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ピクシス奪還編
06 ハヤテの決闘の結果とカエルさん
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「外なる大気、内なる魔力、疾風よ駆け抜けろ! 俊足」
竜騎士の決闘は魔術を使っても良い。
ハヤテは早々に勝負を決めるつもりらしく、鍵詞を唱える。アサヒは竜王の知識で彼の魔術の効果を確認する。たしか自身の素早さをあげる魔術だ。
風の魔術で身体能力を強化したハヤテは、速度を増して目に止まらぬ踏み込みで一気に敵のふところに飛び込む。
「くっ!」
土の島の竜騎士ケリーは手にした長剣で、ハヤテの攻撃を眼前で防いだ。
「まだまだだぜ!」
ヒットアンドアウェイの戦法を取ったハヤテは、防がれたとみるやすぐに下がり、再度、別の角度から踏み込んで攻撃する。
ケリーは長剣を横に構えて防戦一方になった。
「おお……」
一見、ハヤテが有利に見える展開だ。
アサヒは腕組みして決闘を見守る。
隣で空になったジョッキを樽の上に置き、土竜王が顎をさする。
「うーむ。鋭いが、軽いな……」
ハヤテの攻撃のことだ。
的確な指摘にアサヒは苦笑した。
「そう言わないでやってくれよ。ハヤテは決闘に有利なタイプじゃないんだ。たぶん、どっちかというと後ろから刺したり、奇襲するのが得意だと思う」
「む。決闘とは真逆の戦い方ではないか」
外野の会話は戦う当人達の耳に入っていない。
身体の前で長剣を構えて盾のように使っていたケリーは、一瞬の隙をついてハヤテを眼前から弾きとばす。勢いに抵抗せずに後ろに飛ぶハヤテだが、間合いは長剣に有利な範囲に入った。
「調子に乗るなよ、火の島の竜騎士!」
ケリーは長剣を正眼に構えた。
「この剣は我が王のために……我が前から立ち去れ、不届き者! 剣閃!」
魔術の鍵詞と共に振り下ろされた剣からは、鋭い剣風が光となってほとばしる。長剣から伸びた光の刃を、ハヤテは横っ飛びにかわした。
店の前の木樽が何個か切り飛ばされて粉々になる。
「そっちがその気なら、旋風を巻き起こせ、嵐風!」
「堅固なる盾となれ、石壁」
ハヤテが起こしたカマイタチは、敵の防御の魔術に阻まれる。
風の刃は、一瞬でケリーの足元から立ち上がった土石の壁にぶつかって砕けた。壁が視界をさえぎって、ケリーの動作が見えなくなる。
壁の中から声がした。
「剣閃!」
「っ、しまった……!」
敵の手元が見えずに、次の行動を測りそこなったハヤテの前に、横殴りの光の刃が迫る。自分が作った壁ごと切り裂く豪快な一撃だ。当たれば重傷を負うだろう。
アサヒは口の中で小さく鍵詞を唱えた。
「……炎雪花」
ハヤテの眼前に金色の炎が発生し、雪の結晶のような六角形の複雑な文様を描き出す。
まるで儚い雪片のように、敵の放った光の刃を受け止めた魔力の結晶は粉々となって金色の火の粉を散らした。火の粉は敵の攻撃の余波を吸収し、無害な光へと昇華する。
茫然とするハヤテの前で、ケリーの剣閃を相殺して、炎雪花は砕け散った。
「はい、そこまで」
アサヒは決闘する二人の間へ歩きだしながら、区切りを示すようにパンと柏手を打つ。
「勝負は付いた。ハヤテの負けだ」
「はあっ?! 邪魔すんなよ、アサヒ!」
「どうみたってお前の負けだろ。途中で押し負けてたくせに」
決闘を中断されたハヤテは悔しそうにするが、アサヒの言葉に心当たりがあるらしく口をつぐんだ。
一方のケリーは静かに剣を鞘におさめる。
「……あなたは、炎竜王とお見受けします」
「いかにも」
アサヒは不敵に笑ってみせた。
本当は緊張しているし、偉そうにふるまうのは好きじゃない。しかし張りぼてだろうが、なんだろうが、それらしく見えればいいのである。
「土竜王に話があって来たんだ。でも困ったな、二日酔いだと話にならない」
先ほどまで決闘を観戦していた土竜王は、店の前の酒樽に寄りかかってイビキをかいていた。幸せそうな寝顔だ。
「我が主ながら酒癖が悪く……わざわざ遠方からお越しいただいたのに申し訳ない」
ケリーが恐縮する。
「いや、急に押し掛けたのはこちらだ。出直すよ。俺達はカルセドニーの街のポアンさんにお世話になってるから、話せるようになったら知らせてくれないか」
「承りました」
他国の者でも竜王ということで、礼儀を尽くして対応してくれるようだ。
快諾したケリーは土竜王の巨体を引きずって店内に戻っていった。たぶん店の中に寝かせるつもりなのだろう。
「ケロケロ」
ふと気づくと樽の上に親指より大きいくらいのサイズの、緑色のアマガエルが乗っていた。
「まさか」
「なんだこのカエル」
ハヤテが指でつつこうとするのを、アサヒは咄嗟に止める。
「触るなハヤテ。たぶん、そのカエル、竜王だ」
「え、カエルが?! マジで?!」
凝視するハヤテの前でアマガエルは何くわぬ顔で「ケロケロ」と鳴いた。
どう見ても、ただのカエルにしか見えなかった。
竜騎士の決闘は魔術を使っても良い。
ハヤテは早々に勝負を決めるつもりらしく、鍵詞を唱える。アサヒは竜王の知識で彼の魔術の効果を確認する。たしか自身の素早さをあげる魔術だ。
風の魔術で身体能力を強化したハヤテは、速度を増して目に止まらぬ踏み込みで一気に敵のふところに飛び込む。
「くっ!」
土の島の竜騎士ケリーは手にした長剣で、ハヤテの攻撃を眼前で防いだ。
「まだまだだぜ!」
ヒットアンドアウェイの戦法を取ったハヤテは、防がれたとみるやすぐに下がり、再度、別の角度から踏み込んで攻撃する。
ケリーは長剣を横に構えて防戦一方になった。
「おお……」
一見、ハヤテが有利に見える展開だ。
アサヒは腕組みして決闘を見守る。
隣で空になったジョッキを樽の上に置き、土竜王が顎をさする。
「うーむ。鋭いが、軽いな……」
ハヤテの攻撃のことだ。
的確な指摘にアサヒは苦笑した。
「そう言わないでやってくれよ。ハヤテは決闘に有利なタイプじゃないんだ。たぶん、どっちかというと後ろから刺したり、奇襲するのが得意だと思う」
「む。決闘とは真逆の戦い方ではないか」
外野の会話は戦う当人達の耳に入っていない。
身体の前で長剣を構えて盾のように使っていたケリーは、一瞬の隙をついてハヤテを眼前から弾きとばす。勢いに抵抗せずに後ろに飛ぶハヤテだが、間合いは長剣に有利な範囲に入った。
「調子に乗るなよ、火の島の竜騎士!」
ケリーは長剣を正眼に構えた。
「この剣は我が王のために……我が前から立ち去れ、不届き者! 剣閃!」
魔術の鍵詞と共に振り下ろされた剣からは、鋭い剣風が光となってほとばしる。長剣から伸びた光の刃を、ハヤテは横っ飛びにかわした。
店の前の木樽が何個か切り飛ばされて粉々になる。
「そっちがその気なら、旋風を巻き起こせ、嵐風!」
「堅固なる盾となれ、石壁」
ハヤテが起こしたカマイタチは、敵の防御の魔術に阻まれる。
風の刃は、一瞬でケリーの足元から立ち上がった土石の壁にぶつかって砕けた。壁が視界をさえぎって、ケリーの動作が見えなくなる。
壁の中から声がした。
「剣閃!」
「っ、しまった……!」
敵の手元が見えずに、次の行動を測りそこなったハヤテの前に、横殴りの光の刃が迫る。自分が作った壁ごと切り裂く豪快な一撃だ。当たれば重傷を負うだろう。
アサヒは口の中で小さく鍵詞を唱えた。
「……炎雪花」
ハヤテの眼前に金色の炎が発生し、雪の結晶のような六角形の複雑な文様を描き出す。
まるで儚い雪片のように、敵の放った光の刃を受け止めた魔力の結晶は粉々となって金色の火の粉を散らした。火の粉は敵の攻撃の余波を吸収し、無害な光へと昇華する。
茫然とするハヤテの前で、ケリーの剣閃を相殺して、炎雪花は砕け散った。
「はい、そこまで」
アサヒは決闘する二人の間へ歩きだしながら、区切りを示すようにパンと柏手を打つ。
「勝負は付いた。ハヤテの負けだ」
「はあっ?! 邪魔すんなよ、アサヒ!」
「どうみたってお前の負けだろ。途中で押し負けてたくせに」
決闘を中断されたハヤテは悔しそうにするが、アサヒの言葉に心当たりがあるらしく口をつぐんだ。
一方のケリーは静かに剣を鞘におさめる。
「……あなたは、炎竜王とお見受けします」
「いかにも」
アサヒは不敵に笑ってみせた。
本当は緊張しているし、偉そうにふるまうのは好きじゃない。しかし張りぼてだろうが、なんだろうが、それらしく見えればいいのである。
「土竜王に話があって来たんだ。でも困ったな、二日酔いだと話にならない」
先ほどまで決闘を観戦していた土竜王は、店の前の酒樽に寄りかかってイビキをかいていた。幸せそうな寝顔だ。
「我が主ながら酒癖が悪く……わざわざ遠方からお越しいただいたのに申し訳ない」
ケリーが恐縮する。
「いや、急に押し掛けたのはこちらだ。出直すよ。俺達はカルセドニーの街のポアンさんにお世話になってるから、話せるようになったら知らせてくれないか」
「承りました」
他国の者でも竜王ということで、礼儀を尽くして対応してくれるようだ。
快諾したケリーは土竜王の巨体を引きずって店内に戻っていった。たぶん店の中に寝かせるつもりなのだろう。
「ケロケロ」
ふと気づくと樽の上に親指より大きいくらいのサイズの、緑色のアマガエルが乗っていた。
「まさか」
「なんだこのカエル」
ハヤテが指でつつこうとするのを、アサヒは咄嗟に止める。
「触るなハヤテ。たぶん、そのカエル、竜王だ」
「え、カエルが?! マジで?!」
凝視するハヤテの前でアマガエルは何くわぬ顔で「ケロケロ」と鳴いた。
どう見ても、ただのカエルにしか見えなかった。
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