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Power of Salvation(救世の力)
第60話 再出発
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(※引き続きアッシュ視点)
案内された宿舎で眠り、落ち着いた翌朝に聞くと、リトスはもう旅立ったとのことだった。
「どこへ向かったか知っているか」
「……北のコル・ヒドラエへ行ったそうです」
「正気か。魔界だぞ?!」
ここの神官たちは、子供一人で旅立つのを見送ったというのか。彼は見た目通りの子供ではないことは、薄々気付いているが……複雑な気持ちになった。
彼のような子供が危険な場所に赴いたのに、自分は、ここで立ち止まって良いものだろうか。
「殿下」
「どうしたんだい、カリン」
王の命令で自分の付き人になった、女性騎士カリン。彼女は、真面目な性格ゆえに、以前は隠居したいというアッシュに反対していた。
廊下でアッシュを呼び止めたカリンは、思い詰めた顔をしていた。
「……私はずっと、戦うのは貴族の義務だと思っていました。人より強い力を持った者は、弱い者を守る責任があると」
それは、アッシュ自身も聞かされた事がある。
人によっては綺麗事、単なる建前だと笑うだろう。だがアッシュは心折れるまで、それが正しくあって欲しいと願い続けてきた。
「でも、この旅で分かった気がします。いくら力があっても、アッシュ殿下のように心が傷付いてしまったら、どうにもならない。逆に力が弱くても、勇気があれば困難に立ち向かえる」
「……」
「カサンドラには、妹がいるのです。私は、妹がどうなったか知りたい」
カリンは、一夜城に行くつもりだ。
旅の荷物を持って剣を帯びた彼女は、すぐにでも出て行きそうな出で立ちだった。
それを見て、アッシュも心が決まった。
「私も行こう」
「殿下は、引退されたいのでは……?」
「もし君が戻らなければ、きっと私は後悔する」
戦いたいのではない。
守りたいのだ。
この国を失いたくない。
自分の中にある望みを見出すのに、ずいぶん時間が掛かってしまった。力ある者の義務ではない。国王の命令だからでもない。誰かのためでなく、自分のために動くのだ。
「これが私のしたい事だ」
「殿下……!」
カリンが感激したように涙ぐむ。
二人は急ぎ荷物をまとめ、神官たちに挨拶し、北盾教会を出発した。
「くれぐれも、お気を付け下さい」
空は青く晴れ渡り、風は穏やかだ。
グレイドリブン側の扉が、ゆっくり開かれる。
扉の向こう側の光景で、まず目に入ってきたのは、無数の魔物の死体だった。
雪原に点々と散らばる魔物の残骸の中央に、黒い巨大な影がうずくまっている。
「あれは……」
「近付いてみよう」
危険は感じなかったので、警戒しつつも前進する。
近付くにつれ、黒い巨大な影は、とぐろを巻く黒竜だと分かった。
丸くなりうずくまる竜の背に、一人の男が腰掛け、瞑想している。
長めの黒髪と同じ色合いのローブを羽織り、かたわらに三日月の柄頭を持つ黒檀の長杖を立て掛けている。男の目鼻立ちには、共に旅した黒髪の青年の面影が少し残っていた。
アッシュたちの気配を感じたのか、男は静かに目を開く。
妖しい紫水晶の瞳の中には、金色に輝く星座がある。
「……レイヴンくん。いや、流星の魔術師殿、と言ったほうが良いかな?」
アッシュは、男に呼び掛けた。
星瞳の魔術師の中でも、流星の魔術師は有名で、外見の特徴や得意な魔術も知れ渡っている。
「どちらでも、好きな方で呼ぶがいい」
もはや正体を隠すつもりはないようで、レイヴンは王子のアッシュを見下ろして返事をする。
その傲岸さが不思議と様になるのも、かずかずの伝説を持つ流星の魔術師らしかった。
「リトスくんは、北に行ったよ」
「知っている」
彼と共通の話題は、リトスの事しかない。
一緒に行かなくて良いのかと、暗に問いかける。
しかし、レイヴンは気だるそうに頷いただけだった。
「お前たちは、どこへ行く?」
「カサンドラ州……一夜城へ向かう」
アッシュは戸惑いながら、問いかけに答えた。
「……なら、俺も共に行こう」
一瞬、考える様子を見せたレイヴンは、そう言って竜の背から飛び降りてくる。
「あなたが一緒に来てくれるなら、心強いが……ここでリトスくんを待たなくて良いのかい」
彼は、ここでリトスを待っていたのかもしれない。
アッシュの推測を含む言葉に、レイヴンは薄く笑んだ。
「いいや。一夜城で待つ方が良さそうだ」
「リトスくんは……もしかして」
アッシュの中で、一つの確信が芽生えつつある。
流星の魔術師のリトスへの態度は、対等な立場に対する者のそれだった。ならば、リトスの正体は……
「その推測は、胸の中にしまっておけ」
「!」
全て見透かしたように、レイヴンは制止してくる。
「あなたが一夜城に向かうなら、必ずリトスと再会するだろう。二つ名は、その時に奴に直接聞け」
やはり……そうなのだ。
アッシュは密かに息を呑んだ。
グレイドリブンは魔界に侵食され、危機に瀕している。しかし、希望はあるのだ。必ず誰かが助けに来る。それならば、命を賭ける意味もある。
案内された宿舎で眠り、落ち着いた翌朝に聞くと、リトスはもう旅立ったとのことだった。
「どこへ向かったか知っているか」
「……北のコル・ヒドラエへ行ったそうです」
「正気か。魔界だぞ?!」
ここの神官たちは、子供一人で旅立つのを見送ったというのか。彼は見た目通りの子供ではないことは、薄々気付いているが……複雑な気持ちになった。
彼のような子供が危険な場所に赴いたのに、自分は、ここで立ち止まって良いものだろうか。
「殿下」
「どうしたんだい、カリン」
王の命令で自分の付き人になった、女性騎士カリン。彼女は、真面目な性格ゆえに、以前は隠居したいというアッシュに反対していた。
廊下でアッシュを呼び止めたカリンは、思い詰めた顔をしていた。
「……私はずっと、戦うのは貴族の義務だと思っていました。人より強い力を持った者は、弱い者を守る責任があると」
それは、アッシュ自身も聞かされた事がある。
人によっては綺麗事、単なる建前だと笑うだろう。だがアッシュは心折れるまで、それが正しくあって欲しいと願い続けてきた。
「でも、この旅で分かった気がします。いくら力があっても、アッシュ殿下のように心が傷付いてしまったら、どうにもならない。逆に力が弱くても、勇気があれば困難に立ち向かえる」
「……」
「カサンドラには、妹がいるのです。私は、妹がどうなったか知りたい」
カリンは、一夜城に行くつもりだ。
旅の荷物を持って剣を帯びた彼女は、すぐにでも出て行きそうな出で立ちだった。
それを見て、アッシュも心が決まった。
「私も行こう」
「殿下は、引退されたいのでは……?」
「もし君が戻らなければ、きっと私は後悔する」
戦いたいのではない。
守りたいのだ。
この国を失いたくない。
自分の中にある望みを見出すのに、ずいぶん時間が掛かってしまった。力ある者の義務ではない。国王の命令だからでもない。誰かのためでなく、自分のために動くのだ。
「これが私のしたい事だ」
「殿下……!」
カリンが感激したように涙ぐむ。
二人は急ぎ荷物をまとめ、神官たちに挨拶し、北盾教会を出発した。
「くれぐれも、お気を付け下さい」
空は青く晴れ渡り、風は穏やかだ。
グレイドリブン側の扉が、ゆっくり開かれる。
扉の向こう側の光景で、まず目に入ってきたのは、無数の魔物の死体だった。
雪原に点々と散らばる魔物の残骸の中央に、黒い巨大な影がうずくまっている。
「あれは……」
「近付いてみよう」
危険は感じなかったので、警戒しつつも前進する。
近付くにつれ、黒い巨大な影は、とぐろを巻く黒竜だと分かった。
丸くなりうずくまる竜の背に、一人の男が腰掛け、瞑想している。
長めの黒髪と同じ色合いのローブを羽織り、かたわらに三日月の柄頭を持つ黒檀の長杖を立て掛けている。男の目鼻立ちには、共に旅した黒髪の青年の面影が少し残っていた。
アッシュたちの気配を感じたのか、男は静かに目を開く。
妖しい紫水晶の瞳の中には、金色に輝く星座がある。
「……レイヴンくん。いや、流星の魔術師殿、と言ったほうが良いかな?」
アッシュは、男に呼び掛けた。
星瞳の魔術師の中でも、流星の魔術師は有名で、外見の特徴や得意な魔術も知れ渡っている。
「どちらでも、好きな方で呼ぶがいい」
もはや正体を隠すつもりはないようで、レイヴンは王子のアッシュを見下ろして返事をする。
その傲岸さが不思議と様になるのも、かずかずの伝説を持つ流星の魔術師らしかった。
「リトスくんは、北に行ったよ」
「知っている」
彼と共通の話題は、リトスの事しかない。
一緒に行かなくて良いのかと、暗に問いかける。
しかし、レイヴンは気だるそうに頷いただけだった。
「お前たちは、どこへ行く?」
「カサンドラ州……一夜城へ向かう」
アッシュは戸惑いながら、問いかけに答えた。
「……なら、俺も共に行こう」
一瞬、考える様子を見せたレイヴンは、そう言って竜の背から飛び降りてくる。
「あなたが一緒に来てくれるなら、心強いが……ここでリトスくんを待たなくて良いのかい」
彼は、ここでリトスを待っていたのかもしれない。
アッシュの推測を含む言葉に、レイヴンは薄く笑んだ。
「いいや。一夜城で待つ方が良さそうだ」
「リトスくんは……もしかして」
アッシュの中で、一つの確信が芽生えつつある。
流星の魔術師のリトスへの態度は、対等な立場に対する者のそれだった。ならば、リトスの正体は……
「その推測は、胸の中にしまっておけ」
「!」
全て見透かしたように、レイヴンは制止してくる。
「あなたが一夜城に向かうなら、必ずリトスと再会するだろう。二つ名は、その時に奴に直接聞け」
やはり……そうなのだ。
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