フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
61 / 126
新型魔導銃の秘密

59 ついに謎が解けました?

 俺は領事館に帰ると、庭で昼寝している兄たんの身体の上に飛び乗った。
 
「兄たん! 美味しいお肉の気配だよ!」
「……む?」
 
 白い三角耳を引っ張って兄狼を起こす。
 そうしてクロス兄とウォルト兄に、クリスティ商会の地下で感じた「美味しい匂い」について教えてあげた。
 
「ゼフィがそこまで言うからには、確かめに行かなければならないな」
「……(無言で立ち上がる)」
 
 話を聞いたクロス兄とウォルト兄は、やる気になったみたいだ。
 善は急げ。
 早速、夜になったらクリスティ商会の地下に忍び込もう。
 ティオは俺たちの行動に困惑気味だ。
 
「本気で泥棒しにいくの? ゼフィ」
「美味しいお肉が俺を待っている(キリッ)」
 
 兄狼には普通の犬サイズになってもらって、俺は黒い服に着替えることにした。
 銀髪は目立つからフードを上から被る。
 ミカが市場で買ってきたそのフード付きマントは、何故か黒猫をイメージした猫耳が付いていた。俺が被るとミカが「可愛い!」と目を輝かせる。こら、遊びじゃないんだからな!
 最後に愛剣"天牙"を持った。
 
 ごそごそ準備していると、部屋にパンツ一丁の男が入ってきた。
 
「わっ、変態を成敗……」
「するな! 俺だよ、ロイドだよ!」
 
 長髪で猫背の男は、わたわた両手を振って降参の意思を示す。
 ロイドは元神獣ハンターで、記憶を失ってクリスティ商会で新型魔導銃の開発をさせられていた。今は商会から逃げ出して俺たちがかくまっている。
 俺がタヌキの姿になる魔法を掛けていたのだが、時間が経って効力が切れたみたいだな。
 
「よし。もっかいタヌキにしてあげるから、そこに直れ」
「ちがーう! そうじゃなくて思い出したんだよ!」
「??」
「お前がフェンリルで、ミカが弟子だってことも、思い出した」
 
 記憶が戻ったのか。
 俺は密かな懸案事項が解決して、ちょっと安心した。
 ミカが目をうるうるさせて「師匠」と呟いている。
 
「良かったね。ミカにお礼を言いなよ」
「ああ。って、声を掛けたのはそうじゃなくて、お前ら、クリスティ商会の地下に行くのか?」
「そうだけど。ロイドも肉を食べたいのか」
「肉? 違う。俺はヤバいことを手伝わされていたんだ。あの地下にあるのは……」
 
 言いかけて、頭痛がするのかしゃがみこむロイド。
 まだ本調子じゃないみたいだ。
 
「無理せずに寝てなよ」
「……気を付けろ。あそこは危険だ」
 
 意味深な警告に俺は「へえ」と不敵な笑みを浮かべた。
 何があるんだろう。わくわくするな。
 
「行こう、兄たん」
 
 東の空にうっすら白い月が輝き始めた。
 ここからは、俺たち獣の時間だ。
 
 
 
 人間がいっぱいの建物に真正面から忍び込むなんて、面倒なことはしない。
 俺は領事館の庭で転移魔法を使った。
 クリスティ商会の地下に直接、時空をつなげる。
 兄狼二匹と、時空の穴に飛び込んだ。
 あっという間に目的の場所の前まで辿り着く。
 
「この匂いは……!」
 
 例の、地下の突き当りの扉の前。
 クロス兄とウォルト兄も匂いを感じているのか、鼻先を上に向けて空気を嗅いでいる。
 
「確かに美味そうな匂いだ!」
「でしょ!」
 
 俺は天牙を鞘から抜いて、分厚い金属の扉をぶったぎった。
 
「えい!」
 
 音もなく扉に切れ目が走る。
 扉を蹴飛ばすと同時に、氷の魔法をクッション代わりに使って、切った扉が床に当たって音が出ないようにした。
 氷漬けになった扉の破片の上を踏みしめて、部屋の中に入る。
 
 部屋の奥には、大きな水晶の花が咲いていた。
 水晶の花の上に長い黒髪の女の子が浮いている。
 光の翼を背負った神々しい少女だ。
 
『……よく来たな、限りある命の人の子よ。私はヴェルザンディ。秩序ロウを尊ぶ神の一柱である』
 
 少女が話し出すと同時に、赤い蝶々が部屋の中を乱舞した。
 幻想的な光景だ。
 
『猫耳フードの少年、なかなか可愛いわね。こっちに来なさい、かみの加護を与えてあげましょう』
「ええと」
「ゼフィ、あれは食べ物だ!」
「へ?」
 
 クロス兄とウォルト兄が、目を輝かせている。
 確かに少女から美味しい匂いが漂ってくるけど。
 
「兄たん、ヨダレヨダレ」
「美味そうだ……!」
 
 食欲を向けられたヴェルザンディが困惑した表情になり、次の瞬間、青ざめる。
 
『げっ、フェンリル。神を喰らう獣! なんでこんな南の地にいるの?! ああ、変身の魔法を使っていたのね。人間かと思っちゃったじゃない!』
 
 ヴェルザンディは俺たちを見て、水晶の上を後ずさりし始めた。
 
『いやっ、せっかく復活したのに! 食べないで~!』
 
 なんだか、可哀想だ。
 
「兄たん、しゃべる食べ物はちょっと……」
「むむ、確かに。美味しそうなんだがなー」
「……(無言で耳を伏せる)」
 
 せっかく来たのに、美味しそうな匂いもしてるのに、食べられないなんて。
 どうしようかな。
 俺は兄たんと視線をかわして悩んだ。
 
 すると、壁際で涙ぐんでいたヴェルザンディが、不意に笑い始める。
 
『……ふふ。相変わらず、混沌カオスの神族のあなたたちは、人の情にもろいのね。なら、いくらでもやりようがある。来なさい、アールフェス』
 
 知り合いの名前が呼ばれて、俺はぎょっとした。
 いつの間にか部屋の外に人の気配がある。
 振り返るとそれは、虚ろな目をしたアールフェスだった。
 
『新型魔導銃には、私の力を使ってもらっているの。私の力に触れたものは、私の使徒になる』
 
 アールフェスはヴェルザンディに手招きされるまま、歩いてくる。
 すれ違いざま、俺と彼の視線が絡み合う。
 アールフェスの唇がかすかに動いた。
 
 ――すまない。
 
 いったい何に対しての謝罪なのか。
 ヴェルザンディはアールフェスに抱き着くと、勝ち誇った顔をした。
 
『私を傷つけたら、この人間を殺すわよ! さあ、私の部屋から出て行きなさい、けだものども!』
 
 人質を取るなんて卑怯な奴だ。
 しかし無理やりアールフェスを取り返しても洗脳が解けるか分からないし。
 ここは一旦退却するか。
 
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。