嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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Light in the Dark(闇の中の光)

第46話 勇者パーティー不成立

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「一夜城の討伐を王様に命じられたのですか? 辞めた方がいいと思いますけど」

 リトスは、今は自分より背の高いアッシュの顔を見上げた。
 疲れ切った男の顔を。

「殿下は、姉さんと一緒に、北盾教会に行きたいんですよね」
「!」
「自分に素直になりましょうよ。一夜城の討伐は、王様が手配した軍隊にお任せして、俺たちは北に行きましょう」

 そう言うと、アッシュが信じられないものを見たように目を見開いた。

「こら君! それでもグレイドリブンの国民か! 国家、いや世界の危機なのだぞ!」

 カリンがぷんぷん怒っている。

「知らねーよ、他人のことなんか。俺は、姉さんが大事な人である、殿下の気持ちを一番に優先したいと考えてる」

 リトスはきっぱり答えた。
 聖女の弟と偽り、アッシュを危険な国境まで連れて行こうとしているのだ。良心が咎めているのもある。それに、英雄と呼ばれ皆の期待を背負いすぎて、心が折れそうになっている目の前の男が可哀想になっていた。

「リトスくん、君は子供だから、そんな無邪気なことが言えるのかもしれないが」
「やめてくれ、カリン。彼は私のことを想って、言ってくれているんだ」

 説教を始めたカリンを、アッシュはさえぎった。
 心なしか、彼は柔らかい表情になっている。

「ありがとう、リトスくん。君の言葉は、私の求めていたものだ。そんな気がする」
「……」

 礼を言われ、リトスは居心地が悪い気持ちになった。
 
「北軍への参加を辞退するにしても、ちょっと顔を出さないとな……」
「ほ、本気ですか殿下?!」

 アッシュは、ふらりと擬音語がつきそうな足取りで、街の外へ向かい歩き出した。
 リトスも慌てて、その後を追う。

「……レイヴン、お前ちゃちゃっと行って、一夜城を一夜でつぶして来いよ」

 歩きながら、ひそひそ話のていで、レイヴンに話しかけた。

「面倒だな……」
「あんたが進んでやるのって、遺跡探索だけなのか」

 これは夜にでも、敵情視察しなければなるまい。
 梃子《てこ》でも動かなさそうなレイヴンを見ながら、リトスは思考を巡らせた。
 レイヴンは、リトスを弟と重ね、庇護したいと考えている。リトスが危険に飛び込めば、レイヴンは付いて来るだろう。彼の弱みにつけ込むのは卑怯だが、子供の姿にする悪戯を仕掛けられているので、お互い様だ。こうなったら、とことんレイヴンを利用してやる。

「二人とも、見習い騎士、私の従者ということで良いね?」

 アッシュが振り返ってきたので、リトスは慌てて「はい」と返事した。
 だらだら歩いていたが、いつの間にか街の外に出て、軍隊の野営地に来ていた。出発の準備は最終段階のようで、積荷を載せた荷車が整然と並んでいる。
 アッシュは、奥に張られたテントに足を向けた。

「遅くなった」

 一声掛けて、テントの中に入る。
 リトスも目立たないように、その後を追う。

「げっ」

 そして、真正面に座っていた男と目があって絶句した。

「うん? この前助けた貴族の坊主じゃねえか。お前、ちゃんと親に西風様に助けられたって報告したか? 謝礼が届いてねーんだけど」

 そこにいたのは、西風の魔術師ウルだった。
 どうしてこんなところに。

「……忘れてた」

 リトスは視線を逸らして呟いたが、それはウルの耳にも届いている。

「小僧あとでつらかせや。俺っちが親の代わりに教育してやる」

 うっわ因縁付けるとか、ならず者かよ。
 リトスが辟易へきえきしていると、西風の魔術師ウルの隣にいた、禿頭の僧侶が咳払いした。白い法衣の下からでも筋肉の盛り上がりが分かる、体格のよい男だ。

「先に自己紹介を良いですかな? 蒼炎の騎士アッシュ殿とは、お初にお目にかかる。拙僧は、天山ラシャから参った僧兵モンクのガイエンと申します」
「ああ、砕岩のガイエン殿か、ご高名はかねがね」

 砕岩のガイエンは、聖光教の中でも山岳信仰を主とする一派、天山を拠点とする武闘派で有名な戦士である。近隣諸国で人々に害をなす魔物が現れると、率先して討伐に当たるので、民衆にありがたがられている。
 人間界で高名な英雄、戦士二人に、星瞳の魔術師である西風。
 すごい面子めんつのパーティ―だな。
 普通なら怖気づくところだが、リトスは普通の子供ではなかったので、手を挙げて気にせず発言した。

「あのー、星瞳の魔術師の西風様がいるのに、一夜城の攻略はこれからなんですか」

 その場の空気が凍り付く。

「いい度胸だな小僧……」

 ウルが睨んでくるのに、後ろからレイヴンがそっとリトスの腕を引いて自分の背後に隠そうとした。なんでお前が保護者ぶるんだよ。

「リトス君の疑問も分かる。西風殿、あなたの見立てを話してほしい」

 アッシュが冷静に話を繋げたので、剣呑な空気はあっという間に霧散する。

「……一夜城の魔王ってのは、魔神と契約した人間だ」

 西風の魔術師ウルは、不機嫌そうな表情で説明を始めた。

「魔神は何かっつーと、俺たち星瞳の魔術師が契約する高位精霊の、種類がちがうバージョンみたいなもん。魔神単体では、そんな脅威でもねーんだけど、人間と組んだ時が厄介だ。特に、人間と契約して人間を器にした時、魔物を無限に生み出す魔王になる」
「!!」
「魔王が魔界を拡大させ、過去にいくつもの世界が滅びてきた。これはグレイドリブンだけの話じゃねえ。一夜城程度で済んでいるうちに討伐しねえと、俺たちの世界が滅びる」

 んん? 魔神と契約できる人間は滅多にいないと聞いたことあるけど……考え込むリトス。
 一方のアッシュは、壮大な前振りを聞いたにも関わらず、爆弾発言をした。

「そうか……大変な事態になっているところ、申し訳ないが、私はこの案件から降りさせてもらう」
「!!!」

 今度こそ、本当に場の空気が凍り付いた。
 
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