45 / 126
英雄の後継
43 いきなり勝負が始まりました
「ゼフィさま、起きてください!」
「ゼフィ!」
うーん、何?
俺は子狼の姿で、ティオの枕をうばって就寝していた。
普段は兄狼と一緒に人間から離れて眠るのだが、スウェルレンでは兄狼と別行動で、人間の宿に泊まっているのだ。一人で寝るのは寂しいので、こういう時はティオのベッドに潜り込むことにしている。
目を開けると、メイド姿が板についたミカと、もう起きて着替えたらしいティオが、俺をのぞきこんでいた。
「どしたの?」
「"天牙"が、ならず者に盗まれたらしいです!」
「なんだって」
俺は獣耳をピンと立てて、飛び起きた。
急いで人間の姿に変身する。
裸の人間に変身するのは恥ずかしいので、いつも簡単な衣服を着た姿に変身するようにしている。しかし知らないものや複雑な服は再現できないので、下着までは変身で用意して、上着などは実物の服を借りていた。
「ザトーさんのお弟子さんが、"天牙"を私たちの宿まで届けてくれる途中でおそわれたそうです。犯人は、"天牙"を返して欲しくば、時計塔前広場まで来いと……」
ミカの説明を聞きながら着替え終えると、見計らったようにロキが部屋の扉を開けた。
「フェンリルくん、一緒に時計塔広場まで来てくれ!」
俺たちは犯人が待つ、時計塔前広場まで移動した。
時計塔とは、時刻を測る円盤型の装置を天辺に設置した、背の高い建造物のことだ。
時計は、魔力水晶を動力源として半永久的に作動する、複雑で高度な装置だ。魔法使いによる定期的なメンテナンスも必要なので、一般庶民が個別に持てるものじゃない。だから街や村で時計塔を作って、皆で共有しているのだ。
「よく来たな!」
広場には、背中に沢山の剣を背負った、筋骨隆々とした大男が立っていた。
「剣の道を志して三十年、俺は剣豪トリッセン!」
「だれ?」
「あちこちの剣術道場を渡り歩き、剣士と見れば決闘を申し込む、はた迷惑な傭兵らしいよ」
街の人が遠巻きに噂話をしている。
ロキは、トリッセンの前に進み出た。
「貴様が、刀工ザトーの弟子から奪った剣を返してもらおう。それは我が主のために、研ぎをお願いした剣だ」
「ふんっ。どうせ貴族の道楽だろう。せっかくの名剣が、お坊ちゃんの遊び道具とは、剣が泣いておるわ!」
トリッセンは堂々と宣言した。
確かに当たらずも遠からずだけどさ、それって横から強奪する理由にはならないだろ。
「名剣は俺のような剣士のもとにあるべきだ! 異論があるというなら、剣で決着をつければいい。そこな騎士よ、剣の心得があるなら、俺と戦え!」
「くっ」
ロキは大衆の面前で喧嘩を売られて、うろたえている。
ざわめく群衆の中、トリッセンは笑みを浮かべて進み出た。
「さあ、いざ……料理勝負を!」
「……はあ?!」
俺たちは唖然とした。
いやー、聞き間違いかな。こいつ今、料理勝負って言わなかった?
「ふっ、こんなところでチャンバラをすれば、スウェルレンの警備隊が飛んできて逮捕されるだろう! よってここは広場に集まった皆さんに炊き出しを行う料理勝負とする!」
「……剣で決着をつける件はどこいったんだよ」
「刃物の扱いは、包丁さばきを見れば一目瞭然!」
包丁と剣は一緒じゃないっての!
「ロキ、僕は勝負を受ける……!」
「ティオさま?!」
「だって今までお爺ちゃんの家で、家事手伝いもしてきたんだもの。負けないよ!」
ティオは無茶苦茶やる気だった。
剣の果し合いでなくて良かったかもしれない。
「あー、野菜と肉を準備するな。好きなだけ切り刻めや。食べれるものを作ってくれよ」
広場で出店をしていたおっちゃんが、荷車に積んだ野菜と肉を持ってきてくれた。
スウェルレンの人たちはお祭り好きなのか、料理勝負会場をセッティングしてくれる。
いったい何が始まるんだ……。
「レディース、アーンド、ジェントルメン! 急遽、時計塔前で始まった料理勝負! 司会をつとめさせていただきますのは、スウェルレン市場のアイドル、ククリです! 剣豪トリッセン、バーサス、見習い剣士ティオ少年! 勝負の火ぶたが切って落とされようとしている……!」
浅黒い肌に金髪の女の子が、メガホンを手に実況を始めた。
ロキは「訳が分からない」と頭を抱えている。
俺は腕組みして様子を見守ることにした。
もうどうにでもなれ、という気分だ。
ゼフィ……私を探して
風に乗って女の子の声がしたような気がした。
「何……?」
見回したが、誰も俺を見ていない。
首をかしげて俺は料理勝負の観戦に戻った。
「ゼフィ!」
うーん、何?
