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Commands the Stars(星を統べる者)
第86話 持ちつ持たれつ(2026/3/9改稿)
ユエリの紹介してくれた宿屋に入り、リトスはようやく一息付いた。ユエリが気をきかせて個室のある宿屋にしてくれたので、レイヴンと同室だが二人きりだ。
これでゆっくり内緒話ができる。
「何買ったんだ? 俺にもくれよ」
レイヴンは道中、酒壺を買っていた。
飲ませろとねだると、レイヴンは壺ごと渡してくれる。リトスは手元に杯《さかずき》を転送すると、酒をついで壺はレイヴンに返した。
「お疲れ様~」
二人で軽く乾杯する。
グレイドリブンの一夜城の件を解決し、精霊界でもゴタゴタに巻き込まれたので、安全な場所で落ち着いて酒を飲むのは随分久しぶりだった。
レイヴンは豪快に壺から直接、酒を飲んでいる。
それを眺めながら、リトスは酒の入った杯を揺らした。
「……これからどうする? って言っても、決まってるか。あの湖の遺跡を調査したいんだろ」
「ああ」
レイヴンは首肯する。
弟を追って下層世界に降りるために、出入り口となる遺跡を見付けるのが彼の目的だ。
「もう一つ……星瞳の魔術師が人間界から引き上げるのを、阻止したい」
「なんで?」
「星瞳の魔術師は、精霊を呼び寄せ世界を活性化し、時間を動かす。時間は、世界という生き物の血流のようなもの。過ぎゆく月日は、世界の心臓が脈動する音だ。星瞳の魔術師が遠ざかった世界は、時間という血流が停止し、死に至る」
時空を操るレイヴンらしい観点だった。
天枢が推進する星瞳の魔術師の移住は、今現在の世界の衰退を進めるという。
「へぇ~。俺は、天枢様に協力して、人間界の星瞳の魔術師を説得すると約束しちゃったよ」
「……リトス、お前はあと一回だけ、俺の遺跡探索に付き合う約束だったな?」
へらへら笑って言うリトスに、レイヴンはふと何か思い付いたようで、急に話題を変えてきた。
リトスはきょとんとする。
「何回も念押ししなくても、約束は守るよ」
「それなら良い。これで最後にしよう」
レイヴンの声音が、にわかに真剣味を帯びた。
「ずっと、お前を無条件で俺の旅に同行させられたらと考えていたが、すんなり流されてはくれないな」
「当然だろ」
「では、その決着を賭けて勝負しよう」
「勝負?」
「この国の星瞳の魔術師、水蓮が人間界に残ったら俺の勝ち。精霊界に引き上げたら、お前の勝ちだ」
リトスは皆の前で、開陽に協力して人間界にいる星瞳の魔術師が精霊界に引き上げるよう説得すると言ってしまった。
レイヴンは反対に、他の星瞳の魔術師が人間界に留まるよう説得したいようだ。
実のところ、リトスが開陽に協力すると言ったのは、その場しのぎの嘘だったのだが……
「俺が勝てば、お前は今後もずっと俺の旅に同行する。俺が負ければ、お前の希望どおり一人旅だ。勝負の期限は、ファーランの遺跡の攻略完了までとする」
勝手なことを……今さら嘘だったから勝負は成立しないとも言い出せず困った。
「どうした? 勝つ自信がないのか?」
すべて見透かすようなレイヴンの眼差しを受け、リトスは動揺する。
「んな訳ないだろ! 分かったよ、その勝負、受けてやる!」
しまった。つい勢いで……でも実はお前の考えに賛成だなんて、恥ずかしくて言えないし。
リトスの葛藤を見抜いているように、レイヴンは意地悪い笑みを浮かべてみせた。
「決まりだな。ファーランの遺跡攻略までは、俺に付き合ってくれるだろう。相棒?」
「~~調子に乗るな!」
レイヴンは、くっくっと笑いながら追い打ちを掛けてくる。
くそっ、勝負なんて知ったことか。次こそは絶対ぜったい絶交してやる!
