会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

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嵐の前

分断したい秋屋さん

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重厚な革張りの椅子にもたれながら、秋屋は足を組み、"ルンルン"もせずに目を閉じていた。
窓の外から記者たちのざわめきが響く。阿相首相が倒れた――永田町の空気は一気に張り詰めている。

「阿相さんはもう無理でしょう……次を決めないとね」

何度も閣僚に登用してくれた阿相首相に感謝はしていた。だが、忠誠心があったわけではない。
渦川俊郎との確執も、もとをたどれば阿相が同時入閣させ、さらに自分の"部下に格下げ"したのが始まりだ。
大臣任命は首相の専権事項。しかし、誰も引き受けなければ困るのは首相だ。ならば、引き受けてやるのも「持ちつ持たれつ」――それ以上でも以下でもない。

外では記者が通りがかった政治家を取り囲み、怒号が飛んでいる。
(この混乱を収められるのは、自分しかいない)
秋屋は本気でそう思っていた。

だが――。

「門関……奴が水園寺義光を立てようとしているらしいじゃないか」

秘書が神妙な顔でうなずく。
秋屋は鼻で笑った。

「引退したはずの老獪が、まだ足掻くか。だが――それだけは許さん」

門関幸太郎。
一時代を築いた巨魁だが、陰謀と恐怖で政界を動かしてきた手法は、秋屋の目にはもはや“古い遺物”にしか映らない。
ましてや、首相退任後は政策批判を大々的に繰り返した。自分に向けられた恨みは根深いだろう。

「やつに実権を戻すくらいなら……俺が泥を被ってでもやる」

だが水園寺義光。本人の実力はさておき、“若さ”という最大の武器がある。
「メシアシミュレーション」なる怪しげな遊びと陰謀論が合流し、名前は一気に急浮上した。
若者人気が集まればメディアが飛びつき、やがて他の政治家も追随する――危険な流れだ。

「そこで……古味良一か」

秋屋の目が鋭く光る。

「正直、総理の器などない。だが世間は彼を“素朴で真っ直ぐな青年”と見ている。水園寺と同じく“救世主待望”の象徴だ」

サラブレッド水園寺では刷新感が生まれない。
一方で古味は、元会社員からネットをきっかけに政界へ押し上げられた存在。既存の型に当てはまらない“異物”だ。

つまり――鬱屈した若者層を分断するには、打ってつけ。

「“未来の象徴”を二つに割れば、あとは俺が“安定の象徴”として押し切れる」

計算は終わった。

「古味君を、次の候補に推してみよう」

秘書が目を見開く。
「本気ですか? 彼は門関を拒絶した男ですよ」

「なお、よし!」
秋屋は唇をゆがめた。
「“門関の傀儡ではない第三の若者”という構図にすれば、世間は飛びつく」

そして立ち上がるといつもの"ルンルン"を踊りながら鼻歌まじりに呟いた。
「利用できるものは、すべて利用する――それが政治だ」

その"ルンルン"の足取りは、どこか浮き立つように軽かった。
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