10 / 126
ゼフィの魔法
10 変身魔法は難しいです
神獣ヨルムンガンドは「詳しいことはまた後日に」と言って東の海に帰って行った。
人間の姿に変身する魔法を、練習しないとな。
そういえば、人間以外の動物にも変身できるのだろうか。
早速、俺は実験してみることにした。
フェンリルのねぐらである洞窟の近くに棲む、ロックイーグルという鳥を観察する。
ロックイーグルの姿をしっかり記憶してから、目を閉じて初めて変身した時の感覚を思い出す。身体の奥のザワザワする気配を引っ張りだして、全身に行き渡らせた。
「どうかな……?」
俺は手足を見下ろしてがっかりした。子狼の姿のまま、背中に鳥の翼だけくっ付けた姿だったからだ。
どうやら目立つ翼ばっかり見てしまい、他の観察をおろそかにして失敗したらしい。
何回も試した結果、どうにか全身、鳥の姿に変身できるようになった。
ロックイーグルは茶色い鳥で、猛禽類らしい尖った嘴が特徴だが、そこまで再現できているかどうか怪しい。鏡が無いから全身を見ることはできないが、羽毛の色はフェンリルの時と同じ白銀だ。
だが細かいことは置いておいてもいい。
鳥と言えば空を飛ぶものだ。
すなわち空を飛ぶことができれば、俺の目標は半分以上、達成されたと言っていいだろう。
「とんでみる……!」
「おい、ちょっと待てゼフィ!」
兄たんたちが止めるが、俺は初めて得た翼を使ってみたくて仕方なかった。
助走を付けて、翼を広げ、岩の上から飛び降りる。
うまいこと風をとらえたのか、俺の身体は大空に舞い上がった!
「ゼフィーっ、危ないから戻っておいで!」
「やだー!」
空を飛ぶ俺を追って地面を走りながら、兄たんたちはおろおろする。
変なの。兄たんたちも鳥に変身してみればいいのに。
それにしても風を切って飛ぶって、爽快!
「わーい……あれ? これ、どうやってちゃくちするんだろ」
飛んでから気付く。
鳥はどうやって地面に降りるのか。
しまった、飛ぶことばっかり考えて、降りる方法を失念してた。
えーと、ゆっくり低空飛行に移ればいいんだよな。
どうやって高度を下げるんだ……?
「う、わわっ」
ポンッと音を立てて、俺は元の姿に戻った。
魔法の時間切れだ。
「ゼフィ!」
「わあああああーーっ」
悲鳴を上げながら雪が積もる森へ急降下。
フェンリルは頑丈だから死にはしない。
樹氷を踏み砕き、積雪を舞い上がらせて、派手な着地を披露する。
死なないけど、死ぬほど驚いた。
「ふおあ……」
「……ワンちゃん?」
目を回していると、人間の気配が寄ってくる。
「探してたんだよ、ワンちゃん!」
またお前か。
金髪の可愛い女の子(に見える)ティオに拾いあげられて、猛烈に頬擦りされる。俺は犬じゃねえ。
「ティオ! ああ、フェンリルさま、違うんです」
「人間が、またゼフィを……!」
追ってきた兄たんたちと、子狼を抱き締める孫の間で、サムズ爺さんは右往左往した。唯一の常識人である爺さんに同情を禁じえない状況だ。
クロス兄がわなわな震えている。
「俺たちのゼフィに頬擦りとは万死に値する……!」
おう、このままでは修羅場ふたたび?
何とかせねば。
「兄たん、おれ、人間にへんしんする、れんしゅうしたい。人間、ほろぼさないで」
「練習なら俺たちが見てやる!」
「人間、じつぶつ、だいじ」
「くっ」
分かってもらえたようだ。
「……分かった、人間に攻撃しない。だがな、俺は人間は大っ嫌いなんだよ! くそっ」
「兄たん?」
クロス兄は急に怒って駆け出して行ってしまった。
え? え? 俺が悪いの?
