4 / 126
真白山脈のフェンリル一家
04 これって家出にあたります?
しおりを挟む
爺さんと孫娘は、じたばたする俺を抱えて山の麓の集落に向かった。そこは本当に小さな村で、山あいの川の近くに十数軒、民家が立ち並んでいる。
「ちょっと、サムズ爺さん、あんたの孫娘が抱えているそれは!」
洗濯物を抱えたおばさんが、目ざとく孫娘が抱きしめた子狼、すなわち俺を見つける。
「まさかフェンリル様の子供?!」
「そうかもしれんなあ」
「サムズ爺さん、のんき過ぎ! フェンリル様が怒ったら、こんな村なんてあっという間に雪に飲まれちまう!」
おばさんはオーマイガーと洗濯物を放り出して右往左往した。
爺さんはバツの悪そうな顔でぼんやりしている。
集まってきた村人が俺を見て絶望した顔になった。
「みつぎ物だ! 誰かニワトリを捕まえろ! フェンリル様にニワトリを献上して許しを請うんだ!」
「コケーコッコッコ!」
「え? 何、どういうこと?」
孫娘だけは事態をよく分かっていない。
大急ぎで即席の祭壇が設けられ、俺は孫娘に抱えられたまま、上座にすえられた。どうやらこの村では、フェンリルは神様として崇められているようだ。
新鮮なニワトリの肉が捧げられる。
うむ。くるしゅうない。
お腹が空いていた俺は、ニワトリ肉に飛び付いた。
「これで許してもらえるかな……?」
村人たちは不安そうだ。
俺がニワトリ肉を八割がた食べ終えたところで突風が吹き、噂のフェンリル兄二匹が駆けつけてきた。
「おのれ人間ども、俺の可愛いいも、弟をどこへやった?!」
今、妹って言いかけなかった、クロス兄……?
「ヴヴヴ……!」
ウォルト兄は派手に牙をむき出しにして唸っている。
村人は真っ青になって、フェンリルの巨体を見上げていた。
「兄たーん」
俺は兄と合流しようと、手足をパタパタ動かした。
しかし孫娘がしっかり俺を抱きしめているせいで、前に進まない。
「ワンちゃん行かないで!」
ちょっと君、空気を読もうよ。
「小娘、ゼフィを離せ……!」
クロス兄がギラリと孫娘を射殺しそうな目で見たが、孫娘はひるまなかった。
「ワンちゃんはもう私の家族なんだもん! 私が守るんだから!」
すごい勇気だ、尊敬する。しかし発揮する場所を間違えてないか。
案の定、キレたクロス兄が天高く吠えた。
「滅びろ人間!」
ざざざざー……と山の上から轟音が聞こえてくる。
雪崩の前兆だ。
クロス兄は神獣フェンリルの力で雪崩を起こし、村ごと邪魔な人間を一掃しようとしている。
「もう駄目だ……皆、死んでしまう」
洗濯物を拾い集めたおばさんが、虚ろな目をした。
やり過ぎだよ、クロス兄、ウォルト兄。
こんな小さな子供の我がままで、無駄に命を奪う必要はないと思う。それに俺はニワトリをご馳走になったから、ここで彼らを見捨てたら食い逃げになっちゃう。
「やめりょーーーっ」
舌かんだ。
俺は精一杯、制止の声を上げたつもりだった。
しかし次の瞬間、俺の鳴き声は不思議なエコーがかかって、何かの楽器のように白銀の峰に響き渡った。
「え……?」
集落の直前まで迫っていた雪崩の音がピタリと止まる。
粉雪まじりの風が余韻のように、村人とフェンリル兄弟の間を静かに吹き抜けた。
「……今の、ゼフィが俺たちの起こした雪崩を止めたのか……?」
クロス兄が呆然と呟く。
雪崩止まったの? よく分からないけど、結果オーライだ。
「兄たん、めっ。キライになっちゃうよ!」
「……(がーん)」
俺は幼児なりに一生懸命、兄を説得しようとした。
しかし、いかんせん語彙が少ないのでうまく伝わらない。 兄二匹は、俺が反抗期になったように受け取ったらしい。
「出直してくる……」
「……(しょぼーん)」
クロス兄とウォルト兄は、耳と尻尾を垂れて、山の上に引き返していった。あれれ? 俺、兄たんと山に戻るつもりだったんだけどな。
「やったね、ワンちゃん!」
頬をすり寄せてくる孫娘。
諸悪の根源はこいつだ。いったいどうしてくれよう。
ちなみに俺たちフェンリルの会話は、人間には聞こえない狼の吠え声だ。母上は魔法を使って人間の言葉を話せるようだが、普段の会話は狼語である。
狼語が分からない村人には、フェンリルがなぜ退却したか分からない。
分からないなりに、子狼の俺が他のフェンリルを説得してくれたように見えたのだろう。
「おお、村の守り神じゃ!」
村人は俺を崇めたてまつった。
なんだかなあ。
前世を思い出して俺は憂鬱になる。
昔、人間だった頃。俺は剣一本で大勢を救って英雄と呼ばれた。だけど利用価値がなくなった途端に、持ち上げていた人たちは手のひらを返したのだ。
人間は信用できない。
はやいとこ、兄たんや母上に迎えにきてもらって、暖かいフェンリルの洞窟に帰りたい。
遠い目になっていると、孫娘が自己紹介してきた。
「ワンちゃん、私はティオっていうの。これからよろしくね!」
よろしくじゃねーよ!
