フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
57 / 126
新型魔導銃の秘密

55 縁を結びなおしてあげました

 俺の入った鞄を持って、ロイドは商会に引き返したようだ。
 こっそり鞄に小さな穴を開けて外の様子を観察する。
 ロイドはクリスティ商会の建物に入り、階段を下って地下に降りて行く。空気が蒸し暑くなってきた。火でも使っているのだろうか。
 
「おかえり。新型魔導銃の材料は買ってこれたか」
「この石の組み合わせで、うまく発火するか分からないけどな」
 
 荷物を床に降ろして、ロイドは買ってきた鉱石を机に広げたようだ。
 同僚らしき太った男が手元をのぞきこんでいる。
 
「さて。午後の作業を始める前に、昼飯を……」
 
 ごめん。弁当は俺が食べちゃったわ。
 
「って、なんじゃこりゃああーっ?!」
 
 荷物の間に、白い子犬こと俺を見つけてロイドが仰天する。
 見つかっちゃった。てへっ。
 
「この犬ころ、俺の弁当をっ」
 
 怒って捕まえようとするロイドの手を避けて、俺は床に飛び降りる。
 三十六計、逃げるに如かず。
 
「待てぇぇぇー!」
 
 俺はすたこらさっさと逃げ出した。
 追いかけてくるロイドは、床に転がっていた工具につまづいて転ぶ。間抜けな奴だな。おかげで俺は首尾よく廊下に抜け出した。
 暗い廊下をぶらぶら散歩する。
 とっとこ歩いていると、廊下の奥から美味しそうな匂いが漂ってきた。
 
「なんだろー?」
 
 匂いの発生源を辿っていく。
 突き当たりの分厚い扉の向こうに発生源があるようだ。だが子狼の姿では扉を突破できない。人間の姿で"天牙"を使うことができれば、扉をぶったぎってやるのになあ。
 
「……それにしても困ったものです」
 
 人の気配が近付いてきたので、俺は物陰に隠れる。
 見つからないように注意しながら、やってきた人物を確認した。
 そこにいたのは赤い長髪の美人さんこと、商会代表のアーサ・クリスティさんだった。部下らしい商人の格好をした男と話している。
 
「ローリエが、エーデルシア領事館を買い取ったのは予想外でした。あそこで新型魔導銃の実験をしていたのに」
「そうですね。誰も近寄らず都合のいい場所でした」
「アンデッドの巣窟なのに、ローリエはどうやって掃除するつもりなのかしら」
 
 そりゃ兄たんと俺で美味しく食べて……って、あのアンデッドたちはもしかして、アーサさんの言う「新型魔導銃の実験」と関係あるのかしらん。くんくん、陰謀の気配がするぞ。
 
