会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第2巻 新革党の選挙戦

窮鼠(上親)かえって猫(民自党)を噛む

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 ここは長崎県の片田舎――。
 民自党執行部の思惑なのか、あるいはただの割り振りミスなのか。
 立石健一は、この地で出馬することになった。

 東大卒、政務官・副大臣経験、前・地方創生担当大臣。
 地方振興の実績を誇り、本人も「楽勝だろう」と余裕を持って選挙戦に臨んでいた。
 だが、ふたを開けてみれば――票が伸びない。

「いや、まさか“田舎のさらに奥”があるとは思わなかったよ……」

 地図を広げながら、手伝いに来たスタッフたちに立石が漏らす。
 選挙区替えにより、装備や選挙カーもそのまま持ち込んだが、地理に詳しい者がほとんどいない。
 このエリアが、ここまで**広大で、そして“田舎すぎる”**とは、正直、想定外だった。

「この海岸線、いったい何キロあるんだよ……」

 実際、長崎県の海岸線の長さは全国2位。
 その一部とはいえ、選挙区内もなかなかの広さを誇り、しかも民家がぽつぽつと点在するのみ。
 選挙カーで回っても人に出会えないことが多い。

「もう……市街地だけ回ろうか。これじゃ、どうにもならない」

 誰も異を唱えなかった。
 経験豊富な立石でさえ、完全に読み違えていたのだった。

 一方、水本上親陣営。

 こちらは――まさに**“どぶ板中のどぶ板”**である。
 上親は、この広大な選挙区を、一軒一軒訪ね歩くという暴挙に出ていた。

「今日も来てくれてありがとね、水本さん。向こうの人は全然来てくれないから、あんたに入れてあげるよ」

「ありがとな、おばあちゃん。困ったことがあったら、なんでも言うてな」

 もとより選挙に手を抜くという発想のない男である。
 選挙区の広さを聞かされた時にも、こう言った。

「よっしゃ――やったるで!」

 上親は、選挙事務所を飛び出し、トラック運転手の“タケちゃん”たちの協力を得て、選挙カー代わりに片田舎を縦横無尽に駆け回った。

 こうした泥臭い運動がじわじわと効いてきた。
 やがて、選挙終盤には――

「水本上親、ありえるぞ!?」

 という噂が、長崎中に駆け巡ることとなる。

 そしてついに――民自党執行部に、立石本人からの緊急連絡が入った。

「たっ、助けてくれ……!」

「なんだ立石君、次の組閣の話か? それは選挙後にしてくれよ」

 多忙な幹事長・狭間譲は、軽くあしらおうとする。だが――

「ま、待ってください! このままでは落選しかねないんです!」

「……は? 冗談だろ?」

 だが、立石は訴えた。
 選挙区があまりにも広大で、地元の地理にも精通していない。
 さらに、対立候補の水本上親は、**地を這うように、まさに一軒一軒を歩いて票を積み上げている“異常な候補”**だと。

「“田舎者の一念”がここまでとは……」

 狭間譲が初めて、苦々しい表情を浮かべた瞬間だった。
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