会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第2巻 そして解散へ

地域政党「地方の風党」

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 長崎県の端の方にあるとある町。五島列島を望むこの町の海岸は美しいことで有名だ。特にこの日は快晴の空の下、きらきらと光っていて宝石のようである。ここにも最近の世に流れる解散風を受けている男がいた。水本上親である。

 この日、上親には長崎の中心部に大事な用事があったので移動の手段を探していたが、トラック運転手のたけちゃんが市街地へ荷物を届けるついでに乗せてくれるというので便乗した。そのトラックがガタゴトと荷物を揺らしながら海岸線を走っている。
「上親先生。今度は国目指すって」
 たけちゃんは誇らしげに助手席の上親に話しかけた。
「そうや。ついに狼煙が上がるんや。この長崎の端で上がった狼煙が東京からも見える程どでかい狼煙がや」
 上親は「地方の風」という地域の政治団体の代表をしている。どうやらそれを「地方の風党」という名前で政党に昇格させ、次の衆議院総選挙に打って出るつもりらしい。
「政党を立ち上げるってすごいよな」
 たけちゃんは心からそう思う。自分達は普段生活しているこの土地で無難に暮らせればいいと思っている。しかし、上親は町議の身分でありながら、東京まで乗り込んだりして国すら動かそうとしているのだ。もし、次の選挙に当選すれば本当に国のど真ん中で仕事をすることになるのだ。
「ここでいいかい?」
 たけちゃんは長崎郊外の公民館の前でトラックを止めると上親を降ろした。

「みんな来とるやないか」
 上親が降りた公民館の広場には既に100名近くの支持者が集まっていた。上親がやることは的外れなことが多いが、その行動力が評価され結構人気があるようだ。地方対都会(特に東京)という構図がこの地域の人々には受けているらしい。
「水本さん頑張ってください」
「打倒都会。いや打倒東京」
 わあわあ騒がしくなっている。
 上親は拡声器を持つと支持者の輪に向かって声を発した。
「みんなありがとう。こんなにぎょうさん集まってくれてわいは嬉しいわ」
 深々と頭を下げながら支持者達に礼を言った。
「今日は大事な発表がある」
 上親がもったいぶった口調で言う。
「知ってるよ」
「政党立ち上げるからって呼んだのそっちでしょ」
 集まっていた中年のおっさんがわらがいながら大声を出す。
 そうだった。あらかじめそう言って支持者を集めていたのだった。ちょっと間抜けな言い出しになったが、しかし、そこはひるまず声を続ける。
「そうや。政党立ち上げや。今日から政治団体「地方の風」は地域政党「地方の風党」に昇格するんや」
「わああああああ」
 支持者から歓声と拍手が沸き起こった。
「ええか。みんな今世間では解散風が吹いとる。だがなそれはわしらにとっては長崎から東京へ向かう追い風や。帆を吹き船をぐんぐん前に進める追い風なんや」
 水本は声を大にして叫んだ。
「わっしょい。わっしょい」
 上親が言い終わるや否や支持者たちは自然と胴上げを始めた。上親の体が宙に舞う。まるで何かに優勝したかのようだが(もちろん何に勝ったわけでもない)それでもいいと上親は思う。とにかく田舎と都会の差は歴然だ。若者は就職するために皆都会に出て行ってしまう。そんな状況でどうやって活気づくことができるだろう。例え空元気だろうとも、こうして盛り上がることが大事なのだ。

 そうしているとどこから持ってきたのか、神輿が到着した。
「上出来や」
「わーーーーー」
 上親が神輿の上に乗っかると支持者達はさらに高揚感を増していった。
「わっしょい。わっしょい。」
 さらに神輿を担ぐ波は大きくなる。
「このまま市街地まで行進や」
「おおおお」
 上親を乗せた神輿はそのまま市街地に向かって歩んでいく。その後ろに支持者が列をなしてついて行った。

「いい感じや。この勢いや。この波はもう片田舎に収まるもんやない。今度の選挙必ず勝つ、そして国のど真ん中に乗り込むんや。古味さんも待っとれよ」
 次の選挙で古味が当選するかはわからない(落選の確率の方が高い)がとにかく上親は東京で知り合った若き政治家の顔を思い浮かべ、一緒に国を動かす時を待ち望みながら神輿から見える空を眺めていた。
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