9 / 9
9話:仇
しおりを挟む
『前へ!こちらへゆっくり歩いてこい!』
2人は言われた通りにすることにした。闇に包まれたトンネルを背に、無造作に積まれた死体の横を通って、明るい駅へ歩を進めた。
駅に近づくと、周りを帝国兵に囲まれた。しかし、何やら兵の表情がおかしい。
彼らの顔に映し出された表情は、怒りや警戒感ではなく、疑問や拒絶、怯えだった。
その表情の理由は、すぐに分かった。
駅の奥から、1人の将校が近づいて来た。意地の悪そうな目をギラつかせ、やたら勲章をくっ付けた制服を着ている。
「よく来たな!この薄汚い共産主義者共め!!」
シンヤが目を丸くして答える。
「何言ってんだ?俺たちは本駒込駅から来たんだぞ?日本帝国の領駅じゃないか!
共産主義者だったらここまで来れんわ!」
「黙れ!よくもそんな見え透いた嘘を!これだから…」
呆れた様に、大袈裟に首を横に振るその将校は、まったく聞く耳を持とうとしなかった。
1人の兵士がユウに近づき、胸ポケットに手を伸ばした。ユウが通行証を持っている事を確認し、将校に向き合った。
「大尉…彼らは通行証を持っています。一応尋問しますが、共産主義者である証拠はありませんよ。」
「尋問の必要は無い。ここで射殺だ。」
兵士が顔をしかめる。ユウたちを囲んでいる兵士達の1人が、またか…と漏らした。無造作に積まれたあの死体は、先の僕らの姿か。
「もう止めましょう大尉!今度こそ、規則通りに私が尋問を…」
「黙れ反逆者!!」
なんとその将校は、先ほどから問答をしていた兵士の頭を、冷酷にも拳銃で撃ち抜いたのだ。
イかれてる…ユウは小さく呟いた。
どうにもこの男の周りだけ空気が違う。いや、何かおかしなモノに纏わりつかれているような…
「兵隊さんたちよぉ、銃口向ける相手が違うんじゃないのか?」
シンヤが呼びかけるも、兵士達の顔は恐怖で引きつっている。
何を言っても無駄か。
「ふん…こいつは反逆者だ。それに、貴様らの武装解除もさせないような役立たずはいらぬ。
さあ、武器を地面に放れ!」
シンヤがベネリM2を地面に置く。
ユウも短マスケットを放った。
錆びついたレールに落ち、甲高い音が響き渡った。
「どんな小さな事でも、見逃さぬのが重要なのだ。
12年前…あぁくそ!今思い出しても腹が煮え繰り返りそうだ!
あの親子を…不覚にも!逃してしまった途端、駅中で赤共(共産主義者)の工作や煽動が多くなったのだ!!もう繰り返してなるものか!」
外すために腰の刀に置いたユウの手が、ピクリと反応した。
12年前…?僕の両親が殺された年だ。まさか。
「…あなたはその時、この駅に配属されていたんですか?」
声を震わせながら、ユウが将校に問い掛けた。
大人しく怯えているように見えていたユウに突然話しかけられ、将校は目を丸くしながら、思わず答えた。
「いや?もっと北の駅だが。赤を匿った家族を…」
その返答は、決してこの将校がユウの両親を殺した裏付けにはならないものだ。
しかし、ユウは確信してしまった。いや、決めつけてしまった。
こいつが、この将校が両親を殺したのだと。
地を蹴り、兵士の間から飛び出したユウは、刀を抜いて将校目掛け振り上げた。
腹と胸から血を吹き出し、後ろに傾く将校。着地を許すことなく、ユウはその首を刎ね飛ばした。
怯えか忠誠心の低さか、周りの兵士の動きが一瞬遅れる。
が、兵士達はすぐに正気を取り戻し、ユウ目掛け銃を構えた。
「クソッ!!」
必死の形相で、シンヤが兵士を押し退けながら飛び出した。そのままユウを両手で掴み、近くにあった窪みに倒れこんだ。
腕だけ出し、9mm拳銃を辺りに撃ちまくるシンヤ。応戦しながら、身を隠す兵士達。
発砲音と跳弾音が駅構内に響き渡る。
あんな将校でも上官。軍人殺しは射殺だ。
「ユウ、…バカ、おめぇ無茶するなよ…怪我は?」
