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The Siblings' Oath(兄妹の約束)
第69話 旅立ち
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流星の魔術師レイヴンが出国するということで、今夜、王城ではパーティーが催されている。レイヴンは、社交が苦手だと文句たらたらで会場に向かった。それでも顔を出すくらいはするのだから、案外協調性がある。
リトスは出国の準備を整えるため、密かに王城を出て、下町にある自分の屋敷に行くことにした。
夜の街路を軽い足取りで歩く。
目立つ銀髪と青い瞳は、元の地味な茶髪と紺色の瞳に戻した。しかし、リトスの顔を知っている者もいるかもしれないので、隠密の魔術で人々の視線を逸らしている。
「……」
リトスは溜息を吐いて、街灯の下で立ち止まった。
「……尾行が下手だな、ダレン。何の用だ?」
王城からずっと視線を感じていた。
害はなさそうなので放置していたのだが、そろそろ自分の屋敷なので、撒いてしまいたいところだ。しかし知り合いなので、会話して追い払った方が親切かもしれない。
足を止めたまま待っていると、背後の暗闇から、ためらいがちにダレンが姿を現した。
彼はカナン王子の側近で、将来は宮廷魔術師になって、カナンを支えるだろうと言われている。負けん気の強い勤勉な性格で、魔術の名門アルシャウカト家嫡男でありながら落ちこぼれを装っていたリトスを目の仇にしていた。
「俺を見張るよう、殿下に命じられたのか」
「ち、ちがう!!」
プロの尾行じゃないし、殿下の命令でもないなら、いったい何の用だろう。
リトスは、挙動不審なダレンを見て首をかしげた。
学友ではあるが、親しい仲とはいえないので、ダレンの考えていることが分からない。
「さ……さ……」
「どうしたんだよ。腹でも痛いの? 診察してやろうか」
「サインをくれ!!!」
「……」
がばっと頭を下げたダレンは、魔術書を両手に持ってリトスに差し出している。
サインとは何だろうか。おかしいな、人間観察は得意なはずなのに、ダレンの求めていることが分からない。
「何のサイン? ああ、そうだ。俺これから旅に出るから、記念に適当な祈呪でも書いてやるよ。お前が首席で卒業できますように、とかどう? 実力で叶えるから嫌かもしれないけど」
リトスは魔術書を受け取って、自宅から手元に羽ペンを転送し、魔術書の表紙の内側に小さな魔法陣を描いてやった。幸運を呼び込む光の加護の魔法陣だ。さすがに別れ際まで変なことしないよ。
「はい」
魔術書を返すと、ダレンはそれを大事そうに懐につっこんだ。
そして、どもりながら問いかけてくる。
「い、いつ旅に出るんだ?!」
「今これから」
「は?! 殿下には伝えているのか?!」
「いや。お前から言っておいてくれよ、ダレン。落ち着いたら手紙を送るから許して」
カナンに別れの挨拶なんてしに行けば、重臣たちに引き止められる。王子が許可しているので皆表面上ではリトスの出国を受け入れているが、本音は自分たちの利益のために国内に引き止めたいのだ。
実際、王城のレイヴンの部屋には複数の監視の目が付いていた。監視を排除しても結界を張っても、きりがない。
不意を突いて出国するしかないのだ。
リトスは精霊鳥を一羽召喚し、強引にダレンに押し付けた。伝令用のペンちゃんだ。空を飛べないが、手紙の転送座標の目印くらいにはなる。
ペンギンを押し付けられたダレンは、目を白黒させている。
これでよし。
もう用は済んだとダレンから視線を逸らしたリトスは、街路を歩いてくる長身の人影に気付いた。
レイヴンだ。
「あれ? パーティーはどうしたんだ?」
「途中で抜けてきた。俺の経験上、長居するとおかしな引き止めにあう。もう良いだろう。さっさと旅に出るぞ」
レイヴンはパーティー用正装ではなく、旅用の外套を羽織って足元はブーツで固め、荷物をかついでいる。
「じゃあ、俺の家に寄ってからにしよう。こっちだ」
リトスは道の案内をはじめ、レイヴンがその隣に並ぶ。
自然に置いてけぼりにされたダレンは、ペンギンを抱えて二人を見送った。
「殿下に挨拶しなくて良かったのか、歌い鳥」
「絶対に引き止められるだろ……いい加減、俺のこと、歌い鳥って呼ぶの止めろよ」
一緒に旅をするのに、二つ名で呼び合うなんて、他人に聞かれたら、おかしな人に思われる。
「リトスで良いだろ。俺も、あんたのことはレイヴンと呼ぶからさ」
言いながら、ちらと月光に照らされたレイヴンの横顔に視線を走らせる。
星瞳の魔術師の間で、二つ名ではなく本名で呼び合うのは、親しい仲だけだ。
そのことに気付いたのかどうか。
レイヴンは困惑したように唸った。
「そうか……」
「なんだよ。何か文句でもあるのかよ」
「いや。考えてみれば、レイヴンという名も本名ではなかったな」
やっぱりそうか。
眉をしかめたリトスにだけ聞こえるように、彼は少し距離を詰めてささやいてくる。
「俺の本名は―――」
リトスは出国の準備を整えるため、密かに王城を出て、下町にある自分の屋敷に行くことにした。
夜の街路を軽い足取りで歩く。
目立つ銀髪と青い瞳は、元の地味な茶髪と紺色の瞳に戻した。しかし、リトスの顔を知っている者もいるかもしれないので、隠密の魔術で人々の視線を逸らしている。
「……」
リトスは溜息を吐いて、街灯の下で立ち止まった。
「……尾行が下手だな、ダレン。何の用だ?」
王城からずっと視線を感じていた。
害はなさそうなので放置していたのだが、そろそろ自分の屋敷なので、撒いてしまいたいところだ。しかし知り合いなので、会話して追い払った方が親切かもしれない。
足を止めたまま待っていると、背後の暗闇から、ためらいがちにダレンが姿を現した。
彼はカナン王子の側近で、将来は宮廷魔術師になって、カナンを支えるだろうと言われている。負けん気の強い勤勉な性格で、魔術の名門アルシャウカト家嫡男でありながら落ちこぼれを装っていたリトスを目の仇にしていた。
「俺を見張るよう、殿下に命じられたのか」
「ち、ちがう!!」
プロの尾行じゃないし、殿下の命令でもないなら、いったい何の用だろう。
リトスは、挙動不審なダレンを見て首をかしげた。
学友ではあるが、親しい仲とはいえないので、ダレンの考えていることが分からない。
「さ……さ……」
「どうしたんだよ。腹でも痛いの? 診察してやろうか」
「サインをくれ!!!」
「……」
がばっと頭を下げたダレンは、魔術書を両手に持ってリトスに差し出している。
サインとは何だろうか。おかしいな、人間観察は得意なはずなのに、ダレンの求めていることが分からない。
「何のサイン? ああ、そうだ。俺これから旅に出るから、記念に適当な祈呪でも書いてやるよ。お前が首席で卒業できますように、とかどう? 実力で叶えるから嫌かもしれないけど」
リトスは魔術書を受け取って、自宅から手元に羽ペンを転送し、魔術書の表紙の内側に小さな魔法陣を描いてやった。幸運を呼び込む光の加護の魔法陣だ。さすがに別れ際まで変なことしないよ。
「はい」
魔術書を返すと、ダレンはそれを大事そうに懐につっこんだ。
そして、どもりながら問いかけてくる。
「い、いつ旅に出るんだ?!」
「今これから」
「は?! 殿下には伝えているのか?!」
「いや。お前から言っておいてくれよ、ダレン。落ち着いたら手紙を送るから許して」
カナンに別れの挨拶なんてしに行けば、重臣たちに引き止められる。王子が許可しているので皆表面上ではリトスの出国を受け入れているが、本音は自分たちの利益のために国内に引き止めたいのだ。
実際、王城のレイヴンの部屋には複数の監視の目が付いていた。監視を排除しても結界を張っても、きりがない。
不意を突いて出国するしかないのだ。
リトスは精霊鳥を一羽召喚し、強引にダレンに押し付けた。伝令用のペンちゃんだ。空を飛べないが、手紙の転送座標の目印くらいにはなる。
ペンギンを押し付けられたダレンは、目を白黒させている。
これでよし。
もう用は済んだとダレンから視線を逸らしたリトスは、街路を歩いてくる長身の人影に気付いた。
レイヴンだ。
「あれ? パーティーはどうしたんだ?」
「途中で抜けてきた。俺の経験上、長居するとおかしな引き止めにあう。もう良いだろう。さっさと旅に出るぞ」
レイヴンはパーティー用正装ではなく、旅用の外套を羽織って足元はブーツで固め、荷物をかついでいる。
「じゃあ、俺の家に寄ってからにしよう。こっちだ」
リトスは道の案内をはじめ、レイヴンがその隣に並ぶ。
自然に置いてけぼりにされたダレンは、ペンギンを抱えて二人を見送った。
「殿下に挨拶しなくて良かったのか、歌い鳥」
「絶対に引き止められるだろ……いい加減、俺のこと、歌い鳥って呼ぶの止めろよ」
一緒に旅をするのに、二つ名で呼び合うなんて、他人に聞かれたら、おかしな人に思われる。
「リトスで良いだろ。俺も、あんたのことはレイヴンと呼ぶからさ」
言いながら、ちらと月光に照らされたレイヴンの横顔に視線を走らせる。
星瞳の魔術師の間で、二つ名ではなく本名で呼び合うのは、親しい仲だけだ。
そのことに気付いたのかどうか。
レイヴンは困惑したように唸った。
「そうか……」
「なんだよ。何か文句でもあるのかよ」
「いや。考えてみれば、レイヴンという名も本名ではなかったな」
やっぱりそうか。
眉をしかめたリトスにだけ聞こえるように、彼は少し距離を詰めてささやいてくる。
「俺の本名は―――」
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