21 / 126
雪国の救世主
21 石ころを宝石に変えました
しおりを挟む
夕方になると、ガートルードの街並みに灯りが付き始める。
祭りのオーナメントがあちこちを装飾している。
俺が注目していた雪飾りが紐に吊り下げられて、店と店を繋いでいる。飾りがほんのり銀色に光るさまは、とても綺麗だった。夜に光る塗料が塗られているらしい。
どこからか、オルガンを演奏する音が聞こえる。
「お祭りか……」
うっすら積もった雪が、まるでショートケーキのクリームのように街並みをデコレーションしている。降り続ける淡雪の下で、外套を着た人々がのんびり行き交っていた。
俺とクロス兄は、街の中心にある大きな木の根元で休んでいた。
木には雪飾りの付いた紐が、ぐるぐる巻き付けられている。
「フェンリルさま」
街の人たちは箱や袋を持ってきて、恭しく兄たんの足元に置いていく。
不思議に思って聞いてみると、毎年の雪祭りでは聖樹に祈りを捧げ、木陰でプレゼントを交換する風習なのだそうだ。しかし今年は聖樹の下に兄たんがいるので、ひとまずプレゼントを貢ぎ物代わりに置いているらしい。
手を付けずにそっとしておこう。
「ティオとロキは無事に宿が取れたかな」
あの二人は宿屋に泊まる予定だ。
俺と兄たんは寒さなんてへっちゃらなので、屋内にこもる必要はない。フェンリルに生まれ変わってから、むしろ夜空を見ながら寝る方が普通になってしまった。
人間の姿のまま、兄たんの毛皮の上に寝そべり、ふさふさの尻尾を布団がわりにする。
空を見上げて星を数えながら、俺は兄たんに聞いた。
「ところで兄たん、これからどうするの?」
「そうだな。人間どもの王が住む都とやらに行って、俺に国を献上するように命じる!」
王様、びっくりしそうだな。
けどロキの話では、今現在、この国の王様は病に伏せっているそうだ。
代わりに宰相が幅をきかせていて、無理な税の取り立てをしたり、貴族が増長したりして、国内に不満がくすぶっているらしい。
ロキが義賊団の頭をやっているのも、実は国内の調査や反乱防止のためだという。
「ウォルト兄と、どちらがより広い人間の国を支配できるか、勝負しているんだ」
「なるほどー」
なんでいきなり人間の国を征服すると言い出したか、疑問に思っていたが、いつもの兄弟喧嘩の延長みたいだ。
「あんまりたくさん人間を冷凍したり、建物を壊したり、しないであげてね」
「もちろんだ。ゼフィ、お前は人間に優しいからな」
俺が、人間に、優しい?
「えー、兄たん違うよ。俺、人間に優しくないよ?」
前世では戦争で人間を殺しまくったのだ。
それに処刑されそうになった過去で、人間には懲りている。
「そうかな」
クロス兄は含み笑いをする。
俺は抗議のしるしに兄たんの耳を軽く引っ張った。
「あの……」
消え入りそうな声が、俺たちのじゃれあいを中断する。
振り返ると、ボロボロの服を着た女の子が、真っ赤な顔をして立っていた。
「神さま、お願いが」
女の子は俺たちの前に進み出ようとして、つまづいて転んだ。
手のひらから灰色の石がコロコロ転がって、俺の足元まで来る。拾い上げると、汚れているがうっすら透明がかった白い石だった。
「その宝石をあげるから、弟の風邪を治してください……」
震える声で言う女の子の後ろで、太ったおっさんが咳払いした。
「どう見たって宝石じゃないだろうが。そんなものでフェンリルさまの加護を得られる訳がない」
おっさんは後ろの部下に合図する。
部下は宝箱を持って進み出て、パカッと箱を開けた。
金銀財宝が中に入っている。
「フェンリルさま、ご覧ください! こちらを差し上げますので、私どもに最大の加護を!……ガキは失せろ」
「きゃっ」
おっさんは途中でぼんやりしている女の子を蹴った。
許すまじおっさん。
「あんたが失せろ」
俺の身体から冷気が流れ出す。
雪を巻き上げた突風が、おっさんと部下をまとめて吹き飛ばした。
「ひいいいっ、なぜ?!」
