フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
23 / 126
雪国の救世主

23 偽物があらわれました

しおりを挟む
 宰相のドロテアに連れられて、俺はローリエ王国の宮殿に足を踏み入れた。

 宮殿まで悪趣味だったらどうしようかと思っていたが、案外に普通だった。王都の中央にある宮殿は、水色の屋根が特徴的な、荘厳な三階建ての建築物だ。きらびやかな金の装飾もあるが、全体的に落ち着いた雰囲気が漂っている。
 入ってすぐ、一階のフロアの階段の前には、天に吠える狼の彫像があった。

「うわあ! これ、もしかしてフェンリル?!」
「そうね、実在するかどうかも分からないけもののフェンリルの像よ。古いので、もうすぐ取り壊して私の像と入れ替える予定だけど」

 なぬ……?!
 俺の中で、おばさんの罪がひとつ増えたぞ。
 狼の彫像を通り過ぎ、一階の廊下を奥へ進む。
 ドロテアの行く先々で、官僚らしき人たちが次々に頭を下げる。
 
「チョコレートまだー?」
 
 俺は子供らしくおねだりしてみた。
 はやいとこ、もらうものをもらって兄たんとこに帰りたいんだよな。

「ふふ、もう少しお待ち」

 ドロテアが意味深に笑う。
 通された宮殿の一室で、革張りのソファに座って大人しく待っていると、湯気を立てる黒い液体が入ったコップが運ばれてきた。

「これ何?」
「ホットチョコレートよ」

 チョコレートを溶かした飲み物らしい。
 熱いものが苦手な俺は、ティースプーンでぐるぐる飲み物をかき回した。少し冷ましてから口につける。
 へえ、溶かすと食感が変わって面白いな。

「坊やはどこの子? どこから来たの?」
「うーん。どこからだろー。山かなー」

 ドロテアの質問をはぐらかしながら、俺は強引に話題を変えた。

「ところで宮殿の人たち、暗い顔をしていたけど、なんで?」
「ああ……今は陛下がご病気だから」

 俺の問いかけに、ドロテアは何故かドヤ顔をする。

「陛下は私を信頼されて、不在の間の政治まつりごとを全て、ゆだねて下さっているのよ」
「いつから?」
「二年前ね。お前、この国の民のくせに、私のことを知らないの?」

 不可解そうにこちらを見るドロテア。
 俺はホットチョコレートの入ったコップをテーブルに置いた。

「うん。おばさんのことは全く興味ないよ」
「おばっ?!」
「チョコレートをくれたら、ここに用はないね」

 不敵な笑みを浮かべ、ソファに座った足を組む。
 そのまま、ドロテアの顔が怒りに歪むのを、のんびり見物した。

「世間を知らない子供には、教育が必要ね。――来なさい」

 部屋の奥から、護衛らしき男が現れる。
 男は白髪交じりの灰色の髪をしていて、片目が赤い。体格の良い体に毛皮を巻いた、ワイルドな格好をしている。

「ふふっ、聞いて驚きなさい! 彼はルクス共和国から来た伝説の英雄、赤眼の飢狼よ!」
「なんだって?!」
「表の世界から引退した彼を、運よく雇い入れることができたの」

 ドロテアは胸を張って、勝ったも同然という顔をしている。
 俺は……笑い出すのを必死でこらえていた。

「……有名税っての? 偽物が現れるなんて。いやー、笑える」
「リース、この生意気な子供にお灸をすえなさい!」

 おびえたりしない俺を不気味に思ったらしい。
 ドロテアは「早く!」と男を急かす。
 男は腰の剣をゆっくり抜いた。刃が広く厚みのある、片刃の剣だ。
 真剣のはがねが、宮殿のシャンデリアの光を反射して鈍く輝く。

「小僧。礼儀を教えてやる」

 本気で斬り殺すつもりはないのだろう。
 ちょっと傷をつけて脅せばいい、くらいに考えているようだ。
 だけどそれなら、こっちだって本気になる必要はない。

「礼儀? 俺はチョコレートを頂いている最中なのに、おじさんが失礼でしょ」
「……小僧、貴様!」

 大上段から剣が降ってくる。
 俺は銀色のティースプーンで剣を受け止めて、明後日あさってへそらした。

「そうだなー。おじさんがどうしてもって言うなら、剣の稽古をつけてあげてもいいよ?」
「舐めたマネをっ!」

 怒った男は大仰に剣を上段から叩きつける。
 剣の切っ先がボフンとソファに触れた。
 俺は素早く横に回避すると、剣の峰に飛び乗った。

「何?!」

 さすがに両刃だと靴が切れるから、剣の上に乗るなんて曲芸じみた動作は不可能だ。
 男の剣がたまたま包丁のような片刃だから出来たこと。
 子供の身体の身軽さを活かして剣の上を駆け上がると、男の頭の上にティースプーンを置いてあげる。

「ご馳走様でした」

 愕然とする男の顎を、思いっきり蹴り上げる。
 すがすがしいほど綺麗に膝蹴りが決まって、男は仰向けにぶっ倒れた。
 後を追うようにチャリンと音を立ててティースプーンが床に転がる。

「なっ、なっ……」

 俺は、口をぱくぱくしているドロテアの前に立った。

「おばさん、お土産にチョコレートの箱をひとつ……あれ?」

 ポフン、と軽い音と共に、俺の身体が白煙に包まれた。
 一気に地面が近くなる。
 子狼の姿に戻ってしまった。
 ……。

 しまったあああっ、変身のタイムリミット忘れてたあっ!!

しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...