フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
118 / 126
青竜の騎士《アールフェス修行編》

115 モフモフは竜肉が食べたいのです

「小僧さえ殺せば……」
「焼き払え!」
 
 抜き身の剣を振り上げた男を指さして、アールフェスは竜に命じた。
 黒竜ノワールはくわっと顎を開き、灼熱の炎を放出する。
 
「うわわっ」
 
 咄嗟に男は剣を手放して、横っ飛びに避けた。
 竜のブレスを浴びた剣が焙られたバターのように、くにゃりと歪む。
 
「う、嘘だろ?!」
 
 焼き焦げた地面と、溶けた剣を見下ろし、男は絶句した。
 森に前日の雨が残っていたことが幸いして、竜のブレス跡から火災が発生することは無さそうだ。
 脅しとしては十分だと、アールフェスは考えた。
 
「お前たちをまとめて、ノワールの餌にしてやろうか?」
「畜生!」
 
 竜と言えば、普通の兵士なら一個中隊、戦いに慣れた者でも数人でパーティを組んで倒すモンスターだ。
 到底、勝ち目はないと悟った男たちは、すたこらさっさと逃げ出した。
 
「アールフェス!」
「シエナ!」
 
 小屋からシエナが飛び出してくる。
 勢いよく抱き着いてくるシエナを、アールフェスはよろめきながら抱き留めた。
 軟弱なアールフェスは少女の勢いを受け止めきれず、尻もちをつく。
 
「わっ」
「きゃっ」
 
 二人はもつれて地面に転んだ。
 何をしてるんだか、と言った風に、黒竜ノワールが首を伸ばして二人をのぞきこむ。
 
「ぷっ」
「あはは!」
 
 何だかおかしくなって、アールフェスとシエナは顔を見合わせて笑い出した。
 
「あ、そういえばアールフェス、あれ……」
 
 ひとしきり笑った後、シエナは腕をあげて、黒竜の背中を指さした。
 
「ん?」
 
 そこで初めて、アールフェスは黒竜の背中に白いフワフワした物体が乗っていることに気付いた。
 雪のように白い毛並みとアイスブルーの瞳を持った子犬だ。
 
「こいつ、見たことがあるぞ。確かセイルのところで……」
 
 ティオがたまに腕にかかえていたな、とアールフェスは思い出した。
 
「ノワール、なんで子犬を乗せてるんだ?」
「……」
 
 黒竜は視線を明後日に逸らした。
 何か心当たりがあるようである。
 アールフェスは立ち上がって、ノワールに近寄った。
 子犬は、手を伸ばしたアールフェスが気に入らないのか、パシパシと前足を振って抵抗する。抱え上げると、何が気に入らないのか、ムスっとした。
 
「こいつもセイルに返してやらないとな」
 
 白い子犬は、ティオかセイルが飼っているものだろう。
 シエナを送り届けるついでに返してやろうと、アールフェスは思う。
 子犬を脇に抱えると、アールフェスは竜の首を軽く叩いて合図した。
 ノワールは心得たように首を下げ、手足を折りたたんでしゃがみ、段差を作る。
 
「さ、シエナ。乗って」
「え?」
「ちょうどいいから、ノワールに乗って、師匠のところまで行こう」
 
 おっかなびっくりのシエナの手を優しく引いて、竜の背中まで引っ張り上げた。
 
「師匠にここであったことを報告した後は……シエナ、僕がセイルのところまで、君を送っていくよ」
 
 黒竜ノワールがいれば、師匠のパリスを頼る必要はない。
 アールフェスの意図を汲んだノワールは、静かに黒い翼を広げて飛び立つ。
 男たちと戦闘している間に日は沈み、昏い青に染まった空には一番星が輝き始めている。
 姿を現したばかりの月光を受けた竜の鱗は黒曜石のようにチカチカと光った。
 
 
 
◇◇◇ 
 
 
 
 良い雰囲気だなー。
 俺、なんでこんなところにいるんだろ。
 見つめ合うアールフェスと兎耳の女の子の間で、俺はこっそり遠い目をした。
 
 さかのぼること数時間前。
 兄たんがレイガスの竜騎士学校の山から、夕飯用に一匹、竜を捕まえてきた。
 それがアールフェスの竜、ノワールだと気付いた俺は、兄たんたちを止めて、竜の傷を時の魔法で元の状態に戻してあげたのだ。
 元気になったノワールは何を思ったのか、子狼の姿の俺をくわえあげて全力飛翔した。
 
「ゼフィ!」
「ふああああっ?!」
「こいつ! 俺たちのゼフィを離せ!!」
 
 ウォルト兄とクロス兄は交代でノワールに飛び掛かったが、すんでのところで牙は宙を切る。
 気が付くと黒竜は、フェンリルが跳躍しても届かない遥か高みに逃れていた。
 こうなったら翼を持たない兄たんたちにはどうしようもない。
 
「ゼフィがさらわれたー?!」
 
 絶叫する兄たんの声を聞きながら、俺はノワールの鼻先でぶらぶら揺れた。
 
「どうしよ……」
 
 自力で脱出することは可能だが、近くで見るとノワールがあまりにも必死なので、つい可哀想になってしまった。
 尻尾の先を食べさせてくれるなら、無礼を許してあげなくもない。
 
「どこへいくのかな」
 
 何かに取りつかれたように全速力で飛ぶノワール。
 黒竜がアールフェスの危機を察知して、主を護りに行こうとしていたのだと、現場についてから分かった。
 それからアールフェスとノワールの感動の再会を見届け、女の子とラブラブの良い雰囲気を邪魔できずに、今に至る。
 それにしても、お腹が空いてきたぞ。
 夕飯……竜肉。
 竜に乗ってるのに、竜肉が食べられないなんて。
 
「師匠!」
 
 アールフェスが声を上げた。
 前方に無数の金属の板を体にくっつけた、空色の鱗の竜が飛んでいる。
 竜の背にいた屈強な体格の男が振り返った。
 げっ……青竜の騎士パリス?!
 
「おお、アールフェス! それにシエナ! その竜はアールフェスの相棒か」
「はい、ノワールです」
 
 パリスは子狼の姿の俺に気付いた様子はない。
 嬉しいような、悲しいような。
 
「ちょうど良かった、アールフェス。私はこのまま竜の営巣地ネストリムへ向かおうと思う」
「竜の営巣地ネストリム?」
「噂の巨人が、野生の竜が多数集まる場所へ現れ、巣の中の卵を踏みつぶしているらしい。私は竜を守りに行くよ」
 
 卵? オムライス食べたいなあ。
 俺は卵焼きを夢想してヨダレを垂らした。
 アールフェスの腕に力がこもる。
 
「……では僕は、シエナをセイルのところへ送っていきます」
「ちょっと待ってください!」
 
 シエナが大声を出して話に割り込んだ。
 
「私もパリスさんの巨人討伐に連れていってください!」
「レディを危険な場所に連れていけないよ」
 
 パリスは眉をひそめた。
 俺はご飯が食べたい。
 
「ルクス共和国で反乱を起こそうとしている王党派は、各国で古の巨人を覚醒させ、世界を混乱と破滅の渦に陥れようとしている……私は、巨人と王党派がつながっている証拠が欲しいんです! できれば英雄の剣を受け継いだというセイルさんに、協力してほしかったけど」
 
 何やら重要な話をしているようだ。
 俺の名前が出てきたような……気のせいか?
 
「僕じゃ、頼りにならないか」
 
 アールフェスが悲しそうな声を出した。
 
「そりゃ、僕はノワールがいなきゃ、まるで役立たずだけどさ」
「役立たずなんかじゃない! 巨人の秘密を探って、王党派の不正を暴くのに、アールフェスにも協力して欲しいの!」
 
 シエナの言葉で、場の空気が変わった。
 青竜の騎士パリスが微笑んで言う。
 
「それでは我々全員で向かおうではないか。――いざ、竜の営巣地ネストリムへ!」
 
 すっかり空気になっている俺は「竜肉の山に行くのか。楽しみだなあ」と思っていた。
 俺がさらわれたと誤解した兄たんズが攻め込んで営巣地ネストリムが大混乱になると知らずに。
 

感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。