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ピクシス奪還編
20 勝利の凱旋
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戦意を失ったコローナの兵士達が逃げていく。
夕暮れの影響はピクシスの人々にも及んでいるため、積極的に追撃しようとする者は少なかった。ピクシスの空からコローナの竜騎士が去っていく。飛行船は帰りたい兵士を乗せて離陸を開始した。
「……やってくれたな、アサヒ」
黄金の竜に乗ったウェスぺが、霊廟の上で悔しそうに言う。
上空を見上げてアサヒは答えた。
「お前は忘れてたみたいだけど、ここは俺達の島だ。出張試合は地元のチームが強いって相場が決まってる」
もっとも、地球の野球やサッカーの国際試合の法則が異世界に当てはまるか謎だが。
「どうする? お前はまだ戦うか?」
コローナの民を帰した魔術は、さすがに竜王であるウェスぺには効かない。いまだ余裕を残した雰囲気でたたずむウェスぺに、アサヒは聞いた。
「どうしてもやるって言うなら相手になる。だけど俺の島を破壊するつもりなら、お前も道連れにしてやるから覚悟しろ。ここで命を賭けるか?」
「……このような辺境で命運を試す気などない」
忌々しそうにウェスぺは吐き捨てた。
敗北を認めても彼は尊大な態度を崩さない。
「今回は引き上げてやろう」
「次回があるのかよ……」
「無論、我が悲願の達成に必要であれば、また会うこともあるだろう」
黄金の竜は長い胴をくねらせて、ゆっくり上昇する。
アサヒは去りゆく光竜王を地上で見送った。
戦いが終わったと判断した相棒がヤモリの姿に戻る。ポスッと音を立てて小さな相棒はアサヒの頭の上に落ちた。
「アサヒーー!」
仲間達が空から降りてくる。
カズオミは今さら戦闘の恐怖を感じているのか半泣きだった。
「僕はもう駄目かと思ったよー」
「うんうん。頑張ったな、カズオミ」
竜から降りた友人をねぎらう。後ろでユエリが呆れた顔をしていた。彼女は修羅場慣れしているらしく、普段通りの調子だ。
「アサヒ」
深紅の竜から降りたヒズミが歩いてくる。
彼は光竜王との戦いで満身創痍のようだった。
「よく帰ってきたな。霧竜王に、光竜王との戦い……1日で終わるはずが随分長くなったものだ」
「本当にな」
思えば霧竜王を追い返すと言って島を出たのだ。すぐ戻るつもりが、光竜王の件で一週間近く掛かっている。
「あんたは霊廟の力使ったみたいだけど、大丈夫か? 顔色良くないぞ」
「このぐらい、どうということもない。それよりも、この機会に伝えておきたい事がある」
ヒズミに真剣な眼差しで見つめられて、アサヒは息をのんだ。
「何?」
「今まで理由あって教えなかったが、お前は私の……」
台詞の途中で背の高い男の身体がぐらりとかしぐ。
「おっと」
すぐさま、どこからか駆けつけたハヤテが彼の身体を支えた。途中で戦いに参加していたとアサヒも気付いていたが、それにしても神出鬼没である。
ヒズミは気を失っているらしい。
霊廟の力を使って限界まで戦ったのだから当然の結末だ。重そうに彼の身体を背負い直しながらハヤテが言う。
「全く、告白最中に寝るなんざ、しまらねえ兄貴だぜ」
「あ」
言っちゃったよ、こいつ。
ハヤテの十分過ぎるぶっちゃけにアサヒは溜め息をついた。
「それ言って良かったの? あんた前にこれはヒズミの口から言うべきだって言ってたじゃないか」
「ああ、口滑らせちまったぜ。というかアサヒ、やっぱり気付いてたんだな」
アサヒは肩をすくめる。
竜王の記憶と、最近ようやく鮮明になってきた幼い頃の記憶、両方から照らし合わせてヒズミの正体は推測可能だった。ただ何となく、お互いに気まずくて確認できなかっただけで。
「じゃあ、俺は何も言わなかったってことで、オフレコにしてくれ。後でもっかい告白を……」
「いや、もう良いから」
