フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
79 / 126
竜の娘

77 嘘はときどき本当になってしまいます

しおりを挟む
 無敗・・の六将と呼ばれた、かつての俺たち。名前の由来は負け知らず。その六将の一人である黄金の聖女が、そう簡単に捕まるだろうか。
 フレイヤはのんびり構えた俺をかした。
 
「セイルさま、私と一緒に来てください!」
 
 真っ赤になりながら手を差し出してくる。
 俺を抱えて一緒に炎の翼で空を飛ぶつもりなのだろうか。
 
「君、体力の限界だろ? その火の魔法、うまく制御できてないみたいだし」
 
 最初に出会った時も墜落してたよな。
 そう指摘すると、フレイヤは肩を落とした。
 
「そうなのですが……私は竜に乗れないので、他に移動手段を思いつかず」
「じゃあ竜に乗る練習をしよう」
 
 俺はちょうどいいと提案した。
 フレイヤはぎょっとする。
 
「え? そ、それはちょっと……」
「遠慮せずに。なあ、ティオ、スノウ貸してくれよ」
 
 しかし当のスノウは嫌そうに首を振った。
 
「キューキュー(僕はご主人様以外、乗せないもんね)」
 
 わがままな奴だなあ。
 グスタフはじりじり後ずさりしている。
 どいつもこいつも王女さまを背に乗せる気概はないらしい。
 
「……こんなこともあろうかと! 登場回数を温存していたのだ!」
 
 唐突に空に影が差した。
 空よりも青いコバルトブルーの竜が、俺たちを見下ろしている。
 グスタフより大きなその竜は、獰猛さと優雅さを内包した細身の体格をしていた。空に広げた一対の翼は大きく、背筋から伸びる長い尾がバランスを取っている。額には黄金の角。角と同じ色の瞳には、深い知性の輝きがある。
 竜に見えるけど実は竜じゃない。東の海に棲む神獣ヨルムンガンド。
 
「さあ、乗るがいい!」
「い、いやっ」
 
 めっちゃナイスタイミングで現れたヨルムンガンド。
 しかしフレイヤは竜嫌いなので青ざめている。
 彼女は意気揚々としているヨルムンガンドを前に後ずさった。
 
「私、やっぱりお母さまを助けるのを諦めます……」
「そこまで嫌いなの?!」
 
 筋金入りだなー。
 嫌がっている彼女を見ていると、俺は何だか悪戯心がうずうずしてきた。
 
「よし分かった」
「え?」
 
 涙目になっているフレイヤに歩み寄ると、強引に手をとって彼女を横抱きにした。
 そのままヨルムンガンドに飛び乗る!
 
「えーーっ!」
「大丈夫大丈夫。フレイヤが竜に乗るんじゃなくて、俺が竜に乗るんだから、まったく問題ないよね!」
「いやいやいやっ、セイルさまの馬鹿ーっ!」
「あははっ」
 
 俺の腕の中でフレイヤは半泣きだった。
 もうヨルムンガンドの背中の上なので、俺から離れると即、竜に触れなければいけない。それが嫌だから動きようがないのだ。
 ティオが地上で呆れている。
 
「ゼフィ、容赦ないね……」
「そういう訳で行ってくるな!」
 
 俺はティオに手を振る。
 ティオは「仕方ないなあ」と諦めた表情で、ミカは「行ってらっしゃいませ」と言いながらペコリと頭を下げている。
 ヨルムンガンドはふわりと離陸して、空へ舞いあがった。
 
「で、どっち?」
「……東の方です」
 
 フレイヤの台詞は何故か葉切れ悪い。
 視線が宙をさまよっている。
 
「ふむ。バレンシアの元へ飛べばよいのだな?」
 
 ヨルムンガンドは自分で判断して進路設定をしたようだ。
 青い翼で羽ばたいて加速する。
 その速度にフレイヤはぎょっとした。
 
「はやいはやいはやい、何これっ?!」
「ふふふ、速いだろう。すごいだろう。我が孫娘よ!」
 
 動揺のあまり戦姫モードが崩れているフレイヤに、ヨルムンガンドは得意げに語り掛けた。
 孫娘と呼ばれてフレイヤは柳眉を寄せる。
 
「孫娘? 確かに私は、竜の血を引く娘、とちまたうたわれていますが」
「その竜とは私のことだ、フレイヤよ。私の娘は人間に化けて、エスペランサ王家の者と契りを結んだ。その末裔がお前なのだ」
「嘘……」
 
 突然、明かされた衝撃の事実に、フレイヤは仰天している。
 
「お前は竜の血が濃い。その強力な炎の魔法も、我が血によるもの。フレイヤ、我が孫娘よ。娘の代わりに、老い先短い私の元に戻って来てはくれないか」
「……」
 
 ヨルムンガンドの老い先って、何年ぐらいのことなんだろ。人間の「老い先短い」は数年をさすが、このお爺ちゃんの場合、数十年はありそうだ。
 しかしここは俺が口を挟むところじゃない。
 フレイヤは戸惑いながら返事をした。
 
「……あなたの言うことが真実かどうか私には分かりません。たとえ真実だとしても、私はエスペランサの王女として、あなたの元に行く訳にはいかないのです」
 
 予想された返答だった。
 いきなり「お爺ちゃんです。私のところへおいで」と言われて付いていく人がいるだろうか。しかも相手は人間じゃない。竜の姿をしてるんだぞ。
 
「そ、そうかー……」
 
 ヨルムンガンドは消沈した声を出した。
 すごく落ち込んでいる様子が伝わってくる。
 飛ぶ速度も心なしかゆるやかになった。
 
「ん? もしかして目的地に着いた?」
「うむ……ここはバレンシアの宿泊している街だな」
 
 雑談しているうちに、黄金の聖女がいる場所に来ていたらしい。
 眼下には城壁に囲まれた都市の街並みが広がっている。
 えーと。誰がどこに捕まってるって?
 
「ごめんなさい、セイルさま!」
 
 腕の中のフレイヤが唐突に謝りだした。
 
「お母さまが捕まったというのは嘘です! セイルさまとお話するために、嘘をついていました!」
 
 なんだってー?!
 いや、何となく変だなと思ってたんだよ。
 
「そっか。でも聖女さまが無事でよかったよ。話って何?」
 
 俺は気を取り直してフレイヤに問い返す。
 フレイヤは途端に口をぱくぱくさせて、黙り込んでしまった。
 
「……それは」
「おや?」
 
 彼女の返事を待っていると、ヨルムンガンドが東の山脈の方を見て声を上げた。
 
「ゼフィ、あれが見えるか」
「どれどれ」
 
 俺たちは、山脈に隠れている巨大な人影を発見した。
 それは緑色の毛が生えた巨大な猿の姿をしていた。
 片手に石で出来た棍棒を持ち、片手で崖をにぎりしめ、禍々しい隻眼で街の様子を伺っている。
 
「ほほう。巨人とは、千年ぶりに見たな」
「巨人? 古代の神々の戦いで全滅したという、巨大な人型モンスターのことですか?」
しかり」
 
 巨人の背後、ここから見るとありの群れのように見えるが、他国の軍隊とおぼしき人間たちが行列を作って山を進んでいる。
 
「もしかしてエスペランサを攻撃しようとしている敵国の部隊?」
「そんなっ、私の嘘が本当になってしまうなんて?!」
 
 フレイヤが悲鳴を上げた。
 さて、どうしようか。俺はエスペランサを助ける義理はないんだけどな。ヨルムンガンドとの約束も、ある意味、さっき果たしてしまったし。
 
「セイルさま……!」
 
 しかし涙目のフレイヤにじっと見つめられ、俺は根負けした。
 
「まずは聖女さまに報告しよう。乗りかかった船だ。あの巨人は俺が追っ払ってあげるよ」
「はい!」
 
 ヨルムンガンドは街に向かって下降する。
 伝説の巨人か……今回は食べる部分が少なそうだな。
 
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~

幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位獲得!(2026.1.23) 完結までプロット作成済み! 毎日更新中! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中)★ 山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。 神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。 ①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】 ②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】 ③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】 私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること! のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!? 「私の安眠のため、改革します!」 チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身! 現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……? 気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!? あれ、私のスローライフはどこへ? これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。 【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】 第1章 森の生活と孤児院改革(完結済) 第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中) 第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ! 第4章 王都は誘惑の香り 第5章 救国のセラピー 第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション 第7章 領主様はスローライフをご所望です 第8章 プロジェクト・コトリランド 第9章 ヤマネコ式教育改革 第10章 魔王対策は役員会にて 第11章 魔王城、買収しました(完結予定)

処理中です...