フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
44 / 126
英雄の後継

42 愛剣を研いでもらいます

 こうして俺たちはエスペランサに向かって旅を始めた。

 旅の間、野宿はほとんど無かった。大抵、騎士の人たちが手配した宿屋や民家に宿泊したり、領主の館に泊めてもらったりしていた。お偉いさんの接待は、本当は王子様が対応すべきなのだが、まだまだ慣れないティオの代わりにロキが対応したようだ。

 俺は兄たんと一緒にぼちぼち旅を楽しんでいる。
 お腹が空いたら兄たんたちと狩りに行ったり。たまにやってくるヨルムンガンドと魔法の練習をしたり。
 ロキは俺たちの正体を知っているので見てみぬふりだ。なぜか行く先々の村で「危険なモンスターがいなくなった王子様万歳」と言う人たちがいたが、きっと俺たちの狩りとは無関係だろう。

「見て、ゼフィ」

 岩の国スウェルレンに入国してすぐの宿屋。
 見せたいものがあると言って、ティオは俺を自分の部屋に連れ込んだ。
 
「お前、剣を持ってきたの?」

 思わず「俺の剣」と言いかけて自制した。
 ティオは荷物から、見覚えのある鞘に白いかえでの印がある剣を取り出す。俺が人間だった頃の愛剣"天牙"だ。

「父さまがスウェルレンでいでもらったら、って」

 "天牙"は、基本に忠実な両刃の長剣ロングソードだ。格別に派手な色も形もしていないが、スウェルレンの凄腕の職人が丁寧に作っただけあって、手荒に扱っても刃こぼれしないし、研ぎをおこたっても刀身は綺麗なままである。
 愛剣を研いでもらえると聞いて、俺はテンションが上がった。

「いいじゃん! どこで研いでもらうんだ? 店は聞いてるの?」
「なんだか楽しそうだね、ゼフィ」

 ティオは不思議そうに首を傾げた。



 その数日後。
 王様から持たされた紹介状を持って、俺たちは工房が並ぶ街を歩いていた。スウェルレンには王族御用達の職人がいるそうだ。紹介状があれば優先的に仕事を受けてくれるという。
 兄狼たちとは別行動だ。
 雪と氷のフェンリルであるクロス兄とウォルト兄は、スウェルレンの街に漂う鉄と火の匂いが臭いと言って、街に入りたがらなかった。
 
 スウェルレンはあちこちに工場や職人の工房があるので、煙突付きの家が多く、煙突からは白い煙が立ち上っている。ここは真白山脈フロストランドと違い暖かい気候で、道端には名前も知らない花が咲いていた。
 工房の敷地の片隅には、決まって石を積み上げた奇妙なオブジェが立っている。

「あれ、なんだろう」

 ティオは石のオブジェを見て疑問を持ったようだ。
 護衛として付いてきているロキが答える。

「スウェルレンは精霊信仰の国なんですよ。職人は自分の家に、火の精霊を祀ったほこらを建てて、仕事がうまくいくように祈る習慣があるそうです」

 あれってほこらだったのか。そこまで詳しくは知らなかったな。
 精霊ってこの前、ウォルト兄が食べてた奴か。
 雑談しているうちに目的地に着いたようだ。

「ここが、一級刀工ザトーさんの工房だな……すみませーん」

 古くて立派な工房の扉を、ロキは遠慮なくノックする。
 中から出てきた若い男は紹介状を見ると緊張した面持ちになって、工房の中へ通してくれた。
 工房の奥には、背の低いがっしりした体格の男が、火の前に座って道具の点検をしている。男は大地小人ドワーフの血を引いているのか、浅黒い肌に白い髪と髭を生やしており、気難しそうな顔をしている。
 彼がザトーさんらしい。

「"天牙"か。久しぶりに見たな。これは百年以上前、ワシの祖父が作った剣だ」

 ティオが差し出した剣を受け取り、ザトーさんは目を細める。
 
「研いでもらえますか?」
「もちろんだ……しかし」

 なぜか、ザトーさんは困惑した表情で剣の刀身を見つめている。

「百年以上、年月を経た名剣には、剣の魂たる精霊が宿るという……」
「??」
「独り言だ、気にするな」

 俺は暇なので、壁や棚に立てかけられた剣を眺めていた。

「ティオ、この剣なら軽くてお前も使いやすいんじゃないか」

 勝手に剣を選んで、鞘からすっと刀身を抜いた。
 うーん、鞘走りの音が綺麗だ。

「良い目利きだ……その手つき、お前は只者ではないな」

 ザトーさんがキラリと目を光らせて俺を見た。
 うえっ、注目されてる?

「おお、さすがフェンリルくん。ティオさま、剣を持ってみてくださいよ」
「僕は"天牙"が良いのにー」

 ロキが間に入ったので、ザトーさんの視線は俺から外れた。
 ティオは不承不承、俺の選んだ剣を受け取る。

「ザトーさん、この剣をいただけますか? あと"天牙"の研ぎはどのくらい掛かりそうです?」
「明日には終わる」

 ロキの言葉に、ザトーさんはむっつり答えた。

「よろしくお願いしますー」

 俺たちは"天牙"をザトーさんに預けて、ティオ用に軽めの直剣を買って帰った。

「ティオ、お前どうして"天牙"にこだわるんだ?」

 自分用の剣を買ってもらったというのに、ぶすっとしているティオ。
 贅沢な奴だなあ。

「"天牙"は英雄の剣なんでしょ? 僕は剣に見合うような、英雄になりたい!」
「ふむふむ。ティオ、英雄になるにはな、ご飯の好き嫌いをしちゃ駄目なんだぞ。ピーマンやニンジンはきちんと食べないとな」
「ええ?!」

 俺の言葉にロキが「ナイスだフェンリルくん」と感心している。
 英雄になりたい、なんて、子供は可愛いなー。
 ほのぼのしていた俺だが、翌日、ザトーさんの工房からの知らせに楽しい気分は吹っ飛んだ。
 なんと、"天牙"が剣豪を名乗る男に強奪されたというのだ。

 
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。