不安になっていると、残っていたウォルト兄が近寄ってきた。
「気にするな、ゼフィ。クロスは意地を張っているだけだ。あいつは本当は……」
「??」
ウォルト兄は途中で言葉を切ったので、続きは分からない。
巨大な狼が近寄ったにも関わらず、怖がらないティオは、俺をしっかり抱えて坂道を下り始めた。
雰囲気で孫が食べられる心配がないと判断したのか、サムズ爺さんは胸を撫で下ろしている。
「ワンちゃん、汚れてるね。一緒にお風呂に入ろう!」
「ふろ?!」
やばっ、熱い水になんか浸けられたら、フェンリル的に死んじゃう。というか、単に熱いの苦手なだけだけど。
無言でティオの後を付いてくるウォルト兄。
変な雰囲気のまま、俺たちは村に入る。
一番先に俺たちを見つけた例のおばさんが、驚愕のあまり洗濯物を取り落とす。
「サムズ爺さん、そ、その後ろのフェンリルさまは?!」
「付いてきてしまった……」
「照れ笑いで誤魔化すんじゃないよっ」
なぜか照れている爺さんの胸ぐらを掴み、洗濯おばさんが叫んだ。
しかし平常運転のティオは、大人たちのやり取りを気にもかけず、さっさと自分の家に入っていく。
ウォルト兄も後に付いて入ろうとして、扉で詰まった。
「……(むぎゅう)……」
「おお、フェンリルさま。きちんとお返しするので、家の外で待っていてくれんかの。こら、ティオ!」
サムズ爺さんは、ウォルト兄に丁寧にお願いすると、俺を抱えたティオを追った。
通路を進みながら鼻歌をうたうティオ。
「るるるんる~ん。おふろ~♪」
おおお、このままでは熱湯地獄に放り込まれてしまう!
俺は必死にじたばたした。
そうだ! 今こそ人間に変身する時だ。
「今、お湯を沸かすからね。待っててね、ワンちゃん」
風呂に使っているらしい、大きな木の樽の前で、ティオは俺を手放す。今だ。ティオが背中を向けた隙に、俺は人間に変身した。
一瞬で目線が高くなり、見覚えのある少年の手足が目に入る。
変身は完璧なようだ。
しかし残念なことに、すっぽんぽんである。
最初の変身の時に猫娘のルーナが「服と靴はサービスよ」と言っていたことを、俺は思い出した。
「待って、ティオ」
やっぱり人間の姿だと子狼の時と違って、普通にしゃべれるな。
感動しながら、ゆっくり立ち上がる。
ティオを追ってきたサムズ爺さんが、俺に気付いて目を見張った。
振り返ってびっくりした顔をするティオに、微笑みかける。
「風呂は良いから、服、貸してくれない?」
噛まずに爽やかに言った俺を、誰か褒めて欲しい。
人間の姿に変身する魔法を、練習しないとな。
そういえば、人間以外の動物にも変身できるのだろうか。
早速、俺は実験してみることにした。
フェンリルのねぐらである洞窟の近くに棲む、ロックイーグルという鳥を観察する。
ロックイーグルの姿をしっかり記憶してから、目を閉じて初めて変身した時の感覚を思い出す。身体の奥のザワザワする気配を引っ張りだして、全身に行き渡らせた。
「どうかな……?」
俺は手足を見下ろしてがっかりした。子狼の姿のまま、背中に鳥の翼だけくっ付けた姿だったからだ。
どうやら目立つ翼ばっかり見てしまい、他の観察をおろそかにして失敗したらしい。
何回も試した結果、どうにか全身、鳥の姿に変身できるようになった。
ロックイーグルは茶色い鳥で、猛禽類らしい尖った嘴が特徴だが、そこまで再現できているかどうか怪しい。鏡が無いから全身を見ることはできないが、羽毛の色はフェンリルの時と同じ白銀だ。
だが細かいことは置いておいてもいい。
鳥と言えば空を飛ぶものだ。
すなわち空を飛ぶことができれば、俺の目標は半分以上、達成されたと言っていいだろう。
「とんでみる……!」
「おい、ちょっと待てゼフィ!」
兄たんたちが止めるが、俺は初めて得た翼を使ってみたくて仕方なかった。
助走を付けて、翼を広げ、岩の上から飛び降りる。
うまいこと風をとらえたのか、俺の身体は大空に舞い上がった!
「ゼフィーっ、危ないから戻っておいで!」
「やだー!」
空を飛ぶ俺を追って地面を走りながら、兄たんたちはおろおろする。
変なの。兄たんたちも鳥に変身してみればいいのに。
それにしても風を切って飛ぶって、爽快!
「わーい……あれ? これ、どうやってちゃくちするんだろ」
飛んでから気付く。
鳥はどうやって地面に降りるのか。
しまった、飛ぶことばっかり考えて、降りる方法を失念してた。
えーと、ゆっくり低空飛行に移ればいいんだよな。
どうやって高度を下げるんだ……?
