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孤児編
05 アントリアの竜騎士(改題)
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ピクシスは中央に火山がある、通称「火の島」。
火山は今は休火山だが太古の昔は火が燃え盛り、溶岩の淵からピクシスを守護する炎竜王が生まれたという伝説がある。
火山の中腹に王都があり、さらに下ったところにいくつか街がある。
アサヒ達が住む街もその一つだ。
「前に一度、フォーシスに来たことがあるが、こんな雰囲気ではなかったな……」
その男は貧民街の北にあるフォーシスという街にいた。
先日エド少年とぶつかった男だ。
男は群青色の髪と砂色の瞳をしている。精悍な面差しのこめかみに走る一筋の傷痕が印象深い。
壮年に差し掛かった年齢だろうか。落ち着いた物腰をしていた。鍛えられている腕や足は太く、背が高い。短い服の裾から見える二の腕には、渦巻きのような紋様がある。
「監察管様は、アントリアから来た竜騎士様なのですか」
ここは街の中心にある領主の館だ。
領主に仕える女中は、賓客である男を茶でもてなしながら世間話ついでに聞く。男は頷いて答えた。
「ああ。私はセイランという」
アウリガの侵略でダメージを受けたピクシスは深刻な人材不足だった。アントリアとリーブラは、ピクシスが立ち直るまでという条件を付けて、自国の人材をピクシスに派遣している。
セイランもその一人だった。
「やっぱり竜騎士様ですか! お強そうだと思いました」
女中はセイランを歓迎するように明るい表情を見せる。
「フォーシスには竜騎士はいないので心強いです」
「竜の気配を感じるが?」
セイランの相棒は近くに竜がいると言っている。
聞き返すと女中の表情がくもった。
「……ハウフバーンという商人が護衛を雇っているのですが、それがどうやらハグレの竜騎士のようなのです」
「ほう」
「他国の方には情けない話なのですが、この街は貧民街に近いせいか横暴な者も多く、領主様は手を焼いています」
「……少し、様子を見てきた。親を亡くした子供達が犯罪行為に走り、大人は自分の生活で精一杯で彼等のことまで気が回らない。負の連鎖で悪循環になってしまっているようだ」
「仰る通りです」
女中はうなだれて首肯する。
「炎竜王様は私達を見放されたのでしょうか」
セイランは不安そうにする女中やピクシスの民に同情したが、彼は期間限定で派遣された特別監察管である。
「伝説の竜王を見つけることはできないが……出来るだけのことはしてみよう」
彼はそう答えるしかなかった。
孤児仲間で妹のようなハナビを連れ去られたアサヒは、貧民街の北にあるフォーシスの、大商人ハウフバーンの屋敷の前に来ていた。
貴族とまではいかないが裕福なハウフバーンの屋敷は、庭付きで屋敷の周囲には石造りの塀がある。門番は雇われたゴロツキの男ようで汚い格好をしている。
「お嬢ちゃん、何のようだ?」
「……ここに、妹が連れてこられたと聞いて。明るい茶色の目と髪の子なんですが、来なかったですか」
アサヒは男だとバレないように、出来るだけ大人しい調子で門番に訴えた。
門番は「ちょっと待ってろ」と言って一旦屋敷の中に入る。
「来い」
「ハナビは?」
「いいから来い」
手招きされて、アサヒは屋敷に足を踏み入れた。
門番の男は屋敷の階段を降りて地下に入っていく。おそるおそるアサヒも続いて地下に降りた。
冷たい空気が流れる地下には、鉄格子のはまった牢屋が並んでいる。
奥の牢の中に擦り傷や泥で汚れた少女がいた。
彼女はアサヒを見て目を丸くする。
「ハナビっ!」
