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第1巻 1期目 臨時国会
3つドアと4つドア
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俺は地下鉄とJRを乗り継いで桃山鉄道本社へ向かった。10階建ての大きなビルで壁面とガラス窓が外から見ると黒く一体化した上きらきら反射していて、周囲のビルや街並みを鏡のように写している美しいビルだった。
今日は休日ということもあり、玄関の自動ドアは開くがフロントの照明は一部しかついておらず、受付カウンターには誰もいなかった。ご用の方はインターフォンを鳴らしてくださいと書いてあったのでボタンを押してみると、年老いた声で、
「ああ、国交省の人か上がってください」
と言ってきたので、エレベーターで指定された階へ上がった。
エレベーターを降りると、白髪の初老の男性がこっちへ来てくださいというのでついて行った。
「今日は休日だからお茶を出してくれる子もいなくてね。何か飲みたかったらそこの自販機でお茶でも買って」
「いいえ。お構いなく」
別に喉は乾いていないのでお茶は買わなかった。
会議室のような場所に入ると、ごつい中年の男性が座っていた。
「今日はわざわざどうも私はこういうものです」
渡された名刺によると初老の男性の方が副社長、ごつい中年の男性が技術部長らしい。
「ええっと。衆議院議員の古味良一さん。政党名がないね無所属?」
初老の男性が名刺を確認しながら俺に聞いた。
「はい。今期当選したばかりで無所属です」
「そうか。無所属で当選なんてすごいね。今日、突然国交省の副大臣から連絡があってね。ホームドアの件で来るって聞いたけど、どういう経緯で来られたのか説明してくれるかな」
俺は取りあえず、ホームドアの設置を掲げて当選したこと、副大臣の渦川が桃山鉄道にホームドアの設置を勧めようとしていたこと、独断で考えていたことらしくフリーの自分に仕事を振ってきたことを順に説明した。
「なるほどそういう経緯だったのか。それでうちの会社にホームドアを設置して欲しいと」
「ただ、君は仕事を依頼されてきたとは言え、国交省の関係の人じゃない訳ね」
副社長の方は自分の身分を疑っているようだ。まあ、確かにこういう話になったのもいろいろこじれた結果であったし、信用しろというのが無理だろう。
「ホームドアを設置しろって?冗談じゃないよ。いくらかかるかわかっているの?」
技術部長の方が大声で怒り出した。
「1駅に設置しようとすると、それだけで何億もかかる。駅によってはホームが古いとかで修繕も必要になってそんな場合は何十億円にもなるんだよ」
むむむ、ホームドアってそんなに金がかかるものなのか。そういえば全然そういうの調べて来なかったな。まあ、今日突然言った渦川が悪いのだが。
「その金を全部政府が出してくれるってのなら考えてもいいよ。でも、それにしたって工事するためにダイアを調整したりしてうちの負担はゼロにはならないんだよ」
真っ向から否定されてしまった。しかし、このまま何も言わないのではそれこそ子供の使いになってしまうので、とにかく言えることは言っておこうと思った。
「とてもお金がかかることはわかりました。しかし、桃山鉄道は首都圏でも上位に入る混雑路線だと聞いています。人身事故で電車がストップしようものなら、駅の外にまで人が溢れるほど混雑していると、当然それについては多くの人がなんとかして欲しいと思っているはずです。また、そういった人命にかかる事故を防ぐためにもせめて乗車人数の多い駅だけでも、ホームドアの設置を検討して頂けないでしょうか?」
「乗車人数の多い駅だけでもって、事故がそういった駅だけで起きるとも限らないし」
全く技術部長は取り合ってくれない様子だが、まあまあという感じで副社長の方が制した。
「古味さんが事故やそれに関わる混乱を危惧してホームドアを勧めてくださっていることはよくわかりました」
「しかし、ポスターで注意喚起したりして、弊社でもいろいろなところで、人身事故を防ぐための取り組みは行っているんだよね」
そうだったのか。確かに歩きスマホや泥酔を注意するポスターはよく目にする。
「もちろん、ホームドアを検討したこともある。だけどそこには大きな問題があったのだよ。問題が」
そういうと副社長は席を立って部屋の外に出て行った。しばらく待っていると電車の模型のようなものを持って帰ってきた。
「ここに、二つのタイプの電車があるでしょ。」
副社長は鉄道マニアなら垂涎ともいうべき、精巧なディテールの鉄道の模型を2つ並べた。桃山鉄道の代表的な4つドアと3つドアの車両だ。そして、3つドアの車両の方を前に置きその先頭に合わせるようにペンを置いた。
「ここが車両の先頭。そして、このライターを置いた場所が3つドアの場合のドアの場所ね」
「もし、この先頭に合わせる用に4つドアの車両を停車すると、3つドアのときとドアの位置がずれるわかるね?」
どうやら、桃山鉄道には3つドアと4つドアの車両があり、どちらかに合わせてホームドアを設置するともう片方のドアの位置に合わないということらしい。
「だから、ホームドアを設置しようとすると全部の車両を3つドアか4つドアにしないといけないわけ」
「そんなこと本当にしようとしたら会社が倒産しちゃうよ」
あきれたように技術部長は叫んだ。
「車両の交換費用まで政府が出すっていうんなら考えないでもないけど。まあ、取りあえずこちらとしても話は聞いたから、この件を副大臣の人に持って帰って説明して頂戴」
「ふうっ」
俺は自分の考えではどうにもできないことに気が付いた。でも、まあそもそも渦川が持ってきた話だし。桃山鉄道の考え方も聞けたし。俺は二人に「わかりました。帰ってよく考えてみます。」と答え桃山鉄道の本社ビルを後にした。
今日は休日ということもあり、玄関の自動ドアは開くがフロントの照明は一部しかついておらず、受付カウンターには誰もいなかった。ご用の方はインターフォンを鳴らしてくださいと書いてあったのでボタンを押してみると、年老いた声で、
「ああ、国交省の人か上がってください」
と言ってきたので、エレベーターで指定された階へ上がった。
エレベーターを降りると、白髪の初老の男性がこっちへ来てくださいというのでついて行った。
「今日は休日だからお茶を出してくれる子もいなくてね。何か飲みたかったらそこの自販機でお茶でも買って」
「いいえ。お構いなく」
別に喉は乾いていないのでお茶は買わなかった。
会議室のような場所に入ると、ごつい中年の男性が座っていた。
「今日はわざわざどうも私はこういうものです」
渡された名刺によると初老の男性の方が副社長、ごつい中年の男性が技術部長らしい。
「ええっと。衆議院議員の古味良一さん。政党名がないね無所属?」
初老の男性が名刺を確認しながら俺に聞いた。
「はい。今期当選したばかりで無所属です」
「そうか。無所属で当選なんてすごいね。今日、突然国交省の副大臣から連絡があってね。ホームドアの件で来るって聞いたけど、どういう経緯で来られたのか説明してくれるかな」
俺は取りあえず、ホームドアの設置を掲げて当選したこと、副大臣の渦川が桃山鉄道にホームドアの設置を勧めようとしていたこと、独断で考えていたことらしくフリーの自分に仕事を振ってきたことを順に説明した。
「なるほどそういう経緯だったのか。それでうちの会社にホームドアを設置して欲しいと」
「ただ、君は仕事を依頼されてきたとは言え、国交省の関係の人じゃない訳ね」
副社長の方は自分の身分を疑っているようだ。まあ、確かにこういう話になったのもいろいろこじれた結果であったし、信用しろというのが無理だろう。
「ホームドアを設置しろって?冗談じゃないよ。いくらかかるかわかっているの?」
技術部長の方が大声で怒り出した。
「1駅に設置しようとすると、それだけで何億もかかる。駅によってはホームが古いとかで修繕も必要になってそんな場合は何十億円にもなるんだよ」
むむむ、ホームドアってそんなに金がかかるものなのか。そういえば全然そういうの調べて来なかったな。まあ、今日突然言った渦川が悪いのだが。
「その金を全部政府が出してくれるってのなら考えてもいいよ。でも、それにしたって工事するためにダイアを調整したりしてうちの負担はゼロにはならないんだよ」
真っ向から否定されてしまった。しかし、このまま何も言わないのではそれこそ子供の使いになってしまうので、とにかく言えることは言っておこうと思った。
「とてもお金がかかることはわかりました。しかし、桃山鉄道は首都圏でも上位に入る混雑路線だと聞いています。人身事故で電車がストップしようものなら、駅の外にまで人が溢れるほど混雑していると、当然それについては多くの人がなんとかして欲しいと思っているはずです。また、そういった人命にかかる事故を防ぐためにもせめて乗車人数の多い駅だけでも、ホームドアの設置を検討して頂けないでしょうか?」
「乗車人数の多い駅だけでもって、事故がそういった駅だけで起きるとも限らないし」
全く技術部長は取り合ってくれない様子だが、まあまあという感じで副社長の方が制した。
「古味さんが事故やそれに関わる混乱を危惧してホームドアを勧めてくださっていることはよくわかりました」
「しかし、ポスターで注意喚起したりして、弊社でもいろいろなところで、人身事故を防ぐための取り組みは行っているんだよね」
そうだったのか。確かに歩きスマホや泥酔を注意するポスターはよく目にする。
「もちろん、ホームドアを検討したこともある。だけどそこには大きな問題があったのだよ。問題が」
そういうと副社長は席を立って部屋の外に出て行った。しばらく待っていると電車の模型のようなものを持って帰ってきた。
「ここに、二つのタイプの電車があるでしょ。」
副社長は鉄道マニアなら垂涎ともいうべき、精巧なディテールの鉄道の模型を2つ並べた。桃山鉄道の代表的な4つドアと3つドアの車両だ。そして、3つドアの車両の方を前に置きその先頭に合わせるようにペンを置いた。
「ここが車両の先頭。そして、このライターを置いた場所が3つドアの場合のドアの場所ね」
「もし、この先頭に合わせる用に4つドアの車両を停車すると、3つドアのときとドアの位置がずれるわかるね?」
どうやら、桃山鉄道には3つドアと4つドアの車両があり、どちらかに合わせてホームドアを設置するともう片方のドアの位置に合わないということらしい。
「だから、ホームドアを設置しようとすると全部の車両を3つドアか4つドアにしないといけないわけ」
「そんなこと本当にしようとしたら会社が倒産しちゃうよ」
あきれたように技術部長は叫んだ。
「車両の交換費用まで政府が出すっていうんなら考えないでもないけど。まあ、取りあえずこちらとしても話は聞いたから、この件を副大臣の人に持って帰って説明して頂戴」
「ふうっ」
俺は自分の考えではどうにもできないことに気が付いた。でも、まあそもそも渦川が持ってきた話だし。桃山鉄道の考え方も聞けたし。俺は二人に「わかりました。帰ってよく考えてみます。」と答え桃山鉄道の本社ビルを後にした。
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