118 / 180
Light in the Dark(闇の中の光)
第46話 勇者パーティー不成立
しおりを挟む
「一夜城の討伐を王様に命じられたのですか? 辞めた方がいいと思いますけど」
リトスは、今は自分より背の高いアッシュの顔を見上げた。
疲れ切った男の顔を。
「殿下は、姉さんと一緒に、北盾教会に行きたいんですよね」
「!」
「自分に素直になりましょうよ。一夜城の討伐は、王様が手配した軍隊にお任せして、俺たちは北に行きましょう」
そう言うと、アッシュが信じられないものを見たように目を見開いた。
「こら君! それでもグレイドリブンの国民か! 国家、いや世界の危機なのだぞ!」
カリンがぷんぷん怒っている。
「知らねーよ、他人のことなんか。俺は、姉さんが大事な人である、殿下の気持ちを一番に優先したいと考えてる」
リトスはきっぱり答えた。
聖女の弟と偽り、アッシュを危険な国境まで連れて行こうとしているのだ。良心が咎めているのもある。それに、英雄と呼ばれ皆の期待を背負いすぎて、心が折れそうになっている目の前の男が可哀想になっていた。
「リトスくん、君は子供だから、そんな無邪気なことが言えるのかもしれないが」
「やめてくれ、カリン。彼は私のことを想って、言ってくれているんだ」
説教を始めたカリンを、アッシュはさえぎった。
心なしか、彼は柔らかい表情になっている。
「ありがとう、リトスくん。君の言葉は、私の求めていたものだ。そんな気がする」
「……」
礼を言われ、リトスは居心地が悪い気持ちになった。
「北軍への参加を辞退するにしても、ちょっと顔を出さないとな……」
「ほ、本気ですか殿下?!」
アッシュは、ふらりと擬音語がつきそうな足取りで、街の外へ向かい歩き出した。
リトスも慌てて、その後を追う。
「……レイヴン、お前ちゃちゃっと行って、一夜城を一夜でつぶして来いよ」
歩きながら、ひそひそ話のていで、レイヴンに話しかけた。
「面倒だな……」
「あんたが進んでやるのって、遺跡探索だけなのか」
これは夜にでも、敵情視察しなければなるまい。
梃子《てこ》でも動かなさそうなレイヴンを見ながら、リトスは思考を巡らせた。
レイヴンは、リトスを弟と重ね、庇護したいと考えている。リトスが危険に飛び込めば、レイヴンは付いて来るだろう。彼の弱みにつけ込むのは卑怯だが、子供の姿にする悪戯を仕掛けられているので、お互い様だ。こうなったら、とことんレイヴンを利用してやる。
「二人とも、見習い騎士、私の従者ということで良いね?」
アッシュが振り返ってきたので、リトスは慌てて「はい」と返事した。
だらだら歩いていたが、いつの間にか街の外に出て、軍隊の野営地に来ていた。出発の準備は最終段階のようで、積荷を載せた荷車が整然と並んでいる。
アッシュは、奥に張られたテントに足を向けた。
「遅くなった」
一声掛けて、テントの中に入る。
リトスも目立たないように、その後を追う。
「げっ」
そして、真正面に座っていた男と目があって絶句した。
「うん? この前助けた貴族の坊主じゃねえか。お前、ちゃんと親に西風様に助けられたって報告したか? 謝礼が届いてねーんだけど」
そこにいたのは、西風の魔術師ウルだった。
どうしてこんなところに。
「……忘れてた」
リトスは視線を逸らして呟いたが、それはウルの耳にも届いている。
「小僧あとで面かせや。俺っちが親の代わりに教育してやる」
うっわ因縁付けるとか、ならず者かよ。
リトスが辟易していると、西風の魔術師ウルの隣にいた、禿頭の僧侶が咳払いした。白い法衣の下からでも筋肉の盛り上がりが分かる、体格のよい男だ。
「先に自己紹介を良いですかな? 蒼炎の騎士アッシュ殿とは、お初にお目にかかる。拙僧は、天山ラシャから参った僧兵のガイエンと申します」
「ああ、砕岩のガイエン殿か、ご高名はかねがね」
砕岩のガイエンは、聖光教の中でも山岳信仰を主とする一派、天山を拠点とする武闘派で有名な戦士である。近隣諸国で人々に害をなす魔物が現れると、率先して討伐に当たるので、民衆にありがたがられている。
