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ピクシス奪還編
12 ピクシスの状況
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先にピクシスに帰ると宣言したハヤテは、土の島の竜騎士ケリーを相棒の背に乗せて空を駆けていた。アサヒと共にピクシスを脱出した時は努めて後のことを考えないようにしていたが、いざ帰るとなると気持ちがはやる。故郷は今、どうなっているのだろうか。
「……しかし、炎竜王があんな青年とは」
ケリーは茶色の髪を無造作に伸ばした優男だ。
竜王同士でぶつぶつ交換の対象になったことに最初は文句を言っていたが、早々に諦めたらしい。意外にさっぱりした顔だった。
同乗している彼の台詞に、ハヤテは眉を上げる。
「うちの竜王が頼りない子供だって?」
「違う違う、逆だ。まともな竜王でピクシスは良いと思ったのだ。はあ、スタン様ときたら日がな工房にこもって食事もまともに取られない。世話をする身になってくれ……」
愚痴を言うケリー。
聞いていたハヤテは新鮮な気持ちになった。
「へえ、ピクシスの竜王の方が良いって?」
「真面目な好青年ではないか。我が島の竜王と比べるべくもない。ハヤテ、君は水竜王に会ったことはあるか? あの方もだいぶおかしい。側近の苦労がしのばれる」
「水竜王がおかしい?」
「ああ。竜王というのは極めつけの変人ばかりだと思っていたのだが。まともな竜王も世の中にはいるのだな!」
ケリーはなんだか感動している。
よく分からないが、案外アサヒが炎竜王で良かったのかもしれない、とハヤテは思った。
「ところで、ピクシスは占領されているという話だが、内部の情報を得るアテはあるのか」
「そうだな……」
ハヤテは少し考えて答えた。
「王城詰めの巫女でスミレって娘がいるんだが、彼女は占領された時は王城じゃなくて街の方に降りてたはずだ」
巫女スミレは、新しい学院の寮を作るというアサヒに協力するために街中で暮らしている。王城の事情に通じていて確実にアサヒの味方でありながら、ノーマークである可能性が高い。
休まず高速で飛ぶハヤテの竜は、夜の闇にまぎれてピクシスに戻った。
久しぶりの故郷は灯りが少なく緊張した雰囲気に包まれている。
王都アケボノの上空にはコローナ所属と思われる竜が飛んでいたが、ハヤテ達は見つからずに街に入ることができた。
アサヒの新しい寮である洋館に向かう。
灯りが付いていない真っ暗な寮の建物には、人がいないように見えた。
「ここにはいないのか……?」
念のため扉を開けて中に入ろうとする。
「ハヤテ!」
「うわっ?!」
ケリーの警告にあわててハヤテは手を引っ込めた。
ヒュンと音を立てて手の上を投げナイフが通過する。
「あっぶねえ」
「……なんだ、クジョウさんでしたか。コローナの手合いなら首を落として差し上げようと思っていましたのに」
涼やかな女性の声がした。
物陰から現れたのは、艶やかな黒髪に淡い紫色の瞳をした少女だ。涼しい顔で手にしているのは、複数本の鋭いナイフである。
ハヤテはぎょっとした。
「す、スミレさん。その手の凶器は」
「嫌ですわ、これは淑女の身だしなみです。高貴な女性ほど殿方に対抗する刃を手にするもの」
「火の島の女性は物騒ですな……」
若干一名、土の島の竜騎士ケリーが火の島の習慣について誤解しつつあるが、ハヤテは彼への弁明を諦めた。それどころではない。
「ちょうど良かった! スミレさん、俺は島に帰ってきたばかりなんだよ。今のピクシスの状況を教えてくれ。アマネ女王は無事なのか? ヒズミは……?」
問いかけるとスミレは「場所を移しましょう」と言って武器をしまった。
彼女に先導されて寮の建物に入る。
カーテンを閉めきって外に明かりがもれないようにしてから、三人は声をひそめて情報交換をした。
「アマネ女王、そして巫女姫のミツキ様は王城におりますわ。警護と監視にコローナと、レイゼンの兵士が付いています」
「レイゼン?」
「真っ先にピクシスを裏切って降伏した者たちですわ。ただ……彼らは私のことも知っているでしょうに私を捕まえにきません。何か思惑があるのかもしれません」
ハヤテは、アサヒと仲が良いレイゼン家のハルトを思い出した。
彼が本当に炎竜王をみかぎったのか確認する必要がありそうだ。
「ヒズミ・コノエは、コローナの飛行船に囚われているようです。人望があるヒズミ様を下手に殺すと影響があると判断したのでしょう……」
ヒズミは生きているらしい。
ハヤテは安堵した。
まだ最悪の事態にはなっていないようだ。アサヒの言う通り、逆転の余地がある。
「よし。じゃあ、俺はこれから飛行船を偵察しに行く」
「内部がどうなってるか分からないのに危険だぞ」
「平気さ。炎竜王の加護がある」
善は急げ。
ハヤテは立ち上がって準備を整える。ケリーはスミレの元に残して、自分ひとりで行くつもりだった。
不思議と失敗する気がしない。
迷いなく目的に向かって進める。それが何故かと考えて、もっと早くにアサヒと話していれば良かったとハヤテは苦笑した。長い間ピクシスには竜王がいなかった。だから自分たちは竜王がどんな存在か、分かっていなかったのかもしれない。
強力な魔術を使えることだけが竜王の価値じゃない。
戦いに強いというだけなら一芸に秀でた竜騎士だっているだろう。
そうではなくて竜王は島の要、竜騎士達の中心にいるべき存在なのだ。彼を中心にすれば物事は万事うまく回る。
土の島の竜騎士ケリーだって、あんなに文句を言いつつ竜王の世話を焼いているのは、そういうことではないか。
アサヒは自分の役割が分かっている。分かっていなかったのはハヤテ達の方だった。彼が前に立って目標を指し示してくれるから、ハヤテ達は迷わず戦えるのだ。
スミレ達と別れ、闇にまぎれてハヤテは、コローナが王城近くに停泊させている飛行船へ向かった。
不器用で苦労性の友人のしかめつらを思い描く。ヒズミの奴は無事なんだろうか。
「……しかし、炎竜王があんな青年とは」
ケリーは茶色の髪を無造作に伸ばした優男だ。
竜王同士でぶつぶつ交換の対象になったことに最初は文句を言っていたが、早々に諦めたらしい。意外にさっぱりした顔だった。
同乗している彼の台詞に、ハヤテは眉を上げる。
「うちの竜王が頼りない子供だって?」
「違う違う、逆だ。まともな竜王でピクシスは良いと思ったのだ。はあ、スタン様ときたら日がな工房にこもって食事もまともに取られない。世話をする身になってくれ……」
愚痴を言うケリー。
聞いていたハヤテは新鮮な気持ちになった。
「へえ、ピクシスの竜王の方が良いって?」
「真面目な好青年ではないか。我が島の竜王と比べるべくもない。ハヤテ、君は水竜王に会ったことはあるか? あの方もだいぶおかしい。側近の苦労がしのばれる」
「水竜王がおかしい?」
「ああ。竜王というのは極めつけの変人ばかりだと思っていたのだが。まともな竜王も世の中にはいるのだな!」
ケリーはなんだか感動している。
よく分からないが、案外アサヒが炎竜王で良かったのかもしれない、とハヤテは思った。
「ところで、ピクシスは占領されているという話だが、内部の情報を得るアテはあるのか」
「そうだな……」
ハヤテは少し考えて答えた。
「王城詰めの巫女でスミレって娘がいるんだが、彼女は占領された時は王城じゃなくて街の方に降りてたはずだ」
巫女スミレは、新しい学院の寮を作るというアサヒに協力するために街中で暮らしている。王城の事情に通じていて確実にアサヒの味方でありながら、ノーマークである可能性が高い。
休まず高速で飛ぶハヤテの竜は、夜の闇にまぎれてピクシスに戻った。
久しぶりの故郷は灯りが少なく緊張した雰囲気に包まれている。
王都アケボノの上空にはコローナ所属と思われる竜が飛んでいたが、ハヤテ達は見つからずに街に入ることができた。
アサヒの新しい寮である洋館に向かう。
灯りが付いていない真っ暗な寮の建物には、人がいないように見えた。
「ここにはいないのか……?」
念のため扉を開けて中に入ろうとする。
「ハヤテ!」
「うわっ?!」
ケリーの警告にあわててハヤテは手を引っ込めた。
ヒュンと音を立てて手の上を投げナイフが通過する。
「あっぶねえ」
「……なんだ、クジョウさんでしたか。コローナの手合いなら首を落として差し上げようと思っていましたのに」
涼やかな女性の声がした。
物陰から現れたのは、艶やかな黒髪に淡い紫色の瞳をした少女だ。涼しい顔で手にしているのは、複数本の鋭いナイフである。
ハヤテはぎょっとした。
「す、スミレさん。その手の凶器は」
「嫌ですわ、これは淑女の身だしなみです。高貴な女性ほど殿方に対抗する刃を手にするもの」
「火の島の女性は物騒ですな……」
若干一名、土の島の竜騎士ケリーが火の島の習慣について誤解しつつあるが、ハヤテは彼への弁明を諦めた。それどころではない。
「ちょうど良かった! スミレさん、俺は島に帰ってきたばかりなんだよ。今のピクシスの状況を教えてくれ。アマネ女王は無事なのか? ヒズミは……?」
問いかけるとスミレは「場所を移しましょう」と言って武器をしまった。
彼女に先導されて寮の建物に入る。
カーテンを閉めきって外に明かりがもれないようにしてから、三人は声をひそめて情報交換をした。
「アマネ女王、そして巫女姫のミツキ様は王城におりますわ。警護と監視にコローナと、レイゼンの兵士が付いています」
「レイゼン?」
「真っ先にピクシスを裏切って降伏した者たちですわ。ただ……彼らは私のことも知っているでしょうに私を捕まえにきません。何か思惑があるのかもしれません」
ハヤテは、アサヒと仲が良いレイゼン家のハルトを思い出した。
彼が本当に炎竜王をみかぎったのか確認する必要がありそうだ。
「ヒズミ・コノエは、コローナの飛行船に囚われているようです。人望があるヒズミ様を下手に殺すと影響があると判断したのでしょう……」
ヒズミは生きているらしい。
ハヤテは安堵した。
まだ最悪の事態にはなっていないようだ。アサヒの言う通り、逆転の余地がある。
「よし。じゃあ、俺はこれから飛行船を偵察しに行く」
「内部がどうなってるか分からないのに危険だぞ」
「平気さ。炎竜王の加護がある」
善は急げ。
ハヤテは立ち上がって準備を整える。ケリーはスミレの元に残して、自分ひとりで行くつもりだった。
不思議と失敗する気がしない。
迷いなく目的に向かって進める。それが何故かと考えて、もっと早くにアサヒと話していれば良かったとハヤテは苦笑した。長い間ピクシスには竜王がいなかった。だから自分たちは竜王がどんな存在か、分かっていなかったのかもしれない。
強力な魔術を使えることだけが竜王の価値じゃない。
戦いに強いというだけなら一芸に秀でた竜騎士だっているだろう。
そうではなくて竜王は島の要、竜騎士達の中心にいるべき存在なのだ。彼を中心にすれば物事は万事うまく回る。
土の島の竜騎士ケリーだって、あんなに文句を言いつつ竜王の世話を焼いているのは、そういうことではないか。
アサヒは自分の役割が分かっている。分かっていなかったのはハヤテ達の方だった。彼が前に立って目標を指し示してくれるから、ハヤテ達は迷わず戦えるのだ。
スミレ達と別れ、闇にまぎれてハヤテは、コローナが王城近くに停泊させている飛行船へ向かった。
不器用で苦労性の友人のしかめつらを思い描く。ヒズミの奴は無事なんだろうか。
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