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英雄の後継
46 歓迎パーティーでご馳走を食べました
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その女の子は空中に浮いていた。
服装は楓の葉の模様が付いた黒いドレスで、スカートの裾はチューリップのように膨らんでいる。背中まで伸びた青い髪は、まるで翼のように広がって風になびいていた。
女の子はなぜかすごく嬉しそうに金色の瞳を輝かせて俺を見ている。
「スウェルレンで発見された剣の精霊としては、三体目か。えらいこっちゃ、国王に報告しないと……」
ラークが女の子を凝視してぶつぶつ言っている。
「精霊って、自然の力の塊で人の姿になったり、しゃべったりしないものなんじゃないの?」
素朴な疑問。
黄昏薄明雪原でウォルト兄は、太陽の精霊をオムレツにして食べていた。
「基本はそうだが、道具に宿る精霊は違うらしい。東の言葉でツクモガミというそうだが、俺もよく知らん」
ラークは俺の疑問に答えてくれた。
「もうっ、私を無視しないでよ、ゼフィ!」
女の子は不満そうに唇をとがらせる。
ええと、"天牙"の精霊だから、名前は"天牙"なのかな。
「ごめん、天牙」
「今回はゆるしてあげる。けど次に無視されたら、ゼフィの人間時代の恥ずかしい思い出、暴露しちゃうんだから!」
げっ?!
「人間時代……?」
「ななな、なんでもないっ!」
不思議そうにするラークやロキ、それにティオ。
俺は慌てて笑顔を取りつくろい誤魔化した。
ふー。何を言い出すんだよこの精霊!
「天牙、後でゆっくり話をしよう。今は剣の中に戻ってくれよ」
「はーい」
天牙は素直に返事して消えた。
これで一件落着だな。
さて。勝負に勝ったら、ラークさんがご馳走してくれるって言ってなかったっけ。
「ラークさん、おスシ……」
「すまんな坊主、仕事が忙しくて。また今度な!」
ラークは部下を連れてそそくさと去っていった。「また今度」は断りの常套文句だ。俺が勝つとは思ってなかったから逃げたんだろう。
「くっそー」
「まあまあフェンリルくん。戻って君が作った魚料理を食べようじゃないか」
ロキが俺の肩を叩いて苦笑した。
王族の旅は外国との外交も兼ねるので、もともとティオとロキは、スウェルレンの王様から歓迎パーティーに招待されていた。
俺は関係ないので別行動する気満々だったのだが。
「"天牙"の主も来て欲しいそうだよ」
「なんで?!」
「それはやっぱり、剣の精霊のせいだろう」
招待状を受け取ったロキも困った顔をしている。
「スウェルレンでは剣の精霊は吉兆らしい。国を挙げて祝いたいそうだ」
「俺は兄たんと猪豚を狩りにいきたいのにー!」
「……フェンリルくん、歓迎パーティーは美味い飯が食べ放題だぞ」
「ご飯食べるだけでしゃべらなくて良いなら行く」
スピーチ等はお断りだ。
昔、人間だった頃なら付き合いにも気を配ったが、今の俺はフェンリルだ。人間の付き合いなど知ったことか!
身だしなみだけ整えて、俺はご馳走目的でスウェルレン国王主宰のパーティーに参加した。
パーティーはボルク城の"琥珀の間"で開催された。
スウェルレンのボルク城は、赤い煉瓦造りの広大な建物だ。鍛治や物作りが好きな大地小人たちが腕によりをかけて作った城で、世界でも一二を争う堅牢かつ巨大な要塞でもある。
食事は立食形式だった。
スウェルレンの偉い人や、他国の外交官が談笑しながら食事をしている。
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ティオ殿はこういったパーティーは初めてですかな? 我が国は辺境も辺境、山ばかりのド田舎なのでどうぞ気を楽にして下さい」
「は、ハイ……」
スウェルレン国王は腰が低いおじさんで、孫の相手でもするようにティオに優しく話しかけている。しかしティオは慣れない社交パーティーにカチンコチンの状態だ。
「はっはっは。今からそんな緊張していたら、大国エスペランサではもっと困りますぞ」
王様はティオの背中を叩いて笑っている。
確かにちょうど良い社交の練習かもな。俺には関係ないけど。
「ゼフィ、あっちにステーキがあるわよ」
「本当?!」
見回していると、"天牙"の精霊が現れて俺に教えてくれる。
精霊の姿は他の人にも見えている。
途端にパーティーに参加している人々がざわめいた。
「あれが名剣"天牙"の精霊……」
「銀髪の少年、彼が"天牙"の主か。見ろ、王族の前でも少しも臆する気配がない。きっとすごい天才なのだろうな」
パーティーの参加者は遠巻きに噂話をするばかりで話しかけてこない。
俺は遠慮なくテーブルに近づいて料理に舌鼓を打った。
「君……って、僕の声が聞こえてないか」
このステーキ、分厚くて最高だな!
