ヒノモトノタビ

イチ

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9話:仇

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『前へ!こちらへゆっくり歩いてこい!』


2人は言われた通りにすることにした。闇に包まれたトンネルを背に、無造作に積まれた死体の横を通って、明るい駅へ歩を進めた。

駅に近づくと、周りを帝国兵に囲まれた。しかし、何やら兵の表情がおかしい。
彼らの顔に映し出された表情は、怒りや警戒感ではなく、疑問や拒絶、怯えだった。
その表情の理由は、すぐに分かった。

駅の奥から、1人の将校が近づいて来た。意地の悪そうな目をギラつかせ、やたら勲章をくっ付けた制服を着ている。

「よく来たな!この薄汚い共産主義者共め!!」

シンヤが目を丸くして答える。

「何言ってんだ?俺たちは本駒込駅から来たんだぞ?日本帝国の領駅じゃないか!
共産主義者だったらここまで来れんわ!」

「黙れ!よくもそんな見え透いた嘘を!これだから…」

呆れた様に、大袈裟に首を横に振るその将校は、まったく聞く耳を持とうとしなかった。

1人の兵士がユウに近づき、胸ポケットに手を伸ばした。ユウが通行証を持っている事を確認し、将校に向き合った。
「大尉…彼らは通行証を持っています。一応尋問しますが、共産主義者である証拠はありませんよ。」

「尋問の必要は無い。ここで射殺だ。」

兵士が顔をしかめる。ユウたちを囲んでいる兵士達の1人が、またか…と漏らした。無造作に積まれたあの死体は、先の僕らの姿か。

「もう止めましょう大尉!今度こそ、規則通りに私が尋問を…」
「黙れ反逆者!!」

なんとその将校は、先ほどから問答をしていた兵士の頭を、冷酷にも拳銃で撃ち抜いたのだ。

イかれてる…ユウは小さく呟いた。
どうにもこの男の周りだけ空気が違う。いや、何かおかしなモノに纏わりつかれているような…

「兵隊さんたちよぉ、銃口向ける相手が違うんじゃないのか?」

シンヤが呼びかけるも、兵士達の顔は恐怖で引きつっている。
何を言っても無駄か。

「ふん…こいつは反逆者だ。それに、貴様らの武装解除もさせないような役立たずはいらぬ。
さあ、武器を地面に放れ!」

シンヤがベネリM2を地面に置く。
ユウも短マスケットを放った。
錆びついたレールに落ち、甲高い音が響き渡った。

「どんな小さな事でも、見逃さぬのが重要なのだ。
12年前…あぁくそ!今思い出しても腹が煮え繰り返りそうだ!
あの親子を…不覚にも!逃してしまった途端、駅中で赤共(共産主義者)の工作や煽動が多くなったのだ!!もう繰り返してなるものか!」

外すために腰の刀に置いたユウの手が、ピクリと反応した。


12年前…?僕の両親が殺された年だ。まさか。


「…あなたはその時、この駅に配属されていたんですか?」
声を震わせながら、ユウが将校に問い掛けた。

大人しく怯えているように見えていたユウに突然話しかけられ、将校は目を丸くしながら、思わず答えた。

「いや?もっと北の駅だが。赤を匿った家族を…」


その返答は、決してこの将校がユウの両親を殺した裏付けにはならないものだ。
しかし、ユウは確信してしまった。いや、決めつけてしまった。
こいつが、この将校が両親を殺したのだと。

地を蹴り、兵士の間から飛び出したユウは、刀を抜いて将校目掛け振り上げた。

腹と胸から血を吹き出し、後ろに傾く将校。着地を許すことなく、ユウはその首を刎ね飛ばした。


怯えか忠誠心の低さか、周りの兵士の動きが一瞬遅れる。
が、兵士達はすぐに正気を取り戻し、ユウ目掛け銃を構えた。

「クソッ!!」

必死の形相で、シンヤが兵士を押し退けながら飛び出した。そのままユウを両手で掴み、近くにあった窪みに倒れこんだ。
腕だけ出し、9mm拳銃を辺りに撃ちまくるシンヤ。応戦しながら、身を隠す兵士達。

発砲音と跳弾音が駅構内に響き渡る。
あんな将校でも上官。軍人殺しは射殺だ。

「ユウ、…バカ、おめぇ無茶するなよ…怪我は?」

見ると、シンヤが腹を押さえている。手指の間から血が滲んでおり、ユウは自分の軽率な行動を後悔した。

「大丈夫…です。ごめんなさい…」


シンヤが撃たれた事、これ以上隠れる場所が無い事、ユウは焦った。もう、どうしようもない。
M1911を抜き、反撃を試みようとするも、シンヤに穴だらけになった右手を見せられ、止められた。

「どうせ、撃たなくても殺されますよ!」

苦しそうな顔を天井に向け、シンヤが上を指差した。つられて上を見ると、天井の数カ所が少し盛り上がっていた。
あれ、とユウは、かすかに頭をよぎる記憶の欠片に気付いた。どこかで見た景色。

「手榴弾を投げ込んでやれ!」

その一言で、ユウは現実に引きづり戻された。今度こそ絶体絶命だ。

いっその事飛び出そうかとした途端、天井からコンクリートの破片や土と共に、何かが落ちるのを見た。

硬い物と柔らかい物が同時に押し潰されたような音がした。この世の物とは思えない音に、ユウは身震いする。

掘人族クツド族だ!!」

バッと起き上がり、確認する。

兵士だったモノの上に立つ、土まみれで毛に覆われた体。腕の先には、刀のような爪が3本ずつ伸びている。
その背中を前にしたユウの頭に、両親を失ったあの日の記憶がフラッシュバックする。

あの日、母さんの絶叫を背に受け、必死に走った。あの暗いトンネルで異形に周りを囲まれ、我慢出来ずに泣いてしまった僕。
あの時、幼い僕の前に現れた何者かの背中が、今、目の前の背中と重なろうとしている。

ゆっくりとこちらを振り返る。
いつも思い出せない記憶の先。
いつも目覚める夢の先。
ユウは確信した。眼に映るその姿は、ずっと思い出せなかったその先だと。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

関谷俊博
2016.09.02 関谷俊博

土竜神とか掘人族とか、架空の存在がとても興味を引きます。

2016.09.03 イチ

ご感想ありがとうございます!

これから先、鍵となる存在です!どうか引き続きよろしくお願いします!

解除
関谷俊博
2016.08.20 関谷俊博

近未来の廃墟の雰囲気が大好きです。獣蟲って生物メも面白い。続きを楽しみにしています。

2016.08.20 イチ

御感想ありがとうございます!
頑張ります(^O^)

解除

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