人間界で高名な英雄、戦士二人に、星瞳の魔術師である西風。
すごい面子のパーティ―だな。
普通なら怖気づくところだが、リトスは普通の子供ではなかったので、手を挙げて気にせず発言した。
「あのー、星瞳の魔術師の西風様がいるのに、一夜城の攻略はこれからなんですか」
その場の空気が凍り付く。
「いい度胸だな小僧……」
ウルが睨んでくるのに、後ろからレイヴンがそっとリトスの腕を引いて自分の背後に隠そうとした。なんでお前が保護者ぶるんだよ。
「リトス君の疑問も分かる。西風殿、あなたの見立てを話してほしい」
アッシュが冷静に話を繋げたので、剣呑な空気はあっという間に霧散する。
「……一夜城の魔王ってのは、魔神と契約した人間だ」
西風の魔術師ウルは、不機嫌そうな表情で説明を始めた。
「魔神は何かっつーと、俺たち星瞳の魔術師が契約する高位精霊の、種類がちがうバージョンみたいなもん。魔神単体では、そんな脅威でもねーんだけど、人間と組んだ時が厄介だ。特に、人間と契約して人間を器にした時、魔物を無限に生み出す魔王になる」
「!!」
「魔王が魔界を拡大させ、過去にいくつもの世界が滅びてきた。これはグレイドリブンだけの話じゃねえ。一夜城程度で済んでいるうちに討伐しねえと、俺たちの世界が滅びる」
んん? 魔神と契約できる人間は滅多にいないと聞いたことあるけど……考え込むリトス。
一方のアッシュは、壮大な前振りを聞いたにも関わらず、爆弾発言をした。
「そうか……大変な事態になっているところ、申し訳ないが、私はこの案件から降りさせてもらう」
「!!!」
今度こそ、本当に場の空気が凍り付いた。
リトスは、今は自分より背の高いアッシュの顔を見上げた。
疲れ切った男の顔を。
「殿下は、姉さんと一緒に、北盾教会に行きたいんですよね」
「!」
「自分に素直になりましょうよ。一夜城の討伐は、王様が手配した軍隊にお任せして、俺たちは北に行きましょう」
そう言うと、アッシュが信じられないものを見たように目を見開いた。
「こら君! それでもグレイドリブンの国民か! 国家、いや世界の危機なのだぞ!」
カリンがぷんぷん怒っている。
「知らねーよ、他人のことなんか。俺は、姉さんが大事な人である、殿下の気持ちを一番に優先したいと考えてる」
リトスはきっぱり答えた。
聖女の弟と偽り、アッシュを危険な国境まで連れて行こうとしているのだ。良心が咎めているのもある。それに、英雄と呼ばれ皆の期待を背負いすぎて、心が折れそうになっている目の前の男が可哀想になっていた。
「リトスくん、君は子供だから、そんな無邪気なことが言えるのかもしれないが」
「やめてくれ、カリン。彼は私のことを想って、言ってくれているんだ」
説教を始めたカリンを、アッシュはさえぎった。
心なしか、彼は柔らかい表情になっている。
「ありがとう、リトスくん。君の言葉は、私の求めていたものだ。そんな気がする」
「……」
礼を言われ、リトスは居心地が悪い気持ちになった。
「北軍への参加を辞退するにしても、ちょっと顔を出さないとな……」
「ほ、本気ですか殿下?!」
アッシュは、ふらりと擬音語がつきそうな足取りで、街の外へ向かい歩き出した。
リトスも慌てて、その後を追う。
「……レイヴン、お前ちゃちゃっと行って、一夜城を一夜でつぶして来いよ」
歩きながら、ひそひそ話のていで、レイヴンに話しかけた。
「面倒だな……」
「あんたが進んでやるのって、遺跡探索だけなのか」
これは夜にでも、敵情視察しなければなるまい。
梃子《てこ》でも動かなさそうなレイヴンを見ながら、リトスは思考を巡らせた。
レイヴンは、リトスを弟と重ね、庇護したいと考えている。リトスが危険に飛び込めば、レイヴンは付いて来るだろう。彼の弱みにつけ込むのは卑怯だが、子供の姿にする悪戯を仕掛けられているので、お互い様だ。こうなったら、とことんレイヴンを利用してやる。