見ると、シンヤが腹を押さえている。手指の間から血が滲んでおり、ユウは自分の軽率な行動を後悔した。
「大丈夫…です。ごめんなさい…」
シンヤが撃たれた事、これ以上隠れる場所が無い事、ユウは焦った。もう、どうしようもない。
M1911を抜き、反撃を試みようとするも、シンヤに穴だらけになった右手を見せられ、止められた。
「どうせ、撃たなくても殺されますよ!」
苦しそうな顔を天井に向け、シンヤが上を指差した。つられて上を見ると、天井の数カ所が少し盛り上がっていた。
あれ、とユウは、かすかに頭をよぎる記憶の欠片に気付いた。どこかで見た景色。
「手榴弾を投げ込んでやれ!」
その一言で、ユウは現実に引きづり戻された。今度こそ絶体絶命だ。
いっその事飛び出そうかとした途端、天井からコンクリートの破片や土と共に、何かが落ちるのを見た。
硬い物と柔らかい物が同時に押し潰されたような音がした。この世の物とは思えない音に、ユウは身震いする。
「掘人族だ!!」
バッと起き上がり、確認する。
兵士だったモノの上に立つ、土まみれで毛に覆われた体。腕の先には、刀のような爪が3本ずつ伸びている。
その背中を前にしたユウの頭に、両親を失ったあの日の記憶がフラッシュバックする。
あの日、母さんの絶叫を背に受け、必死に走った。あの暗いトンネルで異形に周りを囲まれ、我慢出来ずに泣いてしまった僕。
あの時、幼い僕の前に現れた何者かの背中が、今、目の前の背中と重なろうとしている。
ゆっくりとこちらを振り返る。
いつも思い出せない記憶の先。
いつも目覚める夢の先。
ユウは確信した。眼に映るその姿は、ずっと思い出せなかったその先だと。
2人は言われた通りにすることにした。闇に包まれたトンネルを背に、無造作に積まれた死体の横を通って、明るい駅へ歩を進めた。
駅に近づくと、周りを帝国兵に囲まれた。しかし、何やら兵の表情がおかしい。
彼らの顔に映し出された表情は、怒りや警戒感ではなく、疑問や拒絶、怯えだった。
その表情の理由は、すぐに分かった。
駅の奥から、1人の将校が近づいて来た。意地の悪そうな目をギラつかせ、やたら勲章をくっ付けた制服を着ている。
「よく来たな!この薄汚い共産主義者共め!!」
シンヤが目を丸くして答える。
「何言ってんだ?俺たちは本駒込駅から来たんだぞ?日本帝国の領駅じゃないか!
共産主義者だったらここまで来れんわ!」
「黙れ!よくもそんな見え透いた嘘を!これだから…」
呆れた様に、大袈裟に首を横に振るその将校は、まったく聞く耳を持とうとしなかった。
1人の兵士がユウに近づき、胸ポケットに手を伸ばした。ユウが通行証を持っている事を確認し、将校に向き合った。
「大尉…彼らは通行証を持っています。一応尋問しますが、共産主義者である証拠はありませんよ。」
「尋問の必要は無い。ここで射殺だ。」
兵士が顔をしかめる。ユウたちを囲んでいる兵士達の1人が、またか…と漏らした。無造作に積まれたあの死体は、先の僕らの姿か。
「もう止めましょう大尉!今度こそ、規則通りに私が尋問を…」
「黙れ反逆者!!」
なんとその将校は、先ほどから問答をしていた兵士の頭を、冷酷にも拳銃で撃ち抜いたのだ。
イかれてる…ユウは小さく呟いた。
どうにもこの男の周りだけ空気が違う。いや、何かおかしなモノに纏わりつかれているような…
「兵隊さんたちよぉ、銃口向ける相手が違うんじゃないのか?」
シンヤが呼びかけるも、兵士達の顔は恐怖で引きつっている。
何を言っても無駄か。
「ふん…こいつは反逆者だ。それに、貴様らの武装解除もさせないような役立たずはいらぬ。
さあ、武器を地面に放れ!」
シンヤがベネリM2を地面に置く。
ユウも短マスケットを放った。
錆びついたレールに落ち、甲高い音が響き渡った。
「どんな小さな事でも、見逃さぬのが重要なのだ。
12年前…あぁくそ!今思い出しても腹が煮え繰り返りそうだ!
