フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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新型魔導銃の秘密

61 王子さまって誰ですか

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 俺は走り去ったフレイヤ王女を追いかけた。
 行き先は彼女の匂いを追えば分かるから、焦らずのんびり歩く。
 
「……ゼフィくん。私の孫娘に何をしたのかな?」
「初対面だよ」
「うーむ」
 
 肩の上で、ほっかむりをした青い竜が腕組みした。
 青い竜はフレイヤのお爺ちゃんこと神獣ヨルムンガンドだ。
 
「しかし、このままではゼフィくん、君の顔を見たらまた逃げ出すんじゃないかね」
「そうだね。よし、変身を解除して元の姿で行ってみるか」
 
 フレイヤは学内にある図書室に飛び込んだようだ。
 書架の陰に入り、俺は服を脱いで変身を解いた。
 
「服などは私が預かろう」
 
 ヨルムンガンドは俺の脱いだ服をまとめると、本の隙間に入っていく。
 俺の服をベッド代わりに本棚で寝るつもりのようだ。
 
「いっしょにこないの?」
 
 本棚を見上げて聞くと、ヨルムンガンドは丸くなりながら答えた。
 
「私は一度会って、怖がられているのだよ。ここはゼフィくんの説得に期待しよう」
 
 ヨルムンガンドは過去に孫娘に会いに行ったが「蛇きらい!」と泣かれ、ろくに話せなかったそうだ。また泣かれるのは嫌なので、俺の説得が終わるまで姿を見せない方針らしい。
 という訳で、俺は一匹でとことこ歩き始めた。
 フレイヤは図書室の奥、誰も入って来ない本棚に囲まれた一角にいた。
 
 廊下で出会った時は、襟首まできっちり刺繍が入った上着に綺麗な群青のスカートをはいていた彼女だが、今は上着やスカートを脱ぎ捨ててパジャマのような格好をしている。
 輝くような金髪も雑に頭の上でくくって、丸い眼鏡をかけていた。
 
 どうみても高嶺たかねの花の王女さまに見えない。
 引きこもりの冴えない女の子だ。
 彼女は床に本を並べ、口に大きな餡パンをくわえていた。
 
「ぶはっ!」
 
 突然、現れた白い子犬こと俺に驚いて吹き出すフレイヤ。
 餡パンが口から飛び出て宙を舞う!
 
「ごはん!」
 
 俺はジャンプして餡パンをキャッチした!
 
「ああああ、私の餡パンがっ! この子犬ちゃんどこから入ってきたの?!」
 
 涙目になるフレイヤの前で、俺はゲットした餡パンを美味しくいただいた。出会い頭にご飯をくれるなんて、この王女さま超良い奴だな。
 
「もぐもぐ……ごはんありがと」
「あげてないから! というか子犬ちゃん、人間の言葉をしゃべってる?!」
 
 お礼を言うとフレイヤは目を丸くした。
 ヨルムンガンドの依頼をこなそうと思ったら話さなきゃいけないので、今回は話せることを隠さないつもりだ。
 
「ごはんのおれいに、なにか、てつだおうか」
 
 この姿だと本を運ぶのは難しいけど。
 
「手伝いは嬉しいけど、子犬ちゃんあなた、どうしてここにいるの? 餡パンの匂いを嗅ぎ付けて?」
 
 フレイヤの問いかけに、俺は可愛く首をかしげてみせた。
 君と話すため、なんて突然言われても困りそうだからな。
 フレイヤは、俺の無邪気なリアクションに戸惑いながら微笑んだ。
 
「手伝い……そうだ。その広げた紙の角に乗って。ちょうど重しが欲しかったの」
「よしきた」
 
 俺はフレイヤの前に広げられた、大きな白紙の端っこに陣どった。この姿でも役に立つことがあって嬉しい。
 フレイヤは白紙に何か書いている。
 文章じゃなくて、絵だ。
 
「なに、かいてるの?」
「王子さまよ」
 
 人物の絵らしい。
 絵心のない俺には、この絵が何なのかさっぱり分からないが。
 
「すごく綺麗で格好いい男の子なの! あんな輝くような美少年、初めて会ったわ。額縁に入れて飾っておきたいくらい!」
「だから、絵をかいてるの?」
「そうよ。胸が高鳴って、絵を描きたい衝動が押さえきれなくて」
 
 夢見るように瞳を輝かせてフレイヤは熱弁する。うーむ、衝動的に絵が描きたくなるなんて、フレイヤは芸術家なんだな。
 フレイヤは絵を描きながら言った。
 
「いつか王子さまがやって来て、私を旅に連れ出してくれないかな……」
「たびにでたいの?」
「ええ。流浪の剣士だった青竜の騎士のように、私も旅に出て冒険がしたい」
「いけばいいじゃん」
「……」
 
 紙から顔を上げ、彼女は悲しそうな顔をする。
 
「ひとりじゃ、行けないわ。だってどうすれば良いか分からないもの。そんな勇気、私には無い」
 
 だから王子さまを待っているの、とフレイヤは言う。
 確かに一国の王女さまという立場じゃ気軽に動けないだろう。
 だが人生は短く(俺を除いて)一度きりだ。
 好きなことをしないと勿体ないと思う。
 
「じゃあ、おれとくる?」
「子犬ちゃんと?」
「きっと、たのしいよ」
 
 フレイヤは目を丸くした。
 
「私は……」
 
 その時、図書室の中の、魔法による照明がチカチカ瞬いた。
 窓の外はつい先ほどまで真昼の青い空だった。
 しかし今はまるで夜のように暗い。
 
「いったい何が起こってるの。これは魔法による幻想結界?」
 
 フレイヤは俺を拾いあげて抱えると、窓際へ歩いた。
 暗くなった空には、異常に大きな満月が不気味に輝いている。
 火山の中腹にある竜騎士学校の校舎からは、レイガスの街が一望できる。急に暗くなったからか、街には明かりが付いておらず建物の輪郭は闇に沈んでいる。
 見ている間に、暗くなった街から青い人魂が飛び出して、満月の下で乱舞をし始めた。
 
「……ゼフィくん」
「わっ」
 
 窓際で呆然としている俺たちに、声が掛かる。
 ヨルムンガンドの声だ。
 フレイヤと一緒に振り向くと、空中に本が浮いていた。
 
「今度は本がしゃべってる……」
「うむ。私はしゃべる本だ」
 
 どうやらヨルムンガンドは、孫娘に正体を隠すため、しゃべる本を装うことにしたらしい。本の影に青い尻尾がチラ見えしてるのは、指摘した方が良いのだろうか。
 
「ところでゼフィくん。先ほど、この付近が広範囲にわたり、幻想結界により封鎖された。この魔法の気配は、邪神・・ヴェルザンディだ」
 
 俺は身震いした。
 この間、出会った神様は邪神だったらしい。
 生まれ変わってまた邪神と戦うことになるなんて、どういう巡り合わせだろう。
 
「邪神の得意技は死者を操ることだ。手下を増やすために、幻想結界内の人間たちから魂を抜いている」
 
 せっかく魂を抜いたのに、食べないで手下を増やすなんて、邪神はお腹が空かないのかな。
 
「邪神は、お母様、黄金の聖女の敵。今、レイガスの皆を守れるのは、英雄の娘である私だけ」
 
 フレイヤは凛々しい表情になった。
 
「止めなきゃ。そして私が邪神を倒す!」
「おおー」
 
 この子、黄金の聖女の娘さんだったんだな。
 天牙の精霊メープルがいれば、興味深いコメントを聞けただろう。でも今日は天牙を持ってきてないのだ。この非常事態に武器なしか、困ったぞ。
 
 
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