嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

文字の大きさ
158 / 209
Commands the Stars(星を統べる者)

第86話 持ちつ持たれつ(2026/3/9改稿)

 ユエリの紹介してくれた宿屋に入り、リトスはようやく一息付いた。ユエリが気をきかせて個室のある宿屋にしてくれたので、レイヴンと同室だが二人きりだ。
 これでゆっくり内緒話ができる。

「何買ったんだ? 俺にもくれよ」

 レイヴンは道中、酒壺を買っていた。
 飲ませろとねだると、レイヴンは壺ごと渡してくれる。リトスは手元に杯《さかずき》を転送すると、酒をついで壺はレイヴンに返した。

「お疲れ様~」

 二人で軽く乾杯する。
 グレイドリブンの一夜城の件を解決し、精霊界でもゴタゴタに巻き込まれたので、安全な場所で落ち着いて酒を飲むのは随分久しぶりだった。
 レイヴンは豪快に壺から直接、酒を飲んでいる。
 それを眺めながら、リトスは酒の入った杯を揺らした。

「……これからどうする? って言っても、決まってるか。あの湖の遺跡を調査したいんだろ」
「ああ」

 レイヴンは首肯する。
 弟を追って下層世界に降りるために、出入り口となる遺跡を見付けるのが彼の目的だ。

「もう一つ……星瞳の魔術師が人間界から引き上げるのを、阻止したい」
「なんで?」
「星瞳の魔術師は、精霊を呼び寄せ世界を活性化し、時間を動かす。時間は、世界という生き物の血流のようなもの。過ぎゆく月日は、世界の心臓が脈動する音だ。星瞳の魔術師が遠ざかった世界は、時間という血流が停止し、死に至る」

 時空を操るレイヴンらしい観点だった。
 天枢が推進する星瞳の魔術師の移住は、今現在の世界の衰退を進めるという。

「へぇ~。俺は、天枢様に協力して、人間界の星瞳の魔術師を説得すると約束しちゃったよ」
「……リトス、お前はあと一回だけ、俺の遺跡探索に付き合う約束だったな?」

 へらへら笑って言うリトスに、レイヴンはふと何か思い付いたようで、急に話題を変えてきた。
 リトスはきょとんとする。

「何回も念押ししなくても、約束は守るよ」
「それなら良い。これで最後にしよう」

 レイヴンの声音が、にわかに真剣味を帯びた。

「ずっと、お前を無条件で俺の旅に同行させられたらと考えていたが、すんなり流されてはくれないな」
「当然だろ」
「では、その決着を賭けて勝負しよう」
「勝負?」
「この国の星瞳の魔術師、水蓮が人間界に残ったら俺の勝ち。精霊界に引き上げたら、お前の勝ちだ」

 リトスは皆の前で、開陽に協力して人間界にいる星瞳の魔術師が精霊界に引き上げるよう説得すると言ってしまった。
 レイヴンは反対に、他の星瞳の魔術師が人間界に留まるよう説得したいようだ。
 実のところ、リトスが開陽に協力すると言ったのは、その場しのぎの嘘だったのだが……

「俺が勝てば、お前は今後もずっと俺の旅に同行する。俺が負ければ、お前の希望どおり一人旅だ。勝負の期限は、ファーランの遺跡の攻略完了までとする」

 勝手なことを……今さら嘘だったから勝負は成立しないとも言い出せず困った。

「どうした? 勝つ自信がないのか?」

 すべて見透かすようなレイヴンの眼差しを受け、リトスは動揺する。

「んな訳ないだろ! 分かったよ、その勝負、受けてやる!」

 しまった。つい勢いで……でも実はお前の考えに賛成だなんて、恥ずかしくて言えないし。
 リトスの葛藤を見抜いているように、レイヴンは意地悪い笑みを浮かべてみせた。

「決まりだな。ファーランの遺跡攻略までは、俺に付き合ってくれるだろう。相棒?」
「~~調子に乗るな!」

 レイヴンは、くっくっと笑いながら追い打ちを掛けてくる。
 くそっ、勝負なんて知ったことか。次こそは絶対ぜったい絶交してやる!



 旅を始めてから、早起きしなきゃと思いながらも、朝早く起きられないリトスである。
 今朝は、気付いたらレイヴンの寝台を占領していた。

「ん~、ごめん」
「良いから、ゆっくり寝ろ」

 レイヴンは険しい表情だが、この男はこれがデフォだ。

「お前は、移動ごとに情報収集する癖があるだろう。複数の精霊鳥からの伝達を処理しているのだから、脳に負担が掛かるのは当然だ。休める時は休め」

 何だか見透かされてしまっている。
 やばい。レイヴンの物分かりが良すぎて、他人と旅が出来る気がしない。一人で旅をするのも、今となっては面倒だ。一人旅は精霊界の修行で慣れていたつもりなのに。
 結局、言葉に甘えてダラダラしてしまい、宿を出たのは昼近くだった。

「待ちくたびれましたよ」
「げ。ユエリ」

 宿の前では、隻眼のエルフが腕組みして待っていた。

「調査結果を報告し、ついでに知己に会ったと伝えたところ、主がレイヴン殿に会いたいと……ああ、リトス様のことは詳しく伝えてません」
「レイヴンに?」
「Sランクの魔術師で、名前がレイヴン。黒髪に紫色の瞳の男なら、ぜひ会いたいそうです。理由は私も知りません」

 雨月公女は、各国を旅する流星の魔術師の噂を知っていたのだろう。大陸魔術師連合と交流の機会がある貴人は、流星の魔術師の特徴を知っている。
 ユエリは知らないようで、困った顔だ。

「……この流れなら、俺を呼びつけて、水蓮の魔術師の探索を依頼するつもりだろうな」
「どうするんだ?」
「遺跡は動かない。それに水蓮の行方は、俺も気になっている」

 レイヴンは、依頼を引き受けるつもりのようだ。
 どうしたもんかな。
 リトスは、ユエリを見ながら迷う。
 何故、迷っているかというと、一緒に行くと悪徳貴族リトス・アルシャウカトの顔を知っているユエリ以外の元奴隷に会うかもしれないからだ。ユエリは何故か好意的だが、他の元奴隷が同じ考えかは分からない。むしろ、恨まれている可能性の方が高いとリトスは踏んでいる。

「……」
「リトス?」
「なんでもない。分かった、雨月公女に会いに行こう。どんな美人か楽しみだな」

 過去の悪行は、精算されなくてはならない。
 たとえ、自分が望んでした事ではなかったとしても。
感想 2

あなたにおすすめの小説

追放されたおっさんが「天才付与術師」になる将来を誰も知らない~自分を拾ってくれた美女パーティーを裏方から支えて何気に大活躍~

きょろ
ファンタジー
才能も彼女もなく、気が付けばチェリーのまま30歳を超えたおっさんの「ジョニー」は今日、長年勤めていたパーティーを首になってしまった。 理由は「使えない」という、ありきたりで一方的なもの。 どうしたものか…とジョニーが悩んでいると、偶然「事務」を募集していた若い娘パーティーと出会い、そして拾われることに。 更にジョニーは使えないと言われた己のスキル「マジック」が“覚醒”──。 パワーアップしたジョニーの裏方の力によって、美少女パーティーは最高峰へと昇り詰めて行く!?

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!

星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。 ……のに。 「お腹すいた」 そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。 強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。 手当てすれば「危ない」と囲い込み、 看病すれば抱きしめて離さず、 ついには―― 「君が、俺の帰る場所」 拾ってない。飼ってない。 ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。 無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の 距離感バグ甘々ラブコメ、開幕! ⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。