「感動の再会で良かったなあ」
門番の男はニヤニヤ笑うと、鍵を持って牢屋の扉を開け……中にアサヒを押し込んだ。
「わっ」
「はい、一丁上がり」
ガシャン。
牢屋の鍵が閉まる。
アサヒはハナビと一緒に牢に閉じ込められた。
「姉妹仲良く売られていくが良い。まあ、売られる先が一緒だとは限らないけどな。今の内にお別れしとけや」
門番の男はそう言って鍵束を手に去っていく。
その後ろ姿を見送ってからアサヒは安堵の吐息をもらした。
一人で泣いていたのか、真っ赤に泣きはらして涙を脱ぐっているハナビに向き直る。
「大丈夫? ハナビ」
「う、うん。でも一緒に捕まっちゃったよ……?」
「ああ。でも想定してた中では最良のケースだ」
ハナビの無事が分かったし、同じ牢に入れた。
後は二人で脱出するだけだ。
アサヒは牢のあちこちを見て回る。地下にあるので窓は無く、壁は土壁だ。脱出の手掛かりがあるとすれば鉄格子付近に思えた。
鉄格子は太く折れそうにない。扉が開かないように横に棒が通されて金具で固定され、錠前には鍵が掛かっていた。
「ん?」
鉄格子や錠前を触っていると、腕の裾からヤモリが出てきた。
手の上まで這ってきてアサヒを見上げる。
「そういや、お前がいたな。待てよ……」
このヤモリは金属を食べるのだった。
「錠前を食べてみてくれるか」
言葉が通じるかどうか不明だが話し掛けてみる。
するとヤモリは話を理解したように、するすると錠前に近付いて、扉を固定している細い金属の棒、かんぬきの部分をかじり始めた。
「おお……」
試してみるものだ。
少し時間が掛かったものの、扉を固定する金属の棒は壊れた。ヤモリは小さくげっぷすると服の裾の中に戻っていく。どうやら錠前は美味しくなかったらしい。
「やっぱりアサヒ兄は凄い!」
「しいっ、騒ぐなハナビ。様子を見て夜になってから逃げ出すぞ」
アサヒは耳を澄ませて物音を聞く。
頭上の地上で歩く人の足音が完全に聞こえなくなったところで、ハナビの小さな手をひいて牢屋を出た。
火山は今は休火山だが太古の昔は火が燃え盛り、溶岩の淵からピクシスを守護する炎竜王が生まれたという伝説がある。
火山の中腹に王都があり、さらに下ったところにいくつか街がある。
アサヒ達が住む街もその一つだ。
「前に一度、フォーシスに来たことがあるが、こんな雰囲気ではなかったな……」
その男は貧民街の北にあるフォーシスという街にいた。
先日エド少年とぶつかった男だ。
男は群青色の髪と砂色の瞳をしている。精悍な面差しのこめかみに走る一筋の傷痕が印象深い。
壮年に差し掛かった年齢だろうか。落ち着いた物腰をしていた。鍛えられている腕や足は太く、背が高い。短い服の裾から見える二の腕には、渦巻きのような紋様がある。
「監察管様は、アントリアから来た竜騎士様なのですか」
ここは街の中心にある領主の館だ。
領主に仕える女中は、賓客である男を茶でもてなしながら世間話ついでに聞く。男は頷いて答えた。
「ああ。私はセイランという」
アウリガの侵略でダメージを受けたピクシスは深刻な人材不足だった。アントリアとリーブラは、ピクシスが立ち直るまでという条件を付けて、自国の人材をピクシスに派遣している。
セイランもその一人だった。
「やっぱり竜騎士様ですか! お強そうだと思いました」
女中はセイランを歓迎するように明るい表情を見せる。
「フォーシスには竜騎士はいないので心強いです」
「竜の気配を感じるが?」
セイランの相棒は近くに竜がいると言っている。
聞き返すと女中の表情がくもった。
「……ハウフバーンという商人が護衛を雇っているのですが、それがどうやらハグレの竜騎士のようなのです」
「ほう」
