山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

203 石の花

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 アスケラは縦長の建造物が多く、それらは蜘蛛の巣のように張り巡らされた梯子や橋によって、複雑に繋がっている。
 下を見ると落ちそうな通路が、建物と建物の間にいくつも設置されていた。
 
「翼人に占領されているらしいけど、元々いた人達はどうしているのかな……」
「閉じこもっているのさ」
 
 建物の窓は、内側から布等で塞がれており、内部の様子は見えない。外に出たら翼人に見つかるので、生き残った人々は息を潜めている。
 リュンクス達は、空中に張り巡らされた通路を歩き、街の中心を目指した。街の中心に、魔術を封じている神霊の遺跡がある。
 途中で何人も翼人の兵士とすれ違ったが、こちらには気付かない。ノクトは翼人に見つからない、ぎりぎりの距離をスイスイ泳ぐように進む。
 
「……ストップ」
 
 ノクトが指を一本立てて、リュンクスとカノンに止まるように注意した。
 リュンクス達は物陰に隠れて、様子を伺った。
 前方の空中に、翼人の集団がいる。
 茶色い髪と目の翼人の兵士の前、一際目立つ金髪碧眼の女性が翼を広げている。神々しい美貌に、白い翼。地上の人々が思い描く天使そのままの姿だ。
 
「……あの竜は、熾天使である私が対応しましょう」
 
 女性はよく通る声で言った。
 
「お前達は、アスケラ中心部の神殿を守るのです」
「リーリウム様、竜は天空城の雷撃機能でないと、撃退できないのでは? 天空城サジタリウスの雷撃機能は、魔女めが破壊して使えなくなっています」
「ふっ。竜と戦うのは数百年振りでしょうか。心配無用ですよ」
 
 数百年? リュンクスは聞き耳を立てながら、疑問に思った。
 今の言い方だと、数百年以上生きているように聞こえたが……。
 
「お気を付けて」
 
 翼人達に見送られ、リーリウムという天使は上昇する。
 彼女を見送った翼人達は、雑談しながら四方に散っていった。
 
「べフレートの竜さん、大丈夫かな」
「舅殿は、千年近く生きている竜だ。もし危うくても、引き際を心得ているだろう」
 
 空を見上げたカノンは冷静に呟いた。
 
「うん。厄介な熾天使が、べフレートの竜の方に行った今がチャンスだ。遺跡に行こう」
 
 ノクトが提案する。
 三人は歩みを再開する。
 遺跡の前にいた翼人の見張りを、例によって先輩が幻術によって惑わせ、あっさり内部に潜入する。
 白い内壁が眩しい、古びた建物の奥に待っていたのは、光を集めて神々しく輝く、透明な石で出来た花だった。
 人の身長より大きな花だ。
 茎も葉も厚く、硬い石で出来ている。
 太陽に向かって伸びる石の花は、白い光の花粉を周囲に撒き散らしていた。花粉は風に乗って空へ拡散している。
 
「精霊がいないのに、風が吹いてる……!」
「この遺跡は、神霊の遺した力により、常に風が巻き起こっている。そして石の花は、自然のものではなく、神霊の作り出した一種の魔物さ。石の花が毒を生成し、遺跡が花粉を風に飛ばしている」
 
 リュンクスの疑問に、ノクトが答えた。
 石の花を睨み、カノンは銀の短剣を鞘から抜く。
 金色の炎が刃に走った。
 
「切るぞ」
 
 硬い石の花を、カノンは豪快に切り飛ばした。
 同時に金色の炎が燃え上がり、石の花を溶かしていく。
 ノクトはひゅうと口笛を吹いた。
 
「さすが竜の炎。鉱石が飴細工のようだ」
 
 風が吹いているので、火の回りが早い。
 炎の熱気を感じながら、リュンクスは不安な気持ちになっていた。
 
「先輩、カノン、何だか嫌な予感がする」
「サーヴァントの勘は馬鹿にできないからね、さっさとアスケラから出よう」
 
 リュンクス達は、遺跡の破壊を最後まで見届けず、脱出することにした。
 翼人達は、遺跡が火事になっているのに気付き、街の中心に集まって来る。
 見つからないように注意しながら、リュンクス達は建物を伝って逃げた。
 蜘蛛の巣のような通路を通り抜ける。
 行きと違い、橋を通って地上に出ようとした。
 
「……リュンクス、先輩、走れ!」
 
 不意にカノンが上を見上げながら、背中を押す。
 ノクトは何も言わずに、リュンクスを抱き上げ、跳躍した。
 
「カノン?!」
 
 橋のたもとに立っているカノンは、短剣を抜いて落ちてきた炎の攻撃を受け止める。轟と激しい火花が散った。
 空から炎をまとった天使が降ってきて、カノンと剣を合わせている。
 突風に煽られた火の粉が、リュンクス達の周囲で舞い散った。
 

 
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