 アーサさんが扉の向こうに消えたのを見計らって、俺は来た方向を戻り始めた。ここ暑いから早く地上に戻りたいなあ。
 
「……あ、犬ころ!」
 
 帰り道で額にたんこぶをこさえたロイドに見つかった。
 短い足をぱたぱた動かして回避しようとするが、子狼の俺はあっけなく捕まってしまう。
 
「この……!」
 
 怒らないでプリーズ。
 そう願いを込めてロイドの瞳をじっと見つめる。
 
「うっ……」
 
 ロイドはうめいた。
 
「そのつぶらな目は反則だろ」
 
 俺の気持ちは通じたようだ。やっぱり世界はラブアンドピースだね。
 ロイドは俺を小脇に抱えると、歩き出した。
 どうやら外まで連れて行ってくれるらしい。
 
「もう変なところに入るんじゃないぞ」
 
 商会の建物の一階、玄関から外に出て、ロイドはしゃがみこんで中腰になり俺を地面に降ろした。
 運んでくれてありがとな。
 
「……ロイドくん。サボりかな?」
 
 その時。白衣を着た初老の男が、ロイドの背後に立った。
 ロイドは振り返って「げっ」と嫌な顔をする。
 
「所長、ちょっと休憩を……」
「いけませんなあ。夕べの鐘が鳴る時間まで、外に出てはならん決まりですぞ」
 
 所長と呼ばれた男は、ロイドを蛇のような目でにらんだ。
 興奮した様子で言いつのる。
 
「まさか、また逃げ出すつもりじゃないでしょうな……?」
「また?」
 
 俺は呆気に取られるロイドの背中を駆け登り、彼の後頭部を踏んづけて、空中にジャンプした。
 
「おべんとうのお礼きっく!」
「はうあっ?!」
 
 子狼の俺の蹴りが、所長さんの顎先にクリーンヒットする。
 ロイドにもらった(勝手に食べた)弁当のお返しだ。困る上司を代わりにやっつけてあげたぞ。
 
「な、何やってんだ犬ころ!」
 
 感謝されると思ったが、ロイドは焦った顔であわあわしている。
 あれ? 違った?
 
「うう……この男を捕まえろ! 逃げようとしているぞ!」
 
 所長さんは顎に手をやって真っ赤な顔で怒鳴った。
 叫びに反応した商会の人たちが集まってくる。
 ロイドは急いで俺を抱えあげると、人ごみをかき分け、商会の建物を背に走り出した。彼は走りながらわめいた。
 
「くそっ、なんで逃げてんだよ俺は?!」
 
 なんでなんだろうな。俺も知らん。
 
「はあ……はあ……!」
 
 ロイドは懸命に走って追っ手を撒くと、狭い路地にへたりこんだ。
 俺を膝に抱えて体育座りになる。
 
「なんなんだよ、いったい……」
 
 心なしか、呟きには悲嘆がこもっていた。
 
「怪我で数年分の記憶を失ってから、変なことばっかりだ。俺の人生計画では、今頃ナイスバディな姉ちゃんと結婚して小さな魔導具店をやってるはずなのに……!」
 
 記憶喪失なのかー。
 それでミカのことを忘れてしまってるんだね。
 予定していた人生計画とは違うけど、親身に心配して、一生懸命追いかけて来てくれる女の子が、あんたにはいるんだよ。
 
 俺はロイドの腕から抜け出すと、地面に降りた。
 肉球から爪を引っ張り出して地面をひっかく。
 
かしの木亭』
 
 何とか読める字になったかな。
 
「犬ころが文字を書いてる? これは北通りの宿屋の名前……?」
 
 ミカは樫の木亭という宿屋で、熱を出して寝ている。
 エーデルシア領事館は掃除中だから女の子を寝かせる訳にはいかない。宿屋の一室を借りて、お医者さんに診てもらっているところだった。
 
「ここに行ってみろってことか。今は行くところが無いし……行ってみるか」
 
 ロイドは立ち上がった。
 俺を抱えあげると、北通りへと歩き出す。
 樫の木亭の前にはティオがいた。俺とロイドを見つけると手を振る。今日のティオは掃除の手伝いもしているので、どこにでもいる平民の少年の格好をしている。
 
「お見舞いに来てくれたんですね、ロイドさん!」
「お、おう?」
 
 無邪気な少年に腕を引かれて、ロイドは戸惑いながら宿屋の二階に上がった。扉を開けると、ベッドの上に横たわる獣人の少女の姿が見えた。
 
「ごゆっくり~」
 
 俺とロイドを部屋に押し込むと、ティオは扉を閉めた。
 訳が分からない様子のロイドはベッドに近寄る。
 
「こいつ、この前の……」
 
 眠っているミカを見て、ロイドは心配そうにする。

「風邪でも引いてるのか。苦しそうだな」

 ロイドは椅子を引き寄せてベッドの横に座った。
 俺はミカの枕元に飛び降りる。
 ぽふん、と柔らかい上掛け布団が凹んだ。
 その軽い音に気付いたのか、ミカがうっすら目を開ける。
 
「師匠の匂いだあ……師匠、来てくれたんですね……」
 
 夢うつつの少女は、ロイドを見て微笑んだ。
 
「師匠、痩せた? ちゃんとご飯食べてますか。私がいないからって、本を読んで食事もせずに徹夜したりしちゃ、駄目ですよ……」
 
 病人に気遣われて、ロイドは思うところがあったのだろう。
 
「くそっ」
 
 再び目を閉じてしまった少女の手を握って、ロイドはうつむいた。二人のつないだ手の甲に、温かい滴が落ちる。
 俺は彼の涙を見ないふりをして枕元で丸くなった。

感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。