51 / 126
英雄の後継
49 デザートは別腹です
しおりを挟む
俺が服と"天牙"を回収して追い付いた時には、ウォルト兄とクロス兄は協力してベヒモスの手足を氷で封じ、とどめを刺そうとしていた。
愛剣を抜いてベヒモスの角を切り落とす。
そのまま背中に乗って、頭の後ろを剣で突いた。
でっかいサイのようなベヒモスの巨体は、どうと横倒しになる。最後に地震が起きて洞穴が崩れそうになったが、俺の魔法で天井に穴を開け、氷の柱でベヒモスを押し上げて脱出した。
地上に出ると変身の魔法を全部解除した。
ウォルト兄とクロス兄は元の大きなフェンリルに戻り、俺は小さな子狼の姿になる。
「べひもす、うまー!」
俺たちは久しぶりの大物にかぶりつく。
大食いのウォルト兄とクロス兄は、あっという間にペロリとベヒモスの肉を平らげた。白い骨になったベヒモスの隣で、ごろんと横になる。
満腹になった俺は残った骨をかじりながら、お月様を見上げた。
「でざーと、たべたいな……」
口の中を、果物のジュースですっきりさせたい。
まんまるお月様が黄金の果実だったらいいのに。
「りんごか、おれんじを、ぎゅーっとしぼって」
「何を言ってるんだゼフィ」
クロス兄は呆れたように言って、ふさふさの尻尾で俺を叩いた。
「まだ食いたりないのか」
違うよ。ジュースが飲みたいんだよ。
だが腹が満ちて眠くなった俺は、そのまま兄たんにもたれて眠ってしまった。
ティオのもとに戻って話を聞いたところ、スウェルレンの鉱山事故は、フェンリルの加護とアールフェスの活躍により、大多数の鉱夫が生還したことになっていた。ローリエ王国を守護するフェンリルの噂は、近隣諸国に広まっているようだ。
スウェルレンの王様は、ティオ宛に感謝状を送ってきた。
「わあ、綺麗な模様の入った紙!」
王族貴族のやり取りで使われる手紙は、偽装防止に透かし模様が入っていたり手が込んでいる。
ティオは物珍しそうに紙をひっくり返して凝視した。
ところで今回の件で感謝状を送られた奴は、もうひとりいる。
「……貴様が"天牙"の持ち主にふさわしいと、認めた訳じゃない」
わざわざ俺とティオの泊まる宿屋にやってきて、アールフェスは偉そうに言った。
ちょうど食堂で朝食のスペシャルオムレツを食べているところだった。俺は朝食のためだけに人間の姿になっている。
食事の邪魔するなよ。
「あなたに認められる必要はないわ!」
話題に上がった、"天牙"の精霊メープルが現れて抗議する。
「私の主はゼフィ! 私がそう決めたんだもの!」
間近に現れたメープルの姿にアールフェスは見とれている。
無理もない。空色の髪をなびかせて空中に浮かんだメープルは、宝石のように少し透けて幻想的で、だけど生き生きした表情がとても綺麗だった。
「だいたい、あなた、剣を使えないでしょ!」
え? 俺は思わずアールフェスの腰の片刃曲刀を見た。立派な刀剣持ってるのに使えないのか。立ち姿に剣士の気配を感じないのは、隠してるからだと思ってたけど。
「ああ、僕は剣を使えない!」
アールフェスは胸を張って肯定した。
「それどころか運動神経ゼロだ! バルト将軍の息子なのにそれはどうかとか、見掛け倒しだとか言われるのは耳タコだぞ!」
「それ、自慢できることなの……?」
「ふっ。故郷で落ちこぼれだと言われたこの僕だが、竜騎士学校で最強のパートナーを手に入れたのだ。これでも成績は良い方なんだぞ!」
ごめん、なんだか切なくて涙が出てきたよ。
俺は思わぬ打ち明け話に同情してしまった。
「アールフェス、苦労してるんだなあ」
「同情するなら僕を評価しろ」
「……えいっ」