俺は子狼の姿で、ティオの枕をうばって就寝していた。
普段は兄狼と一緒に人間から離れて眠るのだが、スウェルレンでは兄狼と別行動で、人間の宿に泊まっているのだ。一人で寝るのは寂しいので、こういう時はティオのベッドに潜り込むことにしている。
目を開けると、メイド姿が板についたミカと、もう起きて着替えたらしいティオが、俺をのぞきこんでいた。
「どしたの?」
「"天牙"が、ならず者に盗まれたらしいです!」
「なんだって」
俺は獣耳をピンと立てて、飛び起きた。
急いで人間の姿に変身する。
裸の人間に変身するのは恥ずかしいので、いつも簡単な衣服を着た姿に変身するようにしている。しかし知らないものや複雑な服は再現できないので、下着までは変身で用意して、上着などは実物の服を借りていた。
「ザトーさんのお弟子さんが、"天牙"を私たちの宿まで届けてくれる途中でおそわれたそうです。犯人は、"天牙"を返して欲しくば、時計塔前広場まで来いと……」
ミカの説明を聞きながら着替え終えると、見計らったようにロキが部屋の扉を開けた。
「フェンリルくん、一緒に時計塔広場まで来てくれ!」
俺たちは犯人が待つ、時計塔前広場まで移動した。
時計塔とは、時刻を測る円盤型の装置を天辺に設置した、背の高い建造物のことだ。
時計は、魔力水晶を動力源として半永久的に作動する、複雑で高度な装置だ。魔法使いによる定期的なメンテナンスも必要なので、一般庶民が個別に持てるものじゃない。だから街や村で時計塔を作って、皆で共有しているのだ。
「よく来たな!」
広場には、背中に沢山の剣を背負った、筋骨隆々とした大男が立っていた。
「剣の道を志して三十年、俺は剣豪トリッセン!」
「だれ?」
「あちこちの剣術道場を渡り歩き、剣士と見れば決闘を申し込む、はた迷惑な傭兵らしいよ」
街の人が遠巻きに噂話をしている。
ロキは、トリッセンの前に進み出た。
「貴様が、刀工ザトーの弟子から奪った剣を返してもらおう。それは我が主のために、研ぎをお願いした剣だ」
「ふんっ。どうせ貴族の道楽だろう。せっかくの名剣が、お坊ちゃんの遊び道具とは、剣が泣いておるわ!」
トリッセンは堂々と宣言した。
確かに当たらずも遠からずだけどさ、それって横から強奪する理由にはならないだろ。
「名剣は俺のような剣士のもとにあるべきだ! 異論があるというなら、剣で決着をつければいい。そこな騎士よ、剣の心得があるなら、俺と戦え!」
「くっ」
ロキは大衆の面前で喧嘩を売られて、うろたえている。
ざわめく群衆の中、トリッセンは笑みを浮かべて進み出た。
「さあ、いざ……料理勝負を!」
「……はあ?!」
俺たちは唖然とした。
いやー、聞き間違いかな。こいつ今、料理勝負って言わなかった?
「ふっ、こんなところでチャンバラをすれば、スウェルレンの警備隊が飛んできて逮捕されるだろう! よってここは広場に集まった皆さんに炊き出しを行う料理勝負とする!」
「……剣で決着をつける件はどこいったんだよ」
「刃物の扱いは、包丁さばきを見れば一目瞭然!」
包丁と剣は一緒じゃないっての!
「ロキ、僕は勝負を受ける……!」
「ティオさま?!」
「だって今までお爺ちゃんの家で、家事手伝いもしてきたんだもの。負けないよ!」
ティオは無茶苦茶やる気だった。
剣の果し合いでなくて良かったかもしれない。
「あー、野菜と肉を準備するな。好きなだけ切り刻めや。食べれるものを作ってくれよ」
広場で出店をしていたおっちゃんが、荷車に積んだ野菜と肉を持ってきてくれた。
スウェルレンの人たちはお祭り好きなのか、料理勝負会場をセッティングしてくれる。
いったい何が始まるんだ……。
「レディース、アーンド、ジェントルメン! 急遽、時計塔前で始まった料理勝負! 司会をつとめさせていただきますのは、スウェルレン市場のアイドル、ククリです! 剣豪トリッセン、バーサス、見習い剣士ティオ少年! 勝負の火ぶたが切って落とされようとしている……!」
浅黒い肌に金髪の女の子が、メガホンを手に実況を始めた。
ロキは「訳が分からない」と頭を抱えている。
俺は腕組みして様子を見守ることにした。
もうどうにでもなれ、という気分だ。
ゼフィ……私を探して
風に乗って女の子の声がしたような気がした。
「何……?」
見回したが、誰も俺を見ていない。
首をかしげて俺は料理勝負の観戦に戻った。
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。