山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

202 幻惑の術

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 べフレートの竜は、現在カノンの召喚獣だ。
 しかし、ずっと一緒に行動しているが、カノンが竜を召喚しているところを見ていない。

「え、べフレートの竜さん……どうやって呼んだの? 召喚の魔術は使えないだろ」
「正確にはチルルが呼んだ。竜の子は親を呼ぶからな」
 
 リュンクスの疑問に、カノンが答える。
 祖父であるべフレートの竜が近くに来ているのに、肩に乗る竜の子は、尻尾をリュンクスの腕に絡ませていつも通りだ。誰を親だと思っているのか、リュンクスの首筋にすりすり頬擦りしている。
 空を悠々と舞う竜の方も、リュンクス達に気付いて降りてくる気配は無かった。
 
「べフレートの竜さん、こっちに気付いてないのかな。てか、竜を呼ぶのは最終手段だって、先生が言ってたじゃん。竜に乗ってたら狙い撃ちにされるって……あ」
「まさに、それが狙いだ」
 
 アスケラに潜入する際の陽動だと、カノンは言う。リュンクス達から注意を逸らすために、目立つよう上空をうろうろしてもらっているのだ。

「よし。カノンの竜が注目されている内に、アスケラに入って用事を済ませようか。街道に出たし、都市はすぐそこだよ」
 
 ノクトは、すたすたと怖れる様子もなく、歩き始める。
 リュンクスは慌てて後を追った。
 
「すぐそこって、街が見えないけど、本当に近くなの?」
「アスケラはね、地面より低い都市なんだ」
「?」
「ほら、ここから見てご覧」
 
 ノクトに手招きされ、リュンクスは崖に登る。
 そしてノクトの言葉を理解した。
 
「地面が凹んでる……!」
 
 まるでコップを上から見ているようだった。
 地面に空いた円形の穴の底に都市がある。
 塔のような灰色の建物がいくつも立ち並び、円の中心には螺旋のような建造物が見えた。
 白い鳥に見える翼人達が、穴のふちを行ったり来たりしている。
 
「てか、降りていったら、翼人に見つかる……!」
「別に見つかっても構わないよ」
「は?!」 
 
 ノクトは悪戯っぽく微笑むと、リュンクスを抱えて、崖から身を踊らせた。一瞬眉をひそめたカノンだが、ノクトの判断を信じているのか、何も言わずに自分も飛び降りる。
 穴の縁から、リュンクス達は都市に向かって空中を落下した。
 ノクトに横抱きにされたリュンクスは、悲鳴を上げるのを苦労して抑える。歯を食いしばって、先輩の首に抱き着いた。
 精霊が動いていないのに、風が吹いて落下速度をやわらげる。
 おそらく、ノクトの神霊に属する力だ。
 
「!……お前達は!」
 
 近くを飛んでいた翼人が、落下してくるリュンクス達に気付いた。
 
「何者?!」
「ひどいなあ、君と私の仲じゃないか」
 
 飄々としたノクトの声が、楽器の音色のように響いた。
 リュンクスは背筋がぞっとする。
 魔力を帯びた声だ。
 
「知らないなんて、言わせないよ」
「あ……」
 
 翼人の瞳から焦点が失われる。
 
「……ああ。見張りから戻って来たのか。ご苦労さま」
「君もご苦労さま!」
 
 ノクトは平然と、翼人の隣をすり抜け、建物の屋根に着地する。
 後を追ってカノンが飛び降りてきた。
 
「幻惑と、支配の術を混ぜたのか」
 
 カノンは、ノクトのした事が推測できているらしい。
 
「そうだよ。魔術が使えないと言っても、それは精霊を動かす術に限っての事だ。自分の魔力だけを使った、対象が限られる術は含まれない」
 
 ノクトは、リュンクスを下ろしながら答える。
 先ほどの翼人は、ノクトを仲間だと認識していた。彼の目には、翼が生えた同僚の姿が映っていたのだろう。
 対象の精神に干渉し、幻を見せる技と、マスター属性の持つ支配の能力を巧みに応用した、ノクトならではの離れ技だった。
 
「先輩、派手に飛び降りたから、さっきの翼人以外にも、目撃されてるんじゃ」
 
 屋根に足を着けたリュンクスは、気になって指摘する。
 
「見ているだろうね。だが、先ほどの翼人を騙した時に認識はすり変わっている。人は、他者と認識を共有する生き物だ。自分は確固たる意思を持っていると思っていても、他人と同調する部分は必ずある。幻惑の高等技術は、その共通認識に干渉するまでがセットさ」
「それだけ聞くと便利に聞こえるけど、絶対じゃないんだろ。先輩の術が一人に効くと全員効くなら、やりたい放題じゃないか」
「もちろん、自意識が強い者には効かないし、大勢の認識を捻じ曲げると、効果が薄まりほころびが出る。だから、ここからは見つからないように行動しよう」
 
 三人は、アスケラの街の中を歩き出す。
 翼のある翼人が地上を歩かないからか、都市はしんと静まり返っていた。


 
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