フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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ゼフィの魔法

10 変身魔法は難しいです

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 神獣ヨルムンガンドは「詳しいことはまた後日に」と言って東の海に帰って行った。

 人間の姿に変身する魔法を、練習しないとな。
 そういえば、人間以外の動物にも変身できるのだろうか。

 早速、俺は実験してみることにした。

 フェンリルのねぐらである洞窟の近くに棲む、ロックイーグルという鳥を観察する。
 ロックイーグルの姿をしっかり記憶してから、目を閉じて初めて変身した時の感覚を思い出す。身体の奥のザワザワする気配を引っ張りだして、全身に行き渡らせた。
 
「どうかな……?」

 俺は手足を見下ろしてがっかりした。子狼の姿のまま、背中に鳥の翼だけくっ付けた姿だったからだ。
 どうやら目立つ翼ばっかり見てしまい、他の観察をおろそかにして失敗したらしい。

 何回も試した結果、どうにか全身、鳥の姿に変身できるようになった。
 ロックイーグルは茶色い鳥で、猛禽類らしい尖ったくちばしが特徴だが、そこまで再現できているかどうか怪しい。鏡が無いから全身を見ることはできないが、羽毛の色はフェンリルの時と同じ白銀だ。

 だが細かいことは置いておいてもいい。
 鳥と言えば空を飛ぶものだ。
 すなわち空を飛ぶことができれば、俺の目標は半分以上、達成されたと言っていいだろう。

「とんでみる……!」
「おい、ちょっと待てゼフィ!」

 兄たんたちが止めるが、俺は初めて得た翼を使ってみたくて仕方なかった。
 助走を付けて、翼を広げ、岩の上から飛び降りる。
 うまいこと風をとらえたのか、俺の身体は大空に舞い上がった!

「ゼフィーっ、危ないから戻っておいで!」
「やだー!」

 空を飛ぶ俺を追って地面を走りながら、兄たんたちはおろおろする。
 変なの。兄たんたちも鳥に変身してみればいいのに。
 それにしても風を切って飛ぶって、爽快!

「わーい……あれ? これ、どうやってちゃくちするんだろ」

 飛んでから気付く。
 鳥はどうやって地面に降りるのか。
 しまった、飛ぶことばっかり考えて、降りる方法を失念してた。
 えーと、ゆっくり低空飛行に移ればいいんだよな。
 どうやって高度を下げるんだ……?

「う、わわっ」

 ポンッと音を立てて、俺は元の姿に戻った。
 魔法の時間切れだ。

「ゼフィ!」
「わあああああーーっ」

 悲鳴を上げながら雪が積もる森へ急降下。
 フェンリルは頑丈だから死にはしない。
 樹氷を踏み砕き、積雪を舞い上がらせて、派手な着地を披露する。
 死なないけど、死ぬほど驚いた。

「ふおあ……」
「……ワンちゃん?」

 目を回していると、人間の気配が寄ってくる。

「探してたんだよ、ワンちゃん!」

 またお前か。
 金髪の可愛い女の子(に見える)ティオに拾いあげられて、猛烈に頬擦りされる。俺は犬じゃねえ。

「ティオ! ああ、フェンリルさま、違うんです」
「人間が、またゼフィを……!」

 追ってきた兄たんたちと、子狼を抱き締める孫の間で、サムズ爺さんは右往左往した。唯一の常識人である爺さんに同情を禁じえない状況だ。
 クロス兄がわなわな震えている。

「俺たちのゼフィに頬擦りとは万死に値する……!」

 おう、このままでは修羅場ふたたび?
 何とかせねば。

「兄たん、おれ、人間にへんしんする、れんしゅうしたい。人間、ほろぼさないで」
「練習なら俺たちが見てやる!」
「人間、じつぶつ、だいじ」
「くっ」

 分かってもらえたようだ。

「……分かった、人間に攻撃しない。だがな、俺は人間は大っ嫌いなんだよ! くそっ」
「兄たん?」

 クロス兄は急に怒って駆け出して行ってしまった。
 え? え? 俺が悪いの?
 不安になっていると、残っていたウォルト兄が近寄ってきた。

「気にするな、ゼフィ。クロスは意地を張っているだけだ。あいつは本当は……」
「??」

 ウォルト兄は途中で言葉を切ったので、続きは分からない。
 巨大な狼が近寄ったにも関わらず、怖がらないティオは、俺をしっかり抱えて坂道を下り始めた。
 雰囲気で孫が食べられる心配がないと判断したのか、サムズ爺さんは胸を撫で下ろしている。

「ワンちゃん、汚れてるね。一緒にお風呂に入ろう!」
「ふろ?!」

 やばっ、熱い水になんか浸けられたら、フェンリル的に死んじゃう。というか、単に熱いの苦手なだけだけど。
 無言でティオの後を付いてくるウォルト兄。
 変な雰囲気のまま、俺たちは村に入る。
 一番先に俺たちを見つけた例のおばさんが、驚愕のあまり洗濯物を取り落とす。

「サムズ爺さん、そ、その後ろのフェンリルさまは?!」
「付いてきてしまった……」
「照れ笑いで誤魔化すんじゃないよっ」

 なぜか照れている爺さんの胸ぐらを掴み、洗濯おばさんが叫んだ。
 しかし平常運転のティオは、大人たちのやり取りを気にもかけず、さっさと自分の家に入っていく。
 ウォルト兄も後に付いて入ろうとして、扉で詰まった。

「……(むぎゅう)……」
「おお、フェンリルさま。きちんとお返しするので、家の外で待っていてくれんかの。こら、ティオ!」

 サムズ爺さんは、ウォルト兄に丁寧にお願いすると、俺を抱えたティオを追った。
 通路を進みながら鼻歌をうたうティオ。

「るるるんる~ん。おふろ~♪」

 おおお、このままでは熱湯地獄に放り込まれてしまう!
 俺は必死にじたばたした。
 そうだ! 今こそ人間に変身する時だ。
 
「今、お湯を沸かすからね。待っててね、ワンちゃん」

 風呂に使っているらしい、大きな木のたるの前で、ティオは俺を手放す。今だ。ティオが背中を向けた隙に、俺は人間に変身した。
 一瞬で目線が高くなり、見覚えのある少年の手足が目に入る。
 変身は完璧なようだ。
 しかし残念なことに、すっぽんぽんである。
 最初の変身の時に猫娘のルーナが「服と靴はサービスよ」と言っていたことを、俺は思い出した。

「待って、ティオ」

 やっぱり人間の姿だと子狼の時と違って、普通にしゃべれるな。
 感動しながら、ゆっくり立ち上がる。
 ティオを追ってきたサムズ爺さんが、俺に気付いて目を見張った。
 振り返ってびっくりした顔をするティオに、微笑みかける。

「風呂は良いから、服、貸してくれない?」

 噛まずに爽やかに言った俺を、誰か褒めて欲しい。


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