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Commands the Stars(星を統べる者)
第78話 ヒヨコ祭り
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少し時間はさかのぼる。
エリザが城を去った後、一面の花畑になった広間にて、西風の魔術師ウルは屈んで何かつまみ上げた。
「こいつ、始末するの忘れてたわ」
「にゃーっ!」
明るい毛皮の猫が、ウルの手の先でもがいている。
「離してやれよ。可哀想だろ」
リトスは、ウルに声を掛けた。
「良いのかよ? こいつ魔物だぜ」
「いいんだよ。その子には役割がある」
彼女は、アッシュとエリザを結びつける役割を果たすだろう。魔物なので人間に害を及ぼしたり、二人の仲をかき回したりする可能性もあるが、それも含め対処はエリザに任せようと、リトスは考えていた。
「ふーん。それなら、それで良いか」
ウルが手を離すと、猫は慌てて物陰に飛び込み、逃げ去った。
「それよりも、歌い鳥。てめえ、俺に言うことないか?」
リトスは、首をかしげた。
何かあったっけ?
「助けてくれて、ありがとうございます、だろ! さんざん俺を利用しやがって」
「ああ、そっか。サンキュー」
「軽っ」
きちんと礼を言ったのに、ウルは不満そうだ。
「礼は現物だろ! 金寄越せ金!」
「……」
俺に金を要求するなと、リトスは密かに苛立ったが、そんな内心は覆い隠して綺麗な笑みを浮かべる。
「そうだな、ごめん。貴重品は精霊界に保管してるから、精霊界に来てもらえるか」
「おぉ!」
ウルは喜色をあらわにした。
単純な男だ。
「リトス」
その瞬間、レイヴンが時空を操る魔術で、リトスと自分以外を隔離する。レイヴンとリトス以外の人物が止まり、時間の流れが遅くなった。どうやら二人で内緒話をしたいようだ。
レイヴンは眉をしかめて話し掛けてきた。
「どういうつもりだ? 旅の資金繰りにうるさかったお前が、西風に金を渡す?」
リトスが旅のはじめに零していた愚痴を、覚えていたらしい。
「渡す訳ないだろ。だいたいレイヴン、あんたが何ももらわずハイランドを出たせいで、前も俺たち無料働きだったんだぞ」
ハイランドでは星瞳の魔術師として国を救ったにも関わらず、その謝礼を請求できていない。
「だったら何故」
「知らないか? 開陽の魔術師様が、西風を連れ戻してくれと言ってるの」
西風の魔術師ウルは、なぜか七星に指名手配されている。と言っても犯罪者扱いではなく、任意で精霊界に連れ戻すのに協力してね、くらいのニュアンスだ。
もちろん星瞳の魔術師たちは暇ではないし、人間界に降りている者は、それぞれ自分の生活があるため、ウルなどに関わっていられないのが実情だ。
そのため七星で一番年齢が高い、ご隠居老人である開陽の魔術師の頼みに、今まで誰も応じていなかったのだった。
「西風を、開陽の魔術師様のところへ連れて行って、金一封せしめる! もしくは、金に代わる魔術を教えてもらう!」
リトスは勢い込んで宣言した。
「今回は、あんたもいるし、二人がかりなら西風を捕まえて連れて行けるだろ!」
「はぁ……」
レイヴンは額に手を当てて、深々と溜め息を吐いた。
「開陽の魔術師が、現世で資産になるような物品を持ってるとは思えないが」