「おっさん、豚に似てるね。俺たち狼だから石には興味ないんだ。むしろ肉が食べたいなあ」
わざとらしく笑って見せると、おっさんは恐怖に顔をひきつらせて「食われるぅ!」と慌てて逃げていった。
「さて、と」
女の子はまだ雪の上に座り込んでいる。
俺は白い石を持って彼女に近付いた。
こっそり手のひらで時の魔法を使う。
次に手のひらを開いた時、予想通り手の中には、紫色に光る宝石があった。
「はい。石には興味ないから、これは君に返すよ」
「これ?!」
紫水晶を渡された女の子は仰天する。
俺は念のため解説した。
「水晶系の宝石はね、日の光が当たると白く変色するんだ。今、俺が魔法で変色する前に戻しただけだから、それは正真正銘、君の持ってきた石だよ」
前世で英雄と呼ばれ、財宝を王から賜った時に得た豆知識だ。
財宝の管理も大変なんだな、と面倒に思ったのを覚えている。
「フェンリルさまにもらったって言って、質屋さんに持っていきな。お金に変えて、薬や食べ物を買うといい」
「!」
「あったかい服も買った方がいい。体を大事にしろよ」
女の子は紫水晶を握りしめて呆然としていたが、立ち上がって歩き出した。夢見心地のような足取りで数歩すすんで、途中で立ち止まる。
「……りがと……」
声が震えていて、よく聞き取れなかった。
女の子は来た道を帰って行く。
「ふう」
俺は兄たんの背中に戻って、ふかふかの毛並みに寝転んだ。
クロス兄は元の通り尻尾を布団のように乗せてくれる。
「やはり、俺たちのゼフィは人間に甘い」
「……そんなんじゃないってば」
照れた顔を見られないように、うつ伏せになる。
今夜はもう人助けはしないぞ!
祭りのオーナメントがあちこちを装飾している。
俺が注目していた雪飾りが紐に吊り下げられて、店と店を繋いでいる。飾りがほんのり銀色に光るさまは、とても綺麗だった。夜に光る塗料が塗られているらしい。
どこからか、オルガンを演奏する音が聞こえる。
「お祭りか……」
うっすら積もった雪が、まるでショートケーキのクリームのように街並みをデコレーションしている。降り続ける淡雪の下で、外套を着た人々がのんびり行き交っていた。
俺とクロス兄は、街の中心にある大きな木の根元で休んでいた。
木には雪飾りの付いた紐が、ぐるぐる巻き付けられている。
「フェンリルさま」
街の人たちは箱や袋を持ってきて、恭しく兄たんの足元に置いていく。
不思議に思って聞いてみると、毎年の雪祭りでは聖樹に祈りを捧げ、木陰でプレゼントを交換する風習なのだそうだ。しかし今年は聖樹の下に兄たんがいるので、ひとまずプレゼントを貢ぎ物代わりに置いているらしい。
手を付けずにそっとしておこう。
「ティオとロキは無事に宿が取れたかな」
あの二人は宿屋に泊まる予定だ。
俺と兄たんは寒さなんてへっちゃらなので、屋内にこもる必要はない。フェンリルに生まれ変わってから、むしろ夜空を見ながら寝る方が普通になってしまった。
人間の姿のまま、兄たんの毛皮の上に寝そべり、ふさふさの尻尾を布団がわりにする。
空を見上げて星を数えながら、俺は兄たんに聞いた。
「ところで兄たん、これからどうするの?」
「そうだな。人間どもの王が住む都とやらに行って、俺に国を献上するように命じる!」
王様、びっくりしそうだな。
けどロキの話では、今現在、この国の王様は病に伏せっているそうだ。
代わりに宰相が幅をきかせていて、無理な税の取り立てをしたり、貴族が増長したりして、国内に不満がくすぶっているらしい。
ロキが義賊団の頭をやっているのも、実は国内の調査や反乱防止のためだという。
「ウォルト兄と、どちらがより広い人間の国を支配できるか、勝負しているんだ」
「なるほどー」
なんでいきなり人間の国を征服すると言い出したか、疑問に思っていたが、いつもの兄弟喧嘩の延長みたいだ。
「あんまりたくさん人間を冷凍したり、建物を壊したり、しないであげてね」
「もちろんだ。ゼフィ、お前は人間に優しいからな」
俺が、人間に、優しい?