あの親子を…不覚にも!逃してしまった途端、駅中で赤共(共産主義者)の工作や煽動が多くなったのだ!!もう繰り返してなるものか!」
外すために腰の刀に置いたユウの手が、ピクリと反応した。
12年前…?僕の両親が殺された年だ。まさか。
「…あなたはその時、この駅に配属されていたんですか?」
声を震わせながら、ユウが将校に問い掛けた。
大人しく怯えているように見えていたユウに突然話しかけられ、将校は目を丸くしながら、思わず答えた。
「いや?もっと北の駅だが。赤を匿った家族を…」
その返答は、決してこの将校がユウの両親を殺した裏付けにはならないものだ。
しかし、ユウは確信してしまった。いや、決めつけてしまった。
こいつが、この将校が両親を殺したのだと。
地を蹴り、兵士の間から飛び出したユウは、刀を抜いて将校目掛け振り上げた。
腹と胸から血を吹き出し、後ろに傾く将校。着地を許すことなく、ユウはその首を刎ね飛ばした。
怯えか忠誠心の低さか、周りの兵士の動きが一瞬遅れる。
が、兵士達はすぐに正気を取り戻し、ユウ目掛け銃を構えた。
「クソッ!!」
必死の形相で、シンヤが兵士を押し退けながら飛び出した。そのままユウを両手で掴み、近くにあった窪みに倒れこんだ。
腕だけ出し、9mm拳銃を辺りに撃ちまくるシンヤ。応戦しながら、身を隠す兵士達。
発砲音と跳弾音が駅構内に響き渡る。
あんな将校でも上官。軍人殺しは射殺だ。
「ユウ、…バカ、おめぇ無茶するなよ…怪我は?」
見ると、シンヤが腹を押さえている。手指の間から血が滲んでおり、ユウは自分の軽率な行動を後悔した。
「大丈夫…です。ごめんなさい…」
シンヤが撃たれた事、これ以上隠れる場所が無い事、ユウは焦った。もう、どうしようもない。
M1911を抜き、反撃を試みようとするも、シンヤに穴だらけになった右手を見せられ、止められた。
「どうせ、撃たなくても殺されますよ!」
苦しそうな顔を天井に向け、シンヤが上を指差した。つられて上を見ると、天井の数カ所が少し盛り上がっていた。
あれ、とユウは、かすかに頭をよぎる記憶の欠片に気付いた。どこかで見た景色。
「手榴弾を投げ込んでやれ!」
その一言で、ユウは現実に引きづり戻された。今度こそ絶体絶命だ。
いっその事飛び出そうかとした途端、天井からコンクリートの破片や土と共に、何かが落ちるのを見た。
硬い物と柔らかい物が同時に押し潰されたような音がした。この世の物とは思えない音に、ユウは身震いする。
「掘人族だ!!」
バッと起き上がり、確認する。
兵士だったモノの上に立つ、土まみれで毛に覆われた体。腕の先には、刀のような爪が3本ずつ伸びている。
その背中を前にしたユウの頭に、両親を失ったあの日の記憶がフラッシュバックする。
あの日、母さんの絶叫を背に受け、必死に走った。あの暗いトンネルで異形に周りを囲まれ、我慢出来ずに泣いてしまった僕。
あの時、幼い僕の前に現れた何者かの背中が、今、目の前の背中と重なろうとしている。
ゆっくりとこちらを振り返る。
いつも思い出せない記憶の先。
いつも目覚める夢の先。
ユウは確信した。眼に映るその姿は、ずっと思い出せなかったその先だと。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
土竜神とか掘人族とか、架空の存在がとても興味を引きます。
ご感想ありがとうございます!
これから先、鍵となる存在です!どうか引き続きよろしくお願いします!
近未来の廃墟の雰囲気が大好きです。獣蟲って生物メも面白い。続きを楽しみにしています。
御感想ありがとうございます!
頑張ります(^O^)