「ああ、持ってると本気で期待してないよ。でも、気になるだろ。開陽様が、今の人間界をどう思ってるか」
リトスは無意識に蒼眼をすがめる。
「西風の言う通り、精霊界の星瞳の魔術師は、人間界が滅んでも良いと思ってるみたいに無干渉だ。レイヴン、あんた天枢様から何か聞いてないの?」
「……師は、精霊界の開拓を優先している。現状は、お前の指摘の通りだ。ただ俺は、七星を動かそうとは考えていなかった」
レイヴンは眉間のシワをゆるめ、こちらを観察するように見つめてくる。
「分かった、協力しよう。ただし、力業が必要になったら、俺に任せると約束しろ。お前は一夜城の対処で消耗してるだろう」
「!」
確かに、一夜城の夢に囚われたグレイドリブンの民の魂を守るため、数万羽の精霊鳥を飛ばしながら同時に戦闘もこなしていたので、かなり疲労している。
いまだ気遣われるのに慣れていないリトスは「へーき平気」と笑い飛ばした。
「パワーアップしてるから大丈夫だって。なんだよ、妙に優しいな?」
「遺跡の調査に協力してもらう予定だからな」
「そうだったっけ」
「忘れたのなら、西風の前で思い出させてやろうか」
その台詞を最後に、レイヴンの魔術は解け、通常の時間の流れに復帰する。
リトスは口を閉ざし、素知らぬ風を装った。
「……お前ら今、魔術使ってなかったか」
やはりウルも星瞳の魔術師らしく、何か勘づいたらしい。
胡乱な目でこちらを見てくる。
「気のせいだよ。さあ、俺が精霊界への門を開くから」
リトスは、わざとらしく微笑み、ちょいちょいっと転移門の魔術を使った。
精霊鳥が飛翔する軌跡に沿って、虚空に光の門が開く。
三人は、光の門に踏み込んだ。
「……うわっ」
急に上から何か降ってきて、リトスは柔らかいものに押しつぶされる。
一瞬、座標を間違えたかと焦った。
「ぴよー」
可愛い鳥の鳴き声がして脱力する。
異常に大きいヒヨコの姿の精霊鳥が、リトスを上から踏みつぶしていた。他にも大小のヒヨコが次々と落ちてくる。
「……星瞳の魔術師は精霊に好かれるって言っても限度あるだろ。踏みつぶされるほど、たかられた奴はじめて見た」
「ほっとけ!」
西風の魔術師ウルに呆れたように言われ、リトスはヒヨコを頭の上からどかしながら怒鳴り返した。
「……西風ちゃん? 開陽の魔術師様が探してたわよ」
「やべっ、ヒヨコに見惚れて逃げ損ねた!」
リトスが指定した転移先は、七星方舟の中だった。リトスの師匠である揺光の魔術師バネッサに見つかり、ウルは慌てている。
どうやら捕獲の手間が省けそうだ。
エリザが城を去った後、一面の花畑になった広間にて、西風の魔術師ウルは屈んで何かつまみ上げた。
「こいつ、始末するの忘れてたわ」
「にゃーっ!」
明るい毛皮の猫が、ウルの手の先でもがいている。
「離してやれよ。可哀想だろ」
リトスは、ウルに声を掛けた。
「良いのかよ? こいつ魔物だぜ」
「いいんだよ。その子には役割がある」
彼女は、アッシュとエリザを結びつける役割を果たすだろう。魔物なので人間に害を及ぼしたり、二人の仲をかき回したりする可能性もあるが、それも含め対処はエリザに任せようと、リトスは考えていた。
「ふーん。それなら、それで良いか」
ウルが手を離すと、猫は慌てて物陰に飛び込み、逃げ去った。
「それよりも、歌い鳥。てめえ、俺に言うことないか?」
リトスは、首をかしげた。
何かあったっけ?
