ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

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留学準備編

03 お弁当の効果(2017/12/3 改稿)

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 アサヒは思わず腰を上げた。
 白い人影のいる廊下に飛び出す。

「待てっ」

 幽霊のような人影は、アサヒが近づくにつれて遠ざかっていく。
 数歩進んだ時にはその姿が見えなくなっていた。

「……」

 暗い廊下の奥に目を凝らすが、もうそこには誰もいない。

「どうしたの、アサヒ……」

 眠たそうにしながらカズオミが起きてくる。
 頭が鳥の巣のようになっているカズオミは、アサヒに向かって手を差し出した。
 手の上には黒っぽい蜥蜴とかげのように見える相棒が乗っている。
 指先がふくらんだ短い手足をのそのそと動かし、まぶたの無い黒いつぶらな瞳で、ヤモリはアサヒを見上げた。

「思わず踏みそうになっちゃったよ。アサヒ、竜王様なんだから、自分の竜はちゃんと持ってないと」
「おいカズオミ、そういうお前の竜はどうしたんだよ」
「僕の竜は重いから」

 置いてきちゃった、と悪びれずに呟くカズオミの手から、アサヒはヤモリを受け取る。

「カズオミ……もし、この館に幽霊がいるとして」
「幽霊?!」
「たとえ話だよ」

 どうやら幽霊が怖いらしいカズオミに、アサヒは咳払いして念を押す。

「あのアウリガの侵略で死んだ人の霊が出たとして、その人たちはユエリをかばった俺を許せないかな……?」

 幽霊は怖くないが、アサヒの中の後ろめたさがその台詞を言わせていた。
 カズオミは目をぱちくりさせる。

「考えすぎだよ、アサヒ。君はユエリも、ピクシスの僕たちも、両方を守り切ったじゃないか。それにもし、あの戦争で死んだ人が幽霊になったとしても君を責めないよ。少なくとも僕なら、責めない。アウリガの人相手ならともかく、君もあの戦火で孤児になった被害者じゃないか」

 アサヒはその言葉を聞いて少し安心した。
 竜王の記憶や、背負わされた役割に少し振り回されていたらしい。

「一緒に寝ようよ、アサヒ。こんな広い家の中に一人だと怖い夢を見そうだ。いきなりどこかに行かないでくれ」
「悪い」

 カズオミに腕を引かれて元いた部屋に引き返す。
 毛布を敷いただけの床は冷たくて固かったが、アサヒ達は昼間の疲れもあって夢も見ない眠りに付いた。




 翌朝、焼けたパンの香ばしい香りでアサヒは目を覚ました。
 柔らかい寝台で眠らなかったせいで身体の節々が固まって痛い。伸びをして身体をほぐしながら、まだ眠っているカズオミをまたいで館の玄関に歩き出す。

「おはよう……朝食と、お弁当を持ってきたわよ」

 玄関に立ったユエリが手に持ったかごを差し出す。
 パンの匂いはそこから漂っていた。
 
「おはよう、ユエリ。いつもありがとう。いやー、学院の食堂は入りづらいから助かるよ」

 アサヒは礼を言って籠を受け取った。
 もともと三等級のアサヒは昼休みに食堂に入ることが難しい。食堂は一等級と二等級が占領しているので、彼らが去った後、時間をずらして入らないと席について食事ができなかった。今は竜王だと一部の生徒にばれているようなので、別の意味でも入りづらい。見下されるのも御免だが、逆に祭り上げられても困る。
 今はユエリが弁当を作ってくれるようになったので、カズオミと一緒に好きな場所で昼食が食べられるようになった。

 引き続き新しい寮の掃除をしてくれるというユエリを残して、アサヒはカズオミを起こして学院に登校した。
 いつも通り学院で授業を受ける。
 ちらちらと周囲から視線を感じる。
 あの竜王に覚醒した日以来、アサヒが竜王だと気付いた一部の竜騎士の生徒は遠巻きにアサヒを観察しているようだった。そのほかの生徒も、入学時から決闘騒ぎを何度も起こしているアサヒをちょっと変わった生徒だと認識しているらしく、好奇心が混じった眼差しを向けている。

 昼休みになって、視線から逃れるように、アサヒはカズオミを連れて学院の庭の隅に移動した。
 ユエリにもらった弁当を広げる。

「いつも僕の分まで、悪いなあ」

 カズオミは恐縮している。
 弁当作りはアサヒが頼んだ訳ではない。ユエリの方から気をきかせて持たせてくれるようになったのだ。大量に作った方が楽だと言ってカズオミの分まである。
 本当にユエリって良い子だよなあ、と思いながら木陰で弁当をつついていると、誰かが近づく気配がした。

「アサヒ?」

 アサヒは弁当を置いて無言で立ち上がると、「どうしたの」と聞くカズオミは一旦おいて、草むらの中に手を突っ込んで怪しい気配の主を確保した。

「みぎゃっ! ふぎゃあああっ、お許しください、竜王様!」
「お前誰だよ……」

 赤毛を通し越してピンク色の髪の女子生徒が、何か筆記用具を手に四つん這いで書きものをしていた。
 彼女はアサヒに見つかったと知るや、豪快に土下座して平謝りをし始めた。


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