32 / 126
極夜の支配者
31 それは食材ではありません
しおりを挟む
そもそも何故、俺たちが「無敗の六将」と呼ばれていたか、この機会に簡単に説明しよう。
俺が人間だった頃、数十年前。
エーデルシアという国で禁断の魔法が行使され、何千もの動く死人の魔物、亡者が地上にあふれだし、人々を襲うという事件があった。
これをきっかけに、複数の国を巻き込んで大きな戦いが始まった。敵は亡者だけではなかった。人々は疑心暗鬼に陥り、同じ人間同士で争うこともあった。
この戦いを「エーデルシア邪神戦争」という。
そしてエーデルシア邪神戦争で特に活躍した六人の英雄を、人々は「無敗の六将」と呼んだ。暗いご時世だったので、民衆は希望となる英雄の物語を求めていたのかもしれない。
酒場の吟遊詩人は無敗の六将に二つ名を付け、その輝かしい戦績を竪琴の旋律にのせて吟った。
黄金の聖女
白髪の悪魔
青竜の騎士
赤眼の飢狼
傾国の黒真珠
深緑の精霊使い
六人は、皆一つの国に属していた訳ではない。
それぞれ別の国の将軍で、戦場で敵味方に別れることもあった。
最終的に俺たちは平和という共通の目的のために協力しあい、エーデルシアに乗り込んで元凶となった邪神を討伐した。
六人が一同に会したのは、この討伐作戦の時と、戦後の和平交渉の会議だけ。
なので仲間といっても、ドリアーデとあんまり話をした記憶はない。
そのため、名前を聞いて顔を見ても、すぐには思い出せなかったのだ。
「人間たちに、深緑の精霊使い、という恥ずかしい二つ名で呼ばれたこともありました。人間嫌いのフェンリルさまはご存知ないと思いますが」
「ふ、ふーん」
ドリアーデの緑色の髪と瞳が二つ名の由来なのだろう。
知っているとは言えずに、俺は曖昧に相づちを打った。
しかし、今はフェンリルになっている俺が言うのも何だが、ドリアーデはどうして祖国を出たのだろう。元仲間ってことで気になる。
「人間の国で将軍職なんてすごいじゃん。なんで辞めちゃったの?」
「……」
その途端、空気がズーンと重くなった。
もしかしなくても地雷だったらしい。
俺か? 質問した俺が悪いのか?
「あー、お茶のお代わりが欲しいなあ!」
「セルフサービスです」
「そうだった」
沈んでいるドリアーデをどうすればいいか分からず、俺はティーカップを持って席を離れた。
「……珍しい食材だな。トカゲ?」
ちょうど廊下を、鳥かごを持って移動中の料理人が通った。
同僚と世間話をしているのが聞こえてくる。
「なんかしゃべってるけど、食えるのかコレ」
「意外に珍味かもしれんぞ」
「うーむ。長い間生きてきたが、食材として扱われるのは初めてだ。なかなか新鮮な心地がするな」
どこかで聞いたことのある声がした。
鳥かごの中には小さな青いトカゲが入っている。
トカゲには小さなコウモリ型の翼が付いていた。
俺は通りすぎようとして、途中で立ち止まる。
第六感がピピッと働いた。
「まさか」
俺はティーカップを手近なテーブルに置くと、廊下に出て鳥かごを持った料理人たちに歩み寄った。
料理人たちは戸惑った顔をしている。
「魔王さまのご客人ですね、いったい私たちに何の用ですか?」
「ごめん、そのかごの中身を見せてほしいんだ」
彼らに断って、かごを覗きこむ。
そこにいたのは。
「ヨルムンガンド?!」
「久しぶりだな、ゼフィ君」
青いトカゲは、小さな青い竜だった。
東の海に棲む神獣で、俺に魔法を教えてくれた師匠、ヨルムンガンドだ。
「なんでそんな姿に……どうして捕まって食材になってんの」
俺は呆れた。
ヨルムンガンドは飄々とした様子で説明する。
「君の変身の魔法が気になって、私も変身の魔法を極めてみようと思ったんだ。それでまずは身体を小さくしてみようと思って」
「はあ……」
