フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
12 / 126
ゼフィの魔法

12 新しい魔法を覚えました

しおりを挟む
 最近、変身魔法を学ぶために、ロックイーグルをずっと観察していた。岩の上のロックイーグルの巣には、大きな卵が複数並んでいる。
 美味しそうだな……。
 あれだけ大きければ、茹で卵、卵焼き……いろいろな料理で楽しめそうだな。じゅるり。

 食欲を我慢できなくなった俺は、練習中の魔法でロックイーグルもどきに変身すると、奴が留守の間に巣に忍び込んで、卵を二つ盗み出した。
 
「にんげんの村にいって、料理してもらおうかな」

 フェンリルの手足だと料理できない。村の人間に頼んで茹でてもらおうか。人間の姿に変身して、ティオの家の台所を借りて料理してもいい。

 せっかくなので兄狼にも食べさせてあげたい。
 だが、クロス兄は先日の一件でヘソを曲げたのか別行動中で、ウォルト兄は一匹で大物を狩りに行ってしまったので、珍しく俺はひとりだった。

 雪の上に転がした卵を前に考えていると、空から影が落ちた。

「……美味しそうな卵だ」

 見上げると、青い翼を広げて神獣ヨルムンガンドが、俺を見下ろしていた。
 ヨルムンガンドは海に棲む、竜によく似た神獣だ。

「あげないからね!」

 これは俺と兄たんたちのご飯なのだ。
 
「とらないよ。ゼフィ、私は君に魔法を教えに来たんだ」

 そういえば、ヨルムンガンドの弟子になったんだ。
 弟子になってからずっと放置プレイだったから、忘れられたのかと思ってたよ。
 いよいよ本格的に魔法を習えるのか。

「まほう! かっこいいファイアーボール、教えて!」
「君は雪と氷のフェンリルだろう」

 前世の戦場で、魔術師たちがバンバン飛ばしてた火球が格好よくて威力もすごかった。あんな風な攻撃力のある魔法を覚えたいな。
 戦いは飽きたんじゃないかって?
 ゆっくりのんびり暮らしたいけど、それとは別に、格好いい派手な魔法は覚えたいんだよ。

「だが断る……君には時の魔法を教えよう」
「えー……とき?」

 俺はがっかりした。
 何の魔法だか知らないが、雰囲気で分かる。
 きっと地味な効果の魔法だ。

「私たち神獣は、長い時間を生きるから時間の感覚がにぶい。しかし、もともと人間の君なら、時間という概念をすぐに理解できるだろう。人間は短い時間を懸命に生きるものだから」
「ときのまほう……きいたことない」
「残念ながら、人間の魔力では時を操るのに足りないのだ。人間の知識を持ち、神獣の魔力を持つ君には、時の魔法はぴったりだと思うよ」

 火や水の魔法を使うのが一般的だというのに、ヨルムンガンドは時の魔法を薦めてきた。
 仕方ないな。後でちゃんと火球の魔法も教えてもらおう。
 ひとまず、俺は大人しく魔法の使い方についてレクチャーを受けた。

「……さあ、せっかくだから、さっき説明したことを卵で試してみようか」

 ヨルムンガンドにそう言われて、俺は、頭の中で時計をイメージして、針をくるくる右回しに進めた。
 ロックイーグルの卵が一瞬、まばゆく光る。

「ピヨ!」

 卵が割れてロックイーグルのひなが生まれた!

「ああああっ、ゆで卵にするつもりだったのに!」

 雛は俺を見て親だと思ったのか、ピヨピヨ寄ってくる。
 うう、可哀想で今さら卵に戻せないよう。

「続けて、そのヒヨコを成長させて大人の姿に……」
「かわいくなくなるからヤだ!」
「もう一個の卵で復習を……」
「これはご飯にするの!」

 時の魔法、なんて役に立たない魔法なんだ。
 ハッ、そうだ牛乳を発酵させてチーズにするのはどうだ。

「ごはん……」
「君はとても食い意地が張っているな」

 ヨルムンガンドは呆れたようだった。

「ときのまほうはマスターしたから、ほかのまほう教えて」
「無理だ」
「はい?」
「変身、つまり無の属性と、今回は時の属性の魔法を覚えて、君の能力保管スキルスロットは限界になった」

 ぬわにいぃーーっ?!

「フェンリルは普通、氷の魔法と、反属性の耐性を付けるために火の魔法を覚えるものだが。君は変わっているな。ははは」
「ははは、じゃ、なーいっ!」

 まるで他人事のように笑うヨルムンガンドに俺は憤慨した。
 道理で兄たんたちは、雪崩なだれと小さな火を起こす魔法以外、使わない訳だよ。

「神獣は、時間をかけて鍛練することで能力保管スキルスロットを増やせる。そうだな、百年くらい修行を積めば、他の属性の魔法も覚えられるようになる」

 百年って結構長い。
 ヨルムンガンドは俺に魔法を教えて満足したのか「また機会を見つけて来るよ」と翼を広げて舞い上がった。そして、そのまま東の海へ帰ってしまった。

「まほう、ははうえに教われば良かったなあー」

 俺は卵を抱えてうなだれる。
 母上なら、ちゃんと最初から説明の上、俺に魔法を選ばせてくれただろう。
 ロックイーグルの雛がピヨピヨと俺をなぐさめてくれる。

「……とりあえず、にんげんのむら、いこう」

 魔法でロックイーグルもどきに変身する。
 何回か練習を重ねたからか、変身できる時間は段々長くなっていた。
 卵と、先日借りた人間の服をえいしょっと掴み、背中に雛を乗せて空へ飛び立つ。服は村に着いたら、変身して着替える用だ。

 高いところから低いところに降りるだけだから、ふもとにある人間の村は、すぐに着きそうだ。

「ん? なんだかさわいでる?」

 小さな村の真ん中で、見覚えのある太った山猫がシャーシャー言っている。
 そして、その周囲をくわや斧を持った村人が、騒ぎながら取り囲んでいた。


しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...