「他国の方には情けない話なのですが、この街は貧民街に近いせいか横暴な者も多く、領主様は手を焼いています」
「……少し、様子を見てきた。親を亡くした子供達が犯罪行為に走り、大人は自分の生活で精一杯で彼等のことまで気が回らない。負の連鎖で悪循環になってしまっているようだ」
「仰る通りです」
女中はうなだれて首肯する。
「炎竜王様は私達を見放されたのでしょうか」
セイランは不安そうにする女中やピクシスの民に同情したが、彼は期間限定で派遣された特別監察管である。
「伝説の竜王を見つけることはできないが……出来るだけのことはしてみよう」
彼はそう答えるしかなかった。
孤児仲間で妹のようなハナビを連れ去られたアサヒは、貧民街の北にあるフォーシスの、大商人ハウフバーンの屋敷の前に来ていた。
貴族とまではいかないが裕福なハウフバーンの屋敷は、庭付きで屋敷の周囲には石造りの塀がある。門番は雇われたゴロツキの男ようで汚い格好をしている。
「お嬢ちゃん、何のようだ?」
「……ここに、妹が連れてこられたと聞いて。明るい茶色の目と髪の子なんですが、来なかったですか」
アサヒは男だとバレないように、出来るだけ大人しい調子で門番に訴えた。
門番は「ちょっと待ってろ」と言って一旦屋敷の中に入る。
「来い」
「ハナビは?」
「いいから来い」
手招きされて、アサヒは屋敷に足を踏み入れた。
門番の男は屋敷の階段を降りて地下に入っていく。おそるおそるアサヒも続いて地下に降りた。
冷たい空気が流れる地下には、鉄格子のはまった牢屋が並んでいる。
奥の牢の中に擦り傷や泥で汚れた少女がいた。
彼女はアサヒを見て目を丸くする。
「ハナビっ!」
「感動の再会で良かったなあ」
門番の男はニヤニヤ笑うと、鍵を持って牢屋の扉を開け……中にアサヒを押し込んだ。
「わっ」
「はい、一丁上がり」
ガシャン。
牢屋の鍵が閉まる。
アサヒはハナビと一緒に牢に閉じ込められた。
「姉妹仲良く売られていくが良い。まあ、売られる先が一緒だとは限らないけどな。今の内にお別れしとけや」
門番の男はそう言って鍵束を手に去っていく。
その後ろ姿を見送ってからアサヒは安堵の吐息をもらした。
一人で泣いていたのか、真っ赤に泣きはらして涙を脱ぐっているハナビに向き直る。
「大丈夫? ハナビ」
「う、うん。でも一緒に捕まっちゃったよ……?」
「ああ。でも想定してた中では最良のケースだ」
ハナビの無事が分かったし、同じ牢に入れた。
後は二人で脱出するだけだ。
アサヒは牢のあちこちを見て回る。地下にあるので窓は無く、壁は土壁だ。脱出の手掛かりがあるとすれば鉄格子付近に思えた。
鉄格子は太く折れそうにない。扉が開かないように横に棒が通されて金具で固定され、錠前には鍵が掛かっていた。
「ん?」
鉄格子や錠前を触っていると、腕の裾からヤモリが出てきた。
手の上まで這ってきてアサヒを見上げる。
「そういや、お前がいたな。待てよ……」
このヤモリは金属を食べるのだった。
「錠前を食べてみてくれるか」
言葉が通じるかどうか不明だが話し掛けてみる。
するとヤモリは話を理解したように、するすると錠前に近付いて、扉を固定している細い金属の棒、かんぬきの部分をかじり始めた。
「おお……」
試してみるものだ。
少し時間が掛かったものの、扉を固定する金属の棒は壊れた。ヤモリは小さくげっぷすると服の裾の中に戻っていく。どうやら錠前は美味しくなかったらしい。
「やっぱりアサヒ兄は凄い!」
「しいっ、騒ぐなハナビ。様子を見て夜になってから逃げ出すぞ」
アサヒは耳を澄ませて物音を聞く。
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