CM後の番組再開じゃあるまいし。もう分かってるのに知らない顔をして聞くなんて、笑いをこらえるので精一杯で絶対話にならない。
ハヤテの言葉にアサヒは手を横に降る。
「後でちゃんと話すから、その馬鹿兄貴をベッドの中に放り込んでおいてくれ」
「言うねえ、さすが竜王陛下。承りました、と」
よいしょっと荷物を背負い直すと、ハヤテは自分の相棒の青い竜に乗った。動かない大の男を運搬するのだから、竜に乗せて運ぶのは適切だろう。
青い竜が街に向かうのを見送って、アサヒはカズオミとユエリを振り返った。
「じゃあ、帰ろうか」
「新しい寮はどうなってるのかな……」
疲れたし帰って寝ようと思っていたアサヒだが、行く手をさえぎるように、渦巻いた角が特徴の太った火竜がドーンと着陸した。
「待て待て待てーいっ!」
「ハルト?!」
「アサヒ、逃がさんぞ! 貴様には竜王としての仕事がまだ残ってる。ヒズミ様が不在だから、上で状況を判断する者が必要なのだ」
「ほ、ほら。皆いったん解散で明日にするのは」
「駄目だ! 叔父上から首に縄を付けてでも竜王陛下を連れてくるように言われている!」
逃げようとしたアサヒの襟首をがっしとハルトがつかむ。
だから竜王だって名乗りたくなかったんだ、とアサヒは表舞台に出た自分の行動を後悔した。せっかくヒズミが良い感じに目立って代理の竜王として頑張ってくれていたのに、派手に名乗りを上げたせいで注目されてしまった。
「さあ行くぞ!」
「頑張ってねー、アサヒ」
「しっかり働くのよ」
「トホホ……」
薄情にもカズオミとユエリは新しい寮に帰ってしまう。
仕方なくアサヒはハルトと一緒に竜騎士達のもとに戻って、戦後の後片付けをどうするか細々と指示を出すのだった。
ちなみにヒズミ・コノエはぶっ倒れて熱を出したため、アサヒは一週間ほど竜王として真面目に仕事をすることになった。
-------------------------------------------
ご拝読ありがとうございました。
こちらでピクシズ奪還編は終了です。
次の「5島連盟編」が最後になります。
夕暮れの影響はピクシスの人々にも及んでいるため、積極的に追撃しようとする者は少なかった。ピクシスの空からコローナの竜騎士が去っていく。飛行船は帰りたい兵士を乗せて離陸を開始した。
「……やってくれたな、アサヒ」
黄金の竜に乗ったウェスぺが、霊廟の上で悔しそうに言う。
上空を見上げてアサヒは答えた。
「お前は忘れてたみたいだけど、ここは俺達の島だ。出張試合は地元のチームが強いって相場が決まってる」
もっとも、地球の野球やサッカーの国際試合の法則が異世界に当てはまるか謎だが。
「どうする? お前はまだ戦うか?」
コローナの民を帰した魔術は、さすがに竜王であるウェスぺには効かない。いまだ余裕を残した雰囲気でたたずむウェスぺに、アサヒは聞いた。
「どうしてもやるって言うなら相手になる。だけど俺の島を破壊するつもりなら、お前も道連れにしてやるから覚悟しろ。ここで命を賭けるか?」
「……このような辺境で命運を試す気などない」
忌々しそうにウェスぺは吐き捨てた。
敗北を認めても彼は尊大な態度を崩さない。
「今回は引き上げてやろう」
「次回があるのかよ……」
「無論、我が悲願の達成に必要であれば、また会うこともあるだろう」
黄金の竜は長い胴をくねらせて、ゆっくり上昇する。
アサヒは去りゆく光竜王を地上で見送った。
戦いが終わったと判断した相棒がヤモリの姿に戻る。ポスッと音を立てて小さな相棒はアサヒの頭の上に落ちた。
「アサヒーー!」
仲間達が空から降りてくる。
カズオミは今さら戦闘の恐怖を感じているのか半泣きだった。
「僕はもう駄目かと思ったよー」
「うんうん。頑張ったな、カズオミ」
竜から降りた友人をねぎらう。後ろでユエリが呆れた顔をしていた。彼女は修羅場慣れしているらしく、普段通りの調子だ。
「アサヒ」
深紅の竜から降りたヒズミが歩いてくる。
彼は光竜王との戦いで満身創痍のようだった。
「よく帰ってきたな。霧竜王に、光竜王との戦い……1日で終わるはずが随分長くなったものだ」
「本当にな」
思えば霧竜王を追い返すと言って島を出たのだ。すぐ戻るつもりが、光竜王の件で一週間近く掛かっている。
「あんたは霊廟の力使ったみたいだけど、大丈夫か? 顔色良くないぞ」
「このぐらい、どうということもない。それよりも、この機会に伝えておきたい事がある」
ヒズミに真剣な眼差しで見つめられて、アサヒは息をのんだ。
「何?」
「今まで理由あって教えなかったが、お前は私の……」
台詞の途中で背の高い男の身体がぐらりとかしぐ。
「おっと」
すぐさま、どこからか駆けつけたハヤテが彼の身体を支えた。途中で戦いに参加していたとアサヒも気付いていたが、それにしても神出鬼没である。
ヒズミは気を失っているらしい。
霊廟の力を使って限界まで戦ったのだから当然の結末だ。重そうに彼の身体を背負い直しながらハヤテが言う。
「全く、告白最中に寝るなんざ、しまらねえ兄貴だぜ」
「あ」
言っちゃったよ、こいつ。
ハヤテの十分過ぎるぶっちゃけにアサヒは溜め息をついた。
「それ言って良かったの? あんた前にこれはヒズミの口から言うべきだって言ってたじゃないか」
「ああ、口滑らせちまったぜ。というかアサヒ、やっぱり気付いてたんだな」
アサヒは肩をすくめる。
竜王の記憶と、最近ようやく鮮明になってきた幼い頃の記憶、両方から照らし合わせてヒズミの正体は推測可能だった。ただ何となく、お互いに気まずくて確認できなかっただけで。
「じゃあ、俺は何も言わなかったってことで、オフレコにしてくれ。後でもっかい告白を……」
「いや、もう良いから」
CM後の番組再開じゃあるまいし。もう分かってるのに知らない顔をして聞くなんて、笑いをこらえるので精一杯で絶対話にならない。
ハヤテの言葉にアサヒは手を横に降る。
「後でちゃんと話すから、その馬鹿兄貴をベッドの中に放り込んでおいてくれ」
「言うねえ、さすが竜王陛下。承りました、と」
よいしょっと荷物を背負い直すと、ハヤテは自分の相棒の青い竜に乗った。動かない大の男を運搬するのだから、竜に乗せて運ぶのは適切だろう。
青い竜が街に向かうのを見送って、アサヒはカズオミとユエリを振り返った。
「じゃあ、帰ろうか」
「新しい寮はどうなってるのかな……」
疲れたし帰って寝ようと思っていたアサヒだが、行く手をさえぎるように、渦巻いた角が特徴の太った火竜がドーンと着陸した。
「待て待て待てーいっ!」
「ハルト?!」
「アサヒ、逃がさんぞ! 貴様には竜王としての仕事がまだ残ってる。ヒズミ様が不在だから、上で状況を判断する者が必要なのだ」
「ほ、ほら。皆いったん解散で明日にするのは」
「駄目だ! 叔父上から首に縄を付けてでも竜王陛下を連れてくるように言われている!」
逃げようとしたアサヒの襟首をがっしとハルトがつかむ。
だから竜王だって名乗りたくなかったんだ、とアサヒは表舞台に出た自分の行動を後悔した。せっかくヒズミが良い感じに目立って代理の竜王として頑張ってくれていたのに、派手に名乗りを上げたせいで注目されてしまった。
「さあ行くぞ!」
「頑張ってねー、アサヒ」
「しっかり働くのよ」
「トホホ……」
薄情にもカズオミとユエリは新しい寮に帰ってしまう。
仕方なくアサヒはハルトと一緒に竜騎士達のもとに戻って、戦後の後片付けをどうするか細々と指示を出すのだった。
ちなみにヒズミ・コノエはぶっ倒れて熱を出したため、アサヒは一週間ほど竜王として真面目に仕事をすることになった。
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ご拝読ありがとうございました。
こちらでピクシズ奪還編は終了です。
次の「5島連盟編」が最後になります。
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