ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

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学院編

29 蘇る記憶(2017/12/8 新規追加)

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 炎竜王の祠から続く暗い道を駆け上がりながら、アサヒは既視感を覚える。
 あの時……不安と恐怖と共にこの道を逆に駆け降りた。
 炎に巻かれた家から逃げ出して。


 幼い頃、自分のそばには竜が、ヤモリがいなかった。
 相棒と出会ったのは、あのアウリガの侵略で逃げ出した時。
 黄金の炎をまとった漆黒の竜はアサヒの無意識の呼び掛けに応えて現れた。
 『まだ時は来ていないが危急の声を聞いて馳せ参じた。我が半身よ、遅かったか?』
 竜はそう言って、アサヒを火山のふもとのフォーシスまで運んでくれた。
 ショッキングな出来事が重なったのと、竜を無理に呼び出したせいでアサヒの記憶は混濁し、そのまま街をさまよって孤児生活を始めることになる。


 少しずつ、記憶がよみがえる。
 パズルのピースがはまるように、かちり、かちりと記憶のピースがあるべき場所に収まっていく。
 「怖がりの竜王陛下ね」とミツキが微笑む。
 「大丈夫だ、アサヒ」そう言った年上の少年の顔が思い出せない。彼の手が親愛を込めてアサヒの頭を撫でる。「俺がお前達を守る」と彼は幼いアサヒに約束した。
 あれは誰だったのだろう。


「アサヒ」


 カズオミの呼び掛けに追憶に沈んでいた意識が現実に立ち戻る。
 彼に状況を説明しながら、アサヒ達は例の廃墟の近くまで来ていた。

「誰かいるみたいだ」
「そんなはずは……」

 こんな夜に廃墟に訪れるなんて酔狂な奴は、自分達くらいだと思っていたのに。
 廃墟の前にたたずんでいたのは長身の赤毛の男だった。
 彼の背後には深紅の鱗の竜が翼を広げている。
 細身のしなやかな体型の竜で、深紅の鱗は月光に濡れたように光っていた。危険さと色気を感じさせる美しい竜だ。

「ヒズミ・コノエ……?」
「……お前はここに来るかもしれないと思った。アサヒ」

 一等級ソレルのヒズミ・コノエは何を考えているか分からない無表情な顔でアサヒ達を一瞥いちべつした。

「レーナ」

 深紅の竜が素早く動いて、あっという間にユエリの背後に回り込んだ。深紅の竜は棒立ちになるユエリに腕を伸ばして、鋭いかぎ爪を突きつける。

「……っ!」

 それは、いつでも竜の爪で傷つけることができるという宣告だった。
 問答無用で人質を取られた格好になったアサヒは立ちすくむ。

「今夜のことは、無かったことにしてやろう。大人しく寮に帰るのだ。アサヒ、カズオミ」

 ヒズミは低く冷たい声音で告げる。
 こちらの事情を聞かずに事を進めようとする彼の姿勢に、アサヒは腹が立った。それは理不尽に対する怒りとは別の、もっと衝動的な感情も含んでいた。
 自分でもなぜ、この男にこんな苛立ちを感じるのか理解できないまま、アサヒは白水晶の剣を鞘から抜く。

「嫌だ」
「なんだと?」
「俺と勝負しろ、ヒズミ・コノエ! 俺が勝ったら、ユエリを離せ!」

 反抗的なアサヒを見て、ヒズミは嘆息する。

「勝負か……それでお前の気が済むのなら、付き合ってやろう。すぐに終わるだろうが」

 何も持っていない彼の片手に長大な槍が現れる。
 穂先が三つに分かれた赤金色の槍だ。
 唐突に空中に現れた槍を見て、アサヒは戦慄した。
 今までは彼が何をしたか分からなかったが、学院で魔術について勉強した今なら少しわかる。ヒズミの槍は、ハルトの炎装充填ブレイブモードのずっと上級バージョンだ。
 ハルトは魔術で揺らぐ炎の塊がかろうじて槍の形をもったような武器を作っていた。しかしヒズミは炎を完璧に操作し、具現化させ、一見普通の鉄製の武器と見間違うような精細な槍を魔術だけで作っている。しかも、無詠唱で。
 それが高度な魔術による魔力の圧縮の効果なのだと、積み重ねた鍛錬の結実した姿なのだと、アサヒは悟った。
 勝てない、今はまだ。
 だが別にかまわない。本当は勝つことが目的ではない。

「外なる大気エア、内なる魔力エマ、撃ち抜き貫け。炎弾バレット!」

 アサヒは得意な金色の炎を、今日は詠唱をして召喚する。炎を撃ち出すのと同時に剣を携えて走り出す。
 炎の魔術で相手の気をそらしつつ、槍の間合いに飛び込んだアサヒは、手にもった剣を投げつけた。

「なっ?!」

 まさか自ら武器を手放すと思っていなかったらしく、ヒズミは意表を突かれた顔をする。
 アサヒは僅かに隙を見せた相手の顔を、固めた拳で殴りに行った。
 拳はヒズミの頬をかする。
 ヒズミは手元で槍を回転させると、アサヒを間合いの外へ弾き出した。

「何のつもりだ」
「その顔を思いっきり殴ったら、すっきりするだろうと思って。残念だな」

 今のは惜しかった、とアサヒは呟く。

「ユエリを連れてくなら、今度は下劣な奴がいない場所にしてくれよ。いくら敵だっていっても、必要以上に痛めつけるのは間違ってると思う」

 戦意を解いたアサヒに、ヒズミは目を細めて槍を消す。

「……牢で何かあったのか?」
「説明しても信じてくれないだろ」

 どうせ薄汚い三等級の言うことだと卑下してみせると、ヒズミは静かに言った。

「いや……」
「?」
「私がお前の言うことを信じずに、いったい誰が信じるのか」

 それは半分独り言のようだった。
 アサヒは意味が分からずに眉をしかめる。一方のヒズミは一瞬自嘲の笑みを浮かべた後、元の無表情に戻って何か言い掛けた。

「アサヒ、お前は私の……」

 その時、完全に傍観者になっていたカズオミが声を上げた。

「……あれは、何?」

 その声にアサヒ達は空を見上げる。
 夜空に無数の炎の矢が走る。
 炎の矢は次々とアケボノの街に向かって流れていった。
 遠く爆音と共に街の方向が明るくなる。

「アウリガの侵略か?! こんなタイミングに!」

 ヒズミが険しい顔をする。
 夜空を複数の影が舞った。
 風切り音と共に飛来する竜達の脇腹には、雷光をかたどったアウリガの国旗が見える。
 それは夜闇に乗じて接近してきたアウリガの竜騎士部隊だった。


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