嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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Dance the Final Act(終幕を踊れ)

第37話 裏切り

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(※カナン王子視点)

 表向き、研究所【白葉館】は民を救う薬の研究をしていて、孤児院や診療所の支援も行っている立派な組織だ。
 いくら王太子だからと言って、突然訪問して内部の視察ができる場所ではない。
 
「殿下といえども、研究施設内にはお通しできません」
 
 白葉館の魔術師は、慇懃無礼な態度でカナンをさえぎった。
 彼らは王太子の来訪を歓迎し、客間で茶を出す程度のもてなしはしてくれたが、内部の視察は徹底的にこばんできた。

「リトス・アルシャウカトに会いたいと言ってもか?」
「ご友人であれば、一緒に来てください。それであれば、私共も歓迎します」

 白葉館にテレサがいるというのは、匿名の内通者からもたらされた情報だ。
 犯罪の証拠もなく、強引に踏み込むことはできない。
 だから用件はリトスに会うくらいしかないのだが、なかなか説明が苦しい理由だった。しつこく食い下がるカナンに、白葉館の魔術師は困っている様子だ。
 その時、扉をノックする音がして、下っ端らしき魔術師が上役を呼びにきた。

「申し訳ありませんが、所用にて一旦下がらせて頂いても?」
「許す」
「何も内部をご覧にならなくても、ここから中庭をご覧になられてはいかがでしょうか。白葉館の名前の由来になった、希少なブランカの花も咲いております」
 
 ごゆっくりどうぞ。
 用事ができたと言い、白葉館の魔術師は、客間に王子一行を残して下がった。

「先ほどからテレサ嬢の魔力を探知しようとしているのですが、ここはさすがに魔術師の研究所だけあって、魔力探知がききませんね」
 
 お付きとして同行している学生の魔術師ダレンが、悔しそうな顔で言う。

「……何か、焦げ臭くないか」

 同じく同行していた騎士見習いのライアードが、怪訝な顔をした。

「僕は何も感じないが、ライアードは嗅覚が犬並みだからな」
「おいダレン」
「……確かに、何か起きたようだ。好機だな」
 
 カナンは立ち上がった。
 何か異変が起きようとしている。直感がそう告げている。
 静かに扉に近寄って、聞き耳を立てる。

「殿下! そのようなことは、俺たちが」
「しっ」
 
 唇の前で指を立てると、ライアードはぐっと黙り込んだ。
 廊下から叫び声が聞こえてくる。

「火事だ!」
「大変だ、資料を運び出さないと」
 
 魔術師たちが走り回る足音。
 カナンは、お付きのダレンとライアードと、顔を見合わせた。
 動くなら今だ。

「おらっ!」
 
 ライアードは扉を蹴り開け、先陣を切って走り出す。

「ダレン、テレサ嬢が囚われているとしたら、どこだ?!」
「秘密裡に入手した地図では、地下に部屋があるので、おそらくそこかと」

 ダレンの指さす先へ、カナンたちは走る。
 途中で敵の魔術師とすれ違ったが、ライアードとカナンは体術で速攻し、彼らを倒しながら進んだ。
 階段を降り、目に付いた部屋の扉を開けて回る。

「テレサ!」
 
 そうして、彼らは鎖につながれたテレサを見つけた。
 彼女は蒼白な表情で、意識を失っているようだ。
 ライアードが短剣を抜き、自慢の膂力で鎖を断ち切った。カナンは自分で少女を運びたかったが、王子に運搬作業はさせられないと訴えられ、仕方なくライアードに彼女を任せる。

「早く外に出て、医療魔術師に診せましょう!」

 地上に戻り、外に出ようと出口を探す。
 そこでカナンは、幼馴染と再会した。

「殿下。テレサちゃんをそこに置いていってくださいませんか?」
「リトス。何を言っている」
 
 どこか狂気じみた笑みを浮かべ、リトスは剣先をカナンに突き付けてくる。

「俺の魔力がなくて困っているのを、殿下はよく知っているでしょう。テレサちゃんは特効薬になりえるんです」
「貴様! このくずめ! 自分の力ではない、他人の力を奪って自分のものだと言い張る気か!」
 
 隣のダレンが怒りの声を上げる。
 努力だけで下級貴族から王子の側近に成り上がったダレンには、権力に横着するリトスのような高位貴族が腹立たしいのだろう。
 一方のカナンは、胸の底が冷え冷えと寒くなる心地だった。

「リトス、俺に剣を向けるのか。それがどういう意味か、分かっているか……?」
「……」

 王家への反逆罪に問われかねない。
 リトスは馬鹿を装っているが、本当は馬鹿ではない。そう信じていたカナンだが、分からなくなってきた。
 ただ一つ真実なのは、自分は幼馴染を失いかけているという事だけ。

「殿下を守れ!!」

 王子の身に危険が迫っていると判断した近衛騎士たちが駆けつけてきた。
 火に巻かれる研究所と、右往左往する魔術師たち。
 それはまるで悪夢の中のような光景で―――しかし、現実だった。
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