旅を始めてから、早起きしなきゃと思いながらも、朝早く起きられないリトスである。
今朝は、気付いたらレイヴンの寝台を占領していた。
「ん~、ごめん」
「良いから、ゆっくり寝ろ」
レイヴンは険しい表情だが、この男はこれがデフォだ。
「お前は、移動ごとに情報収集する癖があるだろう。複数の精霊鳥からの伝達を処理しているのだから、脳に負担が掛かるのは当然だ。休める時は休め」
何だか見透かされてしまっている。
やばい。レイヴンの物分かりが良すぎて、他人と旅が出来る気がしない。一人で旅をするのも、今となっては面倒だ。一人旅は精霊界の修行で慣れていたつもりなのに。
結局、言葉に甘えてダラダラしてしまい、宿を出たのは昼近くだった。
「待ちくたびれましたよ」
「げ。ユエリ」
宿の前では、隻眼のエルフが腕組みして待っていた。
「調査結果を報告し、ついでに知己に会ったと伝えたところ、主がレイヴン殿に会いたいと……ああ、リトス様のことは詳しく伝えてません」
「レイヴンに?」
「Sランクの魔術師で、名前がレイヴン。黒髪に紫色の瞳の男なら、ぜひ会いたいそうです。理由は私も知りません」
雨月公女は、各国を旅する流星の魔術師の噂を知っていたのだろう。大陸魔術師連合と交流の機会がある貴人は、流星の魔術師の特徴を知っている。
ユエリは知らないようで、困った顔だ。
「……この流れなら、俺を呼びつけて、水蓮の魔術師の探索を依頼するつもりだろうな」
「どうするんだ?」
「遺跡は動かない。それに水蓮の行方は、俺も気になっている」
レイヴンは、依頼を引き受けるつもりのようだ。
どうしたもんかな。
リトスは、ユエリを見ながら迷う。
何故、迷っているかというと、一緒に行くと悪徳貴族リトス・アルシャウカトの顔を知っているユエリ以外の元奴隷に会うかもしれないからだ。ユエリは何故か好意的だが、他の元奴隷が同じ考えかは分からない。むしろ、恨まれている可能性の方が高いとリトスは踏んでいる。
「……」
「リトス?」
「なんでもない。分かった、雨月公女に会いに行こう。どんな美人か楽しみだな」
過去の悪行は、精算されなくてはならない。
たとえ、自分が望んでした事ではなかったとしても。
これでゆっくり内緒話ができる。
「何買ったんだ? 俺にもくれよ」
レイヴンは道中、酒壺を買っていた。
飲ませろとねだると、レイヴンは壺ごと渡してくれる。リトスは手元に杯《さかずき》を転送すると、酒をついで壺はレイヴンに返した。
「お疲れ様~」
二人で軽く乾杯する。
グレイドリブンの一夜城の件を解決し、精霊界でもゴタゴタに巻き込まれたので、安全な場所で落ち着いて酒を飲むのは随分久しぶりだった。
レイヴンは豪快に壺から直接、酒を飲んでいる。
それを眺めながら、リトスは酒の入った杯を揺らした。
「……これからどうする? って言っても、決まってるか。あの湖の遺跡を調査したいんだろ」
「ああ」
レイヴンは首肯する。
弟を追って下層世界に降りるために、出入り口となる遺跡を見付けるのが彼の目的だ。
「もう一つ……星瞳の魔術師が人間界から引き上げるのを、阻止したい」
「なんで?」
「星瞳の魔術師は、精霊を呼び寄せ世界を活性化し、時間を動かす。時間は、世界という生き物の血流のようなもの。過ぎゆく月日は、世界の心臓が脈動する音だ。星瞳の魔術師が遠ざかった世界は、時間という血流が停止し、死に至る」
時空を操るレイヴンらしい観点だった。
天枢が推進する星瞳の魔術師の移住は、今現在の世界の衰退を進めるという。
「へぇ~。俺は、天枢様に協力して、人間界の星瞳の魔術師を説得すると約束しちゃったよ」
「……リトス、お前はあと一回だけ、俺の遺跡探索に付き合う約束だったな?」
へらへら笑って言うリトスに、レイヴンはふと何か思い付いたようで、急に話題を変えてきた。
リトスはきょとんとする。
「何回も念押ししなくても、約束は守るよ」
「それなら良い。これで最後にしよう」