「二人とも、見習い騎士、私の従者ということで良いね?」
アッシュが振り返ってきたので、リトスは慌てて「はい」と返事した。
だらだら歩いていたが、いつの間にか街の外に出て、軍隊の野営地に来ていた。出発の準備は最終段階のようで、積荷を載せた荷車が整然と並んでいる。
アッシュは、奥に張られたテントに足を向けた。
「遅くなった」
一声掛けて、テントの中に入る。
リトスも目立たないように、その後を追う。
「げっ」
そして、真正面に座っていた男と目があって絶句した。
「うん? この前助けた貴族の坊主じゃねえか。お前、ちゃんと親に西風様に助けられたって報告したか? 謝礼が届いてねーんだけど」
そこにいたのは、西風の魔術師ウルだった。
どうしてこんなところに。
「……忘れてた」
リトスは視線を逸らして呟いたが、それはウルの耳にも届いている。
「小僧あとで面かせや。俺っちが親の代わりに教育してやる」
うっわ因縁付けるとか、ならず者かよ。
リトスが辟易していると、西風の魔術師ウルの隣にいた、禿頭の僧侶が咳払いした。白い法衣の下からでも筋肉の盛り上がりが分かる、体格のよい男だ。
「先に自己紹介を良いですかな? 蒼炎の騎士アッシュ殿とは、お初にお目にかかる。拙僧は、天山ラシャから参った僧兵のガイエンと申します」
「ああ、砕岩のガイエン殿か、ご高名はかねがね」
砕岩のガイエンは、聖光教の中でも山岳信仰を主とする一派、天山を拠点とする武闘派で有名な戦士である。近隣諸国で人々に害をなす魔物が現れると、率先して討伐に当たるので、民衆にありがたがられている。
人間界で高名な英雄、戦士二人に、星瞳の魔術師である西風。
すごい面子のパーティ―だな。
普通なら怖気づくところだが、リトスは普通の子供ではなかったので、手を挙げて気にせず発言した。
「あのー、星瞳の魔術師の西風様がいるのに、一夜城の攻略はこれからなんですか」
その場の空気が凍り付く。
「いい度胸だな小僧……」
ウルが睨んでくるのに、後ろからレイヴンがそっとリトスの腕を引いて自分の背後に隠そうとした。なんでお前が保護者ぶるんだよ。
「リトス君の疑問も分かる。西風殿、あなたの見立てを話してほしい」
アッシュが冷静に話を繋げたので、剣呑な空気はあっという間に霧散する。
「……一夜城の魔王ってのは、魔神と契約した人間だ」
西風の魔術師ウルは、不機嫌そうな表情で説明を始めた。
「魔神は何かっつーと、俺たち星瞳の魔術師が契約する高位精霊の、種類がちがうバージョンみたいなもん。魔神単体では、そんな脅威でもねーんだけど、人間と組んだ時が厄介だ。特に、人間と契約して人間を器にした時、魔物を無限に生み出す魔王になる」
「!!」
「魔王が魔界を拡大させ、過去にいくつもの世界が滅びてきた。これはグレイドリブンだけの話じゃねえ。一夜城程度で済んでいるうちに討伐しねえと、俺たちの世界が滅びる」
んん? 魔神と契約できる人間は滅多にいないと聞いたことあるけど……考え込むリトス。
一方のアッシュは、壮大な前振りを聞いたにも関わらず、爆弾発言をした。
「そうか……大変な事態になっているところ、申し訳ないが、私はこの案件から降りさせてもらう」
「!!!」
今度こそ、本当に場の空気が凍り付いた。
83
あなたにおすすめの小説
世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~
fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。
絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。
だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。
無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる