ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

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学院編

26 とんでもない誤解(2017/12/7 新規追加)

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 今日は人の気配が少ないな、とユエリは牢屋の隅で体育座りをしながら、周囲の物音に耳を澄ませた。
 地下の牢屋には地上の足音が反響して聞こえてきて、地鳴りのような音がするのだが、今日に限ってはやけに静かだった。それというのも、アウリガの襲撃に備えて兵士が巡回に出ているからなのだが、ユエリには分からないことだった。

 ピクシスの兵士に捕まった後、すぐに殺されるかと思ったが、予想外にユエリは慎重に留め置かれていた。
 空飛ぶ島の間は容易く行き来できないせいで人の交流が少なく、他国の情報を得る機会は少ない。ユエリはアウリガにとってピクシスの情報を得るための駒だったが、ピクシスにとっても貴重な情報源だった。
 アウリガに連れ去られたピクシスの巫女姫の行方を聞かれたが、ユエリは巫女姫の行方を知らず答えられなかった。
 それでも彼女は念のため、牢屋の中で生かされている。

 牢屋は個室で、むき出しの地面の上に汚い寝台と便器が置かれている。灰色の囚人服に着替えさせられたユエリは、ただ牢の中でぼんやりしていた。

 うつろに宙を見上げるユエリの耳に、足音と話し声が聞こえる。

「……ここか」

 錠前が開いて、二人の若い男が入ってくる。
 見覚えがある。
 確か、学院の生徒で二等級ラーナの……。

「囚人の格好でも美人な女だな、お前は。一発お願いしたいと、ずっと思ってたんだよ」

 欲望に目をぎらつかせた若い男の視線を感じて、ユエリはこれから自分の身に起こることに気付いて真っ青になった。
 女性である以上、そういった危険があることも知っていたし、逆に女であることを利用する戦術も教えられていた。
 しかし、練習と実戦は大違いだ。

「おい、終わったら俺にも回してくれよ」

 牢屋の外で、鍵束を持った兵士がニヤニヤ笑っている。
 どうやら彼が学生の手引きをしたらしい。
 二人の若者が協力して床にユエリを押さえつける。
 三対一。とうてい、ユエリに勝ち目はなかった。

「い、いやっ!」
「ははは、泣き叫んでもいいんだぜ、ユエリ。どうせ誰にも聞こえない」

 思わず悲鳴を上げるユエリ。
 男達は楽しそうに彼女の苦痛に歪んだ顔をのぞきこむ。
 どうせなら、一思いに殺して欲しいとユエリは願った。
 だが舌を噛んで死ぬことはできない。口の動きを制限して自殺を防止し、尋問時以外は喋ることができないようにする魔術だ。ユエリ自身も簡単な魔術が使えるのだが、詠唱しようにも意味のある言葉を発することはできなかった。

 万事休すと思われたその時、ドン、と壁を蹴る音がした。

「なんだ……がっ!」
「……やりすぎだろ」

 牢屋の外で鍵束を持った兵士が倒れる。
 兵士を蹴り倒したのは、紅玉の瞳の秀麗な面差しをした青年だった。

「いくら敵だからって、やって良いことと、悪いことがある」

 ユエリを押さえていた二等級の生徒二人が、振りかえって目を丸くする。

「お前は確か……!」
「ユエリから離れろ」

 青年の手の先に黄金の炎が宿る。
 無詠唱の炎の弾丸が牢屋の中に散った。

三等級テラのアサヒ!」
「俺達にこんなことをして、ただで済むと思ってるのか!」

 二等級の男子二人は、立ち上がって炎を避けながら叫ぶ。

「お前らこそ、ちゃんと許可を得てここにいるのか? まあ、許可があっても、こんなこと許しちゃおけないけどな!」

 アサヒは巧みに炎を操りながら距離を詰め、二等級の二人を殴り倒した。あまり武術が得意ではなかったのか、二等級の二人はあっさりアサヒの拳の前に崩れ落ちる。
 呆気に取られるユエリに、アサヒは手を差しのべた。

「大丈夫か? ユエリ」

 脱がされかけた衣服を咄嗟に整えながら、ユエリはアサヒに返事をしようとして、複数人の足音が聞こえてくるのに気付いた。

「何事だ?!」

 さすがに乱闘の音は外に聞こえたらしい。
 物音を聞き付けた兵士が牢に駆け寄ってくる。

「こいつは、アウリガの間者スパイを逃がそうとしている敵です!」

 床に倒れた二等級ラーナの男がアサヒを指差して言う。

「なんだと、曲者くせものめ!」
「誤解だ……俺は」
「そいつも敵だ! アウリガの内通者だ!」

 アサヒは弁解しようとしたが、兵士は剣を抜いて斬りかかってくる。
 確かに第三者から見れば、囚人を逃がそうとしていたように見えなくもない。そして二等級の男達はすっかり被害者づらしてわめいている。

「くそ、こうなったら」

 兵士達は殺気だっていてアサヒの言葉など聞いていない。
 物騒なこの世界では基本切り捨て御免がまかりとおる。大人しくすれば切られて死んでしまう。
 ここは逃げるしかない。

「ユエリ!」

 アサヒは立ち上がろうとしているユエリの手を引いて、兵士達を金色の炎で蹴散らしながら走り出した。彼女を置いていくと、また乱暴されるかもしれない。
 戸惑う彼女を連れて、アサヒは城の階段を駆け上がった。


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