レイヴンの声音が、にわかに真剣味を帯びた。
「ずっと、お前を無条件で俺の旅に同行させられたらと考えていたが、すんなり流されてはくれないな」
「当然だろ」
「では、その決着を賭けて勝負しよう」
「勝負?」
「この国の星瞳の魔術師、水蓮が人間界に残ったら俺の勝ち。精霊界に引き上げたら、お前の勝ちだ」
リトスは皆の前で、開陽に協力して人間界にいる星瞳の魔術師が精霊界に引き上げるよう説得すると言ってしまった。
レイヴンは反対に、他の星瞳の魔術師が人間界に留まるよう説得したいようだ。
実のところ、リトスが開陽に協力すると言ったのは、その場しのぎの嘘だったのだが……
「俺が勝てば、お前は今後もずっと俺の旅に同行する。俺が負ければ、お前の希望どおり一人旅だ。勝負の期限は、ファーランの遺跡の攻略完了までとする」
勝手なことを……今さら嘘だったから勝負は成立しないとも言い出せず困った。
「どうした? 勝つ自信がないのか?」
すべて見透かすようなレイヴンの眼差しを受け、リトスは動揺する。
「んな訳ないだろ! 分かったよ、その勝負、受けてやる!」
しまった。つい勢いで……でも実はお前の考えに賛成だなんて、恥ずかしくて言えないし。
リトスの葛藤を見抜いているように、レイヴンは意地悪い笑みを浮かべてみせた。
「決まりだな。ファーランの遺跡攻略までは、俺に付き合ってくれるだろう。相棒?」
「~~調子に乗るな!」
レイヴンは、くっくっと笑いながら追い打ちを掛けてくる。
くそっ、勝負なんて知ったことか。次こそは絶対ぜったい絶交してやる!
旅を始めてから、早起きしなきゃと思いながらも、朝早く起きられないリトスである。
今朝は、気付いたらレイヴンの寝台を占領していた。
「ん~、ごめん」
「良いから、ゆっくり寝ろ」
レイヴンは険しい表情だが、この男はこれがデフォだ。
「お前は、移動ごとに情報収集する癖があるだろう。複数の精霊鳥からの伝達を処理しているのだから、脳に負担が掛かるのは当然だ。休める時は休め」
何だか見透かされてしまっている。
やばい。レイヴンの物分かりが良すぎて、他人と旅が出来る気がしない。一人で旅をするのも、今となっては面倒だ。一人旅は精霊界の修行で慣れていたつもりなのに。
結局、言葉に甘えてダラダラしてしまい、宿を出たのは昼近くだった。
「待ちくたびれましたよ」
「げ。ユエリ」
宿の前では、隻眼のエルフが腕組みして待っていた。
「調査結果を報告し、ついでに知己に会ったと伝えたところ、主がレイヴン殿に会いたいと……ああ、リトス様のことは詳しく伝えてません」
「レイヴンに?」
「Sランクの魔術師で、名前がレイヴン。黒髪に紫色の瞳の男なら、ぜひ会いたいそうです。理由は私も知りません」
雨月公女は、各国を旅する流星の魔術師の噂を知っていたのだろう。大陸魔術師連合と交流の機会がある貴人は、流星の魔術師の特徴を知っている。
ユエリは知らないようで、困った顔だ。
「……この流れなら、俺を呼びつけて、水蓮の魔術師の探索を依頼するつもりだろうな」
「どうするんだ?」
「遺跡は動かない。それに水蓮の行方は、俺も気になっている」
レイヴンは、依頼を引き受けるつもりのようだ。
どうしたもんかな。
リトスは、ユエリを見ながら迷う。
何故、迷っているかというと、一緒に行くと悪徳貴族リトス・アルシャウカトの顔を知っているユエリ以外の元奴隷に会うかもしれないからだ。ユエリは何故か好意的だが、他の元奴隷が同じ考えかは分からない。むしろ、恨まれている可能性の方が高いとリトスは踏んでいる。
「……」
「リトス?」
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たとえ、自分が望んでした事ではなかったとしても。
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