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孤児編
04 ヤモリは可愛い
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銅貨一枚だけでは話にならない。結局、その日は道行く人にわざとぶつかって財布を盗んだり、食べ物を万引きしたりしてしのいだ。
「あー、生きるって難しいな」
できれば犯罪行為無しで生きていきたいが現実はそうはいかない。
複雑な葛藤は胸の底に押し込んで見ないようにする。
アサヒは戦利品を持ってねぐらに戻ることにした。
他の子供に奪われないように、アサヒは空き家の壁にこっそり秘密の貯金箱を作っている。金品の一部はそこに入れて貯めていた。
空き家に入って壁の板を剥がすと、そこに貯めてきた金品がある。
「あれ? お前、ヤモリか」
壁の中に見知った姿を見つけてアサヒは目を丸くした。
しかしヤモリは壁に張り付いているだけの無害な生き物だ。
気にせずに壁の隙間に戦利品を落とし込む。
すると、ヤモリはするすると壁を降りて本日の戦利品の銅貨をつついた。
「ん?」
ぱくり。モグモグ、ごっくん。
「た、食べただと……?!」
ヤモリは自分の頭と同じサイズの銅貨をくわえて丸のみした。
そのまま美味そうに咀嚼して飲み込む。
アサヒは呆気にとられた後、我に返ってヤモリをつまみ上げた。
「お前っ、今すぐ吐け! 吐きやがれっ」
しかし尻尾を摘ままれて逆さまになったヤモリは、アサヒの指先でぶらんぶらん揺れるのみである。
「くそう……しかし、こいつの胃袋はどうなってんだ。お腹が膨らんでないし……そもそもヤモリの口と歯で硬貨を噛み砕くなんて」
しげしげ観察すると、ヤモリはくりくりした黒い円らな瞳でアサヒを見上げた。アサヒは「うっ」と唸ってヤモリを解放する。
「動物に罪は無い……」
お金は勿体ないけど。
地面にぽとんと落ちたヤモリは、体勢を立て直すと、なぜかアサヒの膝の上に登ってくる。尻尾を振るヤモリ。
「ヤモリってこんなフレンドリーな生き物だったか……?」
餌をやったから懐かれたのだろうか。
思わず撫でると、調子に乗って肩まで上がってくる。服の下に潜り込まれて慌てる。右肩の後ろ、服の下の肌に張り付かれて、アサヒは振り落とそうかどうしようか悩んだ。
「うーん……まあ、いいか」
お金を食べる以外は無害な生き物だ。ペットを飼っているようで、これはこれで楽しい。アサヒはそう結論付けた。
体重の軽いヤモリは体に乗せていても存在感が薄い。
すぐにヤモリがくっついていることは忘れてしまう。
着替えの時に気付いてギョッとするまで、アサヒはヤモリをくっつけたままだった。
それからヤモリは服の下の肩口辺りに定住するようになった。
面白いので振り払わずにそのままにしている。
アサヒはいつも通り女装して街を歩いていた。女装すると皆油断してくれるので都合が良いのだ。
「……あ、アサヒっ」
標的を探していると、孤児仲間のエドがなぜか慌てた様子で駆け寄ってきた。
「外で名前で呼ぶなよ。男ってばれるだろ」
「んなこと言ってる場合じゃねえよ。シン達が、自分達だけで狩りをするって」
エドは全速力で走って来たらしく、息を乱していた。
孤児仲間で「狩り」と言うと、集団で大人を襲って袋叩きにすることを指している。
「なーんだ、そんなことか。勝手にすれば良いじゃないか。俺には関係ない」
「僕ら仲間じゃないか」
「んな甘いこと言ってて生き残れるかよ。あの馬鹿の巻き添え食うのは御免だ」
アサヒは突き放したことを言う。
エド少年は困った顔をした。
「でもあいつら、ハナビを連れていって……」
「それを先に言えっ!」
妹のように思っている少女の危機と聞いて、アサヒは動揺した。