「助けてくれて、ありがとうございます、だろ! さんざん俺を利用しやがって」
「ああ、そっか。サンキュー」
「軽っ」
きちんと礼を言ったのに、ウルは不満そうだ。
「礼は現物だろ! 金寄越せ金!」
「……」
俺に金を要求するなと、リトスは密かに苛立ったが、そんな内心は覆い隠して綺麗な笑みを浮かべる。
「そうだな、ごめん。貴重品は精霊界に保管してるから、精霊界に来てもらえるか」
「おぉ!」
ウルは喜色をあらわにした。
単純な男だ。
「リトス」
その瞬間、レイヴンが時空を操る魔術で、リトスと自分以外を隔離する。レイヴンとリトス以外の人物が止まり、時間の流れが遅くなった。どうやら二人で内緒話をしたいようだ。
レイヴンは眉をしかめて話し掛けてきた。
「どういうつもりだ? 旅の資金繰りにうるさかったお前が、西風に金を渡す?」
リトスが旅のはじめに零していた愚痴を、覚えていたらしい。
「渡す訳ないだろ。だいたいレイヴン、あんたが何ももらわずハイランドを出たせいで、前も俺たち無料働きだったんだぞ」
ハイランドでは星瞳の魔術師として国を救ったにも関わらず、その謝礼を請求できていない。
「だったら何故」
「知らないか? 開陽の魔術師様が、西風を連れ戻してくれと言ってるの」
西風の魔術師ウルは、なぜか七星に指名手配されている。と言っても犯罪者扱いではなく、任意で精霊界に連れ戻すのに協力してね、くらいのニュアンスだ。
もちろん星瞳の魔術師たちは暇ではないし、人間界に降りている者は、それぞれ自分の生活があるため、ウルなどに関わっていられないのが実情だ。
そのため七星で一番年齢が高い、ご隠居老人である開陽の魔術師の頼みに、今まで誰も応じていなかったのだった。
「西風を、開陽の魔術師様のところへ連れて行って、金一封せしめる! もしくは、金に代わる魔術を教えてもらう!」
リトスは勢い込んで宣言した。
「今回は、あんたもいるし、二人がかりなら西風を捕まえて連れて行けるだろ!」
「はぁ……」
レイヴンは額に手を当てて、深々と溜め息を吐いた。
「開陽の魔術師が、現世で資産になるような物品を持ってるとは思えないが」
「ああ、持ってると本気で期待してないよ。でも、気になるだろ。開陽様が、今の人間界をどう思ってるか」
リトスは無意識に蒼眼をすがめる。
「西風の言う通り、精霊界の星瞳の魔術師は、人間界が滅んでも良いと思ってるみたいに無干渉だ。レイヴン、あんた天枢様から何か聞いてないの?」
「……師は、精霊界の開拓を優先している。現状は、お前の指摘の通りだ。ただ俺は、七星を動かそうとは考えていなかった」
レイヴンは眉間のシワをゆるめ、こちらを観察するように見つめてくる。
「分かった、協力しよう。ただし、力業が必要になったら、俺に任せると約束しろ。お前は一夜城の対処で消耗してるだろう」
「!」
確かに、一夜城の夢に囚われたグレイドリブンの民の魂を守るため、数万羽の精霊鳥を飛ばしながら同時に戦闘もこなしていたので、かなり疲労している。
いまだ気遣われるのに慣れていないリトスは「へーき平気」と笑い飛ばした。
「パワーアップしてるから大丈夫だって。なんだよ、妙に優しいな?」
「遺跡の調査に協力してもらう予定だからな」
「そうだったっけ」
「忘れたのなら、西風の前で思い出させてやろうか」
その台詞を最後に、レイヴンの魔術は解け、通常の時間の流れに復帰する。
リトスは口を閉ざし、素知らぬ風を装った。
「……お前ら今、魔術使ってなかったか」
やはりウルも星瞳の魔術師らしく、何か勘づいたらしい。
胡乱な目でこちらを見てくる。
「気のせいだよ。さあ、俺が精霊界への門を開くから」
リトスは、わざとらしく微笑み、ちょいちょいっと転移門の魔術を使った。
精霊鳥が飛翔する軌跡に沿って、虚空に光の門が開く。
三人は、光の門に踏み込んだ。
「……うわっ」
急に上から何か降ってきて、リトスは柔らかいものに押しつぶされる。
一瞬、座標を間違えたかと焦った。
「ぴよー」
可愛い鳥の鳴き声がして脱力する。
異常に大きいヒヨコの姿の精霊鳥が、リトスを上から踏みつぶしていた。他にも大小のヒヨコが次々と落ちてくる。
「……星瞳の魔術師は精霊に好かれるって言っても限度あるだろ。踏みつぶされるほど、たかられた奴はじめて見た」
「ほっとけ!」
西風の魔術師ウルに呆れたように言われ、リトスはヒヨコを頭の上からどかしながら怒鳴り返した。
「……西風ちゃん? 開陽の魔術師様が探してたわよ」
「やべっ、ヒヨコに見惚れて逃げ損ねた!」
リトスが指定した転移先は、七星方舟の中だった。リトスの師匠である揺光の魔術師バネッサに見つかり、ウルは慌てている。
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