フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
36 / 126
極夜の支配者

35 時空転移が発生しました

 月が夜毎よごとに形を変えるように、あらゆる属性の魔法に対応できるのが、月の属性の特徴らしい。
 フェンリルに生まれて寿命も人間より長いし、今世は全種類の魔法コンプリートを目指そうかな。

 魔法の勝負もして疲れたので、その日は休んで体力を回復することにした。しかし外は依然と太陽が輝いているため、昼夜の感覚がおかしい。
 次の日。
 俺は小竜の姿のヨルムンガンドと共に、魔王地下城ダンジョンに囚われたクロス兄とティオを取り返しに行くことにした。

「ウォルト兄は大きくて目立つから、外で待っててよ」

 ウォルト兄は俺が心配だと渋る様子だったが、狭い地下では巨体がつっかえるので仕方なく外で待つことを了承してくれた。

「……帰ってくるのが遅ければ、壁を破壊して雪崩なだれで奴らを一掃してやる」
「兄たん怖い」

 グルグル唸るウォルト兄はやる気満々だ。
 なるべく早く戻って来よう……。

 救出作戦は非常にざっくりした感じだった。
 壁の薄いところから転移魔法を使って内部に潜入し、狼の嗅覚でクロス兄とティオの匂いを辿る。後はヨルムンガンドの魔法で眠りを解除してもらい、皆で脱出するだけ。

「……無事に戻ってくるんだぞ」
「うん。いってきます」

 崖の下まで俺を運んできてくれたウォルト兄と、鼻面をあわせた。
 そして、転移魔法で壁の内側と外側をつなぐ扉を作る。
 移動しやすい人間の少年の姿に変身して、ヨルムンガンドを肩に乗せ、扉の中へ飛び込んだ。変なところに出ないといいけど。
 暗闇を抜けた後、足元でちゃぷんと水音がした。

「うわっ、ここどこ?!」

 俺は辺りを見回した。
 予想とは違い、通路や普通の部屋ではなかった。
 奥行きがあり天井が高い空間だ。
 足元は平らにならした石畳が水滴に濡れている。
 やたら湿気が高くて、温かい。
 目の前にはお湯が入った大きな入れ物が鎮座している。

「ふむ。ここは風呂のようだな」

 肩の上でヨルムンガンドが腕組みして言った。

「風呂?!」

 俺は慌てふためいた。
 暑い場所やお湯は苦手なんだよっ!
 転移した場所は最悪だった。
 しかし、幸いにして風呂に人影はない。魔族に見つかって追いかけ回される心配はなさそうだ。

「さっさと出よう」
「お湯につかっていかないのかね?」

 ヨルムンガンドは残念そうに湯船を見ている。
 俺は構わず出入口と思われる扉へ向かった。
 扉を開けようとすると向こうから勝手に開いた。
 開いた扉の向こう側で、裸の少女が仰天した顔をする。

「あっ?!」
「やば……」

 ちょうど体を洗いに来たらしい、緑色の髪と瞳をした華奢な体つきの少女。
 魔王ドリアーデだった。

「あなたは確かフェンリルさまの弟……!」

 彼女は急いでタオルで胸の前を隠すと、俺をにらんだ。

「兄君さまを取り返しに来たのですか? どうやってここに?」
「ここに出ちゃったのは偶然というか」
「せっかくなのでお風呂に入っていかれますか」
「え? やだよ」

 なぜに風呂に誘う。
 即答するとドリアーデの顔が歪んだ。

「そうですか……油断したところで眠らせよう作戦、失敗ですね」

 作戦だったのか。

「残念ながら、今は太陽の精霊を渡す訳にはいかないのです。お引き取り下さい」
「太陽の精霊なんか要らないよ。兄たんとティオを返せ」
「駄目です。フェンリルさまは、太陽の精霊を食べてしまいますから」

 ドリアーデがビシッと指差すと、その指先から電撃が放たれる。
 俺は咄嗟に、転移の魔法で電撃をどこかへ転送した。

「こうなったら……」

 防がれたと見るや、ドリアーデは本気を出して魔法を使い始めた。
 彼女の周囲で、稲妻が火花を散らしながら円を描くように跳ね回る。
 突きだした腕の先で雷気が球状に収束し、ふくらみ始めた。
 俺は前世で見たことのある攻撃だと思い出す。
 これはドリアーデの必殺技、広範囲殲滅魔法。
 精霊のいかづち。
 
「ちょっと待って正気?! お風呂壊れるよ!」
「壊れたら作り直せばいいのです! 神獣フェンリルには、最大威力の魔法でないと通じないでしょう?!」

 彼女は大きく育った雷球を俺に向かって放った。
 雷球の力が大きすぎて、転移魔法で移動させられない。
 この魔法が目の前で爆発すれば、雷の嵐が無作為に周囲を破壊し、お風呂と一緒に俺は吹っ飛ばされるだろう。
 ピンチだ。

「短い一生だったな……孫娘に再会して、私はヘビでは無いと説明したかった……」
「ヨルムンガンド、諦めるの早すぎっ」

 何かないか。何か手持ちの魔法で使えそうなの。
 氷の魔法で相殺……できるのか?
 変身の魔法……何に変身するんだ。
 時の魔法……そうだ、目の前の空間だけ時間を巻き戻して、雷球が発生する前にすれば!

「戻れーっ!」
「?!」

 俺は両手を雷球にかざして必死に念じた。
 二つの魔法の力は拮抗し、せめぎあう。
 緑色と銀色の火花が二人の狭間で飛び散った。
 目の前の空間がねじれる。

「時空に歪みが……!」

 ヨルムンガンドが何か言っているが、俺は一生懸命でそれどころではなかった。雷球を抑えこんだ手応えを感じた瞬間、消滅した雷球と入れ替わるように空間に傷痕のようなものが見えた。
 俺とドリアーデの中間で、白い光が炸裂した。



「……っつ」

 少し、気を失っていたようだ。
 目を開けると暗い天井が見えた。
 背中は冷たい地面に接しているようだ。

「気がついたか」

 俺の顔を、小竜の姿をしたヨルムンガンドが覗きこんでいる。

「いったい……?」
「偶然だが、君は転移の魔法と、時の魔法を重ねて使ってしまったんだよ。そのせいで時空転移が発生した」
「なんだって?!」

 時空転移って、なんだろう。
 今ひとつ状況が分からないが、尋常でない事態が起こっていることは、何となく理解できる。
 俺は空間を過去に戻そうとしていて……その直前に、同じ場所で転移の魔法を使っていた。過去に……転移?

「どのくらい昔に飛ばされたのか、不明だが……まあ、私が生まれる前ではなかろう。私は長生きだからな」
「ここは、時間を巻き戻した世界……?」
「そう、過去の世界だな」

 身を起こして見回すと、お風呂ではなく物置のような部屋に俺たちはいた。少し離れた場所に、ドリアーデが気を失って倒れている。
 どうやら一緒に連れてきてしまったらしい。

感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。