俺はフェンリルの家族のところへ帰るんだからな!
「ちょっと、サムズ爺さん、あんたの孫娘が抱えているそれは!」
洗濯物を抱えたおばさんが、目ざとく孫娘が抱きしめた子狼、すなわち俺を見つける。
「まさかフェンリル様の子供?!」
「そうかもしれんなあ」
「サムズ爺さん、のんき過ぎ! フェンリル様が怒ったら、こんな村なんてあっという間に雪に飲まれちまう!」
おばさんはオーマイガーと洗濯物を放り出して右往左往した。
爺さんはバツの悪そうな顔でぼんやりしている。
集まってきた村人が俺を見て絶望した顔になった。
「みつぎ物だ! 誰かニワトリを捕まえろ! フェンリル様にニワトリを献上して許しを請うんだ!」
「コケーコッコッコ!」
「え? 何、どういうこと?」
孫娘だけは事態をよく分かっていない。
大急ぎで即席の祭壇が設けられ、俺は孫娘に抱えられたまま、上座にすえられた。どうやらこの村では、フェンリルは神様として崇められているようだ。
新鮮なニワトリの肉が捧げられる。
うむ。くるしゅうない。
お腹が空いていた俺は、ニワトリ肉に飛び付いた。
「これで許してもらえるかな……?」
村人たちは不安そうだ。
俺がニワトリ肉を八割がた食べ終えたところで突風が吹き、噂のフェンリル兄二匹が駆けつけてきた。
「おのれ人間ども、俺の可愛いいも、弟をどこへやった?!」
今、妹って言いかけなかった、クロス兄……?
「ヴヴヴ……!」
ウォルト兄は派手に牙をむき出しにして唸っている。
村人は真っ青になって、フェンリルの巨体を見上げていた。
「兄たーん」
俺は兄と合流しようと、手足をパタパタ動かした。
しかし孫娘がしっかり俺を抱きしめているせいで、前に進まない。
「ワンちゃん行かないで!」
ちょっと君、空気を読もうよ。
「小娘、ゼフィを離せ……!」
クロス兄がギラリと孫娘を射殺しそうな目で見たが、孫娘はひるまなかった。
「ワンちゃんはもう私の家族なんだもん! 私が守るんだから!」
すごい勇気だ、尊敬する。しかし発揮する場所を間違えてないか。
案の定、キレたクロス兄が天高く吠えた。
「滅びろ人間!」
ざざざざー……と山の上から轟音が聞こえてくる。
雪崩の前兆だ。
クロス兄は神獣フェンリルの力で雪崩を起こし、村ごと邪魔な人間を一掃しようとしている。
「もう駄目だ……皆、死んでしまう」
洗濯物を拾い集めたおばさんが、虚ろな目をした。
やり過ぎだよ、クロス兄、ウォルト兄。
こんな小さな子供の我がままで、無駄に命を奪う必要はないと思う。それに俺はニワトリをご馳走になったから、ここで彼らを見捨てたら食い逃げになっちゃう。
「やめりょーーーっ」
舌かんだ。
俺は精一杯、制止の声を上げたつもりだった。
しかし次の瞬間、俺の鳴き声は不思議なエコーがかかって、何かの楽器のように白銀の峰に響き渡った。
「え……?」
集落の直前まで迫っていた雪崩の音がピタリと止まる。
粉雪まじりの風が余韻のように、村人とフェンリル兄弟の間を静かに吹き抜けた。
「……今の、ゼフィが俺たちの起こした雪崩を止めたのか……?」
クロス兄が呆然と呟く。
雪崩止まったの? よく分からないけど、結果オーライだ。
「兄たん、めっ。キライになっちゃうよ!」
「……(がーん)」
俺は幼児なりに一生懸命、兄を説得しようとした。
しかし、いかんせん語彙が少ないのでうまく伝わらない。 兄二匹は、俺が反抗期になったように受け取ったらしい。
「出直してくる……」
「……(しょぼーん)」
クロス兄とウォルト兄は、耳と尻尾を垂れて、山の上に引き返していった。あれれ? 俺、兄たんと山に戻るつもりだったんだけどな。
「やったね、ワンちゃん!」
頬をすり寄せてくる孫娘。
諸悪の根源はこいつだ。いったいどうしてくれよう。
ちなみに俺たちフェンリルの会話は、人間には聞こえない狼の吠え声だ。母上は魔法を使って人間の言葉を話せるようだが、普段の会話は狼語である。
狼語が分からない村人には、フェンリルがなぜ退却したか分からない。
分からないなりに、子狼の俺が他のフェンリルを説得してくれたように見えたのだろう。
「おお、村の守り神じゃ!」
村人は俺を崇めたてまつった。
なんだかなあ。
前世を思い出して俺は憂鬱になる。
昔、人間だった頃。俺は剣一本で大勢を救って英雄と呼ばれた。だけど利用価値がなくなった途端に、持ち上げていた人たちは手のひらを返したのだ。
人間は信用できない。
はやいとこ、兄たんや母上に迎えにきてもらって、暖かいフェンリルの洞窟に帰りたい。
遠い目になっていると、孫娘が自己紹介してきた。
「ワンちゃん、私はティオっていうの。これからよろしくね!」
よろしくじゃねーよ!
俺はフェンリルの家族のところへ帰るんだからな!
532
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる