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Power of Salvation(救世の力)
第64話 レイヴンの過去
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西風の魔術師の夢から解放されると、そこは氷の花が咲く雪原だった。
六角の氷晶の柱が、辺り一面に乱立している。
よく見ると、その一本一本に、人間が閉じ込められているのだった。地面をおおう雪の下には、建物の残骸が散乱している。
「ガイエン?!」
ウルは氷晶の中をのぞきこんで声を上げる。
どうやら顔見知りがいたらしい。
「あらぁ、誰かと思ったら、西風の魔術師様じゃなぁい」
「てめ、レオナ!」
氷晶の上でステップを踏むのは、北国に不似合いな暑い国の衣装をまとった踊り子の女性だ。
彼女は、ウルを騙して刺した魔物、レオナだった。
くるくる踊りながら、彼女はウルを見下ろして嗤う。
「人間を魔物に変えるので忙しいんだけどぉ、西風様は好きだから相手してあげるね。もっともっとレオナに血を頂戴」
「ふん、今度は簡単にはいかねえぞ! な、聖鳥! ……おい!」
リトスは背を向けて歩き始めたところだった。
歩きながら手を振る。
「一人で十分だろ。俺は、魔王を倒してくるから、あんたは雑魚処理頼む」
厄介な魔王の腹心二匹のうち、一匹をウルに任せることにした。これでラスボスを守る敵はいなくなるな。
「は?! 抜け駆けする気か? ふざけんなよ!」
怒るウルは無視して、転移の魔術を発動する。
実は、一夜城の魔王の所在が分からないので、精霊鳥に探させている最中だ。精霊鳥からの情報によると、レイヴンもアッシュたちを連れて近くまで来ている。
リトスは目を閉じ、しばし情報を吟味する。
誰の元に飛ぶのが近道だろうか。しばし思案した後、ゆっくり目を開け、座標を選んだ。
(※レイヴン視点)
一夜城の魔王の領域は、昼間は無人で、夜は夢の世界に変わる。
事前にリトスから情報を得ていたレイヴンは、アッシュにもそのことを伝え、昼間に敵地に入ることにした。
とは言え、魔王の領域が拡大している今、とろとろ地面を這っていては夜になってしまう。
『ワシは、一般客を乗せる運送竜ではないのじゃぞ?!』
「知っている」
『愛想がないのぅ~、つまらんの~』
黒竜はぶつぶつ言っていたが、重ねて頼むと巨大化して、アッシュとカリンも乗せてくれた。リトスの時は文句は言わないので、黒竜の矜持の問題らしい。面倒なことだ。
「一夜城の周囲は、無人だ。行ったところでお前の探している妹は、見つからないだろう。それでも行くか」
「はい。それでも、この目で見たいのです」
カリンの決意は固そうだった。
自分の目で現場を見たいという気持ちは、レイヴンにも理解できる。連れていってやるしかない。
黒竜は空を悠々と飛び、陽光に輝く一夜城の尖塔を見つけると、その門前にゆっくりと降りた。
三人は、城下町を探索する。
事前の情報どおり、城下町は無人で、人の気配はまったく感じられない。
妹の住所を訪ねたカリンは、不気味に静まり返る街並みに絶句している。
「妹は、死んでしまったのでしょうか……?」
うなだれる娘に、レイヴンは安易な希望を与えるわけにいかず、口をつぐむ。アッシュが沈痛な表情で、彼女の背をためらいがちに撫でた。
一夜城の夢の世界に入った生者は、時間経過と共に夢に囚われ、やがて魔王の領域に消化されて命を失う。
最初に魔王の領域になった一夜城付近の住民たちは、全滅した可能性が高い。しかし、ここ数日で取り込まれたグレイドリブンの大半の人々は、まだ生存の可能性がある。
魂を扱う魔術師のリトスであれば、完全に消化されていない人々の救助が可能だ。しかし、レイヴン個人としては彼にそこまで負担を掛けたくない。
『我が契約主よ、油断するな。夜が迫っておる』
「まだ明るい時刻だが」
小さい黒竜が、不意に警告する。
同時に、レイヴンも異変を感じ取った。
時空がゆがむ気配。これは、昼から夜、現実から夢の世界に突入する前触れだ。ずいぶん予想より早いが、これも敵が西風の魔術師の魔力を取り込んだ影響なのだろうか。
転移の魔術を使えば脱出できるが、アッシュとカリンを連れて安全な場所に移動するとなると、難易度が高い。
リスクとリターン、アッシュとカリンが生き残る可能性を計算し、レイヴンはその場にとどまることを選択した。
その一瞬で、レイヴンは雪と氷に覆われた城下町から、別の賑やかな都市に移動していた。
アッシュとカリンの姿は、どこにも見当たらない。
夢の世界は、個別に実体化するため、離れ離れになってしまったのだろう。
「……これが、俺の夢の世界か」
過去の記憶を元に構築された故郷、コル・ヒドラエは、幻とは思えないほど現実に近い手触りだ。
竜の遺骸の上に建てられた都市は気温が高く、雪はすぐに溶ける。人々は、竜の骨を使って建物を作り、魔物を狩って生活している。コル・ヒドラエは、狩猟民族によって建てられた国だ。屋台では、分厚い肉の串が売られており、かぐわしい香りが漂ってくる。
どこからともなく聞こえるのは、若い竜の遠吠え。
昔のレイヴンは、魔術師ではなく竜騎士を目指して修行していたため、竜の鳴き声はすぐに聞き分けられる。
「どうしたの、ぼーっとして。兄さん」
黒髪の魔術師の青年が、声を掛けてくる。
