フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
28 / 126
雪国の救世主

28 鯨を食べる夢を見ました

 クロス兄は足元をうろちょろする金色の子猫に、困惑している。

「兄たん、ティオをふまないでね」
「これがあの人間の子供だと……?! くっ、ゼフィほどではないが、ふわふわコロコロしているぞ!」

 兄たんは、おそるおそるティオの首の後ろをくわえて持ち上げた。俺が剣術を教えている子供だと知っているので、人間だからと言ってそこまで邪険にはしない。

「宮殿の中庭にいらしてください。フェンリルさまにお願いがあります」

 王様に案内されて、俺たちは一般人は入ることのできない宮殿の中庭に移動した。人の視線が無くなるとホッとする。

「ティオーーっ」
「陛下、お気を確かに!」

 人目が無くなると、王様はおいおい泣き出した。
 昨日一緒に宮殿に忍び込んだ隊長が、王様にハンカチを差し出してなだめている。フィリップも困った様子だ。
 俺は人間の少年の姿に変身して、ティオを兄たんから受け取った。

「それで。何があったの?」

 問いかけると、王様は驚いて、銀髪美少年に変身した俺を見る。
 泣いている王様に代わってフィリップが答えた。

「今朝がた、宮殿に何者かが侵入し、就寝中のティオさまに魔法を掛けたようです。私たちはその時、王を含めた少人数で会議をしていて気付くのが遅れました」

 俺の腕の中で、金色子猫になったティオが鳴いた。

「僕が部屋で寝ていたら、太った山猫が入ってきて」

 恨むんならゼフィを恨みなさい!
 ほーっほっほっほ!

「と高笑いして、僕に魔法を掛けて去っていきました」

 ルーナだ。
 あいつ、俺に攻撃できないからって、ティオに八つ当たりしたんだな。

「フェンリルさま、どうかティオさまを人間に戻してください!」

 王様が泣きながら俺に詰め寄る。

「え? 可愛いし、別に猫でもいいじゃん」

 俺は思わず素で答えた。
 腕の中のティオが「ガーン!」とショックを受けて伸びる。
 王様はこの世の終わりのような顔をした。

「フェンリルさま、もしティオを人間に戻して頂けるなら、肉が美味だという伝説の牛肉マツサカギュウを遠方から取り寄せますから!」
「何それ美味しそう……」

 肉が食べられると聞いて、俺は俄然がぜん乗り気になった。

「すぐには解決できない。ティオを借りていくよ」
「はい、よろしくお願いいたします」

 俺も本心からティオが猫のままで良いと思っている訳ではない。本当だぞ?

「ゼフィ。どうするつもりだ?」

 クロス兄が身体を寄せて聞いてくる。

「いったん、母上のところへ帰ろう。母上なら魔法の解き方を知っているかもしれない」
「確かに。そろそろ一度、母上のもとへ帰らないとな」

 ティオを抱えたまま、俺はクロス兄の背中によじ登った。
 王様やフィリップの見送りを受けながら、兄狼はジャンプして宮殿の屋根に駆け上がる。そのまま王都の建物の上を飛び移りながら、真白山脈フロストランドに向かって走り出した。



 行きは道草をしていたから何日も掛かったが、帰りはすぐだった。狼の背中に揺られること数時間。俺を乗せたクロス兄は峰を駆け登り、フェンリル母上の待つ洞窟に着いた。
 俺は兄狼の背から雪の上に飛び降りる。

「……さぶい(ぶるぶる)……」
「ティオ?!」

 途中でしゃべらないと思ったら、ティオは冷たくなって震えていた。しまった、子猫に真白山脈フロストランドの気温はきついよな。俺自身はフェンリルだから、氷点下だろうが平気なのだが、人間や猫はそうはいかない。

「やっと帰ってきたと思ったら、何を連れてきたのです?」
「母上、ただいま!」
「おかえりゼフィリア」

 洞窟の奥から母上が出てきて、俺の腕の中の子猫をのぞきこむ。

「仕方がありませんね。これも何かの縁です、この人間の子供にフェンリルの加護を与えましょう」

 母上はティオに向かってフッと息を吐く。
 雪の結晶をかたどった光の欠片がクルクルと子猫の周囲を舞った。

「あったかい……」

 さっきまで死にそうだったティオに元気が戻った。
 子猫の毛並みがふわっと膨らんで、呼吸が安らかなものに変わる。
 俺はひと安心すると、母上に問いかけた。

「母上、ティオが人間だって分かるの?」
「もちろんです」
「魔法で猫にされたみたいだけど、母上なら解ける?」
「解けますが……見たところ大した魔法ではないので、私が解かなくても、そのうち自然に解けるでしょう」

 母上によると、魔法の効果を持続させるのは大変らしい。
 命がけの魔法でもない限り、長い間、魔法を掛けた状態にしておくのは不可能なんだそうだ。

「なーんだ。良かったな、ティオ」
「うん。ありがとう、ゼフィ」

 人間に戻れると分かって、ティオは嬉しそうに尻尾を振った。
 ちなみに洞窟にウォルト兄の気配は無い。まだ帰ってないようだ。
 明日、クロス兄と一緒にウォルト兄を探しに行くことにして、今日は早めに休もう。



 俺は変身の魔法を解いて子狼の姿に戻ると、母上の腹に身を寄せた。子猫になったティオは俺にくっついて眠りこけている。
 銀色の毛玉と、金色の毛玉。

「……私たちの棲む山や大地の下には、くじらが眠っているんですよ」
「くじら?」

 母上は俺たちを優しい眼で見下ろしながら、子守唄の代わりに物語を語る。クロス兄は母上と逆の側から俺とティオを挟みこむようにして、ゆったり尻尾を振っている。

「鯨は世界の始まりに生まれた、とてもとても大きな魚。この世界は鯨の夢。鯨の背中の上で、人や神獣が暮らしているのです……」

 うつらうつらしながら物語を聞く。
 その夜、俺はでっかい魚にかぶり付く夢を見た。
 ウォルト兄とクロス兄と母上、皆で魚を美味しく食べる夢だった。

 
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。