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学院編
14 銅貨は美味しい(byヤモリ)
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工夫すれば大量の荷物でも何とかなると断言したアサヒ。
カズオミが慌てて声を上げた。
「何とかって……具体的にはどうするんだよ! 確かに僕はいつもの癖で道具を持ってきてるけど、いったい何を作らせるつもりなのさ」
聞かれてアサヒは適当な木の枝を拾うと、地面に図を描き始める。
「荷物を置く板は最低限必要だな。安定性を高めるために四隅に釘を打って金具で紐を固定する。固定した紐はさらに一本にまとめて、竜の首に輪っかを巻いてそこに繋ぐんだ……」
地面に描かれた図をのぞきこんでカズオミは絶句した。
「出来ないか?」
「できる……できるけど、これ、君が考えたの?」
アサヒは苦笑いした。
別の世界の記憶で、引っ越しの荷物の吊り下げや災害のヘリコプターから着想を得たとは言えない。
「まあね」
曖昧に笑うアサヒを見たカズオミは嘆息する。
ごまかせたかな、と内心冷や冷やするアサヒだが、カズオミが返したのは予想外の答えだった。
「……竜の首を傷付けないように布を巻いたり、荷物の積みかたにも工夫が必要だよ」
「カズオミ、お前」
「これは戦えない僕の戦場だよ、アサヒ。必ず納得のいくものを作ってみせる!」
「おお……」
何やらカズオミはやる気をメラメラ燃やし始めた。よほど道具作りや工作が好きらしい。
後ろでユエリがそろそろと移動しようとしている。
エスケープしようとしている彼女を、アサヒは見逃さなかった。
「ユエリも手伝ってくれるよな?」
「なんでいつも私が手伝ってるの?!」
悲鳴を上げるユエリだが結局、アサヒ達に協力するはめになった。
重ね重ね自分の行動を後悔するユエリだった。
翌朝、紐や板を組み合わせて準備するアサヒ達に、他の竜騎士達は不思議そうにしていた。アサヒは視線を無視して、肩口にくっついていたヤモリをベリッとはがす。
「ヤモリ、竜の姿になってくれ。あ、地味な方な」
カズオミが「地味な方?」と首をかしげるが何食わぬ顔で聞き流す。
ヤモリはアサヒの手からポトンと地面に落ちると、一瞬で巨大化し、地味な方の姿、茶色っぽい鱗に一対の翼を持つ平均的な竜の姿になった。
アサヒ達は竜の首と胴体に用意したベルトを巻いて、金具で荷物を吊る。大量の荷物があったので吊り下げても荷物が余ったが、余った荷物は竜の背中に乗せたりして何とかすべてを積み込むことに成功した。
荷物が重いので若干よろめきつつ、それでも特に問題は起きずに王都アケボノに着いた。
荷物を降ろすと賃金が配られる。
「安い……」
銀のソルティ硬貨2枚を渡されて、カズオミがぼそりと呟く。
実はまともな仕事でお金をもらったのは初めてのアサヒは、大金でなくても割と嬉しい。
「そんな安いっけ?」
「安いよ。銀貨2枚じゃ、宿屋に一泊するのも無理だよ!」
先輩達に聞こえるとまずい話題なので、ひそひそ話をするアサヒとカズオミ。ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚に相当する。銅貨1枚で買えるものと言えばパン1個だろうか。果物なら3~5個買える。孤児だったアサヒにとっては銀貨は大金だった。
一方、アサヒ達を手伝ったあげくに、アケボノに帰ってきてしまったユエリは虚ろな表情でぼうっと立っていた。
私はいったい何のためにアルザスまで行ったのかしら。
「……ユエリ。おい、ユエリってば」
呼び掛けられて現実に戻ってくる。
気が付くとアサヒが銀貨2枚を目の前に差し出していた。
「お前にやる」
「え?」
「手伝ってもらったし……お貴族様には大した金じゃないかもしれないけど」
ユエリはびっくりした。
貧しい民は意地汚いものだと思っていたのに、賃金の全額を渡してくるとは。ここは貴族らしくプライドを優先して「これっぽっちのお金なんて結構よ」と言うべきだろうか。
良心と、金欠だという現実がユエリをぐらぐら揺さぶる。
彼女は少し迷ったが銀貨を受け取った。
「……迷惑料として受け取っておくわ」
こうして彼女は当初の目的を達成したのだが、どこか釈然としないものを感じつつ、下宿している家に帰ったのだった。
アサヒ達は工夫して大量の荷物を運搬することに成功した。
しかし当然ながら、他の竜騎士達がそれを何とも思わない訳がないのだ。
「おい、お前ら。こっちの荷物も頼む」
例の先輩のように、調子にのってアサヒ達に荷物を押し付けようとする者も出てくる。
「嫌ですよ……というか、道具は渡すから先輩達も荷物を吊ったらいいじゃないですか」
上から威圧する先輩竜騎士に、アサヒはけろりとした様子で返事をした。あっけらかんとした物言いに、彼等は毒気を抜かれる。
生意気だと怒るにしても、二等級に勝つ力量があるアサヒに力押しできるとはさすがの彼等も思っていなかった。
「そうは言ってもなあ」
「先輩の分も手伝っていいですよ。ただしタダでは引き受けませんが」
「金を取るのか?!」
どれだけ吹っ掛けられるのかと彼等は身構えた。
「銅貨5枚」
「……は?」
銅貨5枚は子供のお使いレベルの金額だ。
呆気にとられる先輩竜騎士達に向かってアサヒは飄々と続ける。
「あ、材料を買わなければいけないときは実費くださいね」
「……お前なあ」
先輩竜騎士達は拍子抜けした。銅貨数枚で後輩をこき使えるなら、別に良いかと彼等は考える。材料の実費というのも、買えなければ作れないので仕方ない話だ。
ルールが成立して先輩達が去っていく。彼等が離れた後、アサヒはカズオミに向かって謝った。
「ごめん、カズオミ。勝手に決めて」
「いや……本当にお金を取ったらきっと揉めることになったと思うよ」
そんな訳で、アサヒとカズオミは小銭を稼ぎつつ、学院の外で運搬に励む日々を送った。ちなみに稼いだ銅貨のうち数枚はヤモリの餌となった。質の悪い魔石よりも銅貨の方が美味らしい。
カズオミが道具を作って、アサヒがうまく交渉して、そんな関係が同じ運搬に関わる竜騎士の先輩達に認められ、馴染み始めた頃。
アサヒの師匠でありアントリアの竜騎士であるセイランが、フォーシスからアケボノまでアサヒを訪ねてきた。
カズオミが慌てて声を上げた。
「何とかって……具体的にはどうするんだよ! 確かに僕はいつもの癖で道具を持ってきてるけど、いったい何を作らせるつもりなのさ」
聞かれてアサヒは適当な木の枝を拾うと、地面に図を描き始める。
「荷物を置く板は最低限必要だな。安定性を高めるために四隅に釘を打って金具で紐を固定する。固定した紐はさらに一本にまとめて、竜の首に輪っかを巻いてそこに繋ぐんだ……」
地面に描かれた図をのぞきこんでカズオミは絶句した。
「出来ないか?」
「できる……できるけど、これ、君が考えたの?」
アサヒは苦笑いした。
別の世界の記憶で、引っ越しの荷物の吊り下げや災害のヘリコプターから着想を得たとは言えない。
「まあね」
曖昧に笑うアサヒを見たカズオミは嘆息する。
ごまかせたかな、と内心冷や冷やするアサヒだが、カズオミが返したのは予想外の答えだった。
「……竜の首を傷付けないように布を巻いたり、荷物の積みかたにも工夫が必要だよ」
「カズオミ、お前」
「これは戦えない僕の戦場だよ、アサヒ。必ず納得のいくものを作ってみせる!」
「おお……」
何やらカズオミはやる気をメラメラ燃やし始めた。よほど道具作りや工作が好きらしい。
後ろでユエリがそろそろと移動しようとしている。
エスケープしようとしている彼女を、アサヒは見逃さなかった。
「ユエリも手伝ってくれるよな?」
「なんでいつも私が手伝ってるの?!」
悲鳴を上げるユエリだが結局、アサヒ達に協力するはめになった。
重ね重ね自分の行動を後悔するユエリだった。
翌朝、紐や板を組み合わせて準備するアサヒ達に、他の竜騎士達は不思議そうにしていた。アサヒは視線を無視して、肩口にくっついていたヤモリをベリッとはがす。
「ヤモリ、竜の姿になってくれ。あ、地味な方な」
カズオミが「地味な方?」と首をかしげるが何食わぬ顔で聞き流す。
ヤモリはアサヒの手からポトンと地面に落ちると、一瞬で巨大化し、地味な方の姿、茶色っぽい鱗に一対の翼を持つ平均的な竜の姿になった。
アサヒ達は竜の首と胴体に用意したベルトを巻いて、金具で荷物を吊る。大量の荷物があったので吊り下げても荷物が余ったが、余った荷物は竜の背中に乗せたりして何とかすべてを積み込むことに成功した。
荷物が重いので若干よろめきつつ、それでも特に問題は起きずに王都アケボノに着いた。
荷物を降ろすと賃金が配られる。
「安い……」
銀のソルティ硬貨2枚を渡されて、カズオミがぼそりと呟く。
実はまともな仕事でお金をもらったのは初めてのアサヒは、大金でなくても割と嬉しい。
「そんな安いっけ?」
「安いよ。銀貨2枚じゃ、宿屋に一泊するのも無理だよ!」
先輩達に聞こえるとまずい話題なので、ひそひそ話をするアサヒとカズオミ。ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚に相当する。銅貨1枚で買えるものと言えばパン1個だろうか。果物なら3~5個買える。孤児だったアサヒにとっては銀貨は大金だった。
一方、アサヒ達を手伝ったあげくに、アケボノに帰ってきてしまったユエリは虚ろな表情でぼうっと立っていた。
私はいったい何のためにアルザスまで行ったのかしら。
「……ユエリ。おい、ユエリってば」
呼び掛けられて現実に戻ってくる。
気が付くとアサヒが銀貨2枚を目の前に差し出していた。
「お前にやる」
「え?」
「手伝ってもらったし……お貴族様には大した金じゃないかもしれないけど」
ユエリはびっくりした。
貧しい民は意地汚いものだと思っていたのに、賃金の全額を渡してくるとは。ここは貴族らしくプライドを優先して「これっぽっちのお金なんて結構よ」と言うべきだろうか。
良心と、金欠だという現実がユエリをぐらぐら揺さぶる。
彼女は少し迷ったが銀貨を受け取った。
「……迷惑料として受け取っておくわ」
こうして彼女は当初の目的を達成したのだが、どこか釈然としないものを感じつつ、下宿している家に帰ったのだった。
アサヒ達は工夫して大量の荷物を運搬することに成功した。
しかし当然ながら、他の竜騎士達がそれを何とも思わない訳がないのだ。
「おい、お前ら。こっちの荷物も頼む」
例の先輩のように、調子にのってアサヒ達に荷物を押し付けようとする者も出てくる。
「嫌ですよ……というか、道具は渡すから先輩達も荷物を吊ったらいいじゃないですか」
上から威圧する先輩竜騎士に、アサヒはけろりとした様子で返事をした。あっけらかんとした物言いに、彼等は毒気を抜かれる。
生意気だと怒るにしても、二等級に勝つ力量があるアサヒに力押しできるとはさすがの彼等も思っていなかった。
「そうは言ってもなあ」
「先輩の分も手伝っていいですよ。ただしタダでは引き受けませんが」
「金を取るのか?!」
どれだけ吹っ掛けられるのかと彼等は身構えた。
「銅貨5枚」
「……は?」
銅貨5枚は子供のお使いレベルの金額だ。
呆気にとられる先輩竜騎士達に向かってアサヒは飄々と続ける。
「あ、材料を買わなければいけないときは実費くださいね」
「……お前なあ」
先輩竜騎士達は拍子抜けした。銅貨数枚で後輩をこき使えるなら、別に良いかと彼等は考える。材料の実費というのも、買えなければ作れないので仕方ない話だ。
ルールが成立して先輩達が去っていく。彼等が離れた後、アサヒはカズオミに向かって謝った。
「ごめん、カズオミ。勝手に決めて」
「いや……本当にお金を取ったらきっと揉めることになったと思うよ」
そんな訳で、アサヒとカズオミは小銭を稼ぎつつ、学院の外で運搬に励む日々を送った。ちなみに稼いだ銅貨のうち数枚はヤモリの餌となった。質の悪い魔石よりも銅貨の方が美味らしい。
カズオミが道具を作って、アサヒがうまく交渉して、そんな関係が同じ運搬に関わる竜騎士の先輩達に認められ、馴染み始めた頃。
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