ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
38 / 120
学院編

28 アサヒの帰る場所(2017/12/8 新規追加)

しおりを挟む
 アサヒ達の前に現れたのは、一等級ソレルの竜騎士ハヤテ・クジョウだった。彼の竜は見えないが、噂によると風竜らしい。きっと姿を隠してどこかに潜んでいるのだろう。
 風竜の竜騎士であるハヤテは、身軽で情報収集に長ける。
 いちはやく城の騒ぎを聞き付けて追ってきたらしい。

「誤解だ……って言っても聞いてもらえそうにないな」
「そうだねえ。脱走したアウリガの女と脱走を補助した奴は、見つけ次第、殺せって言われてるからねえ」

 ハヤテはニヤニヤ笑う。
 事情を話しても「あ、そう。だから何?」と言いそうな雰囲気だった。彼のアウリガに対する復讐心を知らないアサヒだったが、ユエリを見つめる冷ややかな視線からは嫌な感じがする。
 ハルトが一歩前に出た。

「ハヤテ・クジョウはこの俺が相手をする」
「え?」
「ひとまず逃げろ、アサヒ。後はこの俺が何とかしてやる!」

 男気あふれる発言にアサヒは驚いた。
 猪突猛進ないじめっこだと思っていたのだが、今のでハルトの株は急上昇だ。

「分かった。頼む、ハルト!」

 アサヒはユエリを伴ってハヤテを避ける方向へ走り出した。
 もちろん黙って見ているハヤテでは無い。しかし炎の槍を手に打ち込んできたハルトに、追撃を断念せざるをえなかった。

「正気か?! ハルト・レイゼン! アウリガの女を庇いだてするのか?!」

 短剣を手にハルトの攻撃をさばきながら、ハヤテは声を上げる。
 油断なく槍を構えながらハルトは答えた。

「アウリガなど知らん! 俺はあの三等級テラと再び勝負をせねばならんのだ! あやつに死なれては困る!」
「詭弁を。アウリガの間者を逃がすのにレイゼンが協力したと知られれば、レイゼン家も重罪を免れないぞ」

 ハヤテの警告に、しかしハルトは鼻で笑った。

「はっ! 罪に問えるならしてみるがいい! 今のピクシスで実質のナンバーワンは我がレイゼン家だ。罪などいくらでも揉み消せる!」

 まるで悪役の台詞である。
 ハヤテは一瞬茫然とする。

「おいおい、そんなのありかよ……」
「ありだ!」
「ああ、くそっ! アサヒはともかく、あのアウリガの女は俺の手で始末してやるつもりだったのに!」

 嘆いたハヤテは手の中の短剣をくるりと回す。
 冷えた風が彼の周囲から流れだした。

「俺の邪魔をした代償は高くつくぞ」
「来い!」

 ハルトの踏みこみに合わせて炎が踊る。
 風と炎、二つの力が夜の街でぶつかりあった。




 アサヒは街を走りながら、これからどうするか考える。
 ハルトの父親の権力を頼る件はおじゃんになった。
 息子当人がいないのに、レイゼン家の人達は話を聞いてくれないだろう。
 他に、話を聞いてくれそうな権力者に心当たりはない。
 孤児ゆえに頼れる家族や知人がいないというのは、こういう時に厄介だ。

「くそっ!」

 やはりハルトが頼りだ。何とか彼がハヤテを力ずくで説得して、父親と話をしてくれるのを待つしかない。
 それまではどこか人目に付かない場所に隠れてやり過ごそう。

「アサヒ……」
「なあ、ユエリは家族っている?」

 アサヒは移動しながら、なんとなくユエリに聞いてみた。
 彼女は少し悲しそうに目を伏せて答える。

「故郷に、兄がいるわ……」
「そっか」

 アウリガからやって来た彼女にも家族はいるらしい。
 不意にアサヒは彼女やハルトを羨ましく思った。
 自分には家族がいない。
 どこから来たのかも分からない。
 たった独りで迷いながらここまで来た。

「そういえば……」

 人目に付かない場所、それに家族というキーワードが、アサヒにある場所を連想させた。
 炎竜王のほこらから続く道の先、山あいの廃墟。
 たぶん、あそこはアサヒの家族にゆかりのある場所。

「決めた」

 きっと誰も来ないだろう場所だ。
 アサヒは行き先を決めると、先に学院に寄ろうと考えた。
 学院の近くまで帰ってきたところで、誰もいない石壁の角で一旦ユエリと別れる。

「……すぐに戻るから、ユエリはここで待っててくれ」

 彼女が青ざめた顔で頷いたことを確認すると、アサヒは塀を飛び越えて学院内の寮に入る。もしもの時のために武器と、お金や軽い携帯食を持ち出しておきたい。
 部屋に駆け込むと勉強していたカズオミが驚愕する。

「どうしたの、アサヒ?!」

 不穏な空気に気付いたのか、カズオミが立ち上がっておろおろする。

「説明してる暇はない。俺は出かける。もし俺の居場所を聞かれたら、知らないって、自分は無関係だって主張してくれ」

 カズオミを巻き込まないためにそう言うと、眼鏡の青年は真剣な顔になった。

「出かける? 僕も行くよ」
「カズオミ」
「一人で行くなよ、アサヒ。僕たち友達なんだろ」

 友人の頑固な様子に、アサヒは折れた。
 素早く身支度を整えると二人は寮を出る。
 大人しく待っていてくれたユエリと共に、アサヒ達は王都アケボノの外にある炎竜王の祠、その奥にある廃墟へ向かった。

 運命の場所、アサヒの始まりの場所へと。



しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...