俺たちの会話を聞いていたティオが、アールフェスの後ろに回り込んで、いきなり膝かっくんした。
アールフェスはつんのめって近くの柱に額をぶつける。
「何をする?!」
「わあ、本当に弱いや。僕より喧嘩できない人、初めて会った」
実演ありがとうティオ。
しかしティオにも負けるだなんて、可哀想に思えてくるぞ。
「ふっ。腕力だけが、この世の全てじゃない。心の強さが未来を切り開く……」
格好つけて言うアールフェスだが説得力皆無だった。
何か話がずれつつある。
俺は軌道修正することにした。
「アールフェス、何しに来たの?」
"天牙"の件で文句を言いに来ただけなら、お引き取り願おう。
これからデザートの林檎《りんご》のコンポートを食べるところなのだ。硝子の小皿に、甘いシロップで煮た林檎を冷やして、ホイップクリームを添えたデザートが盛ってある。
「君たちはエスペランサの竜騎士学校に行くところだろう。僕もちょうど学校に帰るところなんだ。一緒に行こう」
案外、まともな提案だ。
でも決めるのはティオだ。俺は付き添いで学校に行くだけだからな。
「僕より弱い人と一緒に行きたくない」
「何?! 貴様、誰に向かって」
「さっきから僕を無視してゼフィとばっかり話をするんだもの。頭に来る」
ティオは不満そうに唇を尖らせる。
思わぬ返答にアールフェスは狼狽しているようだ。
慌てて俺に向かってまくし立てる。
「お、おい! 学校の先輩を敬うとか、建前と本音を使い分けて情報収集するとか色々あるだろう。このお坊ちゃまに教えてやれ!」
なんで俺に言うの。
「自分の力だけでは何もできない人が偉そうに! ゼフィ、言ってやってよ!」
お前ら、そろって何なの。
俺から見ると五十歩百歩だぞ。
「セイル!」
「ゼフィ!」
二人の少年から答えを迫られ、俺は後ずさった。
それって答えたら美味しいご飯を食べられるとか、何か良い特典あったりする?
愛剣を抜いてベヒモスの角を切り落とす。
そのまま背中に乗って、頭の後ろを剣で突いた。
でっかいサイのようなベヒモスの巨体は、どうと横倒しになる。最後に地震が起きて洞穴が崩れそうになったが、俺の魔法で天井に穴を開け、氷の柱でベヒモスを押し上げて脱出した。
地上に出ると変身の魔法を全部解除した。
ウォルト兄とクロス兄は元の大きなフェンリルに戻り、俺は小さな子狼の姿になる。
「べひもす、うまー!」
俺たちは久しぶりの大物にかぶりつく。
大食いのウォルト兄とクロス兄は、あっという間にペロリとベヒモスの肉を平らげた。白い骨になったベヒモスの隣で、ごろんと横になる。
満腹になった俺は残った骨をかじりながら、お月様を見上げた。
「でざーと、たべたいな……」
口の中を、果物のジュースですっきりさせたい。
まんまるお月様が黄金の果実だったらいいのに。
「りんごか、おれんじを、ぎゅーっとしぼって」
「何を言ってるんだゼフィ」
クロス兄は呆れたように言って、ふさふさの尻尾で俺を叩いた。
「まだ食いたりないのか」
違うよ。ジュースが飲みたいんだよ。
だが腹が満ちて眠くなった俺は、そのまま兄たんにもたれて眠ってしまった。
ティオのもとに戻って話を聞いたところ、スウェルレンの鉱山事故は、フェンリルの加護とアールフェスの活躍により、大多数の鉱夫が生還したことになっていた。ローリエ王国を守護するフェンリルの噂は、近隣諸国に広まっているようだ。
スウェルレンの王様は、ティオ宛に感謝状を送ってきた。
「わあ、綺麗な模様の入った紙!」
王族貴族のやり取りで使われる手紙は、偽装防止に透かし模様が入っていたり手が込んでいる。
ティオは物珍しそうに紙をひっくり返して凝視した。
ところで今回の件で感謝状を送られた奴は、もうひとりいる。
「……貴様が"天牙"の持ち主にふさわしいと、認めた訳じゃない」
わざわざ俺とティオの泊まる宿屋にやってきて、アールフェスは偉そうに言った。
ちょうど食堂で朝食のスペシャルオムレツを食べているところだった。俺は朝食のためだけに人間の姿になっている。
食事の邪魔するなよ。
「あなたに認められる必要はないわ!」
話題に上がった、"天牙"の精霊メープルが現れて抗議する。
「私の主はゼフィ! 私がそう決めたんだもの!」
間近に現れたメープルの姿にアールフェスは見とれている。
無理もない。空色の髪をなびかせて空中に浮かんだメープルは、宝石のように少し透けて幻想的で、だけど生き生きした表情がとても綺麗だった。
「だいたい、あなた、剣を使えないでしょ!」
え? 俺は思わずアールフェスの腰の片刃曲刀を見た。立派な刀剣持ってるのに使えないのか。立ち姿に剣士の気配を感じないのは、隠してるからだと思ってたけど。
「ああ、僕は剣を使えない!」
アールフェスは胸を張って肯定した。
「それどころか運動神経ゼロだ! バルト将軍の息子なのにそれはどうかとか、見掛け倒しだとか言われるのは耳タコだぞ!」
「それ、自慢できることなの……?」
「ふっ。故郷で落ちこぼれだと言われたこの僕だが、竜騎士学校で最強のパートナーを手に入れたのだ。これでも成績は良い方なんだぞ!」
ごめん、なんだか切なくて涙が出てきたよ。
俺は思わぬ打ち明け話に同情してしまった。
「アールフェス、苦労してるんだなあ」
「同情するなら僕を評価しろ」
「……えいっ」
俺たちの会話を聞いていたティオが、アールフェスの後ろに回り込んで、いきなり膝かっくんした。
アールフェスはつんのめって近くの柱に額をぶつける。
「何をする?!」
「わあ、本当に弱いや。僕より喧嘩できない人、初めて会った」
実演ありがとうティオ。
しかしティオにも負けるだなんて、可哀想に思えてくるぞ。
「ふっ。腕力だけが、この世の全てじゃない。心の強さが未来を切り開く……」
格好つけて言うアールフェスだが説得力皆無だった。
何か話がずれつつある。
俺は軌道修正することにした。
「アールフェス、何しに来たの?」
"天牙"の件で文句を言いに来ただけなら、お引き取り願おう。
これからデザートの林檎《りんご》のコンポートを食べるところなのだ。硝子の小皿に、甘いシロップで煮た林檎を冷やして、ホイップクリームを添えたデザートが盛ってある。
「君たちはエスペランサの竜騎士学校に行くところだろう。僕もちょうど学校に帰るところなんだ。一緒に行こう」
案外、まともな提案だ。
でも決めるのはティオだ。俺は付き添いで学校に行くだけだからな。
「僕より弱い人と一緒に行きたくない」
「何?! 貴様、誰に向かって」
「さっきから僕を無視してゼフィとばっかり話をするんだもの。頭に来る」
ティオは不満そうに唇を尖らせる。
思わぬ返答にアールフェスは狼狽しているようだ。
慌てて俺に向かってまくし立てる。
「お、おい! 学校の先輩を敬うとか、建前と本音を使い分けて情報収集するとか色々あるだろう。このお坊ちゃまに教えてやれ!」
なんで俺に言うの。
「自分の力だけでは何もできない人が偉そうに! ゼフィ、言ってやってよ!」
お前ら、そろって何なの。
俺から見ると五十歩百歩だぞ。
「セイル!」
「ゼフィ!」
二人の少年から答えを迫られ、俺は後ずさった。
それって答えたら美味しいご飯を食べられるとか、何か良い特典あったりする?
198
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる