ヒノモトノタビ

イチ

文字の大きさ
3 / 9

3話:ユウの過去

しおりを挟む



弾薬を購入し、地上へ出る準備を終えたユウは、出口近くで待っていた シンヤ の元へ向かった。

「お待たせしました。」

「おうよ!…おいおい、銃は?」

ユウが身に付ける武装を見て、シンヤは目を丸くした。

右足のホルスターに入ってるのは「9mm拳銃」。
バックパックに留められているのは、単発式の「滑腔式小銃丙型」。
そして左腰には日本刀を携えていた。
ユウは小銃を所持していなかったのだ。

「先日壊れてしまいまして…使い勝手の悪いパイプ小銃でしたし、必要ならまた作ろうと思います。」

…『簡易歩兵小銃乙型』通称『パイプ小銃』。
パイプや鉄クズを加工して作られた小銃。
比較的丁寧に作られる甲型に比べ、生産性の重視を為されている。ある程度の道具で作成可能だ。

「作る…って事は乙型か。まあ、無いよりはマシ程度か。
っと、こんな事してる場合じゃねーな。出るぞ!」

警備兵がエアロックを開ける。

「帝国バンザーイ!」

合言葉と共に2人は地上へ向かった。


◇   ◇   ◇   ◇


(少し…風が強いな。)

外に出ると、相変わらずの光景が広がっていた。窓ガラスのないコンビニ。横倒しの高速道路。
だが、ユウには戦前それが何だったのかは分からない。

シンヤが今にも崩れそうな六本木ヒルズを指差して言った。

「あの建物はいつ崩れるんだかな。怖いのぉ。まぁいいや、近道しながら行くぞ!」

2人は黒焦げのタンクローリーを越えた。
空になったタンクから何かが顔を出したが、すぐに引っ込んだ。

(臆病な獣蟲か。全部がこうなら良かったのに。)

ふとシンヤがユウに尋ねた。

「なあユウ、お前の出身はどこなんだ?」

「…6歳まで地下鉄駅のどこかに住んでいました。名前は分かりませんが。」

「ふむ。6歳まで。それからは?」

「埼玉のツクバ村で育てられ、14歳で村を出ました。
…周りを警戒しましょうよ。」

「おいおいこんな辛気臭い街歩いてんだからよぉ、良いじゃねぇか!
安心しろ。ちゃんと見てるからよ!」

そう言ってわざとらしく顔を振り辺りを見渡すシンヤ。

ユウは少し呆れ顔だ。

「で、なんで村に移った?」

(話したくないって言っても無駄だろうな…)

「…両親が共産主義者を匿ったとして、駅を追われました。
父はその事実が発覚し、家で兵士に殺されました。
母は、私を逃がそうとしているところを獣蟲に襲われ、トンネルで死にました。」

「…ふーむ。反共感情の強い北方の駅か。」

暗い過去を話すのは辛い。だが、話し終えたあとは少し楽になるものだ。

「匿った共産主義者…私の記憶には、宿を貸した優しい旅人でした。
自分にもこれくらいの子がいる
と、何度も頭を撫でられたのを覚えています。」

「俺は連中があまり好きじゃない…が、奴らも人だからな。
しかし、獣蟲に襲われたんだろ?そん時お前は6歳。よく生き残れたな。」

「ええ。何かが…助けてくれたんです。すぐに気を失ったため、顔は覚えていませんがね。
それが私をツクバ村まで連れてくれたようです。
ツクバ村では、それを「土竜神」と呼んでいました。」

シンヤはそれを聞き、小声で呟いた。
「土竜神…トンネル…掘人族かもしれんな。」

「え?なんて言いました?」

聞き取れずにユウはシンヤに尋ねる。
が、ここでシンヤが何かに気づいた。

「…僅かに地面が揺れてる。こりゃ何か来るな。隠れるぞ!」

遅れてユウも微かな揺れを感じ取った。

2人は急いで近くの建物に入り、デスクの下に潜り込んだ。
隙間から外の様子を伺う。

(揺れを確かに感じるようになった。何かの群れが…来る!)

「ボウッバウッ  ゴルルル」

(…狛犬か!!あんなに群れを成しているのは初めて見るな。)

…狛犬
体高80cm程体重は90kgにもなる犬のような獣蟲。例を取るならば、ゴールデンレトリバーの一回り二回りの大きさだ。
体毛はまばらであり、今なお変異し続ける様子が伺える。
1対1で対峙してもかなり脅威となりえる。

(2~30程の群れだろうか)


突然、ユウが潜り込んでいるデスクが大きく揺れた。

「フーッ フーッ」
すぐ上から荒い吐息が聴こえる。

(嘘だろ…上に乗ってきた!)

ユウは口を手で押さえ、気配を消す。

ドンッ

狛犬がユウの目の前に降りた。
背を向けているためまだ見つかっていない。

(やばい…仲間を呼ばれたらどうにも出来ない…銃も音が出るし、この体勢では刀も抜けない…!)

「ゴルルル」
辺りを見渡す狛犬。

ゆっくりとこちらに顔を…

「オオーーーン…」

遠くから狛犬の遠吠えが聞こえた。群れの仲間だろう。

「オオーーーン!!」

目の前の狛犬が返事をすると、その場から走り去っていった。

(あ、危なかった…)
ダラダラと冷や汗を流していたユウは、呼吸を整えた。

狛犬が駆けて行った方向から、銃声が聞こえ始めた。

「遠くで銃声が聞こえる。捜索隊が狛犬の群れにかちあったかな。
…大丈夫か?」

辺りの安全を確認し、シンヤが出てきた。

「大丈夫です。
捜索隊の方…かどうかは分かりませんが、我々は幸運でしたね。
今のうちに行きましょう。」

シンヤは先ほどの危機を忘れるかのように笑って言った。

「そうだな!お宝貰いに行こうや!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...