「う、わわっ」
ポンッと音を立てて、俺は元の姿に戻った。
魔法の時間切れだ。
「ゼフィ!」
「わあああああーーっ」
悲鳴を上げながら雪が積もる森へ急降下。
フェンリルは頑丈だから死にはしない。
樹氷を踏み砕き、積雪を舞い上がらせて、派手な着地を披露する。
死なないけど、死ぬほど驚いた。
「ふおあ……」
「……ワンちゃん?」
目を回していると、人間の気配が寄ってくる。
「探してたんだよ、ワンちゃん!」
またお前か。
金髪の可愛い女の子(に見える)ティオに拾いあげられて、猛烈に頬擦りされる。俺は犬じゃねえ。
「ティオ! ああ、フェンリルさま、違うんです」
「人間が、またゼフィを……!」
追ってきた兄たんたちと、子狼を抱き締める孫の間で、サムズ爺さんは右往左往した。唯一の常識人である爺さんに同情を禁じえない状況だ。
クロス兄がわなわな震えている。
「俺たちのゼフィに頬擦りとは万死に値する……!」
おう、このままでは修羅場ふたたび?
何とかせねば。
「兄たん、おれ、人間にへんしんする、れんしゅうしたい。人間、ほろぼさないで」
「練習なら俺たちが見てやる!」
「人間、じつぶつ、だいじ」
「くっ」
分かってもらえたようだ。
「……分かった、人間に攻撃しない。だがな、俺は人間は大っ嫌いなんだよ! くそっ」
「兄たん?」
クロス兄は急に怒って駆け出して行ってしまった。
え? え? 俺が悪いの?
不安になっていると、残っていたウォルト兄が近寄ってきた。
「気にするな、ゼフィ。クロスは意地を張っているだけだ。あいつは本当は……」
「??」
ウォルト兄は途中で言葉を切ったので、続きは分からない。
巨大な狼が近寄ったにも関わらず、怖がらないティオは、俺をしっかり抱えて坂道を下り始めた。
雰囲気で孫が食べられる心配がないと判断したのか、サムズ爺さんは胸を撫で下ろしている。
「ワンちゃん、汚れてるね。一緒にお風呂に入ろう!」
「ふろ?!」
やばっ、熱い水になんか浸けられたら、フェンリル的に死んじゃう。というか、単に熱いの苦手なだけだけど。
無言でティオの後を付いてくるウォルト兄。
変な雰囲気のまま、俺たちは村に入る。
一番先に俺たちを見つけた例のおばさんが、驚愕のあまり洗濯物を取り落とす。
「サムズ爺さん、そ、その後ろのフェンリルさまは?!」
「付いてきてしまった……」
「照れ笑いで誤魔化すんじゃないよっ」
なぜか照れている爺さんの胸ぐらを掴み、洗濯おばさんが叫んだ。
しかし平常運転のティオは、大人たちのやり取りを気にもかけず、さっさと自分の家に入っていく。
ウォルト兄も後に付いて入ろうとして、扉で詰まった。
「……(むぎゅう)……」
「おお、フェンリルさま。きちんとお返しするので、家の外で待っていてくれんかの。こら、ティオ!」
サムズ爺さんは、ウォルト兄に丁寧にお願いすると、俺を抱えたティオを追った。
通路を進みながら鼻歌をうたうティオ。
「るるるんる~ん。おふろ~♪」
おおお、このままでは熱湯地獄に放り込まれてしまう!
俺は必死にじたばたした。
そうだ! 今こそ人間に変身する時だ。
「今、お湯を沸かすからね。待っててね、ワンちゃん」
風呂に使っているらしい、大きな木の樽の前で、ティオは俺を手放す。今だ。ティオが背中を向けた隙に、俺は人間に変身した。
一瞬で目線が高くなり、見覚えのある少年の手足が目に入る。
変身は完璧なようだ。
しかし残念なことに、すっぽんぽんである。
最初の変身の時に猫娘のルーナが「服と靴はサービスよ」と言っていたことを、俺は思い出した。
「待って、ティオ」
やっぱり人間の姿だと子狼の時と違って、普通にしゃべれるな。
感動しながら、ゆっくり立ち上がる。
ティオを追ってきたサムズ爺さんが、俺に気付いて目を見張った。
振り返ってびっくりした顔をするティオに、微笑みかける。
「風呂は良いから、服、貸してくれない?」
噛まずに爽やかに言った俺を、誰か褒めて欲しい。
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。