「どこに行ったんだ?」
「こっち」
エド少年の先導に従って走り出す。
同じ孤児仲間だとしても、シンはハナビを利用することに良心の呵責を感じないだろう。だからこそアサヒは率先して女装して動いていたのだ。
路地を右に左に曲がって走ると焦げ臭い匂いがしてくる。
やがて辿り着いた細い路地には、複数の少年が倒れふしていた。彼等は酷い火傷や切り傷を負っており、路地には焦げた跡がある。
アサヒは倒れている仲間を見回してハナビがいないことを確認する。倒れたままのシンに近寄ると、シンは目を開けてアサヒを見た。
「……あのジジイ、竜騎士を連れてやがった」
「竜騎士?!」
竜騎士には国軍に属している者の他に、領主や金持ちに雇われているハグレ竜騎士もいる。今回はその類に行き合ったのだろう。
しかし子供相手にこの仕打ち。容赦なく竜の火を使うとは。
「ハナビは?」
「連れていかれた……」
「くそっ!」
苦しそうなシンの声に、アサヒは小石を蹴った。
エド少年は青ざめている。
「じゃあ、じゃあ、どうしようもないじゃないか。竜騎士様が相手なんて、勝てっこないよ。ハナビは諦めるしか……」
路地には仲間達のうめき声と重い沈黙が満ちている。
アサヒは奥歯を噛み締めた。
「……名前は言ってたか」
「確か、ハウフバーンって……」
アサヒ達の街の北に住む富豪の名前だ。
倒れた仲間をおいてアサヒは立ち上がる。
エドはアサヒの意図を察して慌てた。
「駄目だよ、無理だよアサヒ!」
「ああ、無理だな。でも正門から行って、俺が代わりになれるか聞いてみる。ハナビより俺の方が美人だろ?」
おどけて見せるアサヒの瞳は笑っていない。
エドは絶句した。
「本気?! アサヒ、いつも勝ち目の無い戦いはしないって言ってるじゃないか! 絶対帰ってこられないよ! 行かないでっ!」
「……何も殴りあいに行く訳じゃない」
生きてさえいれば、それが勝ちってものだろう。
そうアサヒは笑うと、止めるエドを振り切って街の北へ向かい、歩き出した。
「あー、生きるって難しいな」
できれば犯罪行為無しで生きていきたいが現実はそうはいかない。
複雑な葛藤は胸の底に押し込んで見ないようにする。
アサヒは戦利品を持ってねぐらに戻ることにした。
他の子供に奪われないように、アサヒは空き家の壁にこっそり秘密の貯金箱を作っている。金品の一部はそこに入れて貯めていた。
空き家に入って壁の板を剥がすと、そこに貯めてきた金品がある。
「あれ? お前、ヤモリか」
壁の中に見知った姿を見つけてアサヒは目を丸くした。
しかしヤモリは壁に張り付いているだけの無害な生き物だ。
気にせずに壁の隙間に戦利品を落とし込む。
すると、ヤモリはするすると壁を降りて本日の戦利品の銅貨をつついた。
「ん?」
ぱくり。モグモグ、ごっくん。
「た、食べただと……?!」
ヤモリは自分の頭と同じサイズの銅貨をくわえて丸のみした。
そのまま美味そうに咀嚼して飲み込む。
アサヒは呆気にとられた後、我に返ってヤモリをつまみ上げた。
「お前っ、今すぐ吐け! 吐きやがれっ」
しかし尻尾を摘ままれて逆さまになったヤモリは、アサヒの指先でぶらんぶらん揺れるのみである。
「くそう……しかし、こいつの胃袋はどうなってんだ。お腹が膨らんでないし……そもそもヤモリの口と歯で硬貨を噛み砕くなんて」
しげしげ観察すると、ヤモリはくりくりした黒い円らな瞳でアサヒを見上げた。アサヒは「うっ」と唸ってヤモリを解放する。
「動物に罪は無い……」
お金は勿体ないけど。
地面にぽとんと落ちたヤモリは、体勢を立て直すと、なぜかアサヒの膝の上に登ってくる。尻尾を振るヤモリ。
「ヤモリってこんなフレンドリーな生き物だったか……?」
餌をやったから懐かれたのだろうか。
思わず撫でると、調子に乗って肩まで上がってくる。服の下に潜り込まれて慌てる。右肩の後ろ、服の下の肌に張り付かれて、アサヒは振り落とそうかどうしようか悩んだ。
「うーん……まあ、いいか」
お金を食べる以外は無害な生き物だ。ペットを飼っているようで、これはこれで楽しい。アサヒはそう結論付けた。
体重の軽いヤモリは体に乗せていても存在感が薄い。
すぐにヤモリがくっついていることは忘れてしまう。
着替えの時に気付いてギョッとするまで、アサヒはヤモリをくっつけたままだった。
それからヤモリは服の下の肩口辺りに定住するようになった。
面白いので振り払わずにそのままにしている。
アサヒはいつも通り女装して街を歩いていた。女装すると皆油断してくれるので都合が良いのだ。
「……あ、アサヒっ」
標的を探していると、孤児仲間のエドがなぜか慌てた様子で駆け寄ってきた。
「外で名前で呼ぶなよ。男ってばれるだろ」
「んなこと言ってる場合じゃねえよ。シン達が、自分達だけで狩りをするって」
エドは全速力で走って来たらしく、息を乱していた。
孤児仲間で「狩り」と言うと、集団で大人を襲って袋叩きにすることを指している。
「なーんだ、そんなことか。勝手にすれば良いじゃないか。俺には関係ない」
「僕ら仲間じゃないか」
「んな甘いこと言ってて生き残れるかよ。あの馬鹿の巻き添え食うのは御免だ」
アサヒは突き放したことを言う。
エド少年は困った顔をした。
「でもあいつら、ハナビを連れていって……」
「それを先に言えっ!」
妹のように思っている少女の危機と聞いて、アサヒは動揺した。
「どこに行ったんだ?」
「こっち」
エド少年の先導に従って走り出す。
同じ孤児仲間だとしても、シンはハナビを利用することに良心の呵責を感じないだろう。だからこそアサヒは率先して女装して動いていたのだ。
路地を右に左に曲がって走ると焦げ臭い匂いがしてくる。
やがて辿り着いた細い路地には、複数の少年が倒れふしていた。彼等は酷い火傷や切り傷を負っており、路地には焦げた跡がある。
アサヒは倒れている仲間を見回してハナビがいないことを確認する。倒れたままのシンに近寄ると、シンは目を開けてアサヒを見た。
「……あのジジイ、竜騎士を連れてやがった」
「竜騎士?!」
竜騎士には国軍に属している者の他に、領主や金持ちに雇われているハグレ竜騎士もいる。今回はその類に行き合ったのだろう。
しかし子供相手にこの仕打ち。容赦なく竜の火を使うとは。
「ハナビは?」
「連れていかれた……」
「くそっ!」
苦しそうなシンの声に、アサヒは小石を蹴った。
エド少年は青ざめている。
「じゃあ、じゃあ、どうしようもないじゃないか。竜騎士様が相手なんて、勝てっこないよ。ハナビは諦めるしか……」
路地には仲間達のうめき声と重い沈黙が満ちている。
アサヒは奥歯を噛み締めた。
「……名前は言ってたか」
「確か、ハウフバーンって……」
アサヒ達の街の北に住む富豪の名前だ。
倒れた仲間をおいてアサヒは立ち上がる。
エドはアサヒの意図を察して慌てた。
「駄目だよ、無理だよアサヒ!」
「ああ、無理だな。でも正門から行って、俺が代わりになれるか聞いてみる。ハナビより俺の方が美人だろ?」
おどけて見せるアサヒの瞳は笑っていない。
エドは絶句した。
「本気?! アサヒ、いつも勝ち目の無い戦いはしないって言ってるじゃないか! 絶対帰ってこられないよ! 行かないでっ!」
「……何も殴りあいに行く訳じゃない」
生きてさえいれば、それが勝ちってものだろう。
そうアサヒは笑うと、止めるエドを振り切って街の北へ向かい、歩き出した。
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