フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
108 / 126
不屈の剣

105 天牙はグレードアップするらしいです

「おのれ……一度ならず二度までも!」
 
 ヒルデの切断された右腕から、水銀のような血がしたたる。
 
「許さないわよ、坊や!」
 
 それはこちらの台詞だ。
 ジャンプして飛びかかってくるヒルデに剣を向ける。
 刃にヒビが入った剣を。
 次の一撃を振るいたくない。
 だけど振るわなきゃいけない。
 
「――蒼天突き」
 
 力強く踏み込んで、ヒルデの喉目掛けて勢い良く突く。
 銀光が女の喉を直撃した。
 ガリリと鈍い音を立て、剣の切っ先が折れ飛ぶ。
 
「ひっ、あぐ!」
 
 ヒルデは傷付いた喉をかきむしった。
 
「俺の弟に手を出すな!」
 
 クロス兄がヒルデのムカデの尻尾をくわえ、首を回して壁にぶん投げた。
 ヒルデの身体は壁にぶつかってめり込み、土埃を上げる。
 
「今の内に!」
 
 俺は大地小人ドワーフの子供の手を引きながら、ニダベリルの扉を見る。ちょうどゴッホさんが内側から扉を開き「こっちだ!」と手招きしていた。
 子供とクロス兄と一緒に内側に飛び込んで、扉を閉める。
 
「危ないところじゃったな」
 
 ゴッホさんは俺たちを見て、安心した顔になった。
 俺は折れた切っ先を気にしないようにしながら、天牙を鞘に収める。
 震えている子供に微笑みかけた。
 
「大丈夫だったか」
「う、うん」
「……余所者が」
 
 誰かがポツリと言った。
 街は天井の照明が付いておらず薄暗い。
 
「バーガー市長の言う通りだ。余所者が来たから、こんなことになったんだ」
 
 暗い顔をした大地小人たちは口々に呟いた。
 
「ニダベリルの明かりが消えるなんて前代未聞だ。ぜんぶ余所者のせいだ。こいつらを外に突き出せば、モンスターどもは満足するんじゃないか」
「おい!」
 
 ゴッホさんが怒る。
 俺はそっと天牙の鞘を撫でる。
 この雰囲気には覚えがある。
 人間だった頃、英雄だった俺に手のひらを返した祖国の人々。
 彼らは石を投げて罵倒し、天牙を取り上げて俺を追放した。
 
「……戯けたことを言うな、馬鹿者ども!」
 
 突然、力強い声が、民衆を一喝した。
 取り巻きを引き連れて、バーガーさんが現れる。
 
「ニダベリルから明かりが消えたのと、余所者の行動に、なんの因果関係があるか! 聞いていて呆れるわ! 明かりが付かないのは、単に外の川を使ったハツデン装置が壊れておるだけだ」
「バーガーさん、あんた、余所者を批判してたじゃないか」
 
 一番、俺たちに冷たかったバーガーさんが、俺たちの肩を持ったので、大地小人たちは騒然となった。
 
「それはそれ、これはこれ、だ。元から、このニダベリルはモンスターに囲まれた迷宮都市じゃ。迷い込んできた人間がモンスターを狩るのを、ワシも支援しておった。それはお前たちも知っておろう」
「それは……」
「迷い人はワシらから大切なものを奪っていく事もある。じゃが、大切なものを守ってくれる事もある。ひとつ言えるのは、迷い人なしにニダベリルの繁栄は無かったという事じゃ」
 
 バーガーさんは、折れた剣を手にうつむく俺の前に歩いてきた。
 
「子供を助けてくれたそうだな。感謝する」
「!!」
 
 俺はハッと顔を上げた。
 目の前には、真摯な表情のバーガーさんが、すまなそうな顔をして立っている。

「引き続き、ニダベリルの防衛に力を貸してくれるか」
 
 バーガーさんは軽く頭を下げて頼んできた。

「バーガーさん……」

 助けてあげたいのは山々だけど、俺の剣は折れちゃったしな……。
 あの超硬いヒルデを倒す方法はあるのだろうか。
 
「坊主!」
「あ、飲んだくれ同盟のガーランドさん」
 
 イヴァンの酒場で出会い、昨晩は夕御飯をご馳走になった、飲んだくれ同盟のガーランドさんが大股に歩み寄ってくる。
 
「その剣を貸してみい。俺が打ち直してやろう」
「え、できるの?!」
「そうだな、見たところソイツは大地小人の技術で作られた剣だ。このニダベリルは大地小人の街だからな、剣を修復する技術を大昔から継承している」
 
 天牙が直せそうだと聞いて、俺は気持ちが明るくなった。
 
「ゼフィ!」
 
 イヴァンが小脇にエムリットを抱えて駆け寄ってくる。
 
「モニターで見ていた。大変だったな」
「イヴァン、エムリットの充電は終わったんだね」
「ああ。ところで、あのヒルデとか言う邪神は、面白いことを言っていたな。皮膚を神硬金属《オリハルコン》にしたとか」
 
 イヴァンはニヤリと笑った。
 
「もしこのニダベリルに、神硬金属オリハルコンがあったら? そいつで天牙を打ち直したら、どうなると思う?」
「え……まさか」
「おいガーランド、大地小人の秘伝には、神硬金属オリハルコンを加工する技術があるよな? この際、出し惜しみするなよ」
 
 俺と同様、目を丸くしていたガーランドさんは、我が意を得たりと頷いた。
 
「当然だ! 坊主は俺たちの心の友! 全身全霊を注いで、邪神を真っ二つにする剣を作ってやるぜ!」
 
 な、なんだか凄いことになってきたけど……天牙がグレードアップ?
 それって副作用で、可愛い女の子の精霊メープルが筋肉ムキムキになっちゃったりしないよな?
 
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。