「小さな姿だと視点が変わって面白いな。まるで世界が新しくなったようだ。この姿が気に入って散歩していたところ、たまたま出会った獣人に捕まりここに連れてこられた」
「抵抗しなかったの?」
「食べたい、と言われたのは初めてだったからな。思わず、私は美味しい食材なのだろうかと考え込んでしまった」
ヨルムンガンドは非常にのんきだった。
いつでも魔法で本体に戻って逃げ出せるから、余裕があるんだろうけど。考え方がちょっと、いやかなり変だ。
俺は溜め息をつくと、何も知らない可哀想な料理人に声を掛けた。
「このトカゲは、トカゲじゃなくてヨルムンガンドっていう神獣なんだ。食べたら天罰が下って、お腹を壊すどころじゃすまないよ」
「なんだってー?!」
料理人たちは真っ青になった。
触らぬ神に祟り無し。神獣には触れるべからず。
下手に手を出したらエライ目にあうというのは、子供でも知っているこの世界の常識だ。
「申し訳ありませんでしたー!」
急いで鳥かごから出すと、料理人たちは謝罪しながらそそくさとその場を去った。
後には小型化したヨルムンガンドと俺だけが残される。
「む……後でどんな味か教えてもらう予定だったのに」
「食べられたら死ぬよ?」
「おお、そうだった、そうだった。歳をとると物忘れが酷くなって困るな」
生存本能は物忘れの範囲内ではないと思う。
ヨルムンガンドは小さな羽で空中に浮かぶと、俺の肩にとまった。
「そうだ。忘れていたが、私は君に会いに黄昏薄明雪原に来たんだった」
肩にいる小竜と視線をあわせるのは大変だ。
俺は食堂に戻るとヨルムンガンドをテーブルに降ろした。
「俺に会いに?」
「魔法を教えているところだっただろう」
そういえば途中になっていたかな。
せっかくだから、新しい魔法を教えてもらおうか。
俺が人間だった頃、数十年前。
エーデルシアという国で禁断の魔法が行使され、何千もの動く死人の魔物、亡者が地上にあふれだし、人々を襲うという事件があった。
これをきっかけに、複数の国を巻き込んで大きな戦いが始まった。敵は亡者だけではなかった。人々は疑心暗鬼に陥り、同じ人間同士で争うこともあった。
この戦いを「エーデルシア邪神戦争」という。
そしてエーデルシア邪神戦争で特に活躍した六人の英雄を、人々は「無敗の六将」と呼んだ。暗いご時世だったので、民衆は希望となる英雄の物語を求めていたのかもしれない。
酒場の吟遊詩人は無敗の六将に二つ名を付け、その輝かしい戦績を竪琴の旋律にのせて吟った。
黄金の聖女
白髪の悪魔
青竜の騎士
赤眼の飢狼
傾国の黒真珠
深緑の精霊使い
六人は、皆一つの国に属していた訳ではない。
それぞれ別の国の将軍で、戦場で敵味方に別れることもあった。
最終的に俺たちは平和という共通の目的のために協力しあい、エーデルシアに乗り込んで元凶となった邪神を討伐した。
六人が一同に会したのは、この討伐作戦の時と、戦後の和平交渉の会議だけ。
なので仲間といっても、ドリアーデとあんまり話をした記憶はない。
そのため、名前を聞いて顔を見ても、すぐには思い出せなかったのだ。
「人間たちに、深緑の精霊使い、という恥ずかしい二つ名で呼ばれたこともありました。人間嫌いのフェンリルさまはご存知ないと思いますが」
「ふ、ふーん」
ドリアーデの緑色の髪と瞳が二つ名の由来なのだろう。
知っているとは言えずに、俺は曖昧に相づちを打った。
しかし、今はフェンリルになっている俺が言うのも何だが、ドリアーデはどうして祖国を出たのだろう。元仲間ってことで気になる。
「人間の国で将軍職なんてすごいじゃん。なんで辞めちゃったの?」
「……」
その途端、空気がズーンと重くなった。
もしかしなくても地雷だったらしい。
俺か? 質問した俺が悪いのか?
「あー、お茶のお代わりが欲しいなあ!」
「セルフサービスです」
「そうだった」
沈んでいるドリアーデをどうすればいいか分からず、俺はティーカップを持って席を離れた。
「……珍しい食材だな。トカゲ?」
ちょうど廊下を、鳥かごを持って移動中の料理人が通った。
同僚と世間話をしているのが聞こえてくる。
「なんかしゃべってるけど、食えるのかコレ」
「意外に珍味かもしれんぞ」
「うーむ。長い間生きてきたが、食材として扱われるのは初めてだ。なかなか新鮮な心地がするな」
どこかで聞いたことのある声がした。
鳥かごの中には小さな青いトカゲが入っている。
トカゲには小さなコウモリ型の翼が付いていた。
俺は通りすぎようとして、途中で立ち止まる。
第六感がピピッと働いた。
「まさか」
俺はティーカップを手近なテーブルに置くと、廊下に出て鳥かごを持った料理人たちに歩み寄った。
料理人たちは戸惑った顔をしている。
「魔王さまのご客人ですね、いったい私たちに何の用ですか?」
「ごめん、そのかごの中身を見せてほしいんだ」
彼らに断って、かごを覗きこむ。
そこにいたのは。
「ヨルムンガンド?!」
「久しぶりだな、ゼフィ君」
青いトカゲは、小さな青い竜だった。
東の海に棲む神獣で、俺に魔法を教えてくれた師匠、ヨルムンガンドだ。
「なんでそんな姿に……どうして捕まって食材になってんの」
俺は呆れた。
ヨルムンガンドは飄々とした様子で説明する。
「君の変身の魔法が気になって、私も変身の魔法を極めてみようと思ったんだ。それでまずは身体を小さくしてみようと思って」
「はあ……」
「小さな姿だと視点が変わって面白いな。まるで世界が新しくなったようだ。この姿が気に入って散歩していたところ、たまたま出会った獣人に捕まりここに連れてこられた」
「抵抗しなかったの?」
「食べたい、と言われたのは初めてだったからな。思わず、私は美味しい食材なのだろうかと考え込んでしまった」
ヨルムンガンドは非常にのんきだった。
いつでも魔法で本体に戻って逃げ出せるから、余裕があるんだろうけど。考え方がちょっと、いやかなり変だ。
俺は溜め息をつくと、何も知らない可哀想な料理人に声を掛けた。
「このトカゲは、トカゲじゃなくてヨルムンガンドっていう神獣なんだ。食べたら天罰が下って、お腹を壊すどころじゃすまないよ」
「なんだってー?!」
料理人たちは真っ青になった。
触らぬ神に祟り無し。神獣には触れるべからず。
下手に手を出したらエライ目にあうというのは、子供でも知っているこの世界の常識だ。
「申し訳ありませんでしたー!」
急いで鳥かごから出すと、料理人たちは謝罪しながらそそくさとその場を去った。
後には小型化したヨルムンガンドと俺だけが残される。
「む……後でどんな味か教えてもらう予定だったのに」
「食べられたら死ぬよ?」
「おお、そうだった、そうだった。歳をとると物忘れが酷くなって困るな」
生存本能は物忘れの範囲内ではないと思う。
ヨルムンガンドは小さな羽で空中に浮かぶと、俺の肩にとまった。
「そうだ。忘れていたが、私は君に会いに黄昏薄明雪原に来たんだった」
肩にいる小竜と視線をあわせるのは大変だ。
俺は食堂に戻るとヨルムンガンドをテーブルに降ろした。
「俺に会いに?」
「魔法を教えているところだっただろう」
そういえば途中になっていたかな。
せっかくだから、新しい魔法を教えてもらおうか。
297
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる