嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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The Visit of a Shooting Star(流れ星の来訪)

第10話 宣戦布告

(※レイヴン視点)

 地下の遺跡への通路は、学園の教師が施したと思われる結界で封鎖されていた。もちろん、並みの魔術師が施した結界など簡単に解呪できるし、なんなら元通りにすることだって可能だ。
 問題は、その先だ。
 遺跡の入口に、別の魔術師が封印を施している。
 その封印は、星瞳の魔術師であるレイヴンをもってしても、解くのに時間がかかりそうな高度な術式が組まれていた。
 レイヴンは人目に付かず遺跡を調査したかったので、結界は一時的に解除して元通りにするつもりだった。しかし、複雑な術式を元通りにするのは、さすがに難しい。
 だから黒竜に入口を見張らせ、一旦退いて、どうするか考えているところだった。

『おい、レイヴンよ。なんじと話したい魔術師がいるようだぞ』

 王宮のすみに割り当てられた自分の部屋で、調査結果を整理していると、遺跡の入口にいるはずの小さな黒竜が飛んできた。
 口に、白い紙をくわえている。
 レイヴンがその紙を受けとると、何も書かれていなかった紙片に文字が浮かんだ。

 ―――なんのために、遺跡に入ろうとする?

 癖のない文字が紙の上にすべるように燃えて、黒い線を残す。
 ふざけたことを……

「お前に話す必要があるか? 名を名乗れ」

 あの封印を施した魔術師だと、レイヴンは直感した。
 紙を握っていない方の手で長杖を召喚し、逆探知の魔術を発動する。レイヴンの杖は黒檀で、先端に月をかたどった円環と紫水晶がめ込まれている。その紫水晶から光の波紋が広がり、うっすら魔方陣を浮かびあがらせる。魔法陣は瞬時にその円周を壁の外まで透かして拡散する。
 
 ―――目的を教えないなら、通す訳にはいかない

 紙の上に書かれた文字に、レイヴンは苛立った。
 あいにく、沈着冷静は表向きの性格で、レイヴンは実は血の気の多い魔術師だ。攻撃系の魔術が得意で、封印は解呪より壊す方が楽である。それでも星瞳の魔術師の誇りにかけて、並みの魔術師以上の解呪はできるが、あの封印を解くのは面倒そうだった。
 その上、正体を明かさない魔術師と交渉するなど、面倒の極みだ。
 我慢を手放すことを決めたレイヴンは、不敵な笑みを口の端にのせ、低く艶やかな声で恫喝どうかつする。

「上等だ。首を洗って待っていろ。お前の正体をあばいてやる」

 ―――?!

 相手のペースに乗らず、ろくに話もせずに、紙を魔術で燃やしてやった。手掛かりは消えたが、別に構わない。

「逆探知できない……ということは、相手は星瞳の魔術師か」

 細かい術式は苦手なレイヴンだが、広範囲を探るのは得意で、間合いの広さには自信がある。
 相手の魔術師は、逆探知に対抗するために、魔術の発信元を誤魔化している。それは高位魔術師なら当然できることだ。しかし高位魔術師であっても、発信元は自分の近くにずらすのがせきの山である。それに、あまり離れた位置から、リアルタイムで文字を送ってはこれない。
 しかし、この魔術師はレイヴンの間合いの範囲外から文字を送ってきた。完璧に魔術の発信元を誤魔化すことができるのは、精霊界を利用して発信元をずらせる星瞳の魔術師だけだ。

「テュポーン、人間界に降りている星瞳の魔術師について、師匠にたずねられるか」
『やれやれ。竜遣いが荒いのぅ』

 小さな黒竜は、レイヴンの杖の天辺に舞い降り、器用に翼を畳んだ。レイヴンと同じ色の眼を閉じる。
 この小さな黒竜は分体だ。本体は、精霊界にいる、巨大な黒竜の姿をした高位精霊である。今、竜はレイヴンの要望に答えるため、本体と同期している。
 ややあって、竜は眼を開き言った。

『天枢によれば、人間界に降りている星瞳の魔術師は、汝を含めて六人』

 多いような、少ないような。まあ、少ないのだろう。
 六人。それが、人間の世界にいる星瞳の魔術師の全てなのだから。

『汝以外の五人の二つ名は、災火・水蓮・聖鳥・金剛・西風じゃな』

 少ないが、絞りきるには多かった。
 今回、レイヴンの邪魔をしたのは、五人のうち誰だろう。
 この国メレフに星瞳の魔術師がいると聞いたことはないから、きっと正体を隠している。おそらくメレフ出身の魔術師で、星瞳を明かせない事情があるのだ。

「ちょうどいい。見つけ出して、秘密を盾に魔力を奪ってやる」
『同じ星瞳の魔術師あいてに、容赦ないのぅ』
「同胞だから、だ。人間界で、質の良い魔力が手に入る機会は少ないからな」
 
 ほんのたわむれだろうと、レイヴンはわらう。
 星瞳の魔術師同士、技を競い合うのは、挨拶のようなものだ。普通の魔術師相手には出来ない、危険な遊びに興じる機会を逃す理由はない。
 
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