれば絶対大丈夫だと皆思うのだ。
「では陽動はカノンに任せよう」
ノクトは、手にした枝を竜の子に与えながら言った。
「行きは私が案内しよう。流浪と漂流、幻惑と虚偽をなりわいとする水と風の魔術師の本領を見せてあげるよ」
この三人で旅をするのは初めてだ。
リュンクスは最初、どちらのマスターに寄るかで散々悩んでいたが、途中でいちいち考えていたら疲れると悟った。
なるようにしか、ならないのだ。
「リュンクス、この木の実は食べられるよ。ほら、口を開けて」
ノクトが道端になっている紫色の実をちぎった。
あーん、と促され、言われるまま口を開ける。放り込まれた甘酸っぱい実を噛みしめた。
横目でカノンを見ると、彼は難しい顔をしていた。
「どうして毒でないと分かるんだ? 俺には、リュンクスと先輩の、調べずに木の実を食うところが不可解でならない」
そっちかよ、とリュンクスは思う。
先輩と仲良くしているところを嫉妬したかと思ったのだ。
「ははは、勘だよ」
ノクトは気軽に笑い飛ばす。
リュンクスが先輩と仲良くしていても、カノンが気分を害している気配はなかった。今朝の会話で語った心情が、カノンの落ち着きの理由だったが、リュンクスはそこまで気付いていない。
好きな時に好きな方と話しても大丈夫と分かり、やっと肩の力を抜く。
三人は道なき道を進んだ。
死霊街の近くは人が通らないので、昔の道が消え掛けている。倒木や土砂崩れで道が無くなっているところもあり、その度に立ち止まった。
「リュンクス、ここを登れるかい? カノンは……必要ないか」
「俺の心配は無用だ。先輩はリュンクスを見てやってくれ」
体幹を鍛えているカノンは、簡単に岩の上に登る。
彼は森の向こうを透かし見て、翼人が飛んでいないか確認していた。
しばらく進むと、今度は川があった。
「私が来た時は、ここに道があったんだけどね。一晩の雨で川になったらしい」
「任せろ」
カノンが木を切って即席の橋を作る。
こうやって共に行動すると分かるが、カノンとノクトは互いの弱点を補う組み合わせだった。ノクトだけではどうしようもない、力技が必要なシーンで、カノンの技術が活きてくる。
「おっと、もう街道に出た。カノンがいると早く進めるね」
最短距離で森を踏破し、三人は街道に辿り着いた。
「あ、空にでかい鳥……じゃない、竜?!」
リュンクスは空を見上げ、翼人ではない生き物が空を飛んでいるのを発見する。
「助っ人を呼んでおいたが、やっと到着したようだ」
カノンは不敵に笑む。
黒光りする巨体で天空城の空を席巻しているのは、以前使い魔の契約を結んだべフレートの竜だった。
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