ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
59 / 120
留学準備編

14 霧竜王ラードーン

しおりを挟む
 霧竜王を迎えうつために出撃する直前、アサヒは友人のカズオミを呼んだ。着替えるのも面倒なアサヒは制服のままだ。

「カズオミ、見物に来いよ」
「僕は授業が……」
「そんなもの、竜王権限でパスさせてやる」

 無駄に権力をちらつかせて、アサヒは気乗りしない様子のカズオミを教室から引っ張りだした。

「街でユエリを拾って連れてきてくれ。アケボノの街の外の炎竜王のほこらの前で集合な」
「ちょ、アサヒ!」

 友人に命じた後、アサヒは一人、火山へ向かった。
 ヤモリに竜に変身してもらって背中に飛び乗り、ピクシス中央の火山の火口まで飛ぶ。真昼の空を漆黒の鱗の竜王は4枚の翼で羽ばたいた。あっという間に火口の上空に到着する。
 休火山なので噴火はしていないが、上空でアサヒはかすかに熱気を感じた。

「この火山の中にお前の力の源があるんだっけ?」
『そうだ、我が盟友。汝の力の源でもある。我らは契約によってつながっている故』

 竜王の魔術は、神代竜レジェンダリーを媒介にして、世界に偏在する無限の大気エアを引き出す。神代竜は自然に宿る力と一体化している特別な竜で、火山は炎竜王の一部のようなものだった。
 火山が無くなれば炎竜王の力は半減する。
 
「留守にするなら戸締まりしていかないとな……」

 アサヒは火口へ腕をかざすと、いくつか鍵詞じゅもんを唱えて火口に魔術を掛けた。
 竜王の記憶を引き出せるようになってから、魔術のレパートリーが増えている。本来、竜王は魔術のエキスパートだ。完全に竜王の力が使いこなせるようになれば、学院の魔術の授業は受ける必要が無くなるだろう。

「これでよし、と」

 用が済んだアサヒは、そのまま山を下って炎竜王のほこらの前に降りる。漆黒の竜王が火山の上の方から飛んできたのを見て、待ち合わせ場所に来たカズオミとユエリは目を丸くした。

「お待たせ」
「ちょっとアサヒ、なんで私まで必要なの? 私は関係ないでしょう」

 ユエリもカズオミも怪訝そうにしている。
 先にハルトに話した通り、アサヒは霧竜王の襲撃と同時に敵国がやってくる可能性を考えている。その際に竜騎士なのに中途半端に戦力外なカズオミと、アウリガの関係者であるユエリの身の安全が気になったため、一緒に連れていくことにしたのだ。
 だが、それを正直に話すつもりはなかった。

「えー、寂しいなあ。付いてきてくれないのかよー?」

 可能性だけで友人たちを不安にすることはない。アサヒはわざとおどけて泣き真似をしてみせた。実際、一人で行くのが寂しいのはちょっと本当だ。
 ユエリが呆れた顔をした。

「寂しいって……他の竜騎士はどうしたの? あなた一人?」
「俺ひとりで十分だって言っちゃったから」
「……」

 アサヒ一人なのは理由がある。
 敵国の襲撃について考えたのはアサヒだけではない。女王やヒズミも、その可能性について気付いていた。そのため、アサヒが島を出る間は、他の竜騎士は島に残るような手配になっている。

「さあ、行こうぜ」

 カズオミをせかして、彼の竜を実体化させる。カズオミの竜ゲルドは、緑の鱗に透明な虫の翅のような翼を持つ竜だ。ユエリはカズオミの竜に乗ってもらって、アサヒ達は大空へ舞い上がった。
 霧竜王は目視できる距離に近付いてきている。
 遠くに見える雲のかたまりに向かって、アサヒ達は飛んだ。
 雲に近付くにつれ、カズオミとユエリはその大きさに愕然とする。

「なんて大きさだ……これ全部が竜の体なのか?!」

 その雲の前では人間はケシ粒のよう。
 蛇がとぐろを巻くように上に向かって盛り上がった入道雲は、近付くほどに全容が分からなくなる。
 進むほどに霧は深くなり、雲は大きくなっていく。

「これが霧竜王ラードーン……」
『なんだ、盟友よ。怖じけづいている訳ではあるまいな』
「まさか」

 アサヒは雲をにらんで不敵な笑みを浮かべる。

「ラードーンはただのでかい雲のかたまりだ。敵は逃げないし、動かない。楽勝も良いところだ。そうだろ?」
『その通りだ』

 漆黒の竜王は深い霧に巻かれる前の空間を一気に上昇する。
 金色の炎が竜王の4枚の翼に沿って流れた。

「カズオミ、その辺で待ってろ!」
「アサヒ! 大丈夫なの?」
「平気だ。見てろよ」

 派手に魔術を使うつもりのアサヒは、巻き込まないようカズオミ達に後方で待機してくれと叫ぶ。入道雲の天辺を目指して上昇する竜の背中で、アサヒは立ち上がった。

「内なる大気エア、外なる世界コスモス……」

 アサヒは腕を広げて大きく息を吸い込む。
 天空の気温は低く、飛翔中の竜王の背中は激しい風が吹いていた。しかし、アサヒが詠唱を始めると力の気配が空気に満ちる。
 大気エアは世界にあまねく広がっている。
 神代竜を通してアサヒは世界の意思に接続アクセスする。
 その広大なエアをたぐり寄せて掴み、炎として顕現させる。

「そは人を裁きし天の炎、神々が下せし滅びの矢……」

 アサヒの周囲に金色の炎が燃え上がり、漆黒の竜王を中心に天をつらぬくような炎の柱が立ちのぼった。うずまく炎は収斂しゅうれんして、やがて3本の巨大な炎の柱になる。
 炎の柱はさらに圧縮を続け、切っ先が尖った棒状となり、神々しい金色の槍となった。

天炎金槍ケラウノス

 竜の体長の数倍以上ある金色の槍は、アサヒが腕をかかげて投げる動作をすると空中を滑るように動く。
 巨大な炎の槍の一本が放たれ、入道雲を貫いた。
 雲の一部が散って爆発が起きる。

「まずは一本。次……よっと」

 入道雲の中心に狙いをつけて、アサヒは二本目の槍を投げた。
 槍が雲に吸い込まれると同時に爆風が吹き、黄金の火花が雲をうがつ。霧が蒸発して、入道雲の一部が吹き飛んだ。

「最後の一本……」
『待て、盟友』
「ん?」

 入道雲の中から乳白色の竜の巨体が頭をもたげる。

『……なんじゃ、気持ち良く寝ておったのに。わしの頭頂に火が付いて……ハゲてしまうではないか!』

 ぼんやりエコーがかかった低い男性の声が、アサヒの脳裏に響いた。
 雲の天辺から通常の数十倍の大きさの竜の頭が姿を現す。
 霧竜王ラードーン。

「ハゲてしまえば良いのに」
『なんじゃと?!』
『盟友、言いすぎだ。加齢による脱毛は汝にとっても他人事ではあるまい』
「むむ。そうだけど……最後の一本、どうしようかな。この魔術を途中でキャンセルするのは面倒なんだよ」

 アサヒは残った最後の槍を、入道雲のはしっこに向かって投げた。
 途端に霧竜王から非難の声が上がる。

『わしの雲の座布団がっ!』
「知るかよ」
『このいたずら小僧め! その年寄りを敬わぬ不遜さ、お前は炎竜王ファーラムだな!』

 霧竜王から名指しされてアサヒは笑った。

「そうだよ、霧の爺さん。久しぶりだな」
 


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...