フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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雪国の救世主

19 兄たんの愛が暴走気味です

 食事の後、すっかり警戒心を解いた俺たちは、そのまま義賊団のアジトで夜を過ごすことになった。
 どうにも眠くなってしまった俺は、人目の無いところで子狼の姿に戻ると、ティオの寝袋にもぐりこむ。

「わっ、ゼフィ!」

 就寝準備をしていたティオは、頬をゆるめて寝袋に招き入れてくれた。

「かわいいなあ。もふもふする」

 欠伸あくびをして丸くなる俺を恐々なでるティオ。
 変なところ触ったら噛みつくからな。

「ねえゼフィ。僕、騎士になれるかな……?」

 知らねーよ。

「王都って、どんなところなんだろ。僕のお父さんがいるのかな」

 ティオは一人で不安なのかもしれない。
 仕方ないな。特別に俺の毛並みに触れることを許してやろう。
 金髪の少年の独り言を子守唄がわりにして、俺は眠りの海に落ちていった。


◇◇◇


 その頃、ゼフィの兄たちはというと。
 もちろん行方不明になったゼフィを探し回っていた。

「いない……ゼフィがどこにも! 人間の村にも、ロックイーグルの巣にもいない。いったいどこへ行ってしまったんだ!」

 白銀の峰の中腹、フェンリルが棲みかにしている大きな洞窟で、クロスとウォルトは頭を抱えていた。
 特にウォルトは、昼寝中にゼフィを見失ったこともあり、非常にしょげている。

「……俺に考えがある」
「兄さん?」

 普段めったに喋らないウォルトの発言に、クロスはびっくりした。

「きっとゼフィは人間の国にいる。こうなったら、付近の人間の国を制圧し、俺たちフェンリルの雪と氷の国に変えるのだ。そうすれば必然的にゼフィの行動範囲を把握できるようになる……!」

 いきなり魔王チックなことを言い出したウォルト。
 クロスは兄の言葉に少し呆然とした。

「ウォルト兄、ちょっと行き過ぎじゃ……」
「いや、行き過ぎなどではない。考えてみろ。ゼフィはこれから成長して、どんどん強く賢くなるだろう。しかし俺たちは、母上の縄張りの外は知らん。このままでは……」

 兄の威厳が保てない。

「確かに……!」

 クロスは戦慄した。
 今だって、ゼフィの行動を把握できていないのだ。
 それに変身と時の魔法を操るゼフィリアは、どんどん強くなっている。

「よし! ウォルト兄、どちらが広く人間の土地を支配できるか、勝負だ!」
「受けて立つ!」

 兄狼二匹は勇み立った。
 それぞれ別の方向を目指し、勢いよく洞窟から走り出る。
 静かに様子を見ていた母狼は溜め息をついた。

「弟に負けじと修行すること自体は間違っていないのですが、ゼフィを探しに行くのが先ではないですか……」

 母狼は止めようかと思ったが、やめた。
 魔法に長けたフェンリル母は末っ子が無事であることを知っていた。
 兄狼が起こすかもしれないトラブルは、末っ子に一任するとしよう。


◇◇◇


 翌朝、ティオの寝袋から這い出した俺は、誰かに見つからないうちに人間の姿に変身した。
 ティオも起き出して寝袋を片付けている。

「おはよう。ゼフィ、剣術の稽古を見てよ」
「やだ」

 久しぶりに素振りを見て欲しいと頼まれて、俺は断った。
 爺さん婆さんしかいない村ならともかく、ここで子供が子供に剣を教えていたら目立つだろう。それに俺の剣は素人じゃないと、見る人が見れば分かる。

「……剣の稽古?」

 ほら来た。
 義賊団のリーダーの男、ロキが、俺たちの会話を聞き付けてやってきた。

「ティオくん、剣を習っていたのかい? 俺に見せてくれ」

 にこにこして言うロキ。
 ティオは頬を赤く染めて「み、未熟ですけど」と謙遜して枝を振る。
 ひゅんと枝が風を切る軽い音がした。

「どうですか?」
「うーん……下手だね!」

 ロキは爽やかに爆弾発言を投下した。
 速攻で評価を下されたティオが固まっている。
 手加減してやれよ、相手は子供だし、素振り始めて一ヶ月経つか経たないかだぜ。

「肘は身体の内側に向かって引き締め、足は肩幅に開くんだ。そう……」

 さすがにコメントだけして放置はまずいと考えたのか、ロキはティオの手を取って指導を始める。

「ロキさんは騎士のお仕事で、ここにいるんですか?」

 ティオは無邪気な顔で聞いた。
 義賊団だというここの連中は、育ちの良さそうな面を無理に隠して、山賊を装っている。何か事情があるのだろう。そんな簡単に答えてくれるかな。

「うーん。仕事っちゃ、仕事だけどね。我がローリエ王国の治安を守るためだ」

 案の定、ロキは微妙な表情をした。

「変装も騎士の仕事なんですね!」
「……」
「ぷっ」

 俺は思わず噴き出してしまった。
 ロキの頬がひきつる。

「……白竜くん。君の剣も見てあげようか。さあ、ティオくんと同じように木の枝を振ってごらん」

 やばっ。

「剣術に興味ないから」
「ゼフィはね、すっごいんだよ! 木の枝で葉っぱを切っちゃうんだよ!」

 俺の緊急回避を、ティオの天真爛漫な発言がキャンセルする。
 くっ、こいつはこういう奴だと知ってたのに。

「へえ、それはすごいね。そんな達人の技が使えるなら、ぜひ見てみたい」

 ロキの笑顔の圧力と、ティオの期待を込めた眼差しに、俺は追い詰められた。

「ちょっとだけだからな」

 木の枝を渡されて悩む。
 俺くらいのレベルになると、素振りなんか必要ないんだよな。型に囚われると実戦で敵に攻撃を読まれやすくなるから、基本の型も崩したりしている。

 ……下手に見えるように、ってどうすりゃいいんだ!

 ロキの目を気にしながら適当に素振りのフリをしようとしたところで、外野から声が掛かった。

「……隊長、すいません!」
「なんだ。おかしらと呼べと言っているだろう」

 部下らしき男の割り込みに、ロキは不機嫌そうになる。
 気まずそうにしながら男は報告を続けた。

「あー、お頭。南西の街ガートルードに神獣フェンリルが現れて、暴れているそうです」
「は?」

 俺の手から枝がポロリと落ちた。
 兄たん、何やってんの?

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