フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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竜の娘

71 油断してしまいました

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 俺は領事館の庭に、白銀山脈フロストランドへの転移門ゲートを常時設置することにした。
 庭の木と石に自分の魔力を染みこませると、長時間、魔法が継続することに気付いたのだ。
 あとは毎日、定期的に魔法を掛け直せばいい。
 
「なんだか最近、同時に使える魔法が増えてきた気がするんだ!」
 
 俺はウキウキで兄たんに自慢した。
 人間の少年の姿で庭に立って、見よう見真似で書いた魔法陣を眺める。
 
「慣れた魔法は少ない魔力で使えるようになったし!」
「さすがゼフィ、原初の大魔法使いで知られるヨルムンガンド殿を越えそうな勢いだな」
「えっへん!」
「……誰を越えるのかな?」
 
 クロス兄におだてられて、胸を張る俺。
 しかしそこに第三者の声が割って入った。
 声の方向を見上げると、黄ばんだカーテンを被った何かが浮遊しているところだった。
 
「うーらーめーしーやー♪」
「……」
 
 俺たち兄弟は無言でカーテンお化けを見上げた。
 声から正体は分かっている。
 
「ヨルムンガンド、何やってんの?」
「む。完璧な変装だと思ったのだが」
 
 カーテンを取り去って、小さな青い竜が現れる。
 俺の魔法の師匠こと東の海に棲む神獣ヨルムンガンドだ。
 
「ゼフィリア、我が弟子よ……」
「なんですか師匠」
 
 ヨルムンガンドが厳かな声を出したので、俺も調子を合わせて真面目に返事をする。
 
「我らが使命、忘れている訳ではなかろうな」
「……なんだっけ?」
 
 本気で何のことだか分からない。
 ヨルムンガンドは「喝っ!」と黄金の瞳を見開いた。
 
「孫娘の件だ!!」
「そういえば」
 
 竜嫌いなフレイヤ王女と、竜の姿のヨルムンガンドを引き合わせて和解させるという、非常に難儀な課題が残っていた。
 
「忘れていたな、忘れていたのだな、ゼフィ!」
「ちょっとふざけて忘れた振りをしてたんだよ、師匠」
「おのれ聞く耳もたぬ! 薄情な弟子には天誅を下してくれるわ! ってい!」
 
 ヨルムンガンドが前足で俺を指す。
 その瞬間、ポンと音を立てて、俺の姿は子狼に戻ってしまった。
 
「なにー?!」
「ふふふ、変身の魔法だけを封じたのだ! 見るがいい、君の転移門ゲートは継続しているだろう」
 
 俺は先ほど作った転移門ゲートを見た。
 空中に現れた青い光の輪は消えずにゆらゆら揺らめいており、輪の向こうに白銀山脈フロストランドの空が見える。
 本当だ。変身だけ、できなくなってる。
 
「本当は魔力を全部封じる方がずっと簡単なのだ。君のために変身魔法だけ封じる方法を、ここ数日掛けて開発したのだよ! 実験は、成功だ!」
「じっけんなの……?」
「使命を忘れ、孫娘の顔に傷をつけてくれた恨み、晴らさでおくべきか」
 
 うらめしやー、とヨルムンガンドは繰り返す。
 なんの呪文か知らないけど、よほど気に入ったらしい。
 しかし変身が使えないのは不便だな。
 
「我が孫娘フレイヤの竜嫌いを克服させたあかつきには、封印を解いてやろう! ふははははっ! さらばだ!」
 
 ポンと音を立て、煙を残してヨルムンガンドは消えた。
 転移魔法で去ったらしい。
 
「うわわ……へんしん、できない?」
「良いじゃないか。いつまでも可愛いゼフィのままでいてくれ」
「い!や!」
 
 ウォルト兄とクロス兄は嬉しそうだ。
 だが俺は嫌だ。
 人間の姿じゃないと、人間の食べ物が自由に食べられないじゃないか!
 
 
 
 仕方ない。お爺ちゃんの課題に真剣に取り組むことにしよう。
 まずはフレイヤ王女に会うところからだ。
 俺はティオに竜騎士学校に連れていってもらうことにした。
 
「ゼフィ、この鞄に入って」
 
 ティオは運搬専用の布のバッグを用意してくれた。
 底の浅い鞄に入って、頭を鞄から出し、前足を鞄のふちに掛ける。
 ティオと一緒に移動すると、街の人にやたら注目された。
 
「わんこイン鞄! かわいすぎる!」
「やっば! もうずっと見ていたい。癒される~!」
 
 街の人には大好評だった。
 そのまま竜騎士学校の中に入る。
 ちなみにティオの白竜スノウは、大きくなりすぎたために街の中の領事館では飼っておけず、竜騎士学校に併設された竜舎に移動になっていた。
 ティオはまず、竜舎に立ち寄って、スノウに会いに行く。
 
「キュー!」
「あははっ、くすぐったいよ、スノウ」
 
 竜舎の一角にいたスノウは、ティオを見るなり突進して、すごい勢いで甘えかかった。
 間に挟まれた俺はつぶされそうだ。
 竜舎の他の竜は、俺たちを恐れるように遠巻きにしている。気配で俺の正体に気付いているのだろう。
 スノウの首を撫でながらティオは、俺に向かって話しかけた。
 
「竜が規定の大きさまで育ったから、今日から僕も竜騎士クラスに参加できるんだって」
「? 今まではなんだったの?」
「今までは見習いクラスだよ」
 
 実は、竜を育てられるのは十歳から十八歳の子供だけらしい。
 竜の卵をもらっても、無事に人が乗ることのできる大きさまで育てられる者は少ないのだそうだ。
 そのため竜騎士学校では「見習いクラス」と「竜騎士クラス」に分け、見習いクラスでは普通の学校でも教えるような歴史や読み書きしか教えていない。
 エスペランサは悪どい商売をしている。子供しか竜を育てられない事実を隠して、各国の貴族に卵を渡していたんだから。
 
「見習いクラスは、いろいろな年齢の人がいたから、友達が作りにくかったんだ。でも竜騎士クラスは年齢が近い子が多いし、楽しみだな!」
 
 だけどティオにとっては、竜騎士の道が開かれたばかり。
 少年の目は希望に満ちあふれていた。
 
「フレイヤさまとも、友達になりたいね!」
 
 ティオは、俺に笑いかけた。
 
「竜が嫌いなんてもったいないよ! こんなに可愛くて格好いい生き物なのに! ゼフィ、一緒にフレイヤ王女の竜嫌いを治してあげようね!」
 
 そうだな、俺の封印解除も掛かってるし。
 はやく封印を解いて、人間の姿で食べ歩きの続きを楽しみたいな!
 
 
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