青年は、おとなしく真面目そうな容姿で、小脇に本を抱えている。
「アイオン」
レイヴンは、弟の名前を呼ぶ。
幻だと分かっていても、もう会うことのできない弟の姿を見て、胸中に強い感慨が沸き起こった。
六角の氷晶の柱が、辺り一面に乱立している。
よく見ると、その一本一本に、人間が閉じ込められているのだった。地面をおおう雪の下には、建物の残骸が散乱している。
「ガイエン?!」
ウルは氷晶の中をのぞきこんで声を上げる。
どうやら顔見知りがいたらしい。
「あらぁ、誰かと思ったら、西風の魔術師様じゃなぁい」
「てめ、レオナ!」
氷晶の上でステップを踏むのは、北国に不似合いな暑い国の衣装をまとった踊り子の女性だ。
彼女は、ウルを騙して刺した魔物、レオナだった。
くるくる踊りながら、彼女はウルを見下ろして嗤う。
「人間を魔物に変えるので忙しいんだけどぉ、西風様は好きだから相手してあげるね。もっともっとレオナに血を頂戴」
「ふん、今度は簡単にはいかねえぞ! な、聖鳥! ……おい!」
リトスは背を向けて歩き始めたところだった。
歩きながら手を振る。
「一人で十分だろ。俺は、魔王を倒してくるから、あんたは雑魚処理頼む」
厄介な魔王の腹心二匹のうち、一匹をウルに任せることにした。これでラスボスを守る敵はいなくなるな。
「は?! 抜け駆けする気か? ふざけんなよ!」
怒るウルは無視して、転移の魔術を発動する。
実は、一夜城の魔王の所在が分からないので、精霊鳥に探させている最中だ。精霊鳥からの情報によると、レイヴンもアッシュたちを連れて近くまで来ている。
リトスは目を閉じ、しばし情報を吟味する。
誰の元に飛ぶのが近道だろうか。しばし思案した後、ゆっくり目を開け、座標を選んだ。
(※レイヴン視点)
一夜城の魔王の領域は、昼間は無人で、夜は夢の世界に変わる。
事前にリトスから情報を得ていたレイヴンは、アッシュにもそのことを伝え、昼間に敵地に入ることにした。
とは言え、魔王の領域が拡大している今、とろとろ地面を這っていては夜になってしまう。
『ワシは、一般客を乗せる運送竜ではないのじゃぞ?!』
「知っている」
『愛想がないのぅ~、つまらんの~』
黒竜はぶつぶつ言っていたが、重ねて頼むと巨大化して、アッシュとカリンも乗せてくれた。リトスの時は文句は言わないので、黒竜の矜持の問題らしい。面倒なことだ。
「一夜城の周囲は、無人だ。行ったところでお前の探している妹は、見つからないだろう。それでも行くか」
「はい。それでも、この目で見たいのです」
カリンの決意は固そうだった。
自分の目で現場を見たいという気持ちは、レイヴンにも理解できる。連れていってやるしかない。
黒竜は空を悠々と飛び、陽光に輝く一夜城の尖塔を見つけると、その門前にゆっくりと降りた。
三人は、城下町を探索する。
事前の情報どおり、城下町は無人で、人の気配はまったく感じられない。
妹の住所を訪ねたカリンは、不気味に静まり返る街並みに絶句している。
「妹は、死んでしまったのでしょうか……?」
うなだれる娘に、レイヴンは安易な希望を与えるわけにいかず、口をつぐむ。アッシュが沈痛な表情で、彼女の背をためらいがちに撫でた。
一夜城の夢の世界に入った生者は、時間経過と共に夢に囚われ、やがて魔王の領域に消化されて命を失う。
最初に魔王の領域になった一夜城付近の住民たちは、全滅した可能性が高い。しかし、ここ数日で取り込まれたグレイドリブンの大半の人々は、まだ生存の可能性がある。
魂を扱う魔術師のリトスであれば、完全に消化されていない人々の救助が可能だ。しかし、レイヴン個人としては彼にそこまで負担を掛けたくない。
『我が契約主よ、油断するな。夜が迫っておる』
「まだ明るい時刻だが」
小さい黒竜が、不意に警告する。
同時に、レイヴンも異変を感じ取った。
時空がゆがむ気配。これは、昼から夜、現実から夢の世界に突入する前触れだ。ずいぶん予想より早いが、これも敵が西風の魔術師の魔力を取り込んだ影響なのだろうか。
転移の魔術を使えば脱出できるが、アッシュとカリンを連れて安全な場所に移動するとなると、難易度が高い。
リスクとリターン、アッシュとカリンが生き残る可能性を計算し、レイヴンはその場にとどまることを選択した。
その一瞬で、レイヴンは雪と氷に覆われた城下町から、別の賑やかな都市に移動していた。
アッシュとカリンの姿は、どこにも見当たらない。
夢の世界は、個別に実体化するため、離れ離れになってしまったのだろう。
「……これが、俺の夢の世界か」
過去の記憶を元に構築された故郷、コル・ヒドラエは、幻とは思えないほど現実に近い手触りだ。
竜の遺骸の上に建てられた都市は気温が高く、雪はすぐに溶ける。人々は、竜の骨を使って建物を作り、魔物を狩って生活している。コル・ヒドラエは、狩猟民族によって建てられた国だ。屋台では、分厚い肉の串が売られており、かぐわしい香りが漂ってくる。
どこからともなく聞こえるのは、若い竜の遠吠え。
昔のレイヴンは、魔術師ではなく竜騎士を目指して修行していたため、竜の鳴き声はすぐに聞き分けられる。
「どうしたの、ぼーっとして。兄さん」
黒髪の魔術師の青年が、声を掛けてくる。
青年は、おとなしく真面目そうな容姿で、小脇に本を抱えている。
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