「えー、兄たん違うよ。俺、人間に優しくないよ?」
前世では戦争で人間を殺しまくったのだ。
それに処刑されそうになった過去で、人間には懲りている。
「そうかな」
クロス兄は含み笑いをする。
俺は抗議のしるしに兄たんの耳を軽く引っ張った。
「あの……」
消え入りそうな声が、俺たちのじゃれあいを中断する。
振り返ると、ボロボロの服を着た女の子が、真っ赤な顔をして立っていた。
「神さま、お願いが」
女の子は俺たちの前に進み出ようとして、つまづいて転んだ。
手のひらから灰色の石がコロコロ転がって、俺の足元まで来る。拾い上げると、汚れているがうっすら透明がかった白い石だった。
「その宝石をあげるから、弟の風邪を治してください……」
震える声で言う女の子の後ろで、太ったおっさんが咳払いした。
「どう見たって宝石じゃないだろうが。そんなものでフェンリルさまの加護を得られる訳がない」
おっさんは後ろの部下に合図する。
部下は宝箱を持って進み出て、パカッと箱を開けた。
金銀財宝が中に入っている。
「フェンリルさま、ご覧ください! こちらを差し上げますので、私どもに最大の加護を!……ガキは失せろ」
「きゃっ」
おっさんは途中でぼんやりしている女の子を蹴った。
許すまじおっさん。
「あんたが失せろ」
俺の身体から冷気が流れ出す。
雪を巻き上げた突風が、おっさんと部下をまとめて吹き飛ばした。
「ひいいいっ、なぜ?!」
「おっさん、豚に似てるね。俺たち狼だから石には興味ないんだ。むしろ肉が食べたいなあ」
わざとらしく笑って見せると、おっさんは恐怖に顔をひきつらせて「食われるぅ!」と慌てて逃げていった。
「さて、と」
女の子はまだ雪の上に座り込んでいる。
俺は白い石を持って彼女に近付いた。
こっそり手のひらで時の魔法を使う。
次に手のひらを開いた時、予想通り手の中には、紫色に光る宝石があった。
「はい。石には興味ないから、これは君に返すよ」
「これ?!」
紫水晶を渡された女の子は仰天する。
俺は念のため解説した。
「水晶系の宝石はね、日の光が当たると白く変色するんだ。今、俺が魔法で変色する前に戻しただけだから、それは正真正銘、君の持ってきた石だよ」
前世で英雄と呼ばれ、財宝を王から賜った時に得た豆知識だ。
財宝の管理も大変なんだな、と面倒に思ったのを覚えている。
「フェンリルさまにもらったって言って、質屋さんに持っていきな。お金に変えて、薬や食べ物を買うといい」
「!」
「あったかい服も買った方がいい。体を大事にしろよ」
女の子は紫水晶を握りしめて呆然としていたが、立ち上がって歩き出した。夢見心地のような足取りで数歩すすんで、途中で立ち止まる。
「……りがと……」
声が震えていて、よく聞き取れなかった。
女の子は来た道を帰って行く。
「ふう」
俺は兄たんの背中に戻って、ふかふかの毛並みに寝転んだ。
クロス兄は元の通り尻尾を布団のように乗せてくれる。
「やはり、俺たちのゼフィは人間に甘い」
「……そんなんじゃないってば」
照れた顔を見られないように、うつ伏せになる。
今夜はもう人助けはしないぞ!
391
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる