5 / 126
真白山脈のフェンリル一家
05 迎えにきてください
しおりを挟む「ワンちゃーん、そこは寒いよー?」
狩人の爺さんの孫娘、ティオが暖炉の前で手招きする。
しかし俺はがんとして扉の近くから動かない。
雪と氷でできているようなフェンリルが火の近くに寄るなんて、自殺行為だ。溶けちゃうよ。
「もうー」
ティオは頬をふくらませたが、あきらめたようだ。
暖炉の前で服を着替え始める。
ここは爺さんの家の中だ。
フェンリル兄二匹が引きあげた後、俺は爺さんの家の中に連れ込まれた。
俺は逃げ出した方がいいのかしらん、と悩んだ。
しかし夕方になって外は吹雪が舞い始める。
外で迷子になって、穴に落っこちたり、モンスターにおそわれたりしたら困る。真白山脈の最強はフェンリルといえ、俺はまだチビっ子だ。前に食べた竜だって、俺ひとりなら逆に食べられてしまうかもしれない。
だから母上や兄たんが迎えにくるまで待つことにした。
人間の家の中は、フェンリルの洞窟より暖かい。
蒸し暑いと言っていいくらいだ。
どうやら人間で体温の高い子供のティオも、そこそこ暑いと思っているらしく、綿の入っている分厚い上着を豪快にぽいぽい脱ぎ捨てている。
「ちょっと待って、女の子のはだかは……」
ティオが下着に手をかけたのに気付き、俺はドキリとした。
成人男性だった前世の記憶がやましい思いを抱かせる。
「なーに、ワンちゃん」
「ふえっ?!」
キューンと鳴いた俺に気付いて、ティオはこちらを振り返る。
ティオは輝くような金髪を背中まで伸ばした、可愛い女の子だ。
成長途中の柔らかい体はすんなりしていて、胸にはふくらみが……ふくらみが無い?
んんん?
「男ッ?!」
ついでに股の間に女性には無いものを発見してしまい、俺は悲鳴をあげた。
ああ、見たくないものを見てしまった気分だ。
心がけがれてしまった……。
俺の動揺をよそに、ティオはさっさと室内用の薄着に着替え終えた。
「ワンちゃん、母さまを紹介するね」
すっかり意気消沈してしまった俺は、ティオに抱えられて為すすべなく部屋を移動させられた。
別室のベッドに顔色の悪い女性が横たわっている。
彼女とティオは親子らしく、髪の色や雰囲気が似ていた。
「ああ、ティオ。その子犬は……」
「母さま。お爺ちゃんと一緒に山に入ったときに、拾ったの!」
ティオは俺の脇に手を入れて、ベッドに向けて「ほらこれ!」と見せびらかした。
もはや抵抗する気力のない俺は少年の手の中でビローンと伸びている。
病人らしいティオの母は、ベッドに横たわったまま、注意深く俺を観察した。
血の気のない唇から祈りのような言葉がもれる。
「ああ、神様。この先に待つ過酷な運命からティオを守ってください……」
なんだ? 俺がフェンリルの子供だと分かっているのか?
真剣な目で見つめられて俺は不思議に思った。
「ティオ、家の外で服を脱いではだめよ。ちゃんと女の子らしい言葉使いと行動をするのよ。木に登ったり、動物を追いかけたりしてはだめ……」
「もう、分かってるよ! 母さまはしつこい!」
親の思い子は知らず、か。
ティオはうるさく言われてむくれているようだ。
俺は隙を見て、ティオの手から飛び降りた。
「あっ! 逃げないでワンちゃん」
逃げねーよ。ここで逃げても面倒なことになるだけだ。
部屋の隅に積まれた藁の束の上に乗っかって、休憩の体勢をとる。
「ティオ、寝かせてあげなさい。それよりも、今日あったことを教えてくれる?」
俺を捕まえようとしたティオを制止し、ティオの母親は穏やかな声を出しながら、布団から腕をだして少年の頭を撫でた。優しく愛情のこもった仕草だ。
「今日はね……」
部屋の隅で丸くなって眠り始めた俺の姿を見て、ティオは安心したようだ。
母親と向き合って会話を始める。
パチパチと暖炉で焚き木がはぜる音がした。
楽しげな母親と子供の話し声が聞こえる。
強くなり始めた吹雪の音は、厚い壁に阻まれ、家族の団欒に温められて、静かな音楽のように遠くで鳴り響いた。
俺はうつらうつら眠りながら、人間の頃の記憶を思い出していた。
前世の俺の母親は、旅芸人一座の踊り子だったらしい。
一座を脱退して父親と結婚した。
歌と舞踊が得意な母親は、幼い俺に異国の歌や不思議な踊りを教えてくれた。
いつも眠る前に聞かせてくれた子守歌、あれはどんな歌だったっけ……。
「ワンちゃん、唄ってるの……?」
無意識のうちに俺は鼻歌を唄っていたらしい。
まあ子犬の鳴き声なのでメロディーになっちゃいなかったと思うが。
それにしても、はやく兄たん迎えにきてくれないかな。
寂しくなっちゃうよ。
540
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる