フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
122 / 126
青竜の騎士《アールフェス修行編》

119 変なものを拾いました

 さて、アールフェスとシエナ、パリスの三人は、竜の営巣地へやってきていた。
 竜の営巣地は、高山の頂点近くにある洞窟の中だった。
 アールフェスたちは竜から降り、腹ばいになってペタペタ歩く竜の後について、洞窟に入った。
 彼らが目撃したのは、巣を襲う巨人、ではなく。
 
「いったい何だ、この植物は……?!」
 
 竜の営巣地は、高山の頂点近くにある洞窟の中だった。
 サークル状に組まれた石の上で、竜が翼を畳んで丸くなっている。熱した石で卵を温めるらしい。洞窟の中には、そういった竜の巣が沢山あった。
 しかし竜たちの一部は落ち着かない様子で、洞窟の中をうろうろしている。
 巣を囲むように、真っ赤な枝葉の植物が群生していた。
 
「……巨人? 何のことだ? と竜たちは言っている」
 
 パリスが、竜の言葉を通訳する。
 竜の中で年長の一頭が、アールフェスたちを出迎えて「ギューギュー」と鳴いていた。
 
「師匠、竜の言葉が分かるんですか?!」
「ふっ……竜騎士であれば当然のこと」
 
 驚くアールフェスに、パリスは顎を撫でながら答えた。
 
「ここには巨人はいない。だが、竜たちは別の問題で困っているようだ」
「この植物ですか?」
 
 アールフェスはしゃがみこんで、赤い植物をちぎった。
 血のように毒々しい色の葉だ。茎まで赤く、ちぎるのに苦労する固さだった。だが、それだけだ。
 
「竜の炎で、焼き払ってしまえばいいじゃないですか」
「この植物は熱をうばうそうだ」
 
 案内役の竜は、草の一部に「フーッ」と炎の息を吐きかける。
 すると植物は燃えるどころか、水を得た魚のように輝き、枝葉を伸ばした。
 
「火で成長するなんて! でも踏みつぶせば」
 
 竜はアールフェスの言葉にうなずきながら、植物を踏みつぶす。
 
「……一時的には、つぶせば生えなくなるが、一日ほど経つとまた生えてくるらしい」
「そんな……なんて面倒くさい植物なんだ」
 
 アールフェスは眉をしかめる。
 
「草が熱をうばうので、卵が冷えて死んでしまう」
「いっそ巣を別の場所に移すのは」
「検討中だそうだ。しかし、広くて卵を食べる蛇がいない、ちょうどいい洞窟が中々見つけられんとな……」
 
 パリスは通訳しながら溜息を吐いた。
 
「これは私が力技で解決できる話ではないな。シエナ嬢が探している巨人もおらぬようだし、無駄足だったようだ」
「そうですか……」
 
 シエナは肩を落とす。
 移動中に子犬を落としてしまったせいもあって、彼女は落ち込んでいた。
 アールフェスは励ましたかったが、なんと言えばいいのか分からない。
 
「シエナ……これから」
 
 子犬を一緒に探しに行こうか、と声を掛けようとした時。
 洞窟の入り口から「ウォオオーーン」と狼の遠吠えが聞こえてきた。
 
「冷気が……!」
 
 暖かい洞窟の空気に、ひんやりとした寒風が吹き込む。
 竜たちはビクリと震え固まった。
 
『ゼフィはどこだああああっ!!』
 
 アールフェスたちには、獣の叫び声にしか聞こえない。
 猛烈な勢いで、洞窟の中に二頭の白い狼が駆け込んできた。
 その辺の森にいる狼の何倍もの大きさがあり、艶々とした白銀の毛並みが美しい、一目で特別と分かる獣だ。アイスブルーの瞳には怒気と知性が宿っている。
 二頭の狼のうち、体格が大きい方の狼の背には、青い髪の少女がまたがっている。
 少女は洞窟を見回して残念そうに呟いた。
 
「こっちの方角に、ゼフィの気配を感じたんだけどなあ」
 
 誰かを探しているのか。
 アールフェスは呆然としながら、神々しい威厳をまとう白銀の狼を眺めていて気付く。
 以前、同種の狼の姿をした獣を見たことがある。
 
「神獣フェンリル!」
 
 竜たちは総立ちになって、じりじり後ろに下がる。
 
『……む。美味そうな肉が沢山いるな。ついでに狩っていくか』
 
 フェンリルが竜たちを見回して、ニヤリと笑ったように見えた。
 
「ギューー!!」
 
 一頭が上げた鳴き声をきっかけに、竜たちは押し合いへし合い、逃げ出そうとする。
 
「シエナ、ノワールに乗って! 逃げるんだ!」
 
 アールフェスは青ざめているシエナを引っ張って、黒竜ノワールの背に引き上げた。
 
「もたもたするな、アールフェス!」
「先に行ってください、師匠」
 
 パリスは颯爽と自分の竜に飛び乗っている。
 洞窟の中で飛べないので、竜たちは四本脚の動物のように、翼を畳んでドタバタと無様に地面を走った。パリスの竜も走り出す。
 
「うわっ」
「アールフェス?!」
 
 お約束のように、アールフェスは転んだ。
 
「行けっ、ノワール!」
「キュー」
 
 自分は地面に膝をついたまま、黒竜に「構わず走れ」と指示する。
 ノワールは一瞬迷う様子を見せたが、シエナを乗せて洞窟の奥へ走り出した。
 
『待てええぃ!』
 
 フェンリルは竜を追いかけようとする。
 が、その辺に生えている赤い植物に足が絡まったようだ。
 
『くっ。なんだこの不気味な草は!』
 
 動きを止めたフェンリルに、アールフェスもやっと立ち上がり、ノワールを追いかけて走りだす。
 竜たちは残らず逃げたようだ。
 人の身であるアールフェスには、逃げて行った彼らと同じスピードは出せない。
 誰もいない洞窟の中を一人、息を切らしながら走る。
 もうノワールがどちらへ行ったか分からない。
 勘を頼りに真っ暗な道を、右へ左へ曲がり続ける。
 
「外だ! ……って、崖じゃないか!」
 
 光を見つけてそちらに進んだアールフェスは、崖から落ちる寸前で足を止めた。
 そこは平たく言えば行き止まり。
 道の先は虚空に続いており、足元には針葉樹の森と綿雲が見える。
 
『肉はどこだ!!』
 
 フェンリルの吠え声が、すぐ背後から響いてくる。
 
「ひっ」
 
 動揺したアールフェスは無意識のうちに一歩すすみ。
 
「あ」
 
 何もない空中に身を躍らせていた。
 
「うわああああっ!」
 
 頼りになる黒竜ノワールはいない。
 このまま落ちれば、運が良くて骨折、運が悪ければ森の木に刺さって死ぬだろう。
 幸薄い人生だったな。
 アールフェスの脳裏を走馬灯が流れる。
 
 英雄バルトの息子として生まれたにも関わらず、運動音痴のせいで軽蔑され続けた幼年期。
 嫌気がさして国を飛び出し、大国エスペランサに辿り着いた青年期。
 さんざん虐められて、ひねくれを通り越し根性が曲がってしまったせいか、エスペランサで憂さ晴らしに獣人を虐待したりしていた。
 わりと好き放題生きてきたアールフェスの唯一の心残りは。
 
「……シエナのウサギ耳、一度さわってみたかったなあ」
   
 アールフェスは、どこかの子狼に先を越されたと知らない。
 目を閉じて、最後に訪れる苦痛を待つ。
 脳味噌がぐるんと回るような衝撃を感じた。
 その後、体が何かに引っかかったように静止する。
 アールフェスは恐る恐る、目を開けた。
 
「変なの拾っちゃったな」
「……セイル?!」
 
 子猫をぶらさげるようにアールフェスの襟首をつかんで落下を食い止めていたのは、銀髪碧眼の少年――アールフェスが会いたいと思っていた、シエナが探していた、セイル・クレールその人であった。
  
 
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。