噛めば噛むほど肉汁があふれてくるや。
「なんだよ、そんなに美味しいのか。幸せそうな顔で食べる奴だなあ」
「?」
俺は肉の皿をしっかりキープして振り返った。
そこに立っていたのは、俺より頭ひとつ分高い黒髪の少年だった。
蘇芳色の宮廷長上衣を着て、腰に瀟洒な拵えの鞘に入った片刃曲刀をさしている。短い黒髪はさらさらで、俺を見る切れ長の瞳は暗紫色だ。服装からして良いところのお坊ちゃんみたいだが、どこか肉食獣のような雰囲気がある。
「僕はアールフェス・バルト。戦の国パンテオンから来た。君たちの行くエスペランサ竜騎士学校の先輩にあたるから、敬ってくれ。今は学校を休んで、刀剣の研ぎのためにスウェルレンに来ているんだ」
「ふーん」
「って、それだけか?!」
だって今、食事中なんだもん。邪魔するなよ。
「……アールくんは、かの有名な無敗の六将、白髪の悪魔と呼ばれたバルト将軍の息子さんなんですよ。父親と同じ六将の使っていた名剣を受け継ぐ、セイルくんに興味があるのでしょう」
すすすっと側にやってきたスウェルレンの王様が、訳知り顔で解説した。
解説されたアールフェスが「どうもありがとうございます」と微妙な顔で礼を言っている。
セイルくんって誰のことだろう、って俺の偽名か。
無視して食事を続けようとしていたところ、一人の兵士が慌てた様子でパーティー会場に入ってきた。
「ご歓談中に申し訳ありません! 南のヒエル鉱山で落盤が発生し、出口をふさがれて約百名の鉱夫が行方不明になったとの報告が」
「なんだって?!」
にわかに広間が騒然となった。
その時、ベランダに白い獣が雪風を吹かせながら颯爽と降り立つ。
「ゼフィ!」
「兄たん?!」
クロス兄だ。鉄と火の匂いが嫌だと言って人間の街に入ってこなかったのに、なんで?
「ウォルト兄が、大きなベヒモスを見つけたんだ! 一緒に狩りに行くぞ!」
「べひもす?」
何か良く分からないが大物を発見したらしい。
クロス兄が興奮しているから、きっと美味しい肉なのだろう。
俺は急いでベランダに駆け寄り兄狼の背中によじ登る。
「フェンリルくん! どこへ行くんだ?!」
「えーと……あと適当にやっておいて!」
「お、おい!?」
後の対応をロキに丸投げして、俺は兄たんと一緒に狩りに行くことにした。
「……ベヒモス、地震を起こす上級モンスターか。面白い、僕も行く!」
「ふえ?」
アールフェスは懐から白い笛を取り出して吹く。
ベランダに黒い鱗の竜が現れた。
唖然とするスウェルレンの王様を置いて、なんとアールフェスも、俺の後を追うようにパーティー会場を飛び出したのだった。
服装は楓の葉の模様が付いた黒いドレスで、スカートの裾はチューリップのように膨らんでいる。背中まで伸びた青い髪は、まるで翼のように広がって風になびいていた。
女の子はなぜかすごく嬉しそうに金色の瞳を輝かせて俺を見ている。
「スウェルレンで発見された剣の精霊としては、三体目か。えらいこっちゃ、国王に報告しないと……」
ラークが女の子を凝視してぶつぶつ言っている。
「精霊って、自然の力の塊で人の姿になったり、しゃべったりしないものなんじゃないの?」
素朴な疑問。
黄昏薄明雪原でウォルト兄は、太陽の精霊をオムレツにして食べていた。
「基本はそうだが、道具に宿る精霊は違うらしい。東の言葉でツクモガミというそうだが、俺もよく知らん」
ラークは俺の疑問に答えてくれた。
「もうっ、私を無視しないでよ、ゼフィ!」
女の子は不満そうに唇をとがらせる。
ええと、"天牙"の精霊だから、名前は"天牙"なのかな。
「ごめん、天牙」
「今回はゆるしてあげる。けど次に無視されたら、ゼフィの人間時代の恥ずかしい思い出、暴露しちゃうんだから!」
げっ?!
「人間時代……?」
「ななな、なんでもないっ!」
不思議そうにするラークやロキ、それにティオ。
俺は慌てて笑顔を取りつくろい誤魔化した。
ふー。何を言い出すんだよこの精霊!
「天牙、後でゆっくり話をしよう。今は剣の中に戻ってくれよ」
「はーい」
天牙は素直に返事して消えた。
これで一件落着だな。
さて。勝負に勝ったら、ラークさんがご馳走してくれるって言ってなかったっけ。
「ラークさん、おスシ……」
「すまんな坊主、仕事が忙しくて。また今度な!」
ラークは部下を連れてそそくさと去っていった。「また今度」は断りの常套文句だ。俺が勝つとは思ってなかったから逃げたんだろう。
「くっそー」
「まあまあフェンリルくん。戻って君が作った魚料理を食べようじゃないか」
ロキが俺の肩を叩いて苦笑した。
王族の旅は外国との外交も兼ねるので、もともとティオとロキは、スウェルレンの王様から歓迎パーティーに招待されていた。
俺は関係ないので別行動する気満々だったのだが。
「"天牙"の主も来て欲しいそうだよ」
「なんで?!」
「それはやっぱり、剣の精霊のせいだろう」
招待状を受け取ったロキも困った顔をしている。
「スウェルレンでは剣の精霊は吉兆らしい。国を挙げて祝いたいそうだ」
「俺は兄たんと猪豚を狩りにいきたいのにー!」
「……フェンリルくん、歓迎パーティーは美味い飯が食べ放題だぞ」
「ご飯食べるだけでしゃべらなくて良いなら行く」
スピーチ等はお断りだ。
昔、人間だった頃なら付き合いにも気を配ったが、今の俺はフェンリルだ。人間の付き合いなど知ったことか!
身だしなみだけ整えて、俺はご馳走目的でスウェルレン国王主宰のパーティーに参加した。
パーティーはボルク城の"琥珀の間"で開催された。
スウェルレンのボルク城は、赤い煉瓦造りの広大な建物だ。鍛治や物作りが好きな大地小人たちが腕によりをかけて作った城で、世界でも一二を争う堅牢かつ巨大な要塞でもある。
食事は立食形式だった。
スウェルレンの偉い人や、他国の外交官が談笑しながら食事をしている。
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ティオ殿はこういったパーティーは初めてですかな? 我が国は辺境も辺境、山ばかりのド田舎なのでどうぞ気を楽にして下さい」
「は、ハイ……」
スウェルレン国王は腰が低いおじさんで、孫の相手でもするようにティオに優しく話しかけている。しかしティオは慣れない社交パーティーにカチンコチンの状態だ。
「はっはっは。今からそんな緊張していたら、大国エスペランサではもっと困りますぞ」
王様はティオの背中を叩いて笑っている。
確かにちょうど良い社交の練習かもな。俺には関係ないけど。
「ゼフィ、あっちにステーキがあるわよ」
「本当?!」
見回していると、"天牙"の精霊が現れて俺に教えてくれる。
精霊の姿は他の人にも見えている。
途端にパーティーに参加している人々がざわめいた。
「あれが名剣"天牙"の精霊……」
「銀髪の少年、彼が"天牙"の主か。見ろ、王族の前でも少しも臆する気配がない。きっとすごい天才なのだろうな」
パーティーの参加者は遠巻きに噂話をするばかりで話しかけてこない。
俺は遠慮なくテーブルに近づいて料理に舌鼓を打った。
「君……って、僕の声が聞こえてないか」
このステーキ、分厚くて最高だな!
噛めば噛むほど肉汁があふれてくるや。
「なんだよ、そんなに美味しいのか。幸せそうな顔で食べる奴だなあ」
「?」
俺は肉の皿をしっかりキープして振り返った。
そこに立っていたのは、俺より頭ひとつ分高い黒髪の少年だった。
蘇芳色の宮廷長上衣を着て、腰に瀟洒な拵えの鞘に入った片刃曲刀をさしている。短い黒髪はさらさらで、俺を見る切れ長の瞳は暗紫色だ。服装からして良いところのお坊ちゃんみたいだが、どこか肉食獣のような雰囲気がある。
「僕はアールフェス・バルト。戦の国パンテオンから来た。君たちの行くエスペランサ竜騎士学校の先輩にあたるから、敬ってくれ。今は学校を休んで、刀剣の研ぎのためにスウェルレンに来ているんだ」
「ふーん」
「って、それだけか?!」
だって今、食事中なんだもん。邪魔するなよ。
「……アールくんは、かの有名な無敗の六将、白髪の悪魔と呼ばれたバルト将軍の息子さんなんですよ。父親と同じ六将の使っていた名剣を受け継ぐ、セイルくんに興味があるのでしょう」
すすすっと側にやってきたスウェルレンの王様が、訳知り顔で解説した。
解説されたアールフェスが「どうもありがとうございます」と微妙な顔で礼を言っている。
セイルくんって誰のことだろう、って俺の偽名か。
無視して食事を続けようとしていたところ、一人の兵士が慌てた様子でパーティー会場に入ってきた。
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「なんだって?!」
にわかに広間が騒然となった。
その時、ベランダに白い獣が雪風を吹かせながら颯爽と降り立つ。
「ゼフィ!」
「兄たん?!」
クロス兄だ。鉄と火の匂いが嫌だと言って人間の街に入ってこなかったのに、なんで?
「ウォルト兄が、大きなベヒモスを見つけたんだ! 一緒に狩りに行くぞ!」
「べひもす?」
何か良く分からないが大物を発見したらしい。
クロス兄が興奮しているから、きっと美味しい肉なのだろう。
俺は急いでベランダに駆け寄り兄狼の背中によじ登る。
「フェンリルくん! どこへ行くんだ?!」
「えーと……あと適当にやっておいて!」
「お、おい!?」
後の対応をロキに丸投げして、俺は兄たんと一緒に狩りに行くことにした。
「……ベヒモス、地震を起こす上級モンスターか。面白い、